* バートの援護に向かおうとしたハルカは、レイバンのキャノピ越し、ワダツミが味方の艦を撃沈した光景を目の当たりにして、驚愕でその両眼を見開いてしまった。 「な、なんて船なんだ・・・味方の船を墜すなんて!!」 味方である戦艦シノノメが、ワダツミを攻撃してきたのは、恐らく、ショーイの仕業であろう。 ショーイなら、戦艦の火器制御システムぐらい簡単にジャックできることを、ハルカはよく知っている。 五年前、「アルキメデスの蜂起」の際、天才肌であるバートの船長は、アルキメデス反乱軍の軍用システムに侵入し、地表高エネルギーレーザー砲をまんまとジャックしたほどなのだから。 しかし、まさかワダツミが、ハッキングされたために撃ってきた味方の艦を、躊躇うこともなく撃沈させるとは、流石に思いもしなかった。 湧き上がる怒りで綺麗な眉をしかめながら、ハルカは、ワダツミへ向けて、再びレイバンの機体を旋回させた。 ワダツミは、速度を上げて更に交戦宙域を離れていく。 まもなく、ワープイン可能宙域に入るだずだ。 このままでは、本当に、トーマもガブリエラも連れ去られてしまう。 ワダツミに近づくレイバンの機影に、ワダツミの砲撃者は気付いている。 放射線を描くビームガドリングの弾丸が、容赦なくレイバンを狙って打ち込まれた。 流星の如き速度でワダツミの上方を旋回して回避。 破損したシールドから、装甲扉の爆撃を試みよう降下するが、ハルカが照準を合わせるより早く、ワダツミから追尾ミサイルが発射される。 ロックオンをかけられたことを示す警告アラームがコクピットの中に響き渡った。 きっと、これがリョータロウなら、とっくの昔に装甲扉を破って内部に潜入しているだろう。 ハルカは、自分の未熟さを殊更悔しく思う。 急加速急旋回で一旦ミサイルをやり過ごし、ミサイルが反転したところを照準レンジに捉え、ロックオン表示と同時に、レーダー誘導ミサイル発射ボタンを押す。 レイバンのミサイルが白煙を上げて発射された、正にその瞬間、熱源感知レーダーが三度アラームを鳴らしたのだった。 追尾ミサイルを大破させたレイバンの機体が、機首を上げながら白煙を切り裂いて急上昇する。 レーダーレンジに映り込む大型艦の機影がある。 しかし、識別コードは、決してアンノウンではない。 やけに懐かしく思えるその識別コードは、ガーディアンエンジェルの船のものに相違なかった。 戦艦ワダツミの右舷前方にワープアウトしてくる銀色の巨大な船体。 その側面には青い六芒星のエンブレムが掲げられ、装備された16基の三連主砲は、戦艦ワダツミを始めとしたデボン・リヴァイアサン親衛艦隊に向けられている。 ハルカは、緊張で強張っていたその顔を思わず綻ばせた。 「セラフィム!!」 キャノピ越しの有視界で確認できるその船体は、ハルカの母艦である宇宙戦闘空母セラフィムだったのである。 『こちらは、ガーディアンエンジェル所属空母セラフィム。艦長のレムリアス・ソロモンだ。交戦中の全艦に告ぐ。即時、戦闘行動を停止せよ。この警告に従わない場合、セラフィムは、貴艦等に対して攻撃を開始する。繰り返す、交戦中の全艦に告ぐ。即時、戦闘行動を停止せよ。この警告に従わない場合、セラフィムは、貴艦等に対して攻撃を開始する』 セラフィム艦長レムリアス・ソロモンによる警告がなされると、セラフィムの船体上部にせり上がったカタパルトから、レイバン部隊ツァーデ小隊が、銀色の帯を引きながら発進してくる。 思わず歓喜したハルカの耳に、入電を知らせるアラームが響いてくると眼前のモニターに通信ウィンドウが開き、そこに、やけに懐かしく、そして頼りがいのある上官の顔が映し出されたのだった。 『ツァーデ・リーダーよりT―6。ハルカ、無事か?』 ヘルメットシールド越しにハルカを見つめる、凛とした黒曜石の瞳。 切れ長の目元と均整の取れた精悍な鼻筋、額から眉間を抜け、右目の下まで刻まれた細い傷跡。 その凛々しい唇が、小さく微笑している。 それは他でもない、ハルカにとって上官であり、兄代わりでもある青年、ツァーデ小隊隊長、リョータロウ・マキであったのだ。 「リョ・・・リョータロウ――――っ!リョータロウ、ごめん!僕のせいで、ガブリエラとトーマが!!」 孤軍奮闘していたため、極度の緊張状態にあったハルカは、叫ぶようにそんな事を言うと、黒く澄んだ瞳を思い切り涙で潤ませ、今にも泣き出しそうな顔をしながら、モニターに映るリョータロウをまじまじと見つめすえたのである。 そんなハルカの様子に、モニター越しのリョータロウは、広い肩でため息をつくと、さも呆れたような口調で言うのだった。 『リョータロウじゃない、隊長だ。泣くなよ、おまえ、一体幾つになったんだ?仮にもツァーデ小隊の隊員なんだぞ?詳細は全部聞いてる。泣いてる暇があったら、さっさとトーマとあの娘(こ)を取り返しにいくぞ』 流星の如き閃光を引くツァーデ小隊のレイバンが、急速に戦艦ワダツミへと近づきつつある。 「りょ、了解!!」 零れ落ちそうになる涙を必死で堪えながら、ハルカは大きくそう答え、操縦桿を傾けると、レイバンT―6の機体をワダツミの上方で大きく旋回させたのだった。
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