* 戦艦ワダツミのブリッジでは、ショウゴが、援護艦隊に向けて編隊形勢の指示を出していた。 ワダツミは、デボン・リヴァイアサン親衛艦隊の司令戦艦である。 その戦略を一手に任されているのもまた、ワダツミの艦長ショウゴ・二カイドウであるのだった。 艦長席のショウゴに向かって、レーダー通信セクションから、嬉々とした声でリリアン・カーティスが言う。 「ショウゴ、あの民間機の大砲門、ロック成功したよ!これで、しばらくは撃てないと思う!」 そばかすの目立つ可愛らしい顔に笑顔を浮かべ、リリアンは、横目でこちらを振り返ったショウゴに親指を立てて見せた。 しかし、ショウゴは、冷静で冷淡な表情を崩す事無く、落着き払った口調で言うのである。 「油断するなリリアン、相手は、こちらの航行システムにトラップコードを送り返してきた奴だ。モニターから目を離すな。また、何かを仕掛けてくるかもしれない、注意しろ」 その言葉に、リリアンは、僅かばかり不満そうに唇を尖らせると「イエッサー」と答えて、眼前のモニターを振り返ったのだった。 すると、そこに、こんな文字が浮かび上がっていたのである。 “DEAR:Lily Thanks for your interesting GAMES.I realy ENJOY.(親愛なるリリィへ:面白いゲームをありがとう、とても楽いよ)” 「ファイヤーウォールが・・・突破された・・・っ?この!!」 リリアンは、思わず綺麗な眉を眉間に寄せ、細い指先ですばやくコンソールを叩いて、ワダツミの制御システムのエラーチェックを開始する。 モニターに上ってくるシステムデータに異常はない。 しかし、突然、リリアンの傍らに座っていたイゴールが、叫ぶように声を上げたのだった。 「艦長!戦艦シノノメより緊急入電!シノノメの火器制御システムに異常発生、照準が・・・・ワダツミに向いたまま解除されないとのことです!」 戦艦シノノメは、現在、ワダツミの左舷後方25000の距離で、援軍の後衛を取っている船だった。 ジルベルタ星系の離脱を試みるワダツミとの距離は一番近い。 「何だと・・・っ?」 イゴールの言葉に、ショウゴは、長い前髪から覗く黒曜石の瞳を鋭利に細めた。 次の瞬間、イゴールが、再び叫んだのである。 「シノノメ、全主砲発射!第一波きます!!」 鋭利な声でショウゴは言う。 「左舷補助エンジン出力最大!全速回避!」 現在ワダツミは、ガーディアンエンジェルの戦闘機によって左舷後方のシールドを20%も失っている。 直撃を受ければ、間違いなく左舷のメイン推進を被弾する。 そうなれば、ワープ可能宙域までの到達時間が大幅に遅れるどころか、下手をすれば、ジルベルタ星系上で立ち往生せざるを得なくなってしまう。 そこを追撃され、人質を取り返されてしまうような事になれば、ここまでの計画は全て水の泡だ。 人質が解放されれば、惑星トライトニアの軌道上に待機しているトライトニア艦隊も、容赦なくワダツミを攻撃してくるだろう。 それは、まさに最悪の事態だ。 巨大なバーニアを噴き上げたワダツミが、最大出力で軌道を右舷に移行させる。 その傍らを、宇宙空間を切り裂く無数のビームの閃光が駆け抜けていった。 「ショウゴ!あいつだ・・・っ!あの民間機が、シノノメの火器制御システムをジャックしたんだ!!今、全艦にワクチンを送信したから!!ダウンロード完了までには、多分、三分ぐらい掛かると思う!」 直接ワダツミに仕掛けるのではなく、味方の艦の火器をジャックしてワダツミを攻撃してくるなど、正に嫌味以外の何ものでもない。 リリアンは、可愛らしい顔を悔しそうに歪めて、コンソールパネルを素早く叩いた。 その傍らで、イゴールが再び叫ぶ。 「シノノメから、第二波きます!!」 「全速回避。三分も待てない。主砲反転75度、目標、左舷後方戦艦シノノメ」 ショウゴの言葉に、異議を唱えるものはいない。 例え味方の艦であろうと、例えそれがハッキングによるものであろうと、ワダツミの進路を妨害する船には容赦しない。 それが、ショウゴ・二カイドウであることを、この船に乗っている全員が知っている。 迸るビームの閃光を全速回避し、ワダツミの主砲が反転した。 ハイド粒子の影響による照準補正は1.887。 ワダツミの船体に搭載された四連主砲が、真っ向からシノノメを捕捉する。 ショウゴは、鋭利な眼差しで、モニター上のシノノメを見やると、低い声で言うのだった。 「撃て・・・・っ!」 ワダツミの主砲が青いエネルギー粒子を上げると、甲高い轟音を上げて発射された幾筋ものビームの先端が、豪速で宇宙空間を貫いていく。 続け様に発射されたワダツミの主砲が、味方の艦であるシノノメの防御シールドを貫き、轟音を上げてその船体を直撃する。 鈍い爆音を上げて膨らんだ装甲板が、白煙と共に虚空に弾き飛ばされ、ビームの先端が機関部にまで到達した時、オレンジ色の閃光を迸らせたシノノメが、ブリッジを折りながら、宇宙を揺るがす凄まじい爆音を上げ木っ端微塵に吹き飛んだのだった。 暗黒の闇にもくもくと立ち昇る白煙の中、弾け飛んだシノノメの残骸が、赤い閃光を引きながら惑星フェンリルの地表へと落下していく。 「リリアン、ワダツミには絶対にトラップコードを入れるな。あと少しで、ワープ可能宙域に到達する。失敗はするな。わかったな」 モニターの中で離散していくシノノメの船体を、冷静だが鋭い視線で見つめながら、ショウゴは、いつになく低い声でリリアンにそう念を押す。 リリアンは、綺麗な眉を眉間に寄せると、素早く指を動かしてファイヤーウォールを再構築し、意気込んだ声で答えるのだった。 「わかってるよショウゴ!負けないから!」 実は今、リリアンは、バートの船長ショーイ・オルニーと、モニター上で激しい攻防を繰り広げていた。 再構築したセキュリティプログラムが一瞬で消去されると、再び構築し、相手先にトラップコードを送信、だが、寸分の間をおかず自らのトラップコードが送り返されてくる。 「こいつ・・・っ!生意気!!」 リリアンも天才と称されるが、ここまでやるからには相手も天才だ。 ショウゴの賞賛を貰うためには、リリアンは、絶対に負ける訳にはいかないのだ。 天才ハッカーである少女と、ギャラクシアン・バート商会の社長である青年との攻防も、まだ、終わらない。
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