* レイバンT―6が、ワダツミに向かって流星の速度で急降下していく。 恐れも知らぬバートの荒業を目の当たりにして、ハルカは、苦笑しながら操縦桿を倒し、シールド発生装置に向かって機体を斜めに傾けた。 ワダツミからひっきりなしに撃ち込まれてくるビームガドリングの赤い弾丸が、レイバンの機影を追って放射線状に暗黒の闇を駆け抜ける。 急速旋回急上昇で回避すると、ダビデの星を掲げた前進翼が煌き、ワダツミのシールド発生装置を左舷下方に見て縦ループ。 機体を逆さまにした状態で、レイバンの照準レンジがそれを捕捉すると、赤い点滅でロックオンが表示される。 ハルカは、凛と強い表情でビームガドリングの発射ボタンを押した。 甲高い破裂音を上げながら発射された閃光の弾丸が、シールド発生装置に撃ち込まれ、鈍い爆音と白煙を立ち昇らせた。 その瞬間、ワダツミは、左舷後方の防御シールドを20%も失ったのだった。 このまま装甲扉を爆撃すれば、レイバンはワダツミに着艦できる。 ワダツミの中には、トーマとガブリエラがいる。 例え一人だとしても、乗り込んで行って救助しなければならない。 ハルカは決意を決めて、綺麗な眉を凛と眉間に寄せた。 「キリア、レーダー誘導ミサイル発射用意!」 『イエッサー、RDY GUN』 キリアの無機質にそう返答した瞬間、敵の砲門にロックオンをかけられたことを示す、けたたましい警報がコクピットに響き渡ったのである。 ハルカは、苦々しく眉間を寄せてしまった。 機首を上げて急上昇したT―6に向け、爆音と白煙上げた追尾ミサイルが豪速で迫ってくる。 ブーストコントローラーを踏み込むと、レイバンのメインバーニアが青い炎を噴き上げ、流星の如き速度で暗黒の闇を駆け抜けた。 背後に迫るミサイルが、虚空に白い帯を引きながら、猛進とも言うべき速度でT―6の後方からみるみる距離を縮めてくる。 それを気にしながら覗いた有視界下方で、ワダツミの主砲が青いエネルギー粒子を上げ、ターボジェットを点火したバートに向かって一斉砲撃を開始し始めたのだった。 次の瞬間、レイバンの熱源感知レーダーが警報を上げ、この宙域にワープアウトしてくるケンタウロス戦艦の機影を捉えたのである。 「!?」 識別コードはアンノウン、スペック14の最新鋭艦。 既に、主砲発射体制を取っている。 「デボン・リヴァイアサンの・・・・援軍!?」 ハルカが、ヘルメットシールドの下で厳しく眉間を寄せると、ワダツミの援護としてこの宙域に現われた戦艦アカツキが、バートに向かって容赦なく砲撃を開始したのである。 「バートが・・・っ!」 ワダツミとアカツキ、二隻の戦艦から一斉砲撃を浴びながらも、高速航行モードのバートは、流星の如き速度で急降下、まんまとビーム砲をかわしてしまう。 バートは、輸送船と言うよりは、寧ろ、高速戦艦・・・いや、超大型の戦闘機と言っも過言ではない。 バートの砲門が反転し、ワダツミとアカツキに向かって物怖じもせずに三連主砲を発砲、同時に、対戦艦ミサイルユニットが白煙を上げ、無数のミサイル弾頭が宇宙空間を駆け抜けて行った。 ハルカは、レイバンの操縦桿引き、再び急加速急上昇で縦ループ。 急降下しながら追尾ミサイルを照準レンジに捉え、レーダー誘導ミサイルの発射ボタンを押す。 白い帯を引いた8基のミサイルが、追尾ミサイルを全て大破させるが、有視界下方のガドリング砲門が、レイバンを容赦なく狙い撃ってくる。 惑星フェンリルを右舷に見るその宙域は、既に対空砲火の嵐だ。 もっと悪いことに、レイバンの熱源探知レーダーが再び警報音を上げ、更にワープアウトしてくるケンタウロス級戦艦の高エネルギー熱源を感知したのだった。 レーダーレンジの中には、実に8隻もの大型戦艦の機影が映し出される。 「嘘・・・・・っ?!まだこんなに援軍がいたのか!?」 虚空に放射線を描くビームガドリング弾を急旋回でかわしながら、ハルカは、ぎょっと目を剥いた。 全艦全てが、主砲発射体制を取っており、あろうことか、バートに向かって一斉に主砲を発砲する。 その時だった。 航行システムを復旧させたワダツミが、続け様に主砲を撃ちながら出力最大で急加速していく。 「!?」 ハルカは咄嗟に、モニターを見やると、メインバーニアを噴き上げたワダツミが、座標軸WS109SH208・・・・ワープイン可能宙域に向かって全速前進する。 ワダツミは、戦線を離脱するつもりだ。 このままワープインされてしまえば、ワダツミを見失うのは目に見えている。 だが、対空砲火をたった一隻で浴びるバートも気にかかって仕方がない。 ワダツミを追うか、バートの援護か・・・ハルカは、苦々しく眉間を寄せてブーストコントローラーを強く踏み締めたのだった。
* 「ショーイ!ワープアウト反応感知!ケンタウロス級戦艦8隻、既に主砲発射体制・・・ハイド粒子を散布してる、第一波、来るわ!!」 武装高速トランスポーター『バート』のブリッジに、通信士ルツ・エーラの声が響いた。 弱冠焦ったような顔つきをするルツとは対照的に、船長席に腰を落ち着けたままのショーイは、実に冷静な表情でいつもの口調で言うのである。 「全速回避」 「了解!」 操縦士タイキ・ヨコミゾが、ブースト圧を上げながら操縦桿を傾けて、迫りくる無数の高エネルギービームの閃光を、急加速急上昇でまんまと回避した。 ショーイの冷静な指示は続く。 「1から3までの主砲は、45度で反転。対戦艦ミサイルユニット、3から6まで同角反転。フランク、撃て」 「了解!」 いつもはトーマの座っている操縦席で、本来は機関士であるフランク・コーエンが刻みよく返答し、主砲発射トリガーを引きながら、対戦艦ミサイル発射ボタンを同時に押す。 バートの三連主砲に青いエネルギー粒子が蛍のように飛び、甲高い轟音を上げながら発射されたビームの閃光が、相手のビームと擦れ違いながら宇宙空間を貫いていく。 バートの戦況はあまり良いものではない。 左舷には戦艦アカツキ、前方にワダツミ、そして、新たにワープアウトしてきた8隻の艦隊は右舷前方で出力を上げ、バートを取り囲むようにして編隊を広げながら、みるみる距離を縮めてきている。 敵艦隊から発射されたビームの先端が、バートのブリッジ下方を豪速で掠め通り、対戦艦ミサイルが防御シールドに当って爆音を上げると、暗黒の宇宙に白煙を沸き上がらせていた。 「ワダツミが速度を上げてる。一隻で戦線を離脱するつもりかも!」 レーダーレンジを見つめていたルツが、蛾美な眉を眉間に寄せてそう言いながら、咄嗟にショーイを振り返った。 ショーイは、眼鏡の下から覗く紺色の瞳を鋭利に細めて、落着き払った口調で言うのである。 「オリハラル粒子サイクロン砲発射準備。この邪魔な艦隊をさっさと殲滅させて、ワダツミを追うよ。ワープアウトされたら、追いようがないからね」 その時、オリハラル粒子砲発射システムを起動させようとしたフランクが、実に素っ頓狂な声を上げたのである。 「せ、船長!!やばいっすよこれ!?人形が踊ってますよ!!なんすかこれ!?」 その声に、ショーイは、形の良い眉を眉間に寄せて、素早く手元のコンソールを叩き、眼前のモニターに、オリハラル粒子砲起動画面を表示させたのだった。 すると、そこには・・・ 白い人型の隊列が奇妙なダンスを踊っており、画面の真ん中には“LOVE&KISS From BAG Lily”と、さも馬鹿にしたようなメッセージが載っていたのだった。 ショーイは、鮮やかな赤毛の隙間か覗く紺色の瞳を、何故か、ひどく愉快そうに細め、片手で鼻先の眼鏡を押し上げると、知的な唇が小さくもたげて実に鋭利に微笑(わら)ったのである。 「なかなかやるね・・・・・さっきのトラップコードは、これをしかけるための囮だった訳か・・・ふーん」 操縦席からそんなショーイの様子を伺っていたフランクとタイキが、思わず視線を合わせて頷きあってしまう。 「やばっ・・・あの顔、本気になった顔だよな?船長が本気になった時の顔だよなっ!?」と声を低めてフランクが言う。 「間違いないっす!ありゃ本気の顔っす!ゆ、勇気あるっすねぇ・・・うちの船長に電子戦仕掛けてくるなんて」と、やはり声を潜めたタイキが答える。 そんな彼らに向かって、ショーイは、端整で繊細な顔を殊更底意地の悪い微笑で満たしながら、冷静で落着き払った声色で言うのだった。 「進路そのまま、主砲、及び対戦艦ミサイルは撃ち続けて。面倒だけど、少しの間、一隻づつ墜としていくしかないね。僕は、少しゲームを楽しむから、なるべく話し掛けないように」 その言葉の響きに、なにやらひどく邪なものを感じて、フランクとタイキは思わず頬を引きつらせ、操縦桿に向き直りながら大きく返答したのだった。 「りょ、了解!」 ショーイは、自ら進んで敵艦に電子戦を仕掛けることなどない。 バートのファイヤーウォールは強固なものだ、ちょっとのことで破られることはないし、電子戦など展開しなくても、敵を撃沈させることが出来るほどバートの武装は強固なものであるからだ。 だが、ファイヤーウォールを破られた上に、オリハラル粒子砲の制御システムに強制ロックをかけられてしまっては、プライドの高いショーイが大人しく引き下がるはずもない。 宇宙空間を貫くビーム砲が、バートのシールドに当って暗黒の闇に弾け飛ぶ。 大きく横に揺れた船体に驚くでもなく、ショーイは、無言でモニターを見つめたまま、軽く口角をもたげてコンソールを叩き続けた。 ターボジェットから噴射される青い炎の長い帯が、暗黒の闇を二分していく。 バートの鮮やかなブルーの船体が、流星の速度で右舷に移行、迫り来る無数ビームをまんまとかわしながら、船体に8基搭載された3連主砲を容赦なく連射する。 ロックオン電波を乱反射させるハイド粒子が撒かれているため、照準修正が間に合っていないが、フランクの絶妙な勘が功を奏したのか、前衛一隻のシールドにビームが命中した。 そのまま照準修正。 フランクの指が、ここぞとばかりに主砲を連射する。 バートから矢継ぎ早に発射されるエネルギービームの閃光が、敵艦隊のビームの合間を抜けて続け様に命中すると、敵艦のシールドが破壊され、青いビーム先端が厚い装甲板を貫いていく。 僅かに膨張した敵戦艦の船体が膨張し、オレンジ色の閃光を上げると、宇宙を震わす大音響と共に大爆発を起した。 離散した残骸が、赤い光の帯を引いて暗黒の闇を泳ぐ。 高速航行するバートは、迸る無数のビームと飛び交う対戦艦ミサイルの合間を、閃光の帯を引きながら駆け抜けていく。 デボン・リヴァイアサン艦隊と、バートの攻防はまだ終わらない。
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