* 主砲を撃ちつづけるワダツミの左舷前方に、鮮やかなブルーの船体が、防御シールドを展開したまま流星の如き速度で突っ込んでくる。 「何を考えてるんだ!?あの船は!?」 衝突回避警報がけたたましく鳴り響く中、ワダツミのブリッジオペレーター達が、思わずそう声を上げた、次の瞬間、ワダツミの船体左舷を、武装高速トランスポーター『バート』が、まさに衝突寸前のぎりぎりの距離で通過せんとする。 ワダツミとバートの合間でシールド同士が共鳴し、破裂音を上げながら紫色のプラズマを迸らせた。 これが発生すると、もはや双方のシールドはその役割を果たさない。 バートが主砲を反転させる。 ワダツミはひっきりなしに主砲を発砲するが、放射線状の軌跡を描くビームの閃光は、ターボジェットを点火して高速航行するバートの速度に、全く追いつかない。 熱源感知センサーが搭載された対戦艦ミサイルを撃つことも出来るが、この距離で使用すれば、ワダツミの船体まで被弾する可能性がある。 火器担当者が思わず躊躇ったとたん、バートの主砲が青いエネルギー粒子を上げ、ワダツミの主砲門を狙って、一斉に三連ビーム砲を発射したのである。 紫色のプラズマが迸る最中を、青いビームの閃光が豪速で宇宙空間を駆け抜け、ワダツミの左舷にある砲門を容赦なく被弾させていく。 爆音が暗黒の闇に轟き渡った。 ワダツミに搭載された14基の主砲門の内4基が、その一瞬で破壊されると、白煙を噴き上げた大型の船体が、ぐらりと大きく斜めに傾いた。 360度ロールしながらワダツミの脇を通り過ぎたバートが、ワダツミの主砲射程を高速で抜け、その宙域で急速反転する。 「な、なんていう連中だ・・・っ、あれは本当に民間機なのか!?」 レーダー通信セクションのオペレーター達が、異口同音でそんな声を上げる中、コントロールブリッジの大型モニターで、遠くなったバートの機影を見やった、ショウゴは、さして驚いた様子も焦った様子も見せず、ただ、鼻先でふんと笑うのだった。 あのタイミングであれば、有にワダツミを撃沈できたはずだが、人質を気にしているのか、あの民間機も流石にそれは出来なかったようだ。 「こちらの剣を先に折るつもりか・・・・なるほど。確かに、馬鹿の寄せ集めのような船だ」 そんなことを口にしたショウゴに向かって、主任オペレーター、リンゲル・モルガンが、損傷個所を淡々と伝えてくる。 「第8から第11主砲被弾、使用不能です。第126、第132、第133装甲板、第二層まで破損。シールド再展開します」 その時不意に、ワダツミに強制回線が開かれたことを示すアラームが鳴り響き、通信モニターに、鮮やかな赤毛を持と白皙の肌を持つ、実に知的な青年の顔が映し出されたのである。 ショウゴは、長い前髪から覗く黒曜石の瞳を鋭利に細め、見知らぬその青年を、鋭い視線で見つめすえたのだった。 『こちらは、ギャラクシアン・バート商会所属、トランスポーター「バート」。船長のショーイ・オルニーだ。貴艦には、ギャラクシアン・バート商会の専務が拘束されているはずだ。ただの民間人だ、貴艦にとってさほど有益な捕虜とは思えない。速やかに解放してもらおう』 ワダツミを被弾させた民間輸送船の船長、ショーイ・オルニーは、冷静でいてやけに高飛車な口調で、いけしゃあしゃあとそんな言葉を口にした。 「イゴール、通信回線を開け」 ショウゴのその声に、通信士イゴールは刻みよく「イエッサー」と返答する。 通信モニターを見つめたまま、ショウゴは、落着き払った口調と表情で言うのだった。 「こちらは、デボン・リヴァイアサン親衛艦隊、戦艦ワダツミ。艦長のショウゴ・二カイドウ。貴船が、これ以上ワダツミを攻撃するというなら、捕虜は射殺する。それが嫌なら退け。捕虜を解放して欲しいなら、身代金でも用意しておくことだな」 『残念ながら、ギャラクシアン・バート商会の口座には、テロリストに提供するような金は一銭もありませんよ。会社の運営資金を、テロリストの運営資金されるなんて、ご免こうむりたいですからね』 「ではどうする?退くか?」 『ギャラクシアン・バート商会を、甘く見てもらっては困りますよ・・・二カイドウ艦長』 モニターの中のショーイが、知的な唇をにやりともたげた、その次の瞬間、ワダツミの機関オペレーター、ラス・プーランが、実に苦々しい声を上げたのである。 「航行システムに異常発生!出力、60%まで低下!」 その声と同時に、レーダー通信セクションのリリアンが、憤慨した様子でコンソールを叩くと、艦長席を振り返りながら大きく叫んだのだった。 「ショウゴ!航行システムは直ぐに復旧させるから!あの船、こっちが送った“トラップコード”をワダツミに転送してきた!」 にわかにざわめいたコントロールブリッジを横目で見やりつつ、冷静さを失わない表情で、ショウゴは、ショーイに向かって鋭い口調で言うのである。 「おまえは、そんなに仲間を殺されたいのか?」 『まさか、あれでも彼は、僕の大切な弟ですからね。殺してもらっては困ります。 まぁ・・・そう素直に殺されるような男でもありませんがね、トーマ・ワーズロックは。 だがもし、あなた方がトーマを殺すなら、その時は・・・あなた方の船も、この宇宙に沈むことになることをお忘れなく。彼を生かしておく方が懸命だと思いますよ』 ショーイは、冷静で高飛車な口調でそう言い切って、やけに鋭い微笑をその知的な唇に刻むと、一方的に通信を切った。 テロリストの脅しを、たかが民間業者が脅しで返してくるとは・・・と、ショウゴはひどく愉快に思う。 あの大砲門を使う民間機の船長は、トーマを弟だと言った。 弟が弟なら、兄も兄という訳か・・・ 精悍で端整な唇とにやりともたげると、ショウゴは、イゴールに向かって言うのである。 「イゴール、援軍は?」 「戦艦アカツキは180秒で、他は、約200秒で、ジルベルタ星系上にワープアウトしてきます」 その返答に、黒曜石の瞳を鋭利に閃かせると、ショウゴは、落着き払った声で言うのだった。 「航行システムの復旧を急げ。先にあの民間機を墜す。主砲及び対戦艦ミサイル発射発射用意。あの船が、もう一度射程に入ってきたら、一斉砲撃開始」 「イエッサー!!」 ワダツミのコントロールブリッジに、オペレーター達の返答が響き渡った。
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