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作品名:NEW WORLD〜交響曲第二楽章〜 作者:月野 智

第35回   【ACTW リトリビューション・ファンファーレ】6
                *
戦艦ワダツミは、にわかに交戦の時を迎えていた。
バートは、まだ主砲を撃っていないのか、ワダツミの艦内は思ったよりも静かだった。
ララの華奢な肩にもたれるようにし、右足をひきずりながら歩くトーマが、痛みに端整な顔をしかめながら、ふとララに聞くのである。
「君ってさ・・・・・・あの食えない艦長の何なの?なんか、雰囲気おかしくない?」
唐突で率直なその言葉に、ララは、長いプラチナブロンドの髪の下で、菫色の瞳をきょとんと丸くしながら、しかめっ面をしているトーマを仰ぎ見た。
「・・・・突然、何を聞くのかと思ったら、そんなこと・・・?」
「変な質問だった?まぁ、そりゃそうか・・・・でも、なんか、そういうの凄く気になるタイプなんだよね、俺」
「変わった捕虜ね?あなた?・・・ショウゴが、あなたを生かしておいた理由が、なんとなく判ったわ」
ララはそう答えて、憂いを含んだ眼差しのまま、綺麗な唇だけで小さく微笑すると、静かに言葉を続ける。
「ショウゴは、あなたみたいな人、嫌いじゃないみたい。物怖じもしなければ、遠慮もしない・・・・・それどころか、デボン・リヴァイアサンの幹部に向かって平気で軽口を叩く。そして私には、直球でそんなことを聞いてくる・・・でも、実は私も、嫌いじゃないわよ。そういう面白い人」
「面白いね〜・・・・まぁ、それで命を長らえたなら、こんな性格に産んでくれたお袋に感謝しなくちゃな・・・・で、どういう関係なの?あの艦長と?」
ララは、困ったように蛾美な眉を寄せると、綺麗な口元をどこか切なそうにもたげたのである。
「そんなに聞きたいの?」
「敵の情報は入手しておかないとね」と返答し、トーマは、どこか神妙な面持ちになって言葉を続けたのだった。
「さっきドックで、君が手当てしてくれた時、この船の連中、たかが看護士の君にどことなく遠慮がちだった・・・・あの艦長は、遠慮がちではないみたいだけど、なんか、他の船員と接する時の態度と、君への態度が違った気がする」
「よく人を見てるのね?良い洞察力をしてる」
「人間観察、趣味っていうの?」
「違うわ・・・・あなたは、必要にかられてそういう能力を身に着けたのよ。それがなければ、上手く回らないような複雑な家庭環境で育ったから・・・・・違う?」
どこか確信を持ってそう言ったララに、今度は、トーマがきょとんと目を丸くしてしまう。
「な・・・・何?心理分析?」
「図星なのね?」
綺麗な唇をほころばせながら、ララは、その綺麗な菫色の瞳で、真っ直ぐにトーマの紺色の瞳を見つめすえる。
トーマは、困ったように形の良い眉を眉間に寄せると、自由の効く左手でぼりぼりと頭をかくと、こんなことを口にするのだった。
「確かに、複雑な家庭環境ではあったけど・・・・君と、あの艦長の間にあるような複雑さではないんじゃない?そっちの場合、なんかこう、恋愛とかそういうのじゃなくて、もっと違う、なんか普通と違う、妙な関係性っていうの?」
ララは、可笑しそうに、しかし、どこか切なそうに笑った。
「そうね、一方通行じゃ恋愛関係にはならないわ。ショウゴは、素直に人を愛せるような人格の持ち主じゃないもの。一人の女を見るようなことは決してない、一人の女を見るぐらいなら、もっと広い世界を見る。女に固執はしないし、誰かに愛されていると判れば、最大限にその気持ちを利用して上へとのし上がる。そう言う人よ」
「・・・・・・食えない男だ」
天井を見上げながら、形の良い眉を眉間に寄せて、トーマはそう答えた。
ララは言う。
「彼にとって、女の愛情は道具でしかない」
「・・・・じゃぁ、君の愛情も、道具にされたって訳?」
「どうしてそう思うの?」
「いや、根拠はないけど・・・・・・なんとなく」
しばし沈黙した後、ララは、小さくため息をついて静かに唇を開いた。
「・・・・・・そうね・・・・・確かに道具だわ。私、自分の生い立ちを恨んだもの・・・・」
「何?生い立ちって?」
「・・・・・私のフルネームは、ララ・メイミー・デボン。元帥の娘なの・・・愛人の子だけど」
「・・・・・・・・・」
トーマは、僅かばかり驚いた様子で紺色の瞳を細めると、揺れる前髪の隙間から、ララの美しい横顔をまじまじと見つめすえてしまった。
通路の先を眺めながら、ララは、聡明で清楚な美貌を兼ね備えたその顔を、どこか切な気に曇らせたのだった。
彼女は、静かに言葉を続ける。
「私が、元帥の娘じゃなければ・・・・・・もしかしたら・・・って思う時もあった。でも、どっちに転んでも、あの人が、私を一人の女として、本気で愛してくれることはなかったと、今はそう思ってる。ある意味では、わたしは彼にとって“とても特別な女”かもしれないけど・・・・結局、ショウゴが私をこの船に乗せているのは、元帥からどれ程信頼を受けているか、それを他の幹部に見せつけるためなのよ。私は、あの人の“飾り”なの」
「・・・・・・“飾り”ね・・・・・・君はそれが悔しい訳だ?」
「悔しいに決まってる、私はこれでも心理士だから、あの人が何を考えてるのか、全部ではないけど判るの・・・とんでもない皮肉よ、」
そう言ったララに、トーマは、何故かあっけらかんとした表情と口調で言うのである。
「やめとけよ。あの手の男は厄介だからさ。どうせ好きになるなら、俺みたいに単純な奴の方が安全だぜ?それにさ・・・・・実は俺も、愛人の子だしさ、類は友を呼ぶってやつ?
昔のこと考えても仕方ないって。ムカツクかもしれないけどさ、複雑なことなんて、そのうちなんとかなるって」
 冗談とも本気とも取れない軽い口調だが、真っ直ぐにララを見つめる知的な紺色の瞳には、強さと実直さがそこはかとなく漂っていた。
心なしか青ざめた唇が、やけに穏やかに微笑している。
ララは、再びきょとんとすると、そんなトーマを見つめ返して、にわかに、華奢な肩を震わせながら可笑しそうに笑ったのである。
「私、心理士なのに・・・・・・逆に誘導尋問されたみたい。あなた、本当に得な性格してるわ。誰の心にも軽く入り込める・・・面白い人」
「面白い人ねぇ・・・・・それ、よく言われるよ。特に女の子に」
「馬鹿なふりするのはやめたら?あなた、本当は、凄く頭の良い人よね?言葉ほど軽い人間でもないし、単純な人間でもない。人の心の動きを敏感に捉えられる分、抜け目なく狡猾に、自分の利益を弾き出せる・・・・そうじゃなければ、もうとっくにショウゴに殺されてたわ」
「・・・・・・」
ララの言葉に、なにやら複雑な顔つきをしながら、トーマは思わず押し黙った。
そんなトーマの表情から、ララは、自分の言葉がさほど的を外していないことを確信して、もう一度可笑しそうに笑うのである。
その次の瞬間だった。
突然、ワダツミの艦内に凄まじい衝撃が走り抜け、足元をすくわれたララが、思わず体制を崩して悲鳴を上げる。
「きゃぁっ!」
トーマは、前傾するララの体を左腕で受け止めようとするも、右足の傷に激痛が走り、自らの身体すら支えられず、ララを片腕に抱えた形で、思い切り通路の上へと倒れ込んでしまう。
「うっは・・・・・・ショーイの奴、始めやがったな・・・・・・おい、大丈夫か?ララ?」
「だ、大丈夫・・・あなたは?」
「ぴんぴんしてるぜ」
トーマはそう言って愉快そうに笑った。
この青年は、本当に興味深い青年だと・・・ララは思う。
何故、この青年を、冷淡であるはずのショウゴが生かしておいたのか、その理由を再確認しながら、ララは、ゆっくりとその体を起したのである。
戦艦ワダツミを囲む戦況は、にわかに動きを見せ始めた。



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