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作品名:NEW WORLD〜交響曲第二楽章〜 作者:月野 智

第34回   【ACTW リトリビューション・ファンファーレ】5
             *
一方的に通信回線が閉ざされてから僅か数秒後、ワダツミの上方を防御シールド越しに急旋回したレイバンT―6、ハルカの機体後方に、白い帯を引きながら追尾ミサイルが迫ってきた。
コクピット内にはけたたましい警告アラームが鳴り響き、ハルカは、ミサイルの位置をレーダーで確認しながら、苦々しく眉間を寄せると、ブーストコントローラーを踏み込み操縦桿を手前に引く。
爆音と共に青い炎を噴き上げたレイバンが機首を上げ、急加速縦ループ、そこから反転して追尾ミサイルをやり過ごす。
豪速で通り過ぎて行った四発の弾頭が、にわかに急旋回したところをレーダーレンジに捉え、ロックオンの表示が点滅すると同時に、ハルカは、ミサイル発射ボタンを押したのだった。
レイバンの両翼下部から轟音を上げて飛び出した8基のレーダー誘導ミサイルが、白い帯を引いて敵追尾ミサイルを大破させていく。
凄まじい爆音がワダツミの上方で響き渡ると、そのブリッジが、もくもくと上る白煙に曇った。
ハルカは、ヘルメットシールドの下で凛と強い表情をしながら、キリアに言う。
「キリア、ワダツミのシールド発生装置の場所を特定して!ビームガドリング発射準備!」
有視界発砲でレイバンを追う赤いビームガドリング弾が、鋭い曲線を描きながら宇宙空間を駆け抜けていく。
急上昇180度旋回で追いすがる弾丸を回避し、ハルカは、このワダツミからトーマと、そしてガブリエラを救助する手立てを思案した。
『シールド発生装置特定完了、RDY GUN』
キリアの返答と共に、眼前のモニターに映し出されたワダツミのグラフィック図に、赤い点滅でシールド発生装置の場所が表示される。
全部で6箇所。
ソドムシンク砲があればシールドぐらい簡単に破れるが、大気圏内装備のため、T−6は、現在その砲門を搭載していない。
大気圏内での重量を軽減するため、ミサイル数も少なく搭載されているのだ、無駄撃ちは絶対にできない。
だとしたら、ミサイルを連射してシールドを破るより、シールド発生装置を破壊した方が仕事は速い。
ハルカは、ひっきりなしに撃ち込まれてくる赤い弾丸を360度ロールでかわしながら、ワダツミの船体後部にあるシールド発生装置を目指して一気に加速する。
だが、突然、眼前の対戦艦ミサイルユニットが回転し、T―6が飛行する軌道へと向くと、あろうことか、爆音と白煙を上げながらその強力な弾頭を容赦なく発射したのだった。
「!?」
ハルカは、操縦桿を横に倒して急旋回で回避。
だが、そのミサイルは決してレイバンを狙ったものではない。
気付けば、レーダーレンジの中には、アステア級大型船の機影が映り込んでおり、ハルカは、それが、バートであることを瞬時に把握したのだった。
ワダツミの全主砲が甲高い轟音を上げて次々と発射される。
「バートが、来た・・・!?」
レイバンは、八時に方向に急旋回。
惑星フェンリルを背景に、主砲発射体制を取る鮮やかなブルーの船体を有視界確認して、ハルカは、機体を斜めに傾けながら流星の如く暗黒の闇を駆け抜けていった。
緊急入電を知らせるアラームが鳴り、眼前のモニターに通信ウィンドウが開くと、そこに、バートの通信士ルツ・エーラの綺麗な顔が映り込む。
『ハルカ、ワダツミからちょっとだけ離れて、主砲の巻き添え食らわないでね』
そう言ったルツの綺麗な顔が、小さく微笑する。
「了解」
ハルカはそう答え、僅かばかり安堵したように軽く唇をもたげると、ブーストコントローラーを踏み込んだのだった。
レイバンのバーニアが炎を噴き、流星の如き速度を持つダークブラックの機体が、ワダツミの上方へと急上昇していく。
キャノピの向こうに広がる宇宙の海原で、鮮やかなブルーの装甲板を持つバートの船体が、撃ち込まれた対戦艦ミサイルとビームの閃光防御シールドで大破させながら、急速にワダツミへと近づいてきていた。


           *
ワダツミのコントロールブリッジに、“バグ・リリィ”と異名をとる天才ハッカーリリアン・カーティスが戻った。
レーダー通信セクションの座席に腰を下ろしながら、リリアンは、いつになく意気込んでモニターを覗きこむと、素早い手の動きでコンソールを叩き始める。
ライトブラウンの髪の下で大きなへーゼルの瞳を細めながら、モニターに上ってくる、敵機に関する膨大なシステムデータを読み取りながら、無言でコンソールを叩き続ける。
電子戦に興じるリリアンには、愛らしいその顔立ちにはそぐわないほど、鬼気とした気迫があった。
そんなリリアンの華奢な背中を、ワンセクション高い艦長席から眺めていたショウゴが、精悍で端整な唇で薄く笑うと、落着き払った冷静な声で言うのである。
「リリアン、あの船に大砲門だけは撃たせるな。可能なら、制御システムを破壊しろ」
「了解!」
リリアンは、ショウゴに振り返ることなくそう答えると、綺麗な唇で底意地悪く微笑するのだった。
ショウゴに必要とされることは、リリアンにとって至福の喜びなのだ。
だから、やれと言われれば、必ずやり遂げなければならない。
美しい看護士ララに肩を支えられながら立ち上がったトーマが、リリアンに電子戦の指示を出したショウゴに向かって、さも愉快そうに、どこか底意地悪く言うのである。
「あの娘(こ)が電子戦オペレーターだった訳だ?オリハラル粒子砲・・・止められるかな〜?うちの船長は天才だよ?あんまり怒らせると、ワダツミの制御システムの方がぶっ壊されるかもよ?」
肘掛に頬杖をついた姿勢のまま、ショウゴは、余裕綽々のトーマにちらりと視線をやると、唇だけで愉快そうに笑う。
「安心しろ、リリアンも天才だ。おまえの船は、なかなか撃ってこないようだが、遠慮でもしているのか?おまえが・・・・ワダツミにいるせいで?」
「まさか!まぁ見てなよ・・・・バートにはバートの戦い方ってのがあるんだよ」
トーマは、端整な唇でニヤリと笑う。
そんなトーマの腕を軽く叩いて、ララが促すように言う。
「行きましょう、このままじゃ出血が止まらないわ」
そう言ったララの菫色の瞳が、凛とした輝きを宿しながら、艦長席のショウゴへと向く。
「彼をメディカルセクションに連れていくわ・・・いいわね?ショウゴ?」
「大切な人質だ、丁重扱ってやれ」
「言われなくても、そうするわ」
ショウゴの返答に、どこか棘のある口調でそう答えると、ララは、トーマの肩を支えたままゆっくりとオート・ドアを出て行ったのである。
ショウゴは、肩越しにちらりとそんな彼女の後姿を見送ると、その端整で精悍な顔に微かな翳りを落したのだった。









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