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作品名:NEW WORLD〜交響曲第二楽章〜 作者:月野 智

第33回   【ACTW リトリビューション・ファンファーレ】4
ショウゴは、鋭利な視線でそんなトーマを顧みる。
だが、まったく物怖じしないトーマは、やけに落着き払った口調で、ララにこう言った。
「先に艦長の手当てしてやったら?こっちも結構ひどいと思うけど」
その言葉に、ララはハッと細い肩を揺らして立ち上がると、弾けれたように艦長席へと駆け寄った。
「ショウゴ、どうしたの・・・・っ?ちょっと見せて」
ララは、細く蛾美な眉を眉間に寄せながら、無言のまま、視線だけを動かしてこちらを顧みたショウゴの腕を掴んだ。
左手首の腫れに気付いたララは、聡明で清楚な美貌を持つその顔を、怒ったように歪めると、さも不満そうな口調で言うのである。
「ひどい腫れ方、骨に異常があるかもしれないわ・・・どうして黙ってたの?あなたも治療が必要よ、直ぐにメディカルセクションに来て」
「断る・・・少なくとも、今、ブリッジを離れる訳にはいかない。俺はいい、トーマのことだけ診てやれ」
冷静だが鋭い声色でそう答えると、ショウゴは、腕を掴んでいるララの白い手をそっと掴み返して、自らの体から離したのだった。
憮然としてこちらを睨むララの瞳と、明らかな拒絶を表すショウゴの黒曜石の瞳が、真っ向からぶつかり合う。
双方、しばし無言で見つめ合った後、先に口を開いたのはララの方だった。
「どうしていつもそうなの?これ、相当痛いはずよ?私の言うことを聞くのが、そんなに嫌なのかしら?“お飾り”の話なんて聞きたくないと、そういう事なの?」
「執務を離れたくないと、そう言っただけだ。君の言うことを聞きたくないなんて、俺は一言も言っていない」
冷静で落着き払った口調と表情で、ショウゴはそう返答する。
その態度で、もはや何を言ってもショウゴが動かないことを悟ったララは、どこか切な気に蛾美な眉を寄せると、大きくため息をついて「わかったわ」とだけ返し、先程から、きょとんとした顔つきでそのやり取りを眺めていたトーマに振り返ったのである。
ララは、綺麗な唇で困ったように笑うと、トーマの両肩にそのしなやかな手を乗せて、座るように促すのだった。
「あなたは、素直に言うことを聞いてね。私は戦闘員じゃないから、これ以上あなたに怪我なんてさせないから、大丈夫よ」
「そりゃ、美人の言うことは聞くさ。女には優しくしろって、散々お袋に言われて育ったからな」
トーマは、おどけたようにそう答え、片目を閉じて見せると、素直に床の上に座り込んだのだった。
ララの綺麗な菫色の瞳が、真っ直ぐに、そんなトーマの紺色の瞳を見つめすえる。
美しいプラチナブロンドの髪束が、憂いを含んだ眼差しの合間で白い頬に零れ落ちた。
艶やかな唇で切なそうに微笑すると、ララは、床の上に広げたケースから、医療用具を取り出したのである。
この美女は、何故こんな笑い方をするのかと、トーマは実に不思議に思う。
それに・・・どうも、このララという女性とショウゴの間には、なんとも言葉にし難い妙な雰囲気が漂っているようだった。
それは、恋愛関係であるとか、そういう単純な意味合いのもではなく、もっと複雑で奥深い物のように思える。
少なくとも、先程のララに対するショウゴの態度は、他の船員達に対する接し方は微妙に違っていた気がしてならないのだ。
形の良い眉を怪訝そうに寄せたまま、トーマは、ちらりとだけ視線を動かして、艦長席で長い足を組んでいるショウゴを見やった。
まさにその瞬間である。
戦艦ワダツミの艦内に、けたたましいスクランブル警報が鳴り響いてきたのである。
トーマは、ハッと肩を揺らして、ブリッジ上部に設置されている大型モニターに視線を移した。
レーダー通信オペレーター、イゴール・レメネンが、冷静な顔つきのまま艦長席のショウゴを振り返ると、落着き払った口調で言うのである。
「艦長、有視界監視塔から通達です。戦闘機らしき機影が一機、左舷後方より急速接近中とのことです。レーダーにも熱感知センサーにも反応しないところを見ると、恐らくステルス機でしょう」
ショウゴは、黒曜石の瞳を鋭利に細めると、冷静だが鋭い声色で答えるのだった。
「防御シールド展開。火器担当者は砲門へ、有視界発砲で迎撃する。トライトニアの機体か?」
「・・・いえ、この識別コードは・・・」
イゴールがそう答えかけた、その次の瞬間だった、流星の如き速度を保つダークブラックの戦闘機が、ワダツミの左舷前方から現われると、そのまま、ブリッジの目前を180度ロールした状態で横切った行ったのである。
銀色の光の帯を引くその両翼に、青い六芒星のエンブレムが掲げられているのが、肉眼でもはっきり見て取れた。
それは、この戦闘機が、謎めいた巨大組織ガ―ディアンエンジェルに所属する機体であることを、明白に物語っていたのである。
水を打ったような静けさを保っていたワダツミのブリッジが、僅かにざわめいた。
ショウゴは、肘掛に頬杖をついたまま、長い前髪から覗く黒曜石の瞳を鋭利に細め、大型モニターに拡大されていくその機体を凝視する。
前進型の主翼と、デルタ型尾翼を持つ洗練されたフォルム。
眼前のモニターに上ってくる機体情報には、スペック17Fが表示され、その機体が、最新鋭機であることを示していた。
「ガーディアンエンジェルの最新鋭戦闘機・・・あの輸送船が、積んでいたやつか・・・」
スペック17Fの最新鋭戦闘機、RV−019VFc(シータ)レイバンが、ブリッジ上部の大型モニターで急旋回し、防御シールド越し、再びワダツミのブリッジへと超音速で向かってくる。
ワダツミのビームガドリング砲門が開き、火器担当者達が一斉に砲撃を開始する。
赤い閃光の弾丸が、湾曲した軌跡を描きながらレイバンを追うが、軽やかにロールした機体はまんまとそれを退いていく。
「なかなかやるんじゃんか、ハルカ」
ララに傷の手当てをされながら、モニターを眺めていたトーマが、愉快そうに笑った。
すると、ワダツミの通信回線が強制的に開かれ、通信モニターには、黒いパイロットスーツにヘルメットという出で立ちをした人物が映し出されたのである。
『こちらは、ガ―ディアンエンジェル、空母セラフィム所属ツァーデ小隊、ハルカ・アダミアン。戦艦ワダツミに告ぐ!速やかに人質を解放して、この宙域を離脱せよ。繰り返す、速やかに人質を解放して、この宙域を離脱せよ!』
モニターの中で、わざとヘルメットシールドを上げ、凛とした表情でそう言ったのは、まるで少女のような繊細な顔立ちをとした、まだ年端もいかない少年パイロットであったのだ。
それは他でもない、レイバンを駆り、トライトニアからワダツミを追走してきたハルカ・アダミアンの姿である。
ショウゴには、その少年の顔にも、そして名前にも覚えがあった。
確か、6年前、トライトニアがガーディアンエンジェルの船から拉致したNW−遺伝子児の本名は“ハルカ・アダミアン”であったはずだ。
報告書には、確かにそう記載されていた。
まさか、そのNW−遺伝子児が、先刻、スタジアムで会ったばかりのこの少年であったとは・・・
艦長席に腰を落ち着けたまま、少女のような繊細さを持つハルカの顔を、鋭く細めた視線で見やりながら、ショウゴは、落着き払った冷静な声色でレーダー通信士イゴールに言うのだった。
「イゴール、通信回線をつなげ」
「イエッサー」
イゴールの刻みよい返答と共に、ワダツミからレイバンに向けて通信回線が開かれると、ショウゴは、精悍で端整な唇を愉快そうに歪めながら、静かに口を開いたのである。
「こちらは、デボン・リヴァイアサン親衛艦隊、戦艦ワダツミ。艦長のショウゴ・二カイドウだ。坊主・・・・おまえが“NW−遺伝子児”だったのか?どうりで、活きが良い筈だ・・・どうせなら、おまえをワダツミに連れ帰ってくるべきだったのかもな」
そこまで言って、ショウゴは、傍らでララの治療を受けていたトーマの肩を強引に摘むと、豪腕でモニターの前に引きづり出し、素早く抜き払った銃を、その後頭部に突きつけたのだった。
『トーマ!!』
通信モニターの中で、ハルカが、驚いたように黒い両眼を見開いた。
「痛って〜な・・・まだ治療の途中だってわかってんだろ?あんた?」
トーマは、なんとも渋い表情をしてショウゴを見やるが、そんな言葉もまったく無視ししきった様子で、ショウゴは、通信回線に向かって更に言葉を続ける。
「この馬鹿は、民間企業の人間だと言っていたが・・・・・おまえと共に居たと言うことは、やはりガーディアンエンジェルの人間か?」
『違う!トーマを離せ!トーマは本当に民間人だ!!』
ハルカは、綺麗な眉を怒気に歪めてそう叫ぶと、モニター越し、ショウゴの顔を凛とした鋭い眼差しで睨みけたのだった。
鼻先でふんとせせら笑うと、ショウゴは、そこで一方的に通信を切り、通信セクションに向かって言うのだった。
「火器セクションに通達、有視界ロックオンで追尾ミサイル発射。この機の機関部を狙え。可能であれば生け捕りにする。リリアンをブリッジに呼び戻せ、電子戦展開準備。ジルベルタ星系付近を航行している親衛艦隊に援護要請通達。元帥がいる、ワダツミは、なんとしてもジルベルタ星系を無傷で離脱しなければならない」
「イエッサー」
イゴールは刻みよくそう返答し、素早くコンソール叩いた。
そんなイゴールの傍らで、レーダーレンジを見やっていた黒人オペレーター、サム・マッコイが言う。
「右舷前方、惑星フェンリルの陰に、高エネルギー熱源感知。アステア級戦艦と思われます・・・な、なんだこいつ・・・速い。4700Sノットでワダツミに急速接近中。
こいつ・・・戦艦じゃない・・・艦長!タルタロス宙域にいた、あの大砲門を使う民間機です!」
驚いたようにそう言って、サムは、咄嗟に艦長席を振り返った。
「モニター回します」
その声と同時に、大型モニターに拡大して映し出されたのは、鮮やかなブルーの船体に『GARAXIAN BART.CO』という社名と、惑星連合AUOLPの承認エンブレムを掲げた大型輸送船であったのだ。
その機影は明らかに、ギャラクシアン・バート商会に所属する武装高速トランスポーター『バート』である。
バートは、既に主砲発射体制を取り、高速を保ちながらワダツミとの距離をみるみる縮めていく。
「トーマ、どうやらおまえは、本当にあの民間機の船員らしいな・・・?お迎えがきたようだ」
なにやら、実に愉快そうな口調でそう言って、ショウゴは、トーマの体を乱暴に床に放り投げると、端整で精悍な唇をにやりと歪めるのだった。
撃たれた腕を床に打ち付けたのか、あまりの激痛に端整な顔をゆがめながら、トーマは、鋭い視線でショウゴを仰ぎ見る。
「最初からそう言ってるだろう!ガーディアンエンジェルに入れて貰えるほど、俺は頭良くないからな!ったく、痛てーよ・・・怪我人はもっと丁寧に扱えよ!」
床に倒れたまま、左手で右腕を抑えると、その指の隙間からは、どくどくと鮮血が流れ落ちてくる。
トーマの右腕は、既に、おびただしい出血で赤く染まった状態だが、それでも、出血が止まる気配はない。
繰り返し襲ってくる熱い痛みと大量出血に、トーマの精悍な頬が心なしか青ざめてくる。
そんなトーマの元へ、清楚な美貌を持つ看護士ララが、ひどく慌てた様子で駆け寄ってきた。
「大丈夫!?ひどい出血だわ・・・動かないで、今止血するから」
ララは、プラチナブロンド髪の下で、聡明な菫色の瞳を細めると、手元にあったガーゼでトーマの傷口を強く抑えながら、抗議するような視線でショウゴを振り返った。
ショウゴは、そんなララの眼差しに気付きながらも、それを全く無視して、冷静で冷淡な表情のままオペレーターセクションに向かって言うのである。
「全砲門を開け。主砲発射用意。射程圏内に入り次第、砲撃開始。対戦艦ミサイル発射用意。あの船に大砲門を撃たせるな」
「イエッサー!」
ブリッジオペレーター達が、一斉にそう返答する。
こうして、惑星トライトニアを抱くジルベルタ星系に、激しい戦闘の火蓋は切って落されたのだった。







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