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作品名:NEW WORLD〜交響曲第二楽章〜 作者:月野 智

第31回   【ACTW リトリビューション・ファンファーレ】2
             *
ジルベルタ星系、惑星トライトニア。
首都オーダムの西30キロにある、リンデンバーク艦隊基地の一角には、アーマード・バトラー部隊専用の発進ドックが設置されていた。
整備員達が忙しなく走りまわる中、黒地にゴールドのラインが入ったパイロットスーツを纏う長身の青年が、緩やかなウェーブのかかった長い紫金の髪を揺らしながら、ゴールドメタリックのアーマード・バトラー『L(ランサー)・オーディン』の前に立った。
人型機動兵器『L・オーディン』。
それは、トライトニアが誇る戦闘用セクサノイド、タイプΦヴァルキリーを操縦ユニットとする、最強の機動兵器である。
右腕には、高エネルギーレーザーブレード照射ユニットを備え、左腕には800mmビームキャノン、その両肩にはレーダー誘導ミサイル発射ユニットが二基と、そして、背中には、まるで翼のように広がる高エネルギーレーザー砲八基を装備した、重武装の機体である。
正に宇宙の武闘神とも言うべき人型機動兵器、それがアーマード・バトラー部隊の隊長機『L・オーディン』であった。
青年は、翡翠色をした双眸でL・オーディンを見上げると、精悍な中に秀麗な美貌を兼ねオリエンタルな顔を、にわかに厳しく歪めたのである。
その時、管制室から発進デッキに続くエスカレーターを降りた、アーマード・バトラー部隊の司令官ジャンニ・フェンレス准将が、ゆっくりとした歩調でその青年の傍らに歩み寄り、落着き払った声で聞くのだった。
「どうだ、07?タイプΧ(カイ)の身体と、システム回路の連動に何の問題もないか?」
長い紫金の髪を緩やかに揺らして、青年は、静かにフェンレスを振り返る。
フェンレスは、まったく容姿が変わってしまったタイプΦヴァルキリー07・・・・いや、量産型ヴァルキリータイプΧに、そのメモリーとAIを移植された07を、心なしか切な気な眼差しで見つめすえた。
宇宙の歌姫によって“ミハエル”と名付けられたヴァルキリーは、翡翠色の瞳を僅かに細め、滑らかな曲線を描く前髪の隙間からフェンレスを顧みると、冷静な口調で短く答える。
「今のところ、何も」
「そうか・・・・・・・おまえには、すまないとことをしたと思っている、07」
厳格な軍服を纏った屈強な肩を竦め、フェンレスは、大きくため息をつきながらそんな言葉を口にした。
ミハエルは、形の良い眉を怪訝そうに眉間に寄せて、そんなフェンレスの無骨な顔ををまじまじと見つめ据えてしまう。
フェンレスが、上官としてヴァルキリーを指揮するようになって3年。
この男の口から、“すまない”などと言う言葉を聞いたのはこれが初めてだった。
「フェンレス准将・・・・・・何故、謝る?」
ミハエルは、オーディンのコクピット上部から降りてきた搭乗ウィンチに手をかけながら、何とも腑に落ちない顔つきでそう聞き返す。
太い眉を苦々しく潜めながら、フェンレスは言った。
「俺はな・・・・・実を言うと、上層部のやり方が気に食わないんだ。デボン・リヴァイアサンの船なんぞ墜さなくていい、おまえは、ただ、あの歌姫を連れて帰ってくるだけでいい。もしかすると、それが一番、難しいかもしれないが・・・とにかく、俺は、今夜、これ以上おまえを戦闘に出したくはなかったんだ」
「・・・・・・・」
「俺は口下手だ、だから、おまえ達ヴァルキリーを労ったことなど一度もない。だがな、おまえがあれほどやられて帰ってきて、しみじみ考えたんだよ。おまえが、どんな思いで、デボン・リヴァイアサンと交戦していたのかを・・・な。
結果的に、おまえはアンジェリカの警護を松任できなかった、だが、おまえは間違いなく最善を尽くした。ぼろぼろになったおまえを、上層部は・・・いや、バークレイ閣下は、身体を付け替えて出撃させろと言った、それに俺は逆らえなかった・・・だから、すまないと思っているんだ」
 「・・・・・・」
ミハエルは押し黙ったまま、翡翠色の瞳で、ただ、じっとフェンレスの悔しそうな顔を見つめすえる。
何故、フェンレス准将は、自分に向かってこんなことを言のか・・・ミハエルは、その真意を量りかねていた。
だが、もしかすると。
この男は・・・フェンレス准将は、ミハエルを『人間と同じ』だと、そう認めたがっているのかもしれない。
先程の言葉は、ヴェルキリーをただの戦闘兵器と決め付ける軍上層部に、反感を抱いていると言う意味にも捉えられるからだ。
そんな考えが思考回路に浮かんだ時、搭乗ウィンチに手を掛けたままのミハエルが、端整で精悍なその唇を、ふと、愉快そうにもたげたのである。
その微かな笑みを目の当たりにして、フェンレスは、屈強な肩を驚いたように揺らしてしまった。
07がまともに笑った顔など、これまで、一度も見たことがない。
しかし今、冷酷で理性的な情緒プリグラムを有する07が、何故か微笑(わら)っているのである。
無骨な顔を驚きの表情に満たしながら、盛んに瞬きを繰り返したフェンレスは、07・・・ミハエルに向かって思わず聞くのだった。
「07、おまえ・・・今、笑ったか?」
フェンレスの視界の中で、ミハエルを乗せた搭乗ウィンチがゆっくりと上昇していく。
緩いウェーブのかかった長い紫金の髪が、艶やかで緩やかな曲線を描きながら、虚空で静かにたゆたった。
遠くなっていくフェンレスの姿を見下ろしながら、冷静な口調でミハエルは言うのである。
「07じゃない・・・俺の名前は、ミハエルだ」
「・・・・・・・」
フェンレスは、一瞬、きょとんと目を丸くしたが、次の瞬間、無骨な顔を綻ばせて、いつになく柔和に微笑するのだった。
「そうか・・・では、次から、おまえをそう呼ぶことにする。だから、無事に帰ってこい。これは命令じゃない」
その言葉に、ミハエルは何をも返答せず、ただ、もう一度、軽く唇の角をもたげると、機敏な物腰でL・オーディンのコクピットに飛び乗ったのである。
座席に腰を下ろしたミハエルの全身に、無数の赤外線コードが照射されると、L・オーディンの高性能推進が起動し始め、甲高い轟音を上げて回転数を上げていった。
ゆっくりとキャノピ(風防)が閉じ、コクピット内が360度全面視界モニターとなった時、ミハエルのメインプログラムが戦闘用プログラムへと移行する。
翡翠色の瞳から全ての情緒が失われ、L・オーディンの動作システムと連動して鋭利に発光すると、精悍にして秀麗な顔は、無機質な戦闘兵器の表情に変わり果てた。
発進デッキには、管制オペレーターのアナウンスが響き渡る。
『出撃シークエンス発令。エナジーバルブ接続解除。火器制御システム、及び、全動力システムはオールグリーン。機動制御連動率100%。L(ランサー)・オーディン発進まで、残り10秒』
ドックの天井に設置された装甲ゲートが開き始め、L・オーディンを乗せた発進カタパルトが上昇していく。
メインバーニアに青い炎を蓄えた眩いゴールドメタリックの機体が、黄色くくすんだ大きな月を背景に、夜空の只中で閃光の如く輝いた。
『・・・・・5.4.3.2.イグナイテッド』
凄まじい轟音と爆風を上げて、金色の武闘神が宵闇の空へと飛び立っていく。
一瞬にして超音速となったL・オーディンは、黄金(こがね)の帯を引きながら無限の宇宙に向けてトライトニアの大気を貫いていった。
フェンレスは、遠くなっていくその勇姿を、ただ、黙って見送ったのである。



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