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作品名:NEW WORLD〜交響曲第二楽章〜 作者:月野 智

第29回   【ACTV  Unexpected Accident】7
            *
トライトニア艦隊総司令本部のコントロールルームで、惑星トライトニアの若き大統領ジェレミー・バークレイは憤慨した。
コンソールパネルを拳で叩き、険しい顔つきをしながらぎりりと奥歯を噛締めると、搾り出すような声で呟いたのである。
「デボン・リヴァイアサンめ、よくも私の面子を潰してくれたな・・・・っ!!」
これは、正に不測の事態だった。
完全なセキュリィティ体制を取っていたはずの政治犯専用刑務所オディプスが、内部から崩壊し死刑執行間際のマルティン・デボンを奪われたばかりか、国家を挙げて護衛していたはずのアンジェリカまでをも拉致し、それを盾にして先程の強制通信だ。
これは、国家創設以来のとんでもない不祥事に他ならない。
トライトニアのレーダー通信ネットワークがダウンしたのも、恐らく、彼らデボン・リヴァイアサンの仕業なのだろう。
五年もの間、マルティン・デボンが不在であったのにも関わらず、まさか、連中が此処までの手腕を身につけていたとは、策略家で野心家でもあるバークレイも予測すらしていなかった。
正に不測の事態である。
たかが小うるさいテロリストと侮っていたが、もはや、そういうレベルを完全に逸脱していた。
そんなバークレイの怒りに歪んだ顔を、トライトニア艦隊総司令本部准将、ジャンニ・フェンレスが、コントロールルームをひっきりなしに走りまわるオペレーター達を背景にしながらゆっくりと振り返ったのである。
厳格な軍服に無骨な肢体を包んだフェンレスは、バークレイとは対照的な、実に落着き払った口調で言うのだった。
「それで、閣下・・・艦隊の発進準備は、既に整っていますが、いかがするおつもりですか?」
「今すぐに発進させろ!あの船を逃すな!バトラー部隊に出撃命令を出せ!ヴァルキリーに『アンジェリカ』を奪還させるんだ!」
興奮気味にそう言ったバークレイに、フェンレスは、尚も落着き払った口調と表情で答える。
「お言葉ですが閣下、今、バトラーに搭乗できるヴァルキリーは一体もありません」
「なんだと?それはどういうことだっ?」
怒りとも驚愕ともつかない表情で目を剥いたバークレイが、フェンレスの無骨な顔を睨みつける。
フェンレスは、後ろで手を組みながら、改まった顔つきで静かに口を開いた。
「“ウィルス”にやられて、現在システム修復中と報告を受けました。恐らく、そのウィルスも、デボン・リヴァイアサンの仕業でしょう」
「07はどうしたっ?あの個体は、他のヴァルキリーとはシステム形状が違っていたはずだ、ウィルスには一番強いと聞いたぞ?」
「確かに07は、ウィルス感染はしていません。しかし、現在は、使用不可能です」
「何故だ!?」
「先程オーダムの市街地で発見された時、07は、ビームライフルで全身を撃ち抜かれていました。デボン・リヴァイアサンと交戦したのでしょう。その上、かなりの高所から落下した模様で、身体の70%が破壊されています。AIは生きていますが、体の損傷が激しいため、修復には大分時間がかかるそうです。デボン・リヴァイアサンは、我々の持ちうる最強兵器のまで使用不能にしたという訳です」
「なんだと・・・・っ?あの07が、70%も、破壊されただと・・・っ!?」
うめくようにそう呟いたバークレイが、殊更険しく顔を歪め、再びコンソールパネルを拳で叩いたのだった。
コントロールルームの巨大モニターに映し出されている、戦艦ワダツミを憎悪の眼差しで見据えながら、バークレイはぎりりと奥歯を噛締めると、細い眉を鋭利に眉間に寄せ、激昂した心を鎮めるかのように大きく息を吐いたのである。
そして、何かを思案するようにしばし押し黙ると、徐に口を開いた。
「タイプΦが駄目なら、タイプΧ(カイ)を出す・・・っ」
その言葉に、フェンレスの顔が僅かばかり怪訝そうに歪む。
「タイプΧ、ですか?しかし、量産型は、まだ試作段階で、システムプログラムが正常に機能せず調整中と聞きおよびましたが・・・」
「戦艦の一隻ぐらい、バトラー一機で十分相手ができる・・・システムプログラムが調整中なら、タイプXに07のAIを移植すればいいだけの話だ。タイプXは、07の身体設計をそのまま使って量産したものだ。例え体が変わろうと、連中は機械だ、なんとも思わない。バトラーを飛ばせればそれでいい。そのためのヴァルキリーだ」
「・・・・・・」
フェンレスは、一つ小さく息を吐くと、「イエッサー」と答え、すぐさま、部下を呼び寄せ、ラボセクションに連絡するよう指示するのだった。
苦々しい顔つきをしたまま、バークレイは、コントロールルームの大型モニターを睨みつけている。
そんな若き指導者を横目で見やると、フェンレスは、実に複雑な心境で、その視線をよく磨かれた床に落としたのだった。
ヴァルキリーは機械であり、精巧に人間を模した戦闘兵器である。
確かにその通りだ。
フェンレス自身もそう思っている。
だが、タイプΦヴァルキリーを操縦ユニットとするアーマード・バトラー部隊を、直接指揮するようになって3年。
フェンレスは、あることに気付いていたのだった。
それは、タイプΦヴァルキリーには、人間に似た豊かな感情があるということだ。
確かに、最初にバトラー部隊を引き継いだ時、先任の担当者からちらりと聞いてはいたが、それをしみじみ実感したのはつい最近のことである。
タイプΦヴァルキリーには、製作段階でプログラムされただろう、明白な個性がある。
そして彼らは、人間と直接関わりながら人間の感情を学習し、情緒プログラムを増幅させ、更に人間らしい感情を身につけていく。
07は、理性的で冷酷な情緒プログラムを有し、その身体も強化型で、正に殺戮兵器と言っても過言でないヴァルキリーだ。
だが。
時折、ひどく翳りのある表情をすることがある。
理不尽な命令が下れば、冷静な無表情を保ちながらも、拳だけが震えている時もあった。
それは、何も07に限らず、他のヴァルキリーたちも同じだった。
現在、トライトニアが所有するタイプΦヴァルキリーは9体。
最初は15体あったその個体も、戦闘中に撃墜されその数を減らしてしまっていた。
失われた6体の中には、一つ興味深い案件がある。
それが、アーマード・バトラー『アルヴィルダ』の操縦ユニット、女性体ヴァルキリー012の案件であった。
012は、機械であるにも関わらず、トライトニアを裏切り、ガーディアンエンジェルの船にいると、フェンレスは以前確かにそう聞いていた。
機械が人間を裏切る。
正に、ありえないことである。
しかし、機械だと思うから不自然に思えるだけで、そこに人間と同じ感情があるとするなら、ある意味自然なことでもある。
当時、軍部も秘書官だったバークレイも、憤慨はしたものの、タイプΦヴァルキリーが“機械”だと高を括り、012のシステム異常だと決め付けて、その案件をうやむやにしていた。
タイプΦヴァルキリーと関わり持った今だからこそ、フェンレスは考える。
012の裏切りは、ある意味では、大事態ともいえるほど、とんでもない案件だったのではないかと。
だが、それを今更、野心家で冷淡な若き大統領に言ったところで、何を思うでもないだろう。
それが、このジェレミー・バークレイという男の本質なのだから。
確かに、フェンレス自身も、ヴァルキリーたちに対して、人に対するような労いの言葉をかけてやったことは余りなかった。
元から無骨で口下手というのもあるが、それでも、アーマード・バトラー部隊を指揮して3年、上層部の強行な命令をさり気無くかわしながら、タイプΦヴァルキリー達を、部下としてなるべく丁寧に扱ってきたつもりだった。
だからこそ、彼らに対しては愛着というものもある。
この若き大統領は、そんなフェンレスの胸中を量るでもなく、07のAIを量産型のタイプXに移植しろと言った。
体が変わったところで、07は何を思うでもないだろうと・・・
確かに、そうかもしれない。
しかし・・・
フェンレスは、もう一度小さくため息をつく。
個性も感情も持たせず、戦闘用プログラムだけを用いて量産されたタイプXと、人間と同じ感情を有し、個性をもっているタイプΦ。
同じ人型兵器とはいえ、なんと対照的なことか。
すなまいな、07・・・俺は、俺なりに、おまえを守ってやりたかったんだがな・・・
そんなことを思うフェンレスの傍らで、ジェレミー・バークレイは、遂に、トライトニア艦隊に出撃命令を出したのだった。
「コーネル第一艦隊、全艦発進!いいか、大気圏を離脱したら距離を保ってあの船を追跡しろ!だが、バトラーが発進するまでは絶対に撃つな!トライトニアの面目は意地でも保て!」
そんなバークレイの声に、コントロールルームのオペレーター達が一斉に「イエッサー」と答える。
フェンレスは、バークレイに敬礼すると、コントロールルームのオート・ドアを潜り、ひどく厳しい顔つきをしながら、タイプΦヴァルキリーのラボに向かって歩き出したのだった。












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