そうなれば、トライトニアの威信は根底から覆り、それでなくても、軍備強化に異論を唱える政府関係者や庶民からは、矢のような非難を浴びることは否めないだろう。 それは、現在のバークレイ体制を足元から揺るがす大事態にもなり兼ねない。 デボン・リヴァイアサンは・・・いや、戦艦ワダツミの艦長ショウゴ・ニカイドウは、最初から、元帥マルティン・デボンを奪還した後、宇宙の歌姫アンジェリカを盾にして、身の安全が保障される宙域まで離脱するつもりであったのだ。 ショーイは、肘掛に頬杖をついたまま、モニターに映る、血の繋がらない妹の怯えた顔を見つめながら、鋭利な表情で低く呟くのだった。 「実にテロリストらしいテロリストのやり方だ・・・・たった16歳の少女を盾にするなんて」 「やる事が汚いわ!!」 綺麗な顔を憤慨に歪めたルツが、モニターを睨みながら苦々しくそう声を上げる。 そんなルツをちらりと横目で見やって、ショーイは言う。 「元から、自分達の信念を他人にまで押し付ける、性質(たち)の悪い連中だからね。こういう手段にも抵抗はないんだろう・・・抵抗がないと言うよりは、自ら進んでやっていると言った方が、適切かもしれない」 相変わらず嫌味で皮肉な言葉を吐いたショーイに、ふとフランクが振り返った。 フランクは、操縦桿を握ったまま、何とも解せない顔つきをしながら聞くのである。 「船長・・・っーか、あのワダツミの艦長、やたらとマキ少佐に顔が似てるって感じるの、俺の気のせいっすか・・・っ?」 「いや、気のせいじゃないよ。彼は、マキ少佐の実兄だそうだ」 「な、なんですと――――っ!?」 やけに冷静なショーイの返答に、バートのブリッジにいる船員達が、一様に驚愕して両眼を大きく見開いてしまう。 そんな中、通信モニター上では、ショウゴが、ガブリエラのこめかみ銃口を突きつけたまま、冷たい響きのする声で淡々と言葉を続けていたのだった。 『トライトニアが、国賓扱いで迎えた「アンジェリカ」を殺されたくなければ、一切の攻撃行動は取らない方が懸命だ。もし、トライトニア艦隊がこの艦を撃墜すれば、「アンジェリカ」も、我々と共に死ぬことになる。それを忘れるな』 そこで、強制回線は遮断された。 ショーイは、ブラックアウトしていくモニターを、冷ややかな視線で眺めながらも、どこか愉快そうに知的な唇の角をもたげ、ふんと鼻先で笑ったのである。 「マキ少佐に似たような顔で、あんな事を言われると、なんだか腹立たしくなるのは・・・・僕だけかな?」 ワダツミの中で、弟であるトーマが、似たような台詞を吐いていたことなど知らぬまま、ショーイは、頬杖を外してゆっくりと姿勢を正すと、鮮やかな赤毛の下で、その紺色の両眼を鋭く閃かせるのだった。 そんなショーイの視界の中で、操縦席の二人が思い切り挙手をする。 「自分もなんかムカツキます!」とタイキ。 「俺もムカツキま〜す!大体、マキ少佐ばりの顔ってだけで気に入らないで〜す」とフランク。 「私も!」と何故かルツも挙手。 船員達のその反応に、ショーイは、もう一度、鼻先で愉快そうに笑うと、徐に口を開くのだった。 「じゃあ、バートは、そ知らぬ振りで追撃に行こうか?あの船には、トーマもいることだし。このまま逃がす訳にはいかないからね」 「イエッサー!!」 ブリッジの全員が、ショーイの言葉にそう返答する。 レベル3の化学薬品を積載したまま、バートの鮮やかなブルーの船体が急激に夜空を上昇していく。 メインバーニアが爆音と共に青い炎を噴き上げて、ギャラクシアン・バート商会の武装高速トランスポーター「バート」もまた、宇宙の大海原へとその進路を取ったのである。
|
|