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作品名:NEW WORLD〜交響曲第二楽章〜 作者:月野 智

第25回   【ACTV  Unexpected Accident】3
ショウゴの端整な顔が、一瞬、鋭い苦痛で歪んだ。
「この・・・っ、機械が・・・っ」
片手に持ったビームライフルの銃口を、ミハエルの腹部に押し当て、ショウゴは、その引き金に指をかける
刹那。
ビーム銃特有の甲高い発射音が吹き込む暴風に舞い上がり、驚愕に両眼を見開いたミハエルの体を、高エネルギーのビームが三度貫いていったのである。
ショウゴの腕を掴んでいたミハエルの手が、僅かに緩んだ。
ショウゴは、黒曜石の瞳を爛と煌かせると、アーミーブーツの底で、思い切りミハエルのみぞおちを蹴り飛ばした。
暴風の中に黒いロングコートの裾が棚引き、金色の髪を乱舞させたその長身が、開いたドアから、地上800メートルの空に投げ出されていく。
 無重力状態で落下していくその体。
 ミハエルは、決死の力で両腕を伸ばし、虚空を掴みながら喉も張裂けんばかりに叫んだのだった。
「ガブリエラ―――――――――――っ!!」
その声は、リリアンに押さえつけられたガブリエラの耳にも確実に届いていた。
ガブリエラは、激しく身体を捩ると、フェルトのような月を抱く夜空へ消えていくミハエルに向かって、大きく片腕を伸ばしたのである。
宝石のような涙を散らせながら、悲鳴に近い声で彼女は叫ぶ。
「ミハエル!ミハエル―――――――――っ!!」
だが、もはやその声はミハエルには届かなかった。
ミハエルの体は、宵闇に吸い込まれるように、オーダムに立ち並ぶ高層ビルの谷間へと落下していった。
激しい嗚咽に華奢な肩を震わせ、ガブリエラは、崩れるように床の上に座り込む。
胸が痛い。
刺されるように胸が痛い。
あの状態では、例え強化型であるミハエルでも、無事でいられるか判らない。
激しい自責と深い哀しみに、純粋な心を抉られながら、ガブリエラは、秀麗な顔を悲痛に歪めて、ひたすら大粒の涙を零すしか手立てがなかった。
そんなガブリエラをちらりと顧みながら、ショウゴは、ビームライフルを床に放り投げると、鋭い痛みが残る右手首を左手で抑えたのである。
灰色の戦闘服を纏う広い肩で、一度大きく深呼吸した時、彼らを乗せたトレーラーは、完全にワダツミのドックへと収容されたのだった。
ワダツミの装甲ゲートが緩やかに閉じていく。
その瞬間、本来あるべき場所に戻って来たことを、否応なしに実感する。
項垂れるガブリエラの後方では、やはり大きく深呼吸したリリアンが、華奢な肩をすくめながらショウゴに振り返ると、どこか困ったように、しかし、どこか愉快そうに微笑して、その綺麗な唇を開くのだった。
「ありえないよ、ショウゴ・・・ヴァルキリーと生身でやりあって勝つなんて。もしかして、ショウゴも人間じゃないんじゃない?」
そんなことを言いながらも、リリアンはどこか誇らしそうだ。
だがショウゴは、相変わらず冷静で沈着な顔つきをしたまま、落ち着き払った声色で答えて言う。
「そうかもな」
正に、その次の瞬間であった。
「ほんと、あんた人間じゃねーわ・・・ありえないでしょ?っつーか、オーダムのど真ん中で、戦艦なんて飛ばすか普通?どんだけ神経太いんだよ」
X型に切り裂かれた隔壁の向こう側から、全く聞き覚えのない青年の声が、皮肉たっぷりの口調でそんなことを語りかけてくる。
その声に、ガブリエラは、ハッと肩を揺らして、項垂れていた顔を上げたのだった。
リリアンは、驚いたように隔壁へと振り返り。
通信機の傍らにいたランバー軍曹が、ホルスターから銃を抜き払う。
長く黒い前髪から覗くショウゴの瞳が、揺るがぬ冷静さを保ったまま、静かにカーゴの後部を見やった。
すると、X型に切り裂かれた隔壁の合間から、青いつなぎを着た長身の青年が一人、マシンガンを構えた姿勢でゆっくりと姿を現してきたのである。
焦茶色の髪と、その下から覗く知的な紺色の瞳。
精悍で端整な顔立ちをしたその青年の姿に、ガブリエラは、思わず言葉を失った。
いつのまにかトレーラーに乗り込んでいたその青年は、他でもない、ギャラクシアン・バート商会の経営者にして、トランスポーター「バート」の操縦士、そして、ガブリエラの義兄である、トーマ・ワーズロックだったのである。
「なにこいつ!?」
ショウゴの傍らで、リリアンもまた腰のホルスターから銃を抜き払うと、鋭利に微笑するトーマを睨みつけた。
しかし、ショウゴは、予想外の侵入者にさして驚く訳でもなく、軽く片手を上げてリリアンとランバー軍曹を制すると、胸のポケットから煙草を取り出して、コンソールパネルの上に腰を下ろしたのだった。
口に煙草くわえて火を点けながら、なにやら愉快そうに笑ってショウゴは言う。
「相当の馬鹿か、ドラックでもやってイカれてるのか・・・おまえは、そのどっちだ?」
「相当の馬鹿でしょ?っつーか、あんたがえらく知り合いに似てるから、ついつい観察してて、出るタイミング逃してさ・・・気がついたら船の中じゃん?
まじ、俺もガブリエラも帰れないんですけど、どう責任とってくれます?」
 テロリストの船に乗ったというのに、余裕綽綽の口調と表情でそう答えたトーマに、ショウゴは、煙草の煙を吐き出しながらさも愉快そうに喉の奥で笑った。
「本当に、相当の馬鹿だな・・・おまえ」
 ショウゴには、この青年に見覚えがあった。
 それは、スタジアムで、あの活きの良い少年を助け、そのまま、恐れも知らずこのトレーラーを追走してきた青年に違いない。
 歌姫の護衛か何かなのだろう。
 この青年は、出るタイミングを逃した訳では決してない、恐らく、ヴァルキリーとショウゴの攻防を、監視カメラの死角に潜んでずっと伺っていたのだろう。
 もし共倒れしたら、この歌姫を連れて逃げる気でいたのかもしれない。
 どれほど豪胆でしたたかなのかと、ショウゴは殊更愉快に思う。
「おまえみたいな馬鹿な奴は、嫌いじゃない・・・・・・おまえ、この歌姫の護衛か?」
「護衛?何言ってんだよ、俺は、その可愛い歌姫の『お兄さん』だよ。妹がみすみす連れて行かれるのを、黙って見てる『お兄さん』がどこにいるんだよ?
まぁ、あんた等をお迎えに来たのが戦艦っていうのは、かなり予想外だったけどな」
トーマは、マシンガンを構えたまま、精悍な唇だけでニヤリと笑って、前髪から覗く紺色の瞳を鋭利に細めた。
ショウゴは、凛と強い眼差しでそんなトーマを見つめすえると、鼻先で笑いながら口を開くのだった。
「お兄さん・・・ね。じゃあ、その馬鹿な兄貴の名前を聞いておこうか?」
「トーマ・ワーズロック。で、俺の知り合いにそっくりなあんたの名前は?」
「ショウゴ・ニカイドウ。この船の艦長だ」
「うっは、艦長自らうちの可愛い妹を浚いにきた訳だ?すげーなおい・・・もしかしてさ、この船」
マシンガンのセフティーロックを外しながら、トーマは、再びニヤリと笑って見せると、やけに冷静な声色で言葉を続けたのである。
「タルタロス宙域で、うち等の船と交戦しなかった?確か・・・名前は、ワダツミ」
「・・・・・・・・」
黒曜石の瞳を鋭利に閃かせ、ふうっと煙草の煙を吐き出すと、ショウゴは、軽く口角をもたげた。
「そうか・・・・おまえ、あの妙な大砲門を使う民間機の乗組員か?なるほど・・・どうりで、馬鹿なはずだ」
「ギャラクシアン・バート商会の船を甘く見て貰っちゃ困るな。どんだけあんらみたいな連中、相手にしてきたと思ってるんだよ?」
トーマの返答に、ショウゴは、鼻先でせせら笑った。
「おまえ、本当に大した馬鹿だな?敵の船の中でそんな軽口を叩くのか・・・見上げた根性だ」
「あのさ〜・・・リョーと似たような顔して、そういう笑い方すんのやめてくんない?なんか、やたらとムカつくわ」
相変わらずの口調でそう言ったトーマの視線が、開きっぱなしのドアから、ちらりとドックの様子を見やる。
すると、そこには、数名の戦闘員達が、ライフルの照準をトーマに合わせた姿勢で立っていたのだった。
トーマがマシンガンの引き金引けば、間違いなく、この連中も撃ってくるだろう。
随分と手回しが良いことで・・・・そんな事を思って、トーマは、思わず舌打ちする。
そんなトーマの様子に気付いたのか、ショウゴは、再び口角をもたげると、痛めた左手の指で煙草を挟み、極めて冷淡で冷静な表情で聞くのだった。
「リョー・・・・リョータロウ、か・・・確か、スタジアムにいた活きの良い坊主も、そんなことを言ってたな。トーマ、おまえの言うリョーは・・・・真木 陵太郎のことか?」
 その名前がショウゴの口から出た瞬間、トーマは、僅かばかり驚いたように両眼を見開いたのである。
「あんた・・・何でリョーのフルネーム知ってんだよ?あいつ、デボン・リヴァイアサンに知り合いがいるなんて言ってなかったぞっ?」
 「真木 陵太郎は、俺の弟の名前だ」
 そう答えたショウゴの手が、リリアンの手から素早く銃を奪った。
「!?」
トーマは咄嗟にバックステップを踏んでその身を後方に翻すが、ショウゴの方が早い。
一瞬で引き金が引かれ、甲高い破裂音と共に発射された一発の弾丸が、トーマの右太腿を豪速で撃ち抜いたのである。
赤い鮮血が虚空に弾け飛び、痛烈な痛みに端整な顔をしかめたトーマが、揺れる前髪の隙間でショウゴの冷淡な顔を睨みつけた。
「お兄さ――――――ん!!」
床の上に座り込んだまま、ぽろぽろと涙を零していたガブリエラが、決死の覚悟でその場を駆け出すと、倒れかけたトーマの体にすがりつく。
トーマは、片足で身体を支えながら、右手でマシンガンを構え、空いている左手で、ガブリエラの細い背中を抱き寄せると、形の良い眉を苦々しく眉間に寄せるのだった。
撃たれた右の太腿からは、生暖かい鮮血が止めどなく滴り落ち、青いつなぎをみるみる赤く染めていく。
激痛に端整な顔を歪めながら、トーマは、いつになく低く鋭利な口調でショウゴに問うのである。
「おい、これ、致命傷にはならないぜ?わざと外したんだろ?っーか、早撃ちなのもリョーと一緒かよ・・・まったく、よく似た兄弟だぜ」
ショウゴは、銃口をトーマに向けたまま、さも愉快そうに答えて言う。
「馬鹿は嫌いじゃないと、そう言ったはずだ。だが、おまえは少し活きが良すぎる。少しぐらい痛い目に合わせないと、何を仕出かすか判らないからな・・・それに、おまえだって、撃たれるのを覚悟で、のこのこ出てきたんだろう?馬鹿の考えそうなことだ」
「馬鹿が考えることが判るってことは、あんたも同類ってことかな?ニカイドウ艦長?」
 まるで、ショーイのような嫌味な口調でそんな事を言うと、トーマは、精悍な唇だけで鋭利に微笑った。
 「そうかもな」
そう答えたショウゴが、さも平然とした顔つきをしながら、再び銃の引き金を引いた。
甲高い発砲音が響き渡ると、トーマは、驚愕して両眼を大きく見開く。
「お兄さんっ!!」
ガブリエラの悲痛な叫びと共に、正確な軌跡を描いた豪速の弾丸が、トーマの右上腕を撃ち抜いてカーゴの側壁にめり込んだ。
「くっ・・・!」
冷たい金属音を上げ、構えていたマシンガンが床の上に落ちると、その銃身にぼたぼたと深紅の鮮血が滴った。
全身を薙ぐよう熱い激痛に、流石のトーマも床に両膝を付き、小さくうめいて眉間を寄せる。
「お兄さん!大丈夫!?お兄さん!?」
ガブリエラは、大粒の涙を零したまま、華奢な肩を嗚咽に震わせて、取り乱したようにトーマの首にしがみついた。
ガブリエラの背中をそっと撫でながら、トーマは、心なしか青ざめた唇で小さく笑ってみせる。
「大丈夫だよ・・・これぐらい。そんなに泣かなくていいぞ。一人で捕まるより、二人で捕まった方が寂しくないだろ?そのうちなんとかなるって」
「安心しろ、止血ぐらいはしてやる」
ショウゴは冷ややかな口調でそう言うと、煙の上がる煙草を口に持っていきながら、リリアンの手に銃を戻したのだった。
「自分で撃っておきながら、手当てしてはくれる訳だ・・・ご親切にどうも」
実に嫌味な言葉を吐き捨てると、トーマは、形の良い眉を潜めながら、盟友であるリョータロウに良く似たショウゴの横顔を、睨むように仰ぎ見る。
さして怯えた様子もないトーマを、ちらりと横目で見やったリリアンが、銃をホルスターに戻しながら、どうにも解せない顔つきをして、ショウゴに問い掛けるのだった。
「珍しい・・・ショウゴが侵入者を生かしておくなんて」
「こいつのような大馬鹿には、そう滅多にお目にかかれない・・・・・人質が一人増えたと思えばいい。リリアン、この連中に手錠をかけおけ。軍曹、ララを呼んで、トーマの傷の手当てをしてやれ。手当てが済んだら、この二人をブリッジへ。
死んだ連中は、一分間の黙祷後、遺体コンテナへ運んでおけ。宙葬にする。俺は先にブリッジに戻る、後を頼む」
ショウゴは冷静な口調でそう指示を出し、ゆっくりとカーゴのドアに向かって歩き出したのだった。
「イエッサー」
「イエッサー」
リリアン、ランバー軍曹の順で、刻みに良く返答。
その声を背中で聞きながら、ショウゴは、軽い身のこなしでドックへと飛び降りたのだった。
ちゃんと仲間の死を悼んでやる訳だ・・・
トーマは、そんなショウゴの後姿を横目で見送ると、近づいてくるリリアンに気付かれないよう、ガブリエラの背後でつなぎのポケットに左手を入れる。
通信機をまさぐって長距離発信機のスイッチをオンにすると、一度大きくため息をつく。
まったく、まさか、直接船でトレーラーを回収するとはな・・・本当、恐れ入ったよ・・・
そんなことを心中でぼやくと、トーマは、未だ怯えて体を震わせるガブリエラの髪を、大きな掌でそっと撫でながら、おどけた口調で言うのだった。
「大丈夫だよ。お兄さんがついてるぞ。なんとかなるって、だから、もう泣くなよ・・・な?」
「うん」
ガブリエラは小さく頷くと、殊更強くトーマに抱き付いたのである。
デボン・リヴァイアサンの戦艦ワダツミは、船首を上げて大気圏離脱体制を取っていく。
元帥マルティン・デボンと、歌姫アンジェリカを強奪されたトライトニアが、躍起になって艦隊発進体制を取るのは、これから僅か30分後の事だった。



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