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作品名:NEW WORLD〜交響曲第二楽章〜 作者:月野 智

第23回   【ACTV  Unexpected Accident】1
             *
惑星トライトニアの首都オーダム。
フェルトの月が浮かぶ宵闇の中、トライトニア行政府は大混乱に陥っていた。
政治犯専用刑務所オディプスで、アンドロイド警備兵が暴走し、服役囚や人間の警備兵を次々と殺傷したという連絡が入ってきたのだのは、つい先程のことだった。
突然、中枢通信サーバがダウンし、インターネット回線を含めたトライトニアの全通信網は不通となっていたのだが、それがやっと復旧し始めた時に入電したその驚くべき出来事に、行政府は再び騒然となったのである。
通信網の心臓と言うべきサーバがダウンしたという事態を、やっと乗り越えかけた行政府であったが、驚くべき出来事の関する入電は、何もそれだけには留まらなかった。
トライトニア大統領ジェレミー・バークレイが、国賓級の扱いで迎えた歌姫「アンジェリカ」のコンサート会場で、武装組織による襲撃事件が起きたのだという。
慌てて軍と警察の急襲部隊を出動させたはいいが、現場の状況が全く掴めないのだ。
何故なら、レーダー網もGPS監視システムも、現在、全くその機能を果たしてないからである。
それは言葉通りのサイバーテロだった。
コンピュータウィルス感染により、惑星トライトニアのレーダー通信ネットワークシステムは、バックアップシステムごと、いとも容易く破壊されてしまったのである。
それがたった一人の少女によって引き起こされた空前のサイバーテロであることを、この時、コントロールルームを走り回る行政府のオペレーター達は、全く知らずにいたのだった。 
そんな中、首都オーダムを見下ろす高層ビルの合間に、豪華な金色の髪と黒いロングコートを棚引かせた人影が一つ、広い幹線道路を猛進する白い大型トレーラーを追って夜気を貫いていた。
まるで、背中に羽根でもあるかのように、ビルの合間を飛び越えていくその青年は、決して人間ではない。
それは、惑星トライトニアが誇る戦闘用セクサノイド、タイプΦヴァルキリー、識別コード07。
宇宙の歌姫が“ミハエル”と名付けた、身体強化型ヴァルキリーであった。
ビル風に揺れる髪の下で、その綺麗な金色の瞳は完全に情緒を失い、ただ、敵と認識した物を破壊するためだけに爛々と煌いている。
黒いロングコートの裾が、虚空で大きく棚引いた。
ミハエルは、立ち並ぶビルの合間を走るトレーラーに向かって、躊躇うことも怯えることもなく、その体をダイブさせたのである。
瞬くネオンの最中、重力に逆らうことも無い肢体が、みるみる地上へと迫っていく。
両腕から伸び上がった青いクラッシャーブレードが、宵闇に鋭利な閃光を引いた。
まるで、狩をする大鷲のように、一直線に降下したミハエルの両足が、凄まじい轟音を上げて暴走するトレーラーのカーゴへ着地する。
だが、その衝撃に、ミハエルの身体が揺らぐことは無い。
ただ、冷酷な無表情でクラッシャーブレードを構え、静かに直立すると、黒いコートと豪華な金色の髪を棚引かせながら、鋭敏な生体センサーで“警護すべき者”生体反応を探るのだった。
突然、ビルの上からトレーラーのカーゴに降ってきたミハエルの姿に、距離を取りながらトレーラーを追走するトーマが、驚いたように紺色の瞳を見開いた。
「ヴァルキリー!?」
既に、ハルカはショーイの指定したポイントに向かっている。
今此処で、その光景を目の当たりにしているのはトーマだけだ。
トレーラーの後部ドアは相変わらず片方だけが開け放たれ、そこには、マシンガンを構えた戦闘員の姿がある。
連中もまた、カーゴ上の異変に気付き、その銃口を、素早く天井へと向けたのだった。
その次の瞬間だった。
金髪のタイプΦヴァルキリーは、俊足でカーゴの天井を蹴ると、ほんのツーステップで後部ドアの縁に手をかけてその身を虚空に投げ出したのだった。
乱射される弾丸の中、片手でドアの縁を掴んだまま、一瞬でクラッシャーブレードを翻し、戦闘員達の上半身を胴から真っ二つに両断してしまったのである。
吹き上がる血飛沫の合間で、黒いロングコートを棚引かせたミハエルが、冷酷な無表情のままカーゴの内部へと飛び込んでいく。
「ま、まじかよ!?」
後方からそれを見やっていたトーマが、思わず驚愕の声を上げた。
だが、ヴァルキリーが戦闘員を抹殺してくれたお陰で、トレーラーには近づきやすくなった。
トーマは、跳ね上がる焦茶色の髪の下で思わずニヤリと笑うと、バイクのアクセルをフルスロットルに開けたのである。


            *
「艦長!ヴァルキリーです!ヴァルキリーが侵入してきました!!」
モニターに映り込んだタイプΦヴァルキリーの姿に驚愕して、ランバー軍曹は、『デボン・リヴァイアサン』の幹部であり戦艦ワダツミの艦長でもある、ショウゴ・ニカイドウに振り返った。
このトレーラーのカーゴ部分は二層に分かれている。
今、ヴァルキリーが居る場所は、隔壁の外側だ。
戦闘員達がビームライフルで応戦しているが、もしヴァルキリーが装甲扉を破れば、こちらも無事では済まないだろう。
足元に寝かされている美しい少女をちらりと見やると、ショウゴは、冷静な顔つきのまま前で腕を組み、先程から真剣な表情でコンソールを叩いているリリアン・カーティスに言うのだった。
「ヴァルキリーのお目覚めが、予定より少し早かったようだな?リリアン?」
リリアンは、綺麗な眉を苦々しく眉間に寄せたまま、モニターに上ってくる膨大なシステムデータを睨んで返答する。
「他の連中はまだ寝てるのに・・・っ!あの金髪の奴だけシステムタイプが違う・・・プログラムを自己修復したんだ!きっと、この少女(おんな)の生体反応を追って来たんだと思う・・・機械人形のくせに生意気でムカツク!しかも、この新しいファイヤーウォール、すごく厄介だよショウゴ!!」
「・・・・・・・」
ショウゴは、胸のポケットから煙草を一本取り出すとそれに火を点けながら、何を思ったのかゆっくりと膝を落とし、意識を失ったままの歌姫の腕を強引に掴み上げたのである。
そして、白い羽根のドレスに包まれたしなやかな肢体を抱き起こすと、煙草をくぐらせながら、彼女の綺麗な頬を軽く掌で叩いたのだった。
身体を揺り動かされ、頬を叩かれた衝撃に、宇宙の歌姫が小さくうめいて、綺麗な眉を眉間に寄せる。
煙草の煙が立ち昇る中、宇宙の歌姫アンジェリカことガブリエラ・ワーズロックは、長い睫毛を震わせてゆっくりと蒼い瞳を開いていった。
朦朧とした意識と、澱んだ視界の中にぼんやりと浮かんでくる黒髪。
黒い髪・・・・?
ガブリエラの脳裏に、一番最初に思い浮んだ黒髪の人物は、身を呈して彼女を守ってくれた『宇宙(そら)飛ぶ天使』の少年だった。
「ハル・・・カ?」
桜色の綺麗な唇が、掠れた声でその名前を呟くが、次第に鮮明になっていく視界に映り込んできたのは、決してハルカの顔ではなかったのである。
「・・・っ!?」
真っ直ぐにこちらを見つめる、凛と強い黒曜石の瞳。
それは、惑星ドーヴァでハルカと共に在った勇敢な青年にとても良く似ていた。
しかし、冷淡でどこか冷酷な表情は、決してあの青年の表情ではない。
完全に意識を取り戻したガブリエラは、びくりと肩を震わせると、怯えた視線でショウゴの端整な顔を見つめすえたのだった。
「あなた、誰・・・・っ?ハルカはっ?ミハエルはっ!?ここは、何処?」
華奢な両腕で自らの身体を抱き締めながら、上ずった声でガブリエラはそう聞いた。
長い前髪の下でさも愉快そうに両眼を細めると、冷静で落着き払った口調でショウゴは答える。
「デボン・リヴァイアサンにようこそ・・・アンジェリカ。俺の名前は、ショウゴ・ニカイドウ。リヴァイアサンの幹部とでも、言っておうこうか?トライトニアに足を踏み入れたのが、運の尽きだったな」
「デボン・リヴァイアサン・・・・っ!?」
驚愕で蒼い瞳を見開いたガブリエラの秀麗な頬が、一瞬にして青ざめた。
デボン・リヴァイアサンと言えば、この宇宙にあって悪名高いテロリスト集団の名称だ。
何故、今、自分の身がそんな凶悪な組織の只中にあるのか、ガブリエラには全く見当もつかない、だが、今此処にいるということが、背筋が寒くなるほど恐ろしく、そして危険であるという事だけは確かなことであった。
言葉を失い、その繊細で清楚な顔を恐怖で引きつらせたカブリエラに、ショウゴは、煙草をくわえたまま冷淡に微笑するのだった。
小刻みに体を震わすガブリエラの華奢な肩を掴み上げ、無理矢理立ち上がらせると、指先に煙草を挟みながら、低めた声で彼は言う。
「大人しくしてろよ」
再び唇に煙草をくわえ、ショウゴは、腰のホルスターから銃を抜くと、それをガブリエラのこめかみに押し当てたのだった。
ガブリエラは、ますます顔を蒼白にして、恐怖のあまり全身を硬直させてしまう。
そんな彼女の様子を、冷たい視線で見やったショウゴの脳裏には、ある思惑が浮かんでいた。
スタジアムで遭遇した、あの活きの良い少年の言っていた事が真実であるのなら・・・「ヴァルキリーは人間と同じ」という言葉が真実であるのなら、警護すべき人間が人質となっている以上、ヴァルキリーは戦闘行動を取ることを躊躇うだろう。
これは、一か八かの賭けでもあるが、このままヴァルキリーのクラッシャーブレードに両断されるよりはマシだと・・・ショウゴは、黒曜石の瞳を鋭利に細め、通信機の前にいるランバー軍曹に振り返ったのである。
冷静で落着き払った口調で彼は言う。
「ワダツミの現在位置は?」
「まもなく、オーダム上空です」
「元帥の身柄は?」
「今、ワダツミに収容した模様です」
ランバー軍曹の答えに、ニヤリとほくそ笑むと、ショウゴは言葉を続けた。
「そのまま、この車両を回収させろ」
「イエッサー」
ランバー軍曹は、刻みよくそう返答した。
その次の瞬間。
眼前の装甲扉が、青い閃光と火花を迸らせ、突然、X型に溶解したのだった。
同時に、そこで待ち構えていた戦闘員達が、一斉にビームライフルの引き金を引く。
コンソールを叩いていたリリアンは、驚愕して背後を振り返り。
ショウゴは、にやりと精悍の唇の端を歪めた。
電子音にも似たビームライフルの発射音がカーゴの内部に響き渡り、虚空を切り裂く高エネルギーの帯が、そこ姿を現した最強のタイプΦヴァルキリーを貫かんと連射させる。
だが、涼麗な美貌を持つタイプΦヴァルキリーミハエルは、強靭な足の撥条で軽く跳躍すると、まんまとビームの帯を退いて、宙に身を躍らせたまま両腕のクラッシャーブレードX型に構えたのだった。
ひっきりなしに発射される閃光の合間に、高エネルギーレーザーブレードが舞うように翻り、その凄まじい斬撃は、寸分の間もおかず、ライフルを乱射する戦闘員四人の頚動脈を捉えたのである。
電子音ともつかぬ鋭利な音が空気を振動させ、青い閃光の刃が次々と首を両断すると、虚空に吹き飛んだ生首が、カーゴの天井に当ってぼたりと床に転がった。
ミハエルの戦闘行動はまだ止まない。
素早いワンステップを踏んで両腕をクロスさせ、次の刹那で迅速に繰り出されたX型の斬撃が、両舷の戦闘員の胴を真っ二つに断裂させたのだった。
振り返り様、そこでライフルを構えた戦闘員の肢体を、文字通りX型に分断してしまう。
カーゴの内部は一面の血の海と化し、強烈な血の香りと死臭がそこに充満していった。
もはや、その場にいた戦闘員達は、全員が無残な肉塊と成り果てている。
一瞬で殆どの部下を失い、鋭利に眉間を寄せたショウゴが、凛と強い眼差しでミハエルを睨みすえる。
金色の髪をゆらりと揺らめかせ、返り血を滴らせた黒いロングコートが、まるで死神のマントであるかのように翻った。
ガブリエラは、眼前で巻き起こったその凄まじい殺戮に、とてつもない衝撃と驚愕、そして底知れぬ恐怖を感じて、殊更激しく身を震わせたのである。
言葉を失い、大きく見開かれた蒼い瞳には、クラッシャーブレードを構えたミハエルの姿が映し出されていた。
ミハエルは、戦闘用プログラムを完全に起動させている。
この状態での彼は、情緒プログラムが遮断され、正に言葉通り、殺戮の戦闘兵器でしかありえない。
その涼麗な顔は冷酷な無表情で彩られ、情緒を失った金色の瞳だけが、不気味なほどに爛々と輝いていた。
「ミハエル・・・やめて、もうやめて・・・・」
まるで独り言のようにそう呟いたガブリエラの肢体が、よろけるように前傾する。
そんなガブリエラの体を片腕で支え、そのこめかみに銃口を押し当てたまま、冷静だが鋭い口調で、ショウゴは、ミハエルに向かって言うのだった。
「動くな・・・この人間の頭が吹き飛ぶぞ」
戦闘用プログラムに支配されたミハエルの瞳が、生体反応を識別しながら、ゆっくりと、ガブリエラとそしてショウゴを顧みた。
ミハエルのデータベースには、ショウゴの生体反応に関するデータは無い。
直立したまま、音もなくクラッシャーブレードを構え直すと、ミハエルは、まったく感情の無い無機質な声で言うのである。
「ターゲットは救助。敵は・・・殲滅させる」
ゆらりと金色の髪が虚空に棚引き、その爪先が今正に床を蹴ろうとした。
次の瞬間。
大きな蒼い瞳に一杯の涙を貯めたガブリエラが、激しく首を振りながら、喉も張裂けんばかり絶叫したのである。
「駄目―――――っ!!ミハエル!!もうやめて――――――っ!ミハエルは兵器じゃない!!兵器なんかじゃない!!だから、もうやめて!もう人を殺さないで――――――っ!!!ミハエル――――――っ!!」
可憐な少女の悲痛の叫びが、血と死臭が充満したカーゴの中に響き渡った。
ランバー軍曹は息を呑み。
リリアンは、戦慄で体を硬直させる。
そして、ショウゴは・・・その一瞬で、ミハエルの表情が変わったことを寸分も見逃さなかった。
ミハエルは、たゆたうように揺れる金色の髪の下で、その綺麗な人工眼球を大きく見開くと、クラッシャーブレードをX型に構えたまま、まるでフリーズでも起したかのように一切の動きを止めてしまったのである。
人間の名を与えてくれた美しい人間の少女が、ぽろぽろと大粒の涙を零している。
ミハエルの中で、涙は、哀しみの象徴。
ガブリエラの秀麗な頬を滑り落ちる哀しみの象徴が、ミハエルの戦闘プログラムを停止させてしまった、それがその瞬間であった。


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