T―1のメインバーニアが青い炎の帯を噴き上げて、広大な宇宙の海を貫いていく。 真新しいダークブラックが鈍く輝き、機首を上げたT―1が、流星の速度を保ったまま、逆さまに宙返りするような体制で滑らかな縦ループを描いていく。 その後方に、アレフ小隊の隊長機A−1が、凄まじい速さで食いついてきた。 逆さまになったキャノピ(風防)から、有視界でA−1を確認したリョータロウは、素早く操縦桿を倒して機体を右に急旋回させつつ、360度ロールで元の体制に戻り、そのままAー1の後方を取り返したのだった。 「エンゲージ(交戦宣告)」 『イエッサー』 キリアの返答と共に、照準レンジの中に、アレフ小隊A―1が捕捉される。 だが、そこは流石に小隊長機。 ロックオンを掛けられる前に、ほぼ直角の軌跡を描いて左舷に全速離脱すると、まんまとロックオン射程を抜け出し、急速降下でT―1の真下へと逃げ延びた。 そして、軽く機首を上げると同時に、A−1のビームガドリングが火を噴き、殺傷能力のない演習弾丸を連射したのだった。 T―1は右旋回して急加速、急降下。 無数の白い弾丸を回避し、銀色の軌跡を描いてA―1の真正面へと踊り出る。 照準レンジに再びAー1を捕捉すると、小刻みなデジタル音を上げながら左右に揺れるデジタル照準ゲージが赤く点滅し、敵機ロックオンを表示する。 ミサイルリレーズ・ロックが掛かるか掛からないかのぎりぎりの距離だ。 リョータロウは、その凛と強い黒曜石の瞳を鋭利に細め、躊躇うことなくミサイルの発射ボタンを押した。 機体後部に設置されたミサイル発射ユニットが、轟音と共に白煙を上げ、そこから豪速で発射された演習ミサイルが、暗黒の宇宙に青い帯をひきながら有視界のAー1に迫っていく。 Aー1は急速左旋回、ピッチアップで全速上昇してミサイルを回避すると、とたんに機首を下げ、最大出力でT―1の上方に接近してきたのだった。 T―1のコクピットに、敵機急接近を知らせるけたたましい警報アラームが鳴り響く。 流石だな・・・と、A―1のパイロット、カントルーブ少佐の操縦技術を賞賛しながらも、リョータロウは、ブーストコントローラーを更に踏み込んで、T―1を急加速させたのだった。 ブースト圧を示すデジタルゲージが、イエローゾーンを表示する。 此処からは、対アーマード・バトラー用の高出力域だ。 重力制御システムが働いているとはいえ、いつもよりも強いGがその身体にかかる。 リョータロウは、操縦桿を倒してT―1を急速反転させると、同じ軌道まで急降下してきたA−1を有視界で捉え、その黒曜石の眼光を鋭利に細めるのだった。 前方から急接近してくるA−1が、こちらにロックオンを掛けようとしていることを示す警告アラームが鳴り響く。 T―1、A―1共にステルスモードになっているため、レーダーは機能しない。 流星を追い抜くような速度で宇宙をかけるT―1の機影が、A−1の有視界でみるみる大きくなっていく。 「キリア、拡散ミサイル発射準備」 照準レンジにA−1を捉え、リョータロウは、落着き払った口調でナビゲートシステムキリアにそう指示した。 『イエッサー』と返答したキリアが、拡散ミサイルの砲門を開く。 両翼の下部に搭載された発射ユニットに弾頭が装填されると、キリアは、相変わらず無機質な声で『RDY・GUN(発射準備完了)』と告げるのだった。 RV−019は、惑星トライトニアが誇るアーマード・バトラーに対抗するために開発された機体である。 アーマード・バトラーは、人間がパイロットとして搭乗するのではなく、戦闘用セクサノイド、タイプΦヴァルキリーが操縦ユニットとなっているため、人体への安全性を考慮する必要はなく、それによって、凄まじい機動性と速度を誇っているのだ。 この拡散ミサイルは、そのアーマード・バトラーを迎撃するための弾頭であり、たった一基を発射すると、ブースターが虚空で切り離され、その弾頭から、強固な装甲をも破壊する強力な小型ミサイルが無数に発射される仕組みになっている。 これもまた、新たに開発された兵器の一つだ。 流星を越える速度でA―1へと迫るT―1の照準レンジが、デジタル音と共に赤く点滅し、ロックオンを表示する。 同時に、ロックオンをかけられたことを示す警報アラームが、けたたましくリョータロウの耳に響いてきた。 A―1もまた、T―1にロックオンをかけたのだ。 リョータロウの指先が、拡散ミサイル発射ボタンを押す、同じタイミングで、A−1のミサイル発射ユニットが轟音と白煙を上げた。 T―1の両翼下部から、青い帯を引いて発射され拡散ミサイルが、А―1の発射した6基のミサイルと擦れ違う寸前、そのブースターを切り離す。 その弾頭が割れ、その中から、無数の小型ミサイルが、その名の通り、広範囲に渡って拡散し、暗黒の宇宙空間に縦横無尽の青い閃光を描いていく。 А―1、T―1、ほぼ同じ瞬間で左急旋回。 T―1は、流星を越える速度でミサイルの照準圏内を全速離脱。 A−1もまた、メインバーニアを噴き上げて流星の速度でミサイル射程圏内から離脱を試みた。 だが既に、拡散ミサイルの広範囲照準に捉えられているА―1は、次の瞬間、無数の小型ミサイルに機体を囲まれようにして、爆音と共に幾度も被弾すると、そのまま、青い煙を纏いながら緩やかに速度を落していったのだった。 T―1のモニターに、『A−1,KILL(A―1、撃墜)』のロゴが浮かび上がる。 『アレフ・リーダーからツァーデ・リーダー。くっそ、やられた!何だこの妙なミサイルは?』 通信ウィンドウが開き、その中に映し出されたА―1のパイロット、カントルーブ少佐が、ヘルメットシールドの下で渋い顔つきをしながら、そんなことを聞いてくる。 リョータロウは、T―1の速度を落しながら、軽く唇の端をもたげたのだった。 「ツァーデ・リーダーからアレフ・リーダー。アーマード・バトラー用の拡散ミサイルだ。小型ミサイルに追い立てられた挙句、撃墜された気分はどうだ?」 『最高だ・・・っ!』 カントルーブ少佐は、軽く肩をすくめながらも、唇だけで笑ってそう答える。 レーダーに映し出されたツァーデ小隊各機も、次々と他小隊のレイバンを撃墜しているようだった。 流石に、機体の性能差というものもあるのだろう。 T―1に並走してきたА―1のコクピットで、カントルーブ少佐が軽く片手を上げている。 リョータロウもまた、そんな彼に軽く片手を上げみせると、その視界の中でА―1は、緩やかにその宙域を離脱していった。 その時、まるで、А―1と入れ替わるかのように、レーダーレンジの端から急速にこちらに接近してくるレイバンの機影があった。 ツァーデ小隊以外の機は、全機、識別コードを切り替えて、ステルスモードで訓練に臨んでいる、したがって、いくら味方の機であっても、ツァーデ小隊のレイバンにはその機影は映らないはずなのだ。 レーダーに映るということは、今、左舷から急速接近してくるこの機体は、ツァーデ小隊機ということになる。 その識別コードを確認して、リョータロウは、なにやら、とてつもなく嫌な予感を感じた。 レーダーに映り込むその機影は、ツァーデ小隊T―2、フレデリカ・ルーベントの搭乗する機体だったのである。 『T―2よりT―1。RV−018が相手じゃ、訓練になんてならない。RV―019には、RV―019・・・相手になりなさい、この間の決着は、此処でつける』 フレデリカからの通信を耳にした瞬間、リョータロウは、半ばげんなりした様子で深くため息をつくのだった。
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