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作品名:NEW WORLD〜交響曲第二楽章〜 作者:月野 智

第17回   【ACTU 襲撃のラグタイム】8
             *
首都オーダムの郊外にある、政治犯専用刑務所オディプス。
その強固な建物の内部は、混乱と混迷と爆音で満たされていた。
刑務所中のアンドロイド警備兵が反乱を起し、銃火機を手に次々と人間を襲い始めたのである。
轟く銃声と爆音にオディプスの管理塔は騒然となった。
「どうした!?一体何が起こった!?」
オディプスの所長ハミルトンは、慌てふためいた様子で管理司令室に駆け込んでくると、刑務所中の様子が映し出される監視モニターを、目を皿のようにして見つめたのである。
すると、その信じがたい光景に愕然となった。
マシンガンを手にしたアンドロイド警備兵の一団が、収監されている囚人たちを撃ち殺し、止めに入った人間の警備兵たちを何のためらいもなく蜂の巣にしていたのである。
弾除けの盾を持った人間たちがそれに応戦するが、アンドロイドは痛みを感じないため、例え体を撃ち抜かれても、AIが破壊されるまでひたすらマシンガンを撃ちつづけることができるのだ。
「なんてことだ・・・・っ!一体、これはどういうことなんだ!!」
ハミルトンは、驚愕で両眼を見開くと、恰幅の良い頬を震わせながら両手でコンソールを叩いた。
必死でコンソールを叩きながら、アンドロイド達を正常に戻そうとしていた部下が、そんなハミルトンを振り返り、渋い顔つきでこう言ったのである。
「駄目です所長!連中、いくら管理コードを入力しても拒否します!」
「どういうことだ!?」
驚愕の声を上げたハミルトンに、今度は、別の部下が叫ぶように声をかけてくる。
「所長!“ウィルス”です!!コンピュータ“ウィルス”が・・・アンドロイドのAIに侵入してます!!」
「そんな馬鹿な!?セキュリティレベル最高値で管理しているのに、何故“ウィルス”が侵入するんだ!?早く駆除しろ!!大至急だ!!」
そう叫んだハミルトンの眼前で、突然、刑務所内を映し出す監視モニターがブラックアウトした。
ハミルトンも管理室に在籍するオペレーター達も、一瞬ギョッと目を剥いた。
管理室のエマージェンシーランプが点滅し、システムエラー“UN−6”という文字が、システムチェック用の小型モニターに表示される。
それを見たオペレーターの一人が、顔面を蒼白にしてこう呟いたのである。
「か、管理システムが・・・ジャックされました・・・」
「なんだと!?」
ハミルトンの上ずった声が響き渡った瞬間、ブラックアウトしていた監視モニターに、白く小さな人型のCGが隊列を組んで現れてくる。
それは、まるでこちらを馬鹿にするかのように、線の体を震わせて奇妙なダンスを踊り始めたのだった。
「な、なんだこれは!?」
ハミルトンは、両眼を大きく見開いたままモニターを凝視してしまう。
すると、その人型が一斉に一つの固まりとなり、白い帯を引きながらモニター中を駆け抜けると、そこに、ある文字が表示されたのだった。
“LOVE&KISS From BAG Lily”
同時に、強固な外壁に囲まれたオディプスに凄まじい爆音と轟音が響き渡り、死刑囚ばかりを収容した最重要ブロックが紅蓮の爆炎を上げたのである。
そこには、反バークレイ体制の過激なテロリスト「デボン・リヴァイアサン」の元帥マルティン・デボンも収監されている。
今頃、死刑執行室で薬物投与による刑の執行が行われているはずだ。
しかし・・・
アンドロイド警備兵の暴走により、その重要死刑囚が外へと連れ出されようとしていたことを、この時まだ、ミルトンは気付かないでいたのだった。


           *
リーベンタール競技場近くの路上に止まった白い大型トレーラー。
そのカーゴの中で、コンソールパネルを叩いていたリリアン・カーティスが、底意地悪くを微笑しながら、背後で煙草をくぐらすショウゴ・ニカイドウに振り返った。
「ミッションコンプリート!」
やけに嬉々としてリリアンがそう言うと、通信機のヘッドフォンを耳にあてていたランバー軍曹が、落着き払った口調でショウゴにこう報告を入れたのである。
「元帥の身柄を確保と、ト―タスより連絡が入りました」
その瞬間、ショウゴの唇が、煙草をくわえたままでにやりと笑った。
壁際に立てかけてあるマシンガンを手に取り、弾倉を装填しながら、ショウゴもまた、落着き払った冷静な声で答えて言うのである。
「ワダツミに発進命令を出せ。トライトニア艦隊の横槍を食らう前に、“盾”を取りに行く。多勢に無勢だ。バークレイがわざわざ呼び寄せた“宇宙一の盾”を使わない手はない」
「イエッサー」
ランバー軍曹は刻みよくそう答え、すぐさま、ワダツミに向けて暗号通信を試みる。
ショウゴが指揮を取る戦艦『ワダツミ』は、リリアンの送信した“トラップコード”により、まんまとトライトニアのレーダー網を潜って、惑星トライトニアに着陸していた。
今、その『ワダツミ』は、首都オーダムより南に120キロ下ったシャドウ・バレーと呼ばれる深い渓谷の中に待機している。
一時的にだが、事実上のステルス艦と化しているワダツミが、首都オーダム近くに到着するまで、さして時間はかからないだろう。
カーゴの中に座り込んでいた数十名の戦闘員達が、徐に防弾マスクを装着すると、銃火器を手にして立ち上がる。
現在、トライトニア政府が管轄する、広大なレーダー通信ネットワークシステムは、リリアンの手腕で不通状態になっている。
それが復旧するまでの数時間で、全てのミッションを終わらせる。
ショウゴは長い前髪から覗く黒曜石の瞳で、先程から、一心にコンソールを叩いているリリアンをちらりと見やると、鼻先で笑いながら静かに言うのだった。
「タイプΦヴァルキリーだけは絶対に抑えておけ。あの機械人形が、何より一番厄介だ」
「判ってるよショウゴ!」
リリアンはそう答え、綺麗な唇だけで底意地悪く笑ったのである。
華々しい宇宙の歌姫の舞台が、にわかにその様相を一変するのは、もうまもなくだ。


              *
Fly me to the Moon
金の翼で抱き締めて 私を月まで連れていって

窓辺を飛び越えて 澄んだ大気を
その手に包んで あなたは微笑(わら)う

目を閉じるから 今のうちに 
体ごと運んで あの空まで
この手伸ばせば あなたは傍にいる
暖かな指先 髪を撫でる
あなたの笑顔は 甘いメロディ
私を浚う アルペジオ

Fly me to the Moon
金の翼で抱き締めて 遠い空まで連れていって
大きなその羽根で 星を散らして
遥かな蒼い惑星(ほし)まで・・・

柔らかな旋律 夜に響く
白い花弁 ふわり ふわり
あなたに届け 思い 乗せて
あなたの言葉は 甘い魔法(スペル)

Fly me to the Moon
その広い背中 天使の羽根
星の鎖を引き寄せて・・・
銀河を翔け抜け 連れていって
静かに眠る惑星(ほし)まで・・・
 

Fly me to the Moon
星の鎖は 二人を繋ぐ



ステージの上の歌姫は、白い羽根のモチーフに彩られたピアノの鍵盤を、そのしなやか指先で叩きながら漂うような美しい声で歌う。
『Angel』と名付けられた、メディアには未発表であるその優しい曲に、12万人の観客が酔いしれていた。
甘いアルペジオが、たゆたうように揺れながら広大な競技場を包み込んでいく。
澄んだ歌声が響き渡る中、バックステージに設置されたモニターで、ステージ上の美しい少女を見つめながら、黒いロングコートを纏う26〜7歳と思しき長身の青年が、ゆっくりと前で腕を組んだのだった。
豪華な金色の髪と金色の瞳。
冷静沈着で理性的な面持ち、そして、涼麗な美貌を持つその顔立ち。
それは、惑星トライトニアの誇るアーマード・バトラー部隊の隊長機、『L(ランサー)・オーディン』の操縦ユニット、タイプΦヴァルキリー07の姿であった。
07は、モニターに映るこの美しい歌姫には『ミハエル』と呼ばれている。
その名は、歌姫アンジェリカことガブリエラ・ワーズロックが、07に与えた人間としての名あった。
その傍らには、アメジスト色の髪と瞳を持つもう一人のヴァルキリー、09が立っている。
少年のようにしなやか肢体と、均整の取れた秀麗な顔立ち。
容姿上の年齢は、人間で言うところの19〜20歳と言ったところだろう。
彼は、アーマード・バトラー『ランスロット』の操縦ユニットである。
09もまた、ガブリエラによって『アーネスト』という名前を与えられていた。
彼女以外の誰も、この名前で彼らを呼ぶことはないが、それでも、彼らにとって、彼女の与えてくれた人間の名は、ある種の誇りであった。
モニター上のガブリエラを、綺麗な人工眼球で見つめすえていたアーネストが、癖のかかったアメジスト色の髪の下で、ふと、傍らのミハエルを振り返る。
大きめのニットセーターを纏った広い肩を僅かにすくめると、アーネストは、その端整な顔をどこか寂しそうに歪めながら、呟くようにこう言うのだった。
「ガビィは・・・この公演が終わったら、トライトニアを発つんだな」
それに対して、ミハエルは何も答えない。
ただじっと、その金色の人工眼球でモニターのガブリエラを見つめるだけだ。
それでも、アーネストは言葉を続ける。
「ガビィがいなくなったら・・・もう俺たちを、『名前』で呼んでくれる人間はいなくなる」
「当たり前だ。俺たちは、所詮兵器だからな」と、ミハエルは無機質な声と表情でそう答えた。
アーネストは、形の良い眉を眉間に寄せながら、殊更切な気にその瞳を伏せるのだった。
人間としての名前を与えられ、人間と同じ者として扱われることが、こんなにも嬉しいことだということを、アーネストは、今まで知らなかった。
それは、ミハエルも同様であるが、ミハエルの場合、その情緒プログラム上の性格が、極めて理性的で、どこか冷酷であるせいか、本当の気持ちを口にすることはほとんど皆無に近い。
ミハエルのプログラム上の性格を知っているアーネストは、それ以上何も言わずに、ゆっくりと瞳を開いて、モニターの中の美しい歌姫を凝視したのである。
きっと、07も、寂しいと思っているに違いない・・・
アーネストはそう考える。
その聴覚センサーに響き渡る、甘く心地よいガブリエラの歌声。
仮に、軍上層部に、彼女の傍にいさせて欲しいと頼んだところで、彼らがそれを許可するはずもない。
自分達は人間でもなければ、一般のアンドロイドやセクサノイドではなく、タイプΦヴァルキリーと呼ばれる、強靭な戦闘兵器なのだから。
それを今、アーネストは哀しいと感じる。
自分を人間として扱ってくれるガブリエラと離れたくないと、何故かそう思う。
アーネストのアメジスト色の瞳が、ちらりと、ミハエルの涼麗な顔を見た。
07も、同じ事を思っているはずだ・・・
何かを言おうと、アーネストが口を開きかけた時だった。
不意に、ガブリエラの歌声が途切れたのである。
「!?」
アーネストと、ミハエルはハッを広い肩を震わせた。
曲はまだ途中だ、何故こんな所で音が途切れるのか・・・そう思った瞬間だった、会場中の照明が一斉にダウンしたのである。
会場の観客が何事かとざわめき出す。
ステージ上のガブリエラも、驚いたように頭上の夜空を仰ぎ見た。
コンサートスタッフ達が、慌てて配線のチェックに走リ出す。
だが、妙な異変を察知したミハエルは、躊躇うことも無く、その俊足で駆け出したのである。
その後ろを、アーネストが追走する。
彼らの鋭敏なセンサーが、無数の火薬反応を関知している。
花火に使われる火薬の量を有に超えた量だ。
「07!」
「“敵”が侵入した」
アーネストの声に、ミハエルは低く鋭くそう返答した。


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