そんな彼女に、「よし」と答えて、トーマはその大きな掌で、ガブリエラの美しい金色の髪を撫でると、その綺麗な髪の一本を、さり気無く長い指先に絡めるのだった。 そして、先程から、ぽかんと口を半開きにしてこちらを眺めているハルカとフウに振り返ると、にんまりと笑って、あっけらかんとした口調でこう言ったのである。 「羨ましいだろ?」 その言葉に、ハルカは、澄んだ黒い瞳をひたすらきょとんと丸くし、フウは・・・怒ったような顔つきで両の拳を握ると思わずこう叫ぶのだった。 「羨ましいっすよ――――――っ!ずるいっすよトーマさん!!なんでアンジェリカと兄妹なんすか!?自分聞いてないっすよ!!なんで黙ってたんですかぁ―――っ!?」 「色々深い事情ってもんがあるんだよ」 トーマはそう答えると、さも愉快そうな顔つきで腰に両手をあてがい、得意げに笑ってみせたのである。 そのやり取りを、可笑しそうに聞いていたガブリエラが、金色の髪を揺らしながらフウの前に立つと、無数の羽根があしらわれた白いショートドレスを軽く翻しニッコリと笑う。 「今夜のステージ、お兄さんと一緒に見ていってくださいね。私、頑張って歌いますから」 宇宙の歌姫の秀麗な顔を彩る、そのとろけるような甘い微笑みに、怒り心頭していたフウの顔が、一瞬にして締まり無く緩んだ。 フウは、気が抜けたように笑う。 「見ます!見ます!絶対見ます!自分、アンジェリカさんの大ファンなんす!あとでサインください!!」 ガブリエラは、「はい」と嬉しそうに答えると、有頂天になったフウにもう一度ニッコリと笑って見せてから、徐にハルカを振り返ったのである。 ハルカは、相変わらずきょとんと目を丸くしたまま、そんなガブリエラの蒼い瞳をまじまじと見つめすえた。 ガブリエラの綺麗な桜色の唇が、静かに開く。 「ドーヴァでは、本当に助かったよ。有難う。とっても感謝してるよ。ガーディアンエンジェルの人には滅多に会えないはずなのに、また会えて、私すごく嬉しいよ!」 その言葉に、ハルカは思い切り照れて、少女のような繊細な頬を上気させたのだった。 彼女の秀麗な顔からついつい目をそらして、ハルカは答えて言うのである。 「え、えと・・・・・その、ぼ、僕も嬉しいよ。げ、元気そうで、よ、よかった」 それは、まったくもってカッコのつかない、しどろもどろの言葉だった。 これがリョータロウなら、ただ一言「そうか」と答え、軽く微笑(わら)って見せるところだろう。 だが、残念ながら今のハルカは、リョータロウのようなクールさを持ち合わせていない。 我ながらカッコ悪い・・・と、ハルカは、自分をひどく情けなく思う。 ハルカが、そんなことを思っていることに気付くはずもなく、ガブリエラは、うつむき加減で頬を赤らめるハルカに、殊更嬉しそうに甘く微笑むのだった。 艶やかな黒い前髪の下にあるハルカの大きな瞳を、ガブリエラの美しい蒼の瞳が真っ直ぐに見つめすえる。 ハルカの瞳の色は、広大な宇宙の色にも似た、澄み渡る深い黒だ。 ガブリエラにとって、その瞳の色は、とても神秘的で純粋な色だった。 『ハルカ』と言うその名前も、瞳の色と同じぐらい神秘的な響きを持っている。 ガブリエラは、桜色の綺麗な唇をとろけるような甘い微笑みで満たしたまま、突然こんな事を口したのである。 「私、ハルカの瞳(め)、とっても好きだよ・・・うさぎさんみたいに丸くて大きくて、すごく綺麗」 「う、うさぎ・・・さん??」 まったくもって脈掠のないその言葉に、ハルカは、困ったような、照れたような、そんな複雑な顔つきをして、ガブリエラの綺麗な微笑みをまじまじと顧みた。 「え、えと・・・そ、そうかな?あ、有難う・・・??」 「ハルカの周りには、頼りになる『お兄さん』が一杯いるんだね?マキ少佐に、私のお兄さん!」 「僕が頼りないからね。いつも助けてもらってばっかりだよ」 「そんなことないよ。この間のハルカ、すごくカッコよかったよ。また、何かあったら助けてね」 「う、うん・・・出来るかぎりね」 狼狽えたようにそう答えたハルカに、美しい歌姫の綺麗な唇が尚も甘く微笑みかける。 ガブリエラのこの微笑は、ハルカにとっては、どうにも刺激が強過ぎる。 ハルカは、照れながらも、そんな彼女に必死で笑顔を作って見せた。 “アダム”と呼ばれる少年と、“イヴ”と呼ばれる少女は、こうして、再び邂逅することとなった。 お互いの存在意義をまだ知ることもなく、それが宇宙を奮わせる激戦の引き金になることも知らずに、だた、無邪気に微笑みを交わしたのである。
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