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作品名:NEW WORLD〜交響曲第二楽章〜 作者:月野 智

第12回   【ACTU 襲撃のラグタイム】3
「すいませ〜ん、あのこれどこ置いたらいいっすかね?これ以上通路においたら、歩くとこなくなっちゃいますよね〜?えっと、なんか、この中身、食べ物らしいんすよ。その辺おいたら、腐りますよね?どうしたらいいっすかね?」
トーマのその余りにも自然で物怖じしない、しかも、やたらと人の良さそうな言動と態度に、警備員もヴァルキリーもまったく訝しがる様子はない。
トーマは役者になれそうだ・・・と、ハルカは思わず苦笑して、ちらりとだけ、眼前に立つヴァルキリーに目をやった。
人間と変わらぬ質感を持つ人口皮膚と、緩やかなカーブを描くアメジスト色の髪、その下らか覗くのは、やはりアメジスト色の綺麗な人工眼球だ。
端整な顔の作りと、トーマよりも指二本程低い長身。
ハルカのナニ―であるイルヴァもそうだが、トライトニアのヴァルキリーは、本当に、見た目は普通の人間と変わらない。
その高知能AIに組み込まれた緻密な情緒プログラムにより、その感情もまた、人間と同じである。
この技術には、ハルカも本当に感心する。
そんなハルカの目の前で、アメジスト色の髪を持つヴァルキリー09が、無表情のまま、ゆっくりと唇を開いたのだった。
「それは、俺たちの管轄ではない・・・少し待て、聞いてきてやる」
その言葉が、終わるか終わらないかのうちだった。
突然、ハルカの眼前で勢い良くドアが開き、その向こう側から、ふわふわとした綺麗な金色の髪を棚引かせた美しい少女が、軽いステップで飛び出してきたのである。
「アーネスト、ねぇ、見て見て!」
「!?」
ハルカは、面食らって一歩後退するが、時は既に遅い。
勢い良く開いたドアの側面が、まるで狙い済ましたかのように、キャップごとハルカの広い額を直撃したのである。
「痛・・・・・っ!?」
ハルカは、小さくうめいて、涙目になりながら、ドアが直撃した額を片手で抑えてしまう。
傍らに立ってその様子を見ていたトーマが、一瞬きょとんと目を丸くすると、次の瞬間、思い切り吹き出して、さも可笑しくてたまらないと言った様子で大笑いし始める。
「何やってんだおまえ!?普通避けるだろうそんなの!?」
「だ、だって・・・花束で前が見えなかったんだよ、もう、そんなに笑わないでよぉ」
僅かに赤くなった額を撫でながら、どこか情けなさそうな声色でハルカはそう答える。
そんなハルカの言葉の語尾に、ドアから飛び出してきた少女の申し訳なさそうな声が重なった。
「やだ!ごめんなさい!!だ、大丈夫だった!?ごめんね、まさか、そこに人がいるなんて思ってなかったから!!痛かったよね?本当にごめんなさい!」
ハルカは、キャップの下で涙目になった黒い瞳をゆっくりと上げた、すると、その顔を覗き込んでいたのは、ハルカのナニ―、イルヴァに良く似た、清楚な美貌を持つ飛び切りの美少女だったのである。
綺麗な眉を申し訳なさそうに眉間に寄せて、失われた惑星の色に似た大きな蒼い瞳を盛んに瞬きさせている。
それは、惑星ドーヴァで出会った歌姫『アンジェリカ』、正にその人だったのである
「だ、だ、大丈夫だから!き、気にしないで!」
ハルカは、艶やかな象牙色の肌を急に上気させて、思わずうつむいた。
確かに聞き覚えのあるその声に、宇宙の歌姫アンジェリカことガブリエラ・マギーは、きょとんと目を丸くすると、必死で顔を隠そうとするハルカをまじまじと覗き込むのだった。
ガブリエラの澄んだ蒼い瞳と、キャップの下から覗くハルカの大きな黒い瞳がぶつかった。
その瞬間、ガブリエラの繊細で秀麗なその顔が、まるで、日が差し込むような満面の笑顔を湛えたのである。
「ハルカ・・・?ハルカでしょ!?どうしてこんな所にいるの!?でも、また会えたね!」
余りにも無邪気でくったくないガブリエラの言葉に、トーマとフウは一瞬緊張し、タイプΦヴァルキリー09は、怪訝そうに形の良い眉を潜めたのだった。
ハルカは、この宇宙の歌姫『アンジェリカ』と面識がある。
その上、アンジェリカは、ハルカがガーディアンエンジェルの人間であることを知っている。
惑星ドーヴァでデボン・リヴァイアサンに拉致されそうになった彼女を救ったのは、他でもない、このハルカと、その上官リョータロウ・マキだ。
まさか、タイプΦヴァルキリーの前で、そんな彼女と遭遇してしまうとは思ってもいなかった。
万が一、彼女の口からガーディアンエンジェルの名前が出れば、間違いなく、此処にいる三人は拘束されるだろう。
トーマとフウ、そしてハルカは、何が起こってもいいように思わず身構えた。
それに気付かないアンジェリカは、相変わらず甘い微笑みでハルカを見つめている。
そんな彼女に、09がこう聞くのだった。
「ガビィ、知り合いか?」
ガブリエラは、あどけなく笑って、ひどく嬉しそうな表情で09を振り返る。
「うん!お友達なの。いつもは滅多に会えないんだ!ねぇ、アーネスト?この人たち、お部屋の中に入ってもらってもいい?」
アーネストと呼ばれた09は、少しだけ困ったように小首を傾げると、無表情だった顔にごく自然な微笑を浮かべて、こう答えるのだった。
「君が友達というなら、それを止める権限は俺にない」
「ほんとに?ありがとう!」
アンジェリカことガブリエラは、純白の羽根が無数にあしらわれたショートドレスをふわりと揺らして、09・・・彼女自身がアーネストと名付けたヴァルキリーの胸にぎゅっと抱き付いたのである。
トーマとハルカと、そしてフウは、実に意外そうな顔つきをしながら、そろって目を合わせてしまう。
そんな彼らに振り返ると、宇宙の歌姫は、あどけなくくったくない甘い微笑みを、その綺麗な桜色の唇に浮かべたのだった。



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