「すいませ〜ん、あのこれどこ置いたらいいっすかね?これ以上通路においたら、歩くとこなくなっちゃいますよね〜?えっと、なんか、この中身、食べ物らしいんすよ。その辺おいたら、腐りますよね?どうしたらいいっすかね?」 トーマのその余りにも自然で物怖じしない、しかも、やたらと人の良さそうな言動と態度に、警備員もヴァルキリーもまったく訝しがる様子はない。 トーマは役者になれそうだ・・・と、ハルカは思わず苦笑して、ちらりとだけ、眼前に立つヴァルキリーに目をやった。 人間と変わらぬ質感を持つ人口皮膚と、緩やかなカーブを描くアメジスト色の髪、その下らか覗くのは、やはりアメジスト色の綺麗な人工眼球だ。 端整な顔の作りと、トーマよりも指二本程低い長身。 ハルカのナニ―であるイルヴァもそうだが、トライトニアのヴァルキリーは、本当に、見た目は普通の人間と変わらない。 その高知能AIに組み込まれた緻密な情緒プログラムにより、その感情もまた、人間と同じである。 この技術には、ハルカも本当に感心する。 そんなハルカの目の前で、アメジスト色の髪を持つヴァルキリー09が、無表情のまま、ゆっくりと唇を開いたのだった。 「それは、俺たちの管轄ではない・・・少し待て、聞いてきてやる」 その言葉が、終わるか終わらないかのうちだった。 突然、ハルカの眼前で勢い良くドアが開き、その向こう側から、ふわふわとした綺麗な金色の髪を棚引かせた美しい少女が、軽いステップで飛び出してきたのである。 「アーネスト、ねぇ、見て見て!」 「!?」 ハルカは、面食らって一歩後退するが、時は既に遅い。 勢い良く開いたドアの側面が、まるで狙い済ましたかのように、キャップごとハルカの広い額を直撃したのである。 「痛・・・・・っ!?」 ハルカは、小さくうめいて、涙目になりながら、ドアが直撃した額を片手で抑えてしまう。 傍らに立ってその様子を見ていたトーマが、一瞬きょとんと目を丸くすると、次の瞬間、思い切り吹き出して、さも可笑しくてたまらないと言った様子で大笑いし始める。 「何やってんだおまえ!?普通避けるだろうそんなの!?」 「だ、だって・・・花束で前が見えなかったんだよ、もう、そんなに笑わないでよぉ」 僅かに赤くなった額を撫でながら、どこか情けなさそうな声色でハルカはそう答える。 そんなハルカの言葉の語尾に、ドアから飛び出してきた少女の申し訳なさそうな声が重なった。 「やだ!ごめんなさい!!だ、大丈夫だった!?ごめんね、まさか、そこに人がいるなんて思ってなかったから!!痛かったよね?本当にごめんなさい!」 ハルカは、キャップの下で涙目になった黒い瞳をゆっくりと上げた、すると、その顔を覗き込んでいたのは、ハルカのナニ―、イルヴァに良く似た、清楚な美貌を持つ飛び切りの美少女だったのである。 綺麗な眉を申し訳なさそうに眉間に寄せて、失われた惑星の色に似た大きな蒼い瞳を盛んに瞬きさせている。 それは、惑星ドーヴァで出会った歌姫『アンジェリカ』、正にその人だったのである 「だ、だ、大丈夫だから!き、気にしないで!」 ハルカは、艶やかな象牙色の肌を急に上気させて、思わずうつむいた。 確かに聞き覚えのあるその声に、宇宙の歌姫アンジェリカことガブリエラ・マギーは、きょとんと目を丸くすると、必死で顔を隠そうとするハルカをまじまじと覗き込むのだった。 ガブリエラの澄んだ蒼い瞳と、キャップの下から覗くハルカの大きな黒い瞳がぶつかった。 その瞬間、ガブリエラの繊細で秀麗なその顔が、まるで、日が差し込むような満面の笑顔を湛えたのである。 「ハルカ・・・?ハルカでしょ!?どうしてこんな所にいるの!?でも、また会えたね!」 余りにも無邪気でくったくないガブリエラの言葉に、トーマとフウは一瞬緊張し、タイプΦヴァルキリー09は、怪訝そうに形の良い眉を潜めたのだった。 ハルカは、この宇宙の歌姫『アンジェリカ』と面識がある。 その上、アンジェリカは、ハルカがガーディアンエンジェルの人間であることを知っている。 惑星ドーヴァでデボン・リヴァイアサンに拉致されそうになった彼女を救ったのは、他でもない、このハルカと、その上官リョータロウ・マキだ。 まさか、タイプΦヴァルキリーの前で、そんな彼女と遭遇してしまうとは思ってもいなかった。 万が一、彼女の口からガーディアンエンジェルの名前が出れば、間違いなく、此処にいる三人は拘束されるだろう。 トーマとフウ、そしてハルカは、何が起こってもいいように思わず身構えた。 それに気付かないアンジェリカは、相変わらず甘い微笑みでハルカを見つめている。 そんな彼女に、09がこう聞くのだった。 「ガビィ、知り合いか?」 ガブリエラは、あどけなく笑って、ひどく嬉しそうな表情で09を振り返る。 「うん!お友達なの。いつもは滅多に会えないんだ!ねぇ、アーネスト?この人たち、お部屋の中に入ってもらってもいい?」 アーネストと呼ばれた09は、少しだけ困ったように小首を傾げると、無表情だった顔にごく自然な微笑を浮かべて、こう答えるのだった。 「君が友達というなら、それを止める権限は俺にない」 「ほんとに?ありがとう!」 アンジェリカことガブリエラは、純白の羽根が無数にあしらわれたショートドレスをふわりと揺らして、09・・・彼女自身がアーネストと名付けたヴァルキリーの胸にぎゅっと抱き付いたのである。 トーマとハルカと、そしてフウは、実に意外そうな顔つきをしながら、そろって目を合わせてしまう。 そんな彼らに振り返ると、宇宙の歌姫は、あどけなくくったくない甘い微笑みを、その綺麗な桜色の唇に浮かべたのだった。
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