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作品名:NEW WORLD〜交響曲第二楽章〜 作者:月野 智

第11回   【ACTU 襲撃のラグタイム】2
『アンジェリカ』がコンサートを終え、トライトニアを無事に出るまで、秘密裏に彼女を警護する事。
もう一つは、『アンジェリカ』のDNAを採取できる物品をセラフィムに持ち帰る事、である。
今朝方、ギャラクシアン・バート商会の代表者、ショーイ・オルニーから、その業務内容を聞かされた時、一番驚愕したのは、セラフィムのファイターパイロット、ハルカ・アダミアンだった。
惑星ドーヴァで犯してしまった重大ミスの処分と称し、セラフィムの艦長ソロモンは、ハルカを、なんの説明もないままギャラクシアン・バート商会の武装高速トランスポーター「バート」に乗せた。
それだけでも不可思議だったのに、ソロモンが、ギャラクシアン・バート商会に依頼したことが、まさか、そんな内容だったとは思いもしなかったのだ。
だが、ショーイから『アンジェリカ』に関するある事柄を告げられて、聡明なハルカは全てを理解したのである。
ショーイは今朝、相変わらずの高飛車な口調と冷静な表情で、ハルカにこう言ったのだ。
「アンジェリカは、“イヴ”かもしれない」
イヴ。
それは、ガ―ディアンエンジェルが長い研究の末に誕生させた“NW―遺伝子”を持つ女性のことである。
それに対して、NW−遺伝子を持つ男性のことを、ガ―ディアンエンジェルでは“アダム”と呼ぶ。
NW−遺伝子とは、“不老の完全なる遺伝子”の事であり、その別名を『新世界(New World)』と呼ばれていた。
そのDNAを持つ人間は、ある一定の年齢に達すると細胞レベルの老化が停止し、永きに渡り若さを維持できる、奇跡の不老遺伝子なのである。
NW−遺伝子の特徴は、何も不老であるばかりではない。
本来、人間の脳細胞は老いて死ぬまでにたった30%しか使用できないと言われているが、NW−遺伝子をもつ人間は、脳細胞の約70%以上の領域を使用することが可能であるという。
その上、ウィルスや細菌に対する免疫力が優れているため、病気という病気を発祥することがない。
正に、奇跡以外の何物でもない“完全な遺伝子”なのである。
現在、この広大な宇宙にNW―遺伝子を持つ人間はたった二人しか確認されていない。
その一人が、戦闘空母セラフィムの艦長レムリアス・ソロモンであり、そして、もう一人が、レイバン部隊の少年パイロット、ハルカ・アダミアンなのである。
尤も、ソロモンの持つNW−遺伝子は、テロメア形勢に一部欠陥があるため、通常の人間の数十倍老化は遅いが、やがて老いる運命にある。
しかし、ハルカの持つNW―遺伝子は、完璧なテロメアを持ち、それが短くなることはなく、ある年齢に達すれば、完全に細胞レベルの老化が止まる“不老の完全な遺伝子”なのだ。
ハルカはこれまで、完璧なNW−遺伝子を持つ人間は自分だけだと思っていた。
だが、惑星ドーヴァで出会ったあの美しい歌姫が、まさか、そのNW―遺伝子を持つ“イヴ”かもしれないなんて、正に寝耳に水に他ならない。
一体、どういう経緯で彼女がガーディアンエンジェルから離れることになったのか、ショーイは詳しく話してくれなかった。
だが、アンジェリカが本当にイヴであるか確かめるために、そのDNAを持ち帰り分析する必要があるのだと言っていた。
「もし彼女が“イヴ”であったとしても、いきなりガーディアンエンジェルに戻れと言うことはできない。彼女自身が、自分がそんな特殊な遺伝子の持ち主であることに気付いていない可能性もあるし、少なくとも、彼女は長い間民間人として過ごしてきた。ガーディアンエンジェルとは全くの無縁だ。彼女なりの生活も、既に完成されているはずだ。
万が一、彼女が“イヴ”であったとしたなら、彼女の保護者と彼女自身と交渉を持つのは、ガ―ディアンエンジェルの幹部・・・だから、開場で彼女に会っても、余計なことは言ってはいけないよ」
知的な唇で薄く笑いながら、ショーイはハルカにそう念を押した。
『アンジェリカ』が、“イヴ”かもしれない。
惑星トライトニアは、NW−遺伝子を狙っている。
もし、トライトニアがそれに気付けば、恐らく黙ってはいないだろう。
トライトニアには、まだ9歳だったハルカを戦艦ケルヴィムから拉致し、セラフィムに奪還されるまでの一年間、NW−遺伝子ワクチンの開発ためにハルカを拘束していたという前科がある。
そんな所に、身を守る術を持たない“イヴと思しき少女”をおいて置く訳にはいかないのだ。
だからこそ、DNAを判定できる物品入手と、アンジェリカの警護というその二つを、ソロモンは、ギャラクシアン・バート商会に依頼したのである。
アンジェリカ宛ての大きな花束を抱えながら、ハルカはふと思う。
もし、アンジェリカが本当に“イヴ”であったなら、ガ―ディアンエンジェルは、彼女をどうするつもりなのだろう・・・と。
自分のように戦艦に乗せるのか、それとも、一番安全な場所だと思われる、ガ―ディアンエンジェルの本拠地、人工惑星メルバに連れていくのだろうか・・・と。
何故、ガ―ディアンエンジェルは、NW―遺伝子を産み出したのだろう・・・
またそんな疑問が、ハルカの脳裏を緩やかに巡った時だった、アンジェリカの楽屋に続く通路に足を踏み入れたフウ・ジンタオが、突然、その歩調を緩めたのである。
「ト―マさん・・・あれ」
フウは、キャップの下で細い眉を鋭利に寄せ、横目でちらりとトーマの長身を仰いだ。
フウが見やっていた方向に、ハルカと、そしてトーマが怪訝そうに視線を向ける。
すると。
沢山の花束やプレゼントがひしめくその向こう側で、アメジスト色の髪をした長身の青年が、警備員と思しき男性と何かを話している。
宝石のように綺麗なアメジスト色の髪・・・普通の人間が染髪しただけでは、このような見事な色になるはずもない。
大きめのニットセーターにスリムジーンズを履いたその青年は、恐らく、トライトニアが誇る戦闘用セクサノイド、タイプΦヴァルキリーだ。
「ヴァルキリーだ・・・っ」
ハルカは、キャップの下で大きく両眼を見開くと、思わず足を止め傍らのトーマを振り返った。
だがトーマは、さも余裕あり気な表情で微笑すると、こう答えたのである。
「ヴァルキリーまで護衛に着いてんのか?随分と高待遇だな・・・デボン・リヴァイアサン対策?」
あっけらかんと笑うと、ト―マは、キャップの下で片目を閉じてみせる。
もし、アンジェリカが、トーマの実父、ブライアン・ワーズロック博士が生前に残した、暗号データの少女と同一人物あったなら・・・
そのデータ通り、NW−遺伝子の持ち主ならば、彼女は、ワーズロック博士の養女ガブリエラ・ワーズロックということになる。
つまり、トーマにとって、彼女は血の繋がらない『妹』ということになるのだ。
 尤も、彼女が、血の繋がらない兄の存在を知っているかどうかは、本人に直接聞いてみないと判らないことではあるが。
宇宙の歌姫が『妹』ね・・・・と、トーマは、口には出さずにそんな事を思い、なにやらひどく愉快そうに笑うのだった。
「ま、気にしないで堂々と行こうぜ、どうせ俺等バイトなんだし。連中も、俺等の素性なんか知るはずないしな」
実にトーマらしいその言葉と仕草に、ハルカは、思わず吹き出してしまった。
「それも、そうだね」
本当に豪胆というか、何と言うか・・・相変わらずのトーマに感心しながら、ハルカは、少女のような繊細な唇で可笑しそうに微笑(わら)ってみせるのだった。
「フウ、そんな訳だから、堂々と楽屋に入らせてもらおうぜ」
トーマは、眼前を行くフウの背中にそんなことを言って、なんの緊張感もなくにんまりと笑う。
それに答えるように、フウもまた、キャップの下でにんまりと笑うのだった。
「了解っす!うっは〜・・・アンジェリカに会える〜!」
フウは、更に浮き足立った様子で通路の奥へと進んでいく。
通路にひしめく花束や大きなぬいぐるみ、歌姫に贈られた様々な物品の数々を踏まないように足を進めていくと、アンジェリカの楽屋の前に立っていた二人の制服警備員とアメジスト色の髪を持つタイプΦヴァルキリー09が、こちらに気付いた様子でゆっくりと振り返った。
なんだか緊張する・・・と、身構えながら、ハルカは、キャップの下からちらりとトーマを見やる。
トーマは、さも人の良さそうな笑顔を作ると、警備員とそして09に向かってこう言ったのである。


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