20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:NEW WORLD〜交響曲第二楽章〜 作者:月野 智

第10回   【ACTU 襲撃のラグタイム】1
        *
ジルベルタ星系第四惑星トライトニア。
そこは、高水準の行政機関が置かれた15の惑星が常任理事となって組織される、『アライアンス・オブ・ユニバーサル・オーシャン・ライブ・プラネット(ALLIANCE  OF UNIVRESAL OCEAN LIVE PLANET )』、通称AUOLP(オールプ)の中でも、多大な権威を持つ常任理事惑星の一つであった。
宇宙空間から臨むトライトニアは、有害大気により黄色くくすむ惑星である。
有害物質が含まれた大気に長時間晒され続けると、人間の細胞は壊死してしまうため、首都オーダムはもとより、人間が住む都市という都市には、大気中の有害物質を取り除くための特殊シールドが張り巡らされていた。
そんなリスクを背負うこの惑星の住人は、宇宙に点在する惑星国家の中でも平均寿命が極めて短い星であるという。
その日、トライトニアの首都オーダムは、盛大な歓喜に沸いていた。
今や、一惑星国家すら動かすほど、宇宙の人々に多大な影響を与える歌姫、『アンジェリカ』が、いよいよ、その姿をメディアに現す時がきたのである。
15惑星を巡る彼女のユニバーサル・コンサート・ツアーは、ここ惑星トライトニアを皮切りにスタートする。
今日が、その初日公演の日だ。
アンジェリカは、デビュー当時からそのプロフィールが非公開であり、その顔すらメディアに出すことはなかった。
そのアンジェリカが、このコンサート・ツアーで初めて顔をメディアに披露するのである。
トライトニアのマスメディアは勿論、他の惑星国家のマスコミもまた、こぞって首都オーダムに押し寄せており、大都市であるこの街は、いつも以上の賑わいでごったがえしていた。
オーダムの副都心にある競技用スタジアムには、巨大な舞台装置が出現し、大勢のコンサートスタッフが、音響機器や照明などの設置に勤しんでいる。
宇宙の歌姫『アンジェリカ』のコンサートは、トライトニアの標準時間で午後五時開演予定だ。
その頃には、12万人を収容できるこの巨大スタジアムも、多くのファンの熱気に包まれることだろう。
だが、その煌びやかで華やかなコンサートと並行するように、華やかさとは程遠い、政治犯死刑執行の準備もまた、着々と整えられていたのだった。
『アンジェリカ』のコンサートを誘致したのは、惑星トライトニアの政府である。
その裏には、現トライトニア大統領ジェレミー・バークレイの政治的思惑が働いていたのは言うまでもない。
 トライトニアは、惑星マルタリアだけが所有している宇宙船用特殊装甲技術、アルベータ装甲のライセンスを独占的に取得し、トライトニアが誇る人型戦闘用兵器アーマード・バトラーと、その操縦ユニットである戦闘用セクサノイド、タイプΦヴァルキーの量産化を進めている。
この異常なまでの軍備拡大は、惑星連合「AUOLP」でも懸念を示されるほどだった。
余りにも強く推し進められる軍備拡大に、政府関係者や庶民の間からも批判が湧き上がり、最近では、このバークレイ体制に異論を唱える過激なテロリスト集団、「デボン・リヴァイアサン」を擁護するような声まで上り始めていた。
その「デボン・リヴァイアサン」の元帥、マルティン・デボンは、現在、首都オーダムの郊外にある政治犯専用刑務所オディプスで、刻一刻と処刑の時を待っている。
刑の執行予定時間は、歌姫『アンジェリカ』の公演が始まる時間と同時刻、トライトニアの標準時間で午後五時。
つまり、ジェレミー・バークレイは、マルティン・デボンの死刑執行に余計な横槍を入れられないよう、今をときめく『アンジェリカ』を餌に、政府内の反バークレイ体制論者や庶民の目を、マルティン・デボンの処刑から遠ざけたかったのである。
その思惑は、今、こうして功を奏していた。
歌姫アンジェリカは、そんな思惑など微塵も知らないまま、コンサートを開催する。
勿論、過激なテロリスト集団「デボン・リヴァイアサン」が、オーダムを暗躍していることなども全く知らずに、今夜の公演に臨むのだ。
トライトニアの首都オーダムの午後は、晴天だった。
黄色くくすんだ空には、宇宙の歌姫『アンジェリカ』のコンサートを告知する小型飛行艇が、ゆっくりとした速度で飛んでいる。
『アンジェリカ』のコンサート会場、リーベンタール競技場では、インカムマイクを着けたコンサートスタッフ達が、機材や道具を抱えてひっきりなしに走り回っていた。
そんな中、バックステージ・パスを首から下げた三人のアルバイトスタッフが、開場に届いたアンジェリカへの花束やプレゼントを両手に抱え、やけにのんびりとした足取りで楽屋へと向かっていたのである。
三人共、コンサートスタッフ専用の青いキャップを目深に被り、やはりスタッフ用の青い作業つなぎを着ている。
一人が長身、一人が中背、そしてもう一人は小柄。
まるで申し合わせたような階段式身長差だが、これは全くの偶然の産物だった。
両手に花束を抱え、なんとも複雑な顔つきをしながら、三人のうち中背の少年が、キャップの下から覗く澄んだ大きな黒い瞳で、傍らを歩く長身の青年を仰いだのである。
「トーマ・・・ギャラクシアン・バート商会は、こんな服とか、こんなパスとか、一体どこで手に入れてくるの?これ、ちゃんと面接して採用されないと支給されないやつだよね?」
ひどく訝しそうに、しかし、勤めて小声でそう聞いて、少年は、つなぎの肩を僅かに竦めるのである。
少年の言葉に、その長身の青年は、精悍な唇だけでにんまりと笑うと、キャップの下から覗く知的な紺色の瞳で、さも愉快そうに少年の顔を顧みるのだった。
「ギャラクシアン・バート商会に、入手できない品物なんてないんだよ。なんてったって、体張ってる分うちは資金豊富だからな」
青年の返答から全てを察したのか、少年は、きょとんと目を丸くすると思わずこう聞き返すのである。
「スタッフ責任者を買収したってこと・・・・?」
「金額提示したら、二つ返事でOK出したって社長殿は言ってだぞ」
「・・・・さ、流石、ギャラクシアン・バート商会」
思わず苦笑してその少年、戦闘空母セラフィムのファイター(戦闘機)パイロット、ハルカ・アダミアンは、余裕ありありで笑う長身の青年、広域宇宙運送会社ギャラクシアン・バート商会の経営者の一人、ト―マ・ワーズロックの端整な顔をまじまじと仰ぐのだった。
そんな彼らの隣では、言葉通りに浮き足立った様子で、ギャラクシアン・バート商会の従業員、フウ・ジンタオが、さも嬉しそうに軽いスキップを踏んでいる。
何を隠そうこのフウは、歌姫アンジェリカの大ファンであり、そのアルバムを聞きながら、歓喜のあまり大声で泣いたという話は、ギャラクシアン・バート商会の輸送船「バート」の中では語り草であった。
 今日、こうして、彼らがアンジェリカのコンサート会場にいるのは、何も、彼女の歌を聞くためではない。
彼らは、ある目的をもって此処に潜入しているのだ。
その目的とは、ガーディアンエンジェルの宇宙戦闘空母セラフィムの艦長、レムリアス・ソロモンから、ギャラクシアン・バート商会が受けた『依頼内容』に基づいたものである。
ガーディアンエンジェルはトライトニアと敵対関係にあるため、そう簡単にジルベルタ星系には近づけない。
その点、ギャラクシアン・バート商会は、申請しても滅多に承認されることはない『AUOLP広域宇宙運送業務公認ライセンスAA』という、最上級公認ライセンスと承認ナンバーを取得している。
ライセンスを更新し続ければ、AUOLPの加盟国ならノーチェックでどこの惑星国家に降りることがでる非常に身軽な業者なのだ。
そんな彼らに、ソロモンが依頼した内容は二つ。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 4421