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作品名:NEW WORLD〜交響曲第一楽章〜 作者:月野 智

第35回   【LASTACT  Fly Me To The MOON】8
               *
ジルベルタ星系第四惑星トライトニア。
有害大気に覆われたその黄色い惑星は、宇宙標準時間で午後7時を迎えていた。
トライトニアの首都オーダムの高層ビル群には明かりが灯り、繁華街のネオンは、ひっきりなしに点滅している。
ほの暗い夜の闇が支配するトライトニアの夜。
くすんだ夜空には、有害大気を遮断するシールド越しに、フェルト地のような黄色い月が浮かんでいた。
その大きな月の姿は、彼女にとって、とても懐かしいと感じる月であった。
トライトニア政府が直々に用意してくれた高級ホテルのペントハウスで、その美しい少女は、窓辺に置かれたピアノの椅子に腰掛け、その澄んだ蒼い瞳で、切なそうにフェルトの月を眺める。
日の光の切っ先にも似た美しい金色の髪と、処女雪のような白い肌。
長い睫毛に縁取られた大きな瞳は、失われた惑星の色にも似た、綺麗な蒼い瞳である。
彼女は、今や、宇宙に多大な影響を与える歌姫「アンジェリカ」。
その本名は、ガブリエラ・マギー。
いや、もっと正確に言うのであれば、ガブリエラ・ワーズロックである。
異例の厳戒態勢を取るトライトニアのスペースエアポートに降り立った時、彼女のその胸は、懐かしい父の笑顔を思い出してひどく痛んだ。
お父さん・・・・
五年前。
まだ幼かったガブリエラに、科学者であった父はこう言った。
『すぐに迎えにいくからな・・・待っていてくれ』と。
しかし、彼女を惑星アルキメデス行きのシャトルに乗せたきり、その父には、もう二度と会うことは叶わなかった。
アルキメデスの軍事クーデターに巻き込まれ、そこを、『アンジェリカ』のマネージャーで、養母ミリアム・マギーと、その夫デイビッドに救われて、ぎりぎりのところで惑星ドーヴァ行きのシャトルに乗ったガブリエラ。
そんな彼女を気遣い、ミリアムが、何度もトライトニアの関係機関に問い合わせてくれたが、父は死に、元から子供はいないと、そんな返答ばかり返ってきたのだ。
本当に、父は死んでしまったのだろうか。
ガブリエラは、その秀麗で清楚な顔を哀しみに満たして、白くしなやかな指先をそっとピアノの鍵盤に置く。
彼女のマネージャーであり、今回のユニバーサル・ツアーのプロデューサーでもあるミリアムは、二日後に迫った、歌姫『アンジェリカ』の初日コンサートに向けて、舞台スタッフと打ち合わせ中だ。
今、この広い部屋の中には、ガブリエラたった一人しかいない。
「お父さん・・・」
ガブリエラは、消え入りそうな程小さな声で、優しかった父を呼んでみる。
だが、勿論、返答などはない。
ミリアムやデイビッドに心配をかけないように、勤めて明るく振舞ってきたが、父と過ごしたこのトライトニアに帰ってきて、ガブリエラのその心の中には、まるで霧が立ち込めていくように、切なさと寂しさが広がっている。
桜色の綺麗な唇を噛締めて、溢れてくる涙を必死に堪え、片手で瞼を拭った。
その時、広く豪華なその部屋の扉を誰かが押し開けたのである。
「アンジェリカさん」と声をかけながら、室内に足を踏み入れてきたのは、政府の広報担当者ライアンであった。
ガブリエラは、ハッとその肩を揺らすと、慌てて瞼をこすり、いつものように明るく笑って見せたのである。
「はい!すいません、色々と、お世話になってしまって」
「いえいえ、我が国の大統領もあなたのファンですからね、これぐらい当然ですよ」
ライアンは、実に人の良さそうな笑顔でそう答え、ふと、背後から室内に足を踏み入れてきた、見知らぬ青年が二人を振り返った。
ガブリエラは、不思議そうに小首を傾げて、ライアンの背後に無言のまま立った二人の青年を、まじまじと見つめすえる。
アメジスト色の髪を持つ長身の青年と、そんな彼よりも更に長身で、豪華な金色の髪を持つ涼麗な青年。
少年のようにしなやか肢体と、均整の取れた秀麗な顔立ちを持つ09は、アーマード・バトラー『ランスロット』の操縦ユニットであり、その容姿は、人間で言うところの、19〜20歳と言ったところである。
そして、豪華な金色の髪と、どこか冷淡な印象を与える金色の瞳を持つ07は、トライトニアが誇るアーマード・バトラー部隊の隊長機『L(ランサー)・オーディン』の操縦ユニットだった。
07は、26〜7歳程の容姿であり、見上げる長身と、類希な美貌を持つ涼麗な顔立ちのタイプΦヴァルキリーだった。
ライアンは、ゆっくりとそんな二人を振り返りながら、にこやかにこう言ったのである。
「コンサートが終わるまで、あなたの護衛を勤めるタイプΦヴァルキリーです。
戦闘用セクサノイドですが、それなりに人間の感情は理解できるので、お話相手ぐらいにはなりますよ。金髪の方が07(ゼロセブン)、紫の髪の方が09(ゼロナイン)。
基本的に人間の命令には忠実です。どうぞご自由に扱ってください」
「タイプΦ・・・ヴァルキリー・・・」
ガブリエラは、そう復唱してハッとその肩を揺らした。
タイプΦヴァルキリーとは、惑星トライトニアが誇る強靭な戦闘用セクサノイドのことである。
人間が作り出したアンドロイドの中でも、セクサノイドと区分される個体は、より緻密で複雑な情緒プログラムが組まれ、人間の感情を20%以上理解し、自らも人間と同じ感情を持つ超AI搭載型高知能人工人体の事だ。
自らの体つきや、組み込まれた情緒プログラムにより、自分が、人間で言うところの男性であるか、女性であるか、その自覚もきちんとできる。
タイプΦヴァルキリーと呼ばれるこのセクサノイドは、群を抜いて人間に近い情緒プログラムを有しており、加えて戦闘用であるがため、複雑な戦術と偶然必然の攻撃に即時に対応できるよう、より精密なシステムプログラムが組み込まれた個体だった。
そして彼らは、人間が搭乗すよりも遥かに優れた機動力を発揮する、人型戦闘兵器アーマード・バトラーの操縦ユニットでもある。
人間の体と感情を精巧に模して造られたセクサノイド、タイプΦヴァルキリー。
それを所有するトライトニアを、多くの惑星国家が賞賛するが、その成功の影には、天才と呼ばれる科学者の存在があったことを、ガブリエラはよく知っている。
実際に、タイプΦヴァルキリーを見るのはこれが初めてだが、そのプログラムなら、父のラボで何度か見たことがある。
このヴァルキリーを作り上げたのは、他でもない、ガブリエラの父、ブライアン・ワーズロック博士なのだ。
ワーズロック博士の頭脳なしでは、トライトニアは、このタイプΦヴァルキリーも、アーマード・バトラーも、決して開発などできなかっただろう。
父が作ったこのヴァルキリーたちなら、もしかすると、父の事を知っているかもしれない。
ガブリエラは、ふと、そんなことを思う。
それを微塵も顔には出さず、いつものようにニッコリと甘い微笑みを見せると、彼女は、ライアンに向かってこう言ったのである。
「あの、私、ヴァルキリーを見るの初めてなんです。本当に、お話相手になってくれるんですか?」
「ええ、勿論」
ライアンはそう答えて、再び人が良さそうに笑うと、ヴァルキリーたちを振り返って言うのだった。
「くれぐれも、アンジェリカさんを一人にするんじゃないぞ、07、09。また、テロリストに狙われでもしたら、大変なことになるからな」
長身のヴァルキリーたちは、微笑むこともなく機械的に「イエッサー」と答え、どこか冷めた視線で、眼前にいるガブリエラを見やったのである。
ガブリエラは、そんな彼らにニッコリと笑ってみせるのだった。
その時、なにやら、にんまりと笑ったライアンが、徐にこんなことを口にしたのである。
「じゃぁ、アンジェリカさん、自分は仕事に戻りますから。しばらくこいつらといてください・・・あの、後でサインくださいね」
一瞬、きょとんとしたガブリエラであったが、可笑しそうにくすくすと笑って「はい」と返答する。
その返答に、さも嬉しそうに笑ってから、ライアンは、やけに浮いた足取りで扉を出て行ったのである。
ガブリエラは、そんなライアンの後姿を可笑しそうな表情で見送ると、その視線を、目の前に無言で立つヴァルキリーに向けたのである。
どこか厳しい顔つきで、無言のままそこに立つヴァルキリーに、ガブリエラは、綺麗な唇を甘い微笑みで彩ると、後で手を組んだ姿勢でこう言うのだった。
「こんばんは、初めまして、アンジェリカです。これから少しの間、よろしくお願いします」
そう言ったガブリエラの柔らかい金色の髪が、ベビーピンクのワンピースで肩に広がる。
「・・・・・・」
癖毛かかったアメジストの髪を持つ09が、ふと、怪訝そうな顔つきをして、その髪と同じ色をした瞳で、ちらりとだけ、傍らに立つ07を見やった。
07の鋭利な切れ長の目元が、金色に輝く長い前髪の下で微かに細められる。
そんな07に、09が言う。
「変な人間だ・・・この人間」
だが、07は、その言葉に返答するでもなく、鋭い無表情のまま、ただ、ガブリエラの綺麗な顔を見つめるだけであった。
そんな二人の様子に、ガブリエラは、きょとんと不思議そうに小首を傾げて、思わず聞くのだった。
「あ、あの・・・私、何か、おかしなこと言ったかしら?」
09のアメジスト色の瞳が、ゆっくりと、ガブリエラの澄んだ蒼い瞳を顧みると、彼は、落着き払った口調で答える。
「今、おまえは、俺たちに向かって『お願い』すると言った・・・それは、命令じゃない」
「え?な、何かおかしかった?お世話になるから『お願いします』って、言っただけだよ?」
「・・・・・・」
ガブリエラの返答に、09は、ますます怪訝そうな顔つきになって、巻毛かかったアメジスト色の髪の下で形の良い眉を潜めると、大きめのニットセーター着た胸元で、静かに腕を組んだのである。
「俺たちに『命令』しない人間は、珍しい・・・・」
ガブリエラは、きょとんとして、大きな蒼い瞳をぱちぱちと瞬きさせてしまう。
「だって、お父さんは言ってたのよ?あなたたちは、『人間に使われるため』の存在じゃなくて、『人間と結婚できる』ぐらい人間と同じ存在なんだって。
『命令しない』人間が珍しいなんて、そっちの方がずっと変だと思うわ」
全く嘘のない、ひどく純粋でくったくないその言葉は、彼らが、確実に過去に聞いたことのある言葉だった。
09は、僅かばかり驚いたような表情をすると、そのアメジスト色の瞳を、再び、未だ鋭い無表情をしている07に向けたのである。
07は、どこか冷酷な輝きを宿す金色の瞳で、真っ直ぐにガブリエラを見つめすえたまま、そこで初めて、その端整な唇を開いた。
「・・・・おまえの父親とは・・・一体、誰だ?」
ガブリエラは、澄み渡る蒼い瞳で07の涼麗な顔を仰ぎ見ると、桜色の唇で切なそうに笑って、こう答えたのである。
「お父さんの造ったあなた達だから、教えるわ。私の名前は『アンジェリカ』じゃなくて・・・本当は、ガブリエラなの。ガブリエラ・ワーズロック。あなた達を創り上げた、ブライアン・ワーズロック博士の娘よ」
ブライアン・ワーズロック。
ガブリエラの口からその名前が出たとたん、無表情であった07と09の顔に、にわかに、驚きの表情が表れたのだった。
ヴァルキリーたちが、父親とも言うべきその名前を、知らない訳がない。
彼らの生みの親であるワーズロック博士は、メンテナンスのたびに、確かに彼らに言っていたのだ。
「おまえたちは、人間と同じだ。人間と結婚できるぐらい、人間と同じ存在なんだ」と。
彼らの高知能AIが、それを忘れるはずもない。
この人間の少女は、自分達を、命令に従うだけの兵器ではなく、『生身の人間と同じ感情あるもの』だと、そう認めているということなのだろうか?
まるで、それを探るかのように、長い金色の前髪から覗く07の人工眼球が、ガブリエラの切なそうな微笑みを、真っ直ぐに捉えている。
ガブリエラは、小さく小首を傾げると、やはり、何の虚偽もない純粋な表情で言葉を続けるのだった。
「07に09・・・私、あなた達を、そんな番号で呼ぶの嫌だわ。もし、名前が無いなら、私が、あなた達に付けていいかな?」
今まで関わってきた人間からは、一切言われたことも無かったその言葉に、07と09が、僅かばかり戸惑ったように眉根をよせて、その視線を合わせたのある。
「・・・・・・」
少しの間を置いても、何の返答もしない二人のヴァルキリーに、ガブリエラは、少しだけ困ったような表情をすると、ベビーピンクのワンピースを纏う華奢な肩を小さく竦めたのだった。
「そうだよね・・・初めて会った人間に、勝手に名前つけられるなんて・・・嫌、だよね?
ごめんね」
ガブリエラは、そう謝ると、ふと、甘い微笑みで綺麗な唇を彩り、そんなヴァルキリー達に、くるりと背中を向けたのである。
そして、突然、窓際のピアノへと走ると椅子に腰を下し、扉の前に立ったままでいる07と09に向かって、くったくない口調でこう言った。
「よかったら、そこのソファに座って。あのね、コンサートで新曲を発表するんだ。護衛してくれるお礼と言ってはなんだけど、まだ、スタッフ以外誰も知らない曲なの。
良かったら聞いてくれないかな?」
開け放った大きな窓から吹き込む風に、ガブリエラの美しい髪が華奢な背中でふわりと揺れる。
「・・・07、この人間は、俺たちに命令してる訳じゃない・・・・・従うのは、自由でいいと、そういうことなのか?」
怪訝そうに眉根を寄せ、そう問いかけてきた09に、07は、何をも答える事無く、ゆっくりとその足を進めると、ピアノの傍らに置いてあるソファに腰を下ろしたのだった。
そんな07の行動を、驚いたように見つめすえると、09は、ニットセーターを纏う広い肩を竦め、先程とは打って変わったやけに穏やかな表情で、ソファの脇へと素直に足を進めたのである。
二人が、ピアノの隣に来てくれたことがよほど嬉しかったのか、ガブリエラは、まるで朝日が差すような満面の笑顔で「ありがとう」と言うと、そのしなやかな指先を、徐にピアノの鍵盤に置いたのである。
空中を舞う羽根のような軽いタッチで、その指先が流れるように白と黒の鍵盤の上を滑った。
美しいアルペジオが、銀河を流れる星々のように広い部屋の中に響き渡る。
ベビーピンクのワンピースを纏う細い肩で、金色の柔らかな髪が揺れ、大きく息を吸いこんだ彼女の唇から、高く澄んだ歌声が溢れ出してくる。
甘く優しい旋律と歌声が、窓辺から吹き込む風に乗った。
伸びのある澄んだ美声で、ガブリエラは歌う。
まだ幼い頃に、父が買い与えてくれた絵本で読んだ、金色の翼を持つ天使の物語。
それをモチーフにして作った優美で繊細なメロディを、甘い歌声で彩りながら、たおやかな笑顔で彼女は歌う。
その綺麗な輪郭を照らし出す、窓辺に浮かぶフェルトのような大きな月。
風に跳ねる金色の髪が、その白皙の頬で静かにたゆたった。

Fly me to the Moon・・・
金の翼で抱き締めて 私を月まで連れていって・・・

美しい歌声と優しく柔らかなそのメロディに、ソファの脇に立っていた09が、その端整な唇で小さく微笑んだ。
人間の作った『音楽』という音声を、綺麗だと感じる。
その歌声を、心地よいと感じる。
それは、今まで感じたこともない、とても不思議な感覚だった。
だが、ソファに座ったまま、長い足を組む07は、やはり、無表情のままである。
しかし・・・07もまた、09と同じく、彼女の歌声とその指先が刻む優美なアルペジオを、確かに、心地よいと感じていたのである。
人の感情で現すのであれば、『心の奥が震えるような感覚』とでも言うのだろうか。
少なくとも、メンテナンス・ラボや、日々関わる人間からは感じることの出来なかった、本当に、奇妙な感覚だった。

Fly me to the Moon・・・
金の翼で抱き締めて 私を月まで連れていって・・・
遠い空まで連れていって・・・
窓辺を飛び越えて 澄んだ大気を飛び越えて・・・
その翼に包んで 私を月まで連れていって・・・

ソファに座っていた07が、静かに立ち上がった。
それに気付かぬまま、彼女は歌声を響かせ続ける。
甘く優しい声だ。
今まで、聞いたこともない、ひどく心地の良い声だ。
その歌声を、この少女の声をもっと、近くで聞きたい・・・
この曲の歌詞のように、この少女は、本当に月までいきたと思っているのだろうか・・・?
07の情緒プログラムが、そんな奇妙な願望と疑問を訴えかけてくる。
常に理性的なため、願望と呼べるものを常に押し殺してきた07が、何故か、その時、まるで、ガブリエラの甘く優しい歌声に誘われるかのようにその抑制を解いたのだった。
不意に、長い前髪から覗く07の金色の瞳が、先程までの鋭さを失って、真っ直ぐにガブリエラの綺麗な横顔を見つめすえる。
同時に、通信ネットワークを介して、09の通信システムに「直ぐに戻る、おまえは此処にいろ」と、07の意志が送信されてきたのだった。
09は、驚いたように広い肩を揺らし、ひどく怪訝そうに形の良い眉を潜めてしまう。
その瞬間、07の爪先が、軽く床を蹴った。
ピアノの前で歌うガブリエラの元へと走った07が、何を思ったか、突然、黒いコートを纏った大きな両腕で彼女のしなやかな体を浚ったのである。
「え!?」
ガブリエラは、驚いて歌を止め、蒼い瞳を大きく見開いてしまう。
その時既に、小柄でしなやかなガブリエラの体は、ベランダへと疾走する07の大きな腕の中に抱えられており、慌ててその首にしがみ着くと、彼女は、思い切り素っ頓狂な声を上げたのだった。
「ど、どうしたの!?」
「しっかり掴まれ」
07の冷静な声がそう答えた、次の瞬間、その爪先が軽くベランダの床を蹴り、まるで、吹き抜ける風のように手すりを飛び越えると、ガブリエラを両腕に抱えたまま、ネオンが煌くビルの合間を軽やかに舞ったのである。
重力から解放され、体が、ふわりと宙に浮く。
大通りを行き交う人々と車が、蟻のように小さく見える。
ガブリエラの長い金色の髪が、ビルの合間を走る風に大きく揺れながら乱舞した。
その恐怖と驚愕で、蒼い瞳を殊更大きく見開くと、ガブリエラは思い切り悲鳴を上げたのである。
「きゃ・・・きゃぁぁ―――――・・・・っ!!」


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