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作品名:NEW WORLD〜交響曲第一楽章〜 作者:月野 智

第3回   【ACTT 惑星ドーヴァの午後】3
             *
惑星ドーヴァの首都ミグニンの南西約45キロの所に、ドーヴァ軍カランダム空軍基地がある。
その戦艦ドックに、銀色の船体に青い六芒星『ダビデの星』が掲げられた、大型戦闘母艦か曳航されていた。
800名以上の船員を抱えたその巨大な母艦の名は、セラフィム。
強大な軍事力と科学技術を持ちながら、どの惑星国家にも属さない謎多き組織、『ガーディアンエンジェル』に所属する宇宙戦闘空母であった。
ガーディアンエンジェルに敵対する惑星国家を監視するという任務に着くセラフィムは、ガーディアンエンジェルとドーヴァ政府の間で交わされた協定により、補給のため、この一大エンターテイメント惑星に立ち寄っていたのである。
セラフィムの広大な船体内部。
F第3ブロックと呼ばれるセクションには、二箇所のラボ(研究室)と一箇所のメディカル・ルーム(医務室)が設置されている。
メディカル・ルームの処置室に置かれたベッドの上で、少年パイロット、ハルカ・アダミアンは、ぐったりとうつ伏せになりながら、その腕に、吐き気止めの点滴を打たれていた。
その隣のベッドには、やはり、ハルカと同じ姿勢で、同期入隊のパイロット、ヨシュア・エスキベルが点滴を打たれている。
もはや、そんな二人の間に会話すらない。
二人とも、厳格なブルーシルバーの軍服を纏ってはいるが、そこに、パイロットとしての悠然たる風格など全く感じられなかった。
セラフィムに搭乗している女性医師、ウルリカ・クレメノフは、強烈なGに晒されひどい乗り物酔い状態である若きパイロットたちを、実に愉快そうな視線で眺めながら、ローズの唇で意地悪く微笑したのである。
「・・・あらあら、情けないわね二人とも?マキ少佐との訓練は、そんなにハードだったのかしら?」
漆黒の艶やかな髪を揺らし、ハルカは、力ない視線をもたげると、ベッドの上から掠れた声で答えるのだった。
「た、多分・・・あれが普通、って言うか・・・・リョータロウ、全然本気は出してなかった、と思う・・・実戦は、もっと・・・・速・・・」
そこまで言ってまた吐き気に見舞われ、片手で口元を抑えると、ハルカは再び、ぐったりと項垂れたのである。
耳元で切りそろえられた艶やかなストレートの黒髪が、白いシーツの上に広がった。
端整で均整の取れた、まるで少女のような繊細さ持つ穏やかで綺麗な顔立ち。
だが、きめの細かい象牙色の肌は蒼白に染まり、果てしない宇宙を思わせる澄んだ黒い瞳にも、いつもの明るい元気はない。
「さすがのNW−遺伝子児も、重力には敵わないみたいね?ハルカ?」
そう言ってくすくすと笑うウルリカを、どこか恨めしそうな眼差しで見やって、ハルカは、悶えるように体を縮めたのである。
「重力に・・・遺伝子は関係ない、よ・・・・って言うか・・・リョータロウは・・・・やっぱり、凄い・・・なんなの、あの動き・・・?重力圏で・・・あんなの、あ、ありえないよ・・・・」
そんなことを呟いたハルカを、隣のベッドでうつ伏せになっていたヨシュアが、何故かジロリと睨みつける。
そして、苦々しい口調でこう言ったのだった。
「おまえ・・・っ、少佐を、呼び捨てにするな・・・・っ!仮にも、上官・・・・っ」
やけに勇ましくそこまで言葉にするが、ヨシュアもまた、うっと小さく唸ると、片手で口元を抑えた。
「本当に情けないわね〜?もう少ししっかりしないさいよ、二人とも?
その様子じゃ、マキ少佐には、まだまだ追いつけないわね?
あの歳で少佐、しかも、ツァーデ小隊隊長。マキ少佐が君たちと同じ歳だった頃、どんなにハードな戦闘の後でも、そんな風にはならなかったわよ?」
ベッドで体を丸める少年パイロット達をしみじみと眺めやると、ウルリカは、遂に堪えきれなくなったのか、ブラックブロンドの短い髪に片手を入れ大笑いし始めたのである。
「最近のマキ少佐は、子供っぽいところが全部抜けて、なんだかやけに色っぽくて。
あれじゃ、目ざとい女は誰もほっとかないわよね。
君たちがああなるまでには、まだまだ時間がかかりそうだけど!」
「ウルリカ・・・・それ・・・全然、戦闘には関係ないと思うよ・・・・」
なにやら呆れたように、しかし、途切れ途切れの言葉でハルカがそう言った時、突然、処置室の天井にある通信スピーカーから、コールが鳴ったのである。
『ツァーデ小隊ハルカ・アダミアン、ギメル小隊ヨシュア・エスキベル。ツァーデ・リーダー・オフィスへ出頭。至急だ』
それは、話の中心人物であったリョータロウ・マキからのコールであった。
その声に、びくりと肩を震わすと、ハルカは、大きくため息をついて、今日の失態を思い起しつつ、覚悟を決めた様子で静かに首をもたげたのである。



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