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作品名:NEW WORLD〜交響曲第一楽章〜 作者:月野 智

第20回   【ACTV タルタロス宙域の悪夢】6
          *
『こちら、ガーディアンエンジェル空母セラフィム所属レイバン・ツァーデ小隊、マキ少佐だ。バート、応答せよ』
冷静で落着き払ったその声と共に、武装高速トランスポーター『バート』の通信モニターにその青年の姿が映し出されたのは、セラフィムに通信を入れてから、僅か30分後のことだった。
バートの通信レーダー前に座っていたルツは、その瞬間、どこか安堵したようにため息をついたのである。
通信回線を開きながら、ルツは、以前よりもクールで精悍な面持ちになったその青年、ツァーデ小隊隊長リョータロウ・マキに向かって言うのである。
「こちら、ギャラクシアン・バート商会所属トランスポーター『バート』。マキ少佐、到着をお待ちしていました。回線をショーイに回します」
『了解』
リョータロウが返答すると同時に、船長席にゆったりと腰を下ろしていたショーイのモニターに通信ウィンドウが開く。
ショーイは、肘掛に頬杖を付いたまま、相変わらず高飛車に微笑すると、モニターの向こう側でヘルメットシールド上げたリョータロウに、落着き払った口調で言うのである。
「久しぶりだねマキ少佐?しばらく見ないうちに、随分と貫禄が付いたみたいだ。どことなく、雰囲気がソロモンに似てきたよ」
『あんたまでハルカみたいなこと言うなよ・・・・で、それは誉めてるのか?貶してるのか?』
モニターの中で、凛とした眉を怪訝そうに寄せるリョータロウに、ショーイは、軽く唇をもたげて答える。
「もちろん、誉めてるんだよ」
『あんたの口からそんな言葉が出ると、どんな魂胆があるのか疑ってかかりたくなるぜ』
「それは心外だなマキ少佐?僕だって、たまには人を誉める時がある」
心外と言いながらも、どこか愉快そうに紺色の瞳を細めると、頬杖を付いていた手を繊細な顎の下で組んで、ショーイは、相変わらず高飛車な口調で言葉を続けたのだった。
「今、トーマ達がユダの船内を見て回っている。生存者はいなかったと、ついさっき連絡が入った。積荷は現在確認中だ。バートは、ユダとの距離1700を保って待機している」
『了解。バートを有視界で確認した。今、後ろから頭の上を通り過ぎる』
通信回線を通してそう言ったリョータロウの言葉と共に、バートの上方を、デルタ型編隊を組んだ10機のレイバンが、流星の如き速度で駆け抜けていったのである。
ショーイは、ブリッジの風防からその機影を見やって、薄く知的な唇を軽くもたげた。
「こちらも有視界で確認。トーマは、通信機を持っていってる。今から、通信コードを送信するよ。内部の様子は、直接トーマに聞いてみて。場合によっては、ツァーデ小隊も、ユダに降りる必要があるかもしれないからね」
そう言ったショーイの指がコンソールを叩き、通信コードを打ち込むと、そのままそれを、リョータロウ機、レイバンT−1へと送信したのだった。
レイバンのモニターでそれを確認したリョータロウが、ヘルメットシールドを下ろしながら精悍な唇を軽くもたげたのである。
『通信コード了解。もし、まだRV−019が残っていたら、どっちにせよ俺は降りる羽目になる。じゃないと、あの機体は動かせないからな。もうまもなく、セラフィムもこの宙域にワープアウトしてくる。それまで、そこで見物でもしてろよ』
「そうさせてもらうよ」
ショーイはそう答えて、唇だけで高飛車に笑う。
モニター越し、そんなショーイに軽く片手を上げると、リョータロウは、通信回線を遮断したのだった。
眼鏡の下から覗く紺色の瞳を僅かに細めて、片手で鮮やかな赤毛の前髪をかきあげると、ショーイは、ふと、風防の向こう側に見える輸送船ユダの船体を見やったのである。
宇宙空間で静止しているユダの巨大な船体に、タルタロス四連太陽の赤い光が微かに差している。
そこに急速接近していく10機のレイバンの機影。
ユダと、そしてレイバンの合間に見える宇宙空間に、小さな青い星が見えた。
その時、ショーイはあることに気づいた。
その星は、先ほどまで、ユダの影に隠れていて見えていなかった星だ。
見えなかった星が見えるという事は、ユダが、微弱ながら位置を変えているということになる。
無重力である宇宙空間で静止しているものが、何の推進もなしに動くのは明らかにおかしい。
その瞬間、ショーイは、白いショートローブを纏う肩を震わせ、緩やかなカーブを描く赤い髪の下で、その知的な紺色の瞳を厳しく鋭く細めたのである。
落着き払った口調と表情で、ショーイは、レーダーの前にいるルツに言う。
「ルツ、タルタロス四連太陽の表面ガス圧と輻射圧を測定。バートとユダの位置座標をこちらのモニターに転送。大至急」
突然のその言葉に、ルツは、驚いたような顔つきをしながら、長い黒髪を揺らして船長席を振り返った。
「どうしたの急に?」
「いいから早く。場合によっては、直ぐにこの宙域を離脱しないと、まずいことになるかもしれない」
冷静だが、鋭い声色でそう答え、ショーイは、眼鏡の下の視線をちらりとルツに向けたのである。
ルツは、その高飛車な言い方に、いささか不満気に唇を尖らせると、無愛想な声で答えて言うのだった。
「了解」
なんなのよまったく!本当に、寝起きとブリッジでの人格が違うんだから!!
心中でそんな悪態をつきながら、ルツの指先は素早くコンソールパネルを叩く。
モニターに表示される、タルタロス四連太陽のグラフィックと、そこに重ねられた表面ガス圧と輻射圧の測定結果、ユダの位置とバートの位置情報をまとめて添付して、船長席のモニターに転送する。
ショーイは、それを確認しながら両手で素早くコンソールを叩いて、タルタロス四大太陽から発せられるだろう、恒星風の数十分後の予測グラフィックを重ね合わせたのだった。
絶妙な重力バランスで互いに影響しあう四つの赤色巨星。
そこから噴出するガスの流れ。
それが恒星風である。
タルタロス太陽から噴出した恒星風の末端は、四つの恒星の合間に綺麗な螺旋を描いて吹き抜けていた。
今、バートとユダが碇泊するこの座標は、四大恒星テトスとクワトロの中間地点。
通常は此処まで届くことの無いはずの恒星風の末端が、微弱だが確かにこの宙域を掠めている。
それは、恒星の重力から抜けるガスの流れ・・・恒星風が、少なからず多くなっているという事を明白に物語っていた。
タルタロス四大太陽の左端に位置する、一番質量の大きい恒星クワトロの表面ガス圧と輻射圧が、異常なほど高くなっている。
このまま更に上昇すれば、とんでもない巨大フレアが発生する可能性がある。
その先端は、この宙域にまで達するかもしれない。
ディスプレイに表示された予測は、例えフレアが来なくても、レベル5の凄まじい恒星風が、確実にこの宙域に到達するというものだった。
その恒星風の末端は、クワトロの右隣に位置するテトスの恒星風とぶつかって対流し、綺麗な螺旋を描きながら右から二番目の恒星、ドスへと向かう。
レベル5の恒星風に巻き込まれれば、いくら高出力の大型艦であっても、抜け出すことは出来ないかもしれない。
そのまま流されてたどり着く先は、タルタロス四大太陽の重力圏だ。
コンピュータが弾き出した、クワトロの表面ガス圧と輻射圧が最大になるまでの予測時間は、約30分。
これはあくまで予測時間だ、場合によっては、急激にその時間が変わる場合もあるだろう。
ショーイは、端整で繊細なその顔を、いつになく厳しい表情に満たしながら、それでも、冷静な声色で操縦席のタイキに言うのだった。
「タイキ、右舷前方、及び左舷後方、補助エンジン点火。出力60%で180度低速反転。メインエンジン点火後、出力40%で逆噴射。微速後退でユダに接近する。牽引レーザー射出準備。残り30分で、レベル5の強烈な恒星風がこの宙域に来る。一歩間違えば、巨大フレアもだ。それまでに、ユダごとここを離脱する」
「!?」
その言葉に、操縦席のタイキと、レーダーの前に座るルツが、驚いたように肩を震わせた。
「りょ、了解!」
タイキは慌てて補助エンジンを点火し、操縦桿を傾けてバートの船体を緩やかに反転させていく。
「ショーイ・・・それって、つまり」
ルツは、ショーイを振り返ると、僅かばかり上ずった声色でそこまで言いかけた。
ショーイは、眼鏡の下から覗く紺色の瞳をちらりとルツに向け、冷静な声色で、言葉を続けたのだった。
「レベル5の恒星風だと、バートが最大出力で、ぎりぎり抜けられるか抜けられないかの瀬戸際だ。もし抜けられず、強烈な恒星風に流されたら、バートもユダも、タルタロス太陽の重力圏に引きずり込まれる。万が一フレアが来れば、いくらバートでも船体は溶解する。マキ少佐に緊急通信、それを伝えて。ツァーデ小隊も例外じゃないからね」
「了解!」
ルツは慌てた様子でコンソールパネルを叩いた。
同時に、ショーイの指先がコンソールを叩き、収集した恒星風のデータを、ガーディアンエンジェルの空母セラフィムへと、「この宙域には来るな」という意味をこめて送信したのである。
眼鏡の下から覗く紺色の眼光が、風防越し見えるユダの船体を凝視し、いつになく厳しく細められた。








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