* 惑星マルタリアのリゾート都市ノバーナ。 ユニバーサル・レイルウェイステーション前広場は、老若男女問わず、大勢の観光客で溢れ返っていた。 その広場の周りには、様々なショッピングモールが立ち並び、それ以外にも、映画館や劇場など数多くの娯楽施設が立ち並んでいる。 そんな中、人々の雑踏の最中にある小さなオープンカフェの軒下に、実に不機嫌そうな顔つきで足を組み、テーブルに頬杖をつきながら、ブルーのサングラスの下で人の流れを眺める一人の少年・・・いや、青年の姿があった。 いつもなら、その引き締まった肢体には、厳格なブルーシルバーの軍服を纏っているのだが、今日の彼は、休暇ということもあり、Tシャツに薄手のパーカーを羽織り、ジーンズにスニーカーという実にラフな服装をしていた。 しかしながら・・・・これまた面倒な役柄を、いけ好かぬ上官に与えられてしまったがために、彼の休暇は、終日自由行動という訳にもいかないのが現状である。 「なにが護衛だよ、ソロモンの野郎。イルヴァがちゃんと着いてんじゃねーかよ」 水滴の伝うアイスコーヒーのグラスを指先で弄びながら、さも不愉快そうにそう呟いた他でもない、レイバン部隊ツァーデ小隊のエースパイロット、リョータロウ・マキである。 パーカーの下に隠されたホルスターには拳銃が納められ、その襟元には、しっかりと小型の通信機が装着されている。 街に遊びに行きたいというハルカ・アダミアンの護衛を兼ねながら、ブリッジオペレーター、ナナミ・トキサカに引きずられるようにして、ノバーナのセンター街に来ては見たものの・・・ ハルカには、事実上トライトニアを裏切る形となったタイプΦヴァルキリー、イルヴァが着いている。 その上、いま、自分の足元に置かれた買い物袋の数々を見れば、もはやこれはただの荷物番でしかない・・・と、リョータロウは、凛とした眉を苦々しく眉間に寄せるばかりだった。 尤も、サングラスの下で鋭く輝く黒曜石の瞳は、先ほどからずっと、ショップのショーウィンドウを覗きながら、嬉しそうな表情でナナミとイルヴァに何かを語りかけているハルカの姿を、見失うことなく追いかけている。 それは、戦闘機レイバンのパイロットとして、優れた視力を持つ彼の賜物といえよう。 常に戦闘に身を置く人間として、気付けば、いつでも銃を抜ける体制を取っているのもまた事実。 もはや、これは職業病だ。 リョータロウは、パーカーを羽織った広い肩を竦めると、茶色に染めた癖毛に片手を入れて、思わず、大きなため息をつくのだった。 まだ、19歳という若さでありながら、リョータロウが、これほどまでに”軍人”らしいのには訳がある。 いけ好かぬ上官であるレムリアス・ソロモンが、一年前まで指揮していたケルヴィムに乗船する前、リョータロウは、母星を追われたボートピープルであった。 彼の生まれ育った星の名は惑星ジルーレ。 それは、ガーディアンエンジェルと、激しい敵対を繰り返し、果ては、本拠地であった人工惑星メルバを探し出し、そして急襲した悪名高き惑星国家の名称である。 実は、そのジルーレが彼の母星なのだ。 当時の惑星ジルーレは、徹底的な軍事国家であり、そのため、まだ10歳にも満たないうちに、リョータロウは、銃火機の扱い方や戦闘機の操縦方法などを厳しく教え込まれていた。 皮肉なことに、平均年齢26.3歳という、ベテランパイロットばかりが揃う精鋭部隊、ツァーデ小隊にその若さで配属されたのも、幼い頃から教え込まれた軍事訓練の成果なのである。 ソロモンが、彼を「セラフィムで一番射撃の腕が良い」とを称するのも、その成果の一つなのだ。 ガーディアンエンジェルの攻撃によって、壊滅状態になったジルーレから運良く逃げ延びたリョータロウは、どんな運命の悪戯か、そのガーディアンエンジェルの船であるケルヴィムによって命を救われた。 それが、今から7年前のことだ。 レムリアス・ソロモンは、女性と子供しか乗っていない脱出シャトルを、無作為に攻撃するような姑息な男では決して無い。 やけに気障ったらしいあの物腰が、いけ好かないのは確かなことだが、それでも、リョータロウは、そんなソロモンには絶対的な信頼を置いている。 最初は、猛犬の如く反抗して、散々暴言を吐いていたのにも関わらず、だ。 人間は変われば変わるものだと・・・思わず、そんなことを思って、リョータロウは、端整な唇で苦笑するのだった。 ブルーのサングラス越しに、ふと見上げたマルタリアの空に、オレンジ色の楕円太陽が浮かんでいる。 その日差しの片隅で、相変わらず元気にはしゃぐハルカが、くったくなく笑う。 リョータロウが、ハルカと同じ年の頃は、否応無しに重い銃を背負わされ、丸一日、射撃訓練に従事させられた。 あの頃に比べれば、今の状況など随分と平和なものである。 長い時間、広大な宇宙を航行し、スクランブルがかかれば、真っ先に前線に飛び出して敵艦隊と交戦するという、正に死と隣り合わせの毎日だが、それでも、自由がある。 そんなことを思いながら、眼前のビルに設置された大型モニターを何気なく眺めやると、そこには、映画のCMなのだろうか、ルビー色の銀河を背景に、真っ直ぐに見つめ合う一組の男女の姿が映し出されていた。 リョータロウは、ふんと鼻先でせせら笑って、頭の後で両手を組むと、広い肩を竦めながらもう一度大きくため息をつく。 「ったく・・・いつまで待たせるつもりなんだよ」 眉間のしわを更に深くして、サングラス越しにショップの方を振り返った、正にその瞬間だった。 そんなリョータロウの視界の隅に、どこかで見たことのある、ルビーのような赤い髪が映り込んできたのである。 ステーションビルの大型モニターをじっと見つめている、一人の美麗な女性の姿。 吹き付ける潮風に揺られてキラキラと輝く、印象的で美しいルビー色の髪。 染髪した訳でもなく、そんな珍しい髪色をしている人間など、そう滅多にいるものではない。 どこか妖艶な雰囲気を持つ繊細な横顔と、髪の色と同じルビー色をした綺麗な瞳。 しなやかなで美しい造形を持つ肢体を包む、白いショートボレロと、黒いタイトのミニスカート。 「・・・っ!?」 リョータロウは、驚いたようにその黒曜石の両眼を見開いた。 見間違うはずもない。 パイロットスーツ姿では決してないが、その女性は、間違いなく、宿敵とも言うべき、トライトニアのタイプΦヴァルキリー。 メタルレッドのアーマード・バトラー『グィネビア』に搭乗する、識別コード011と呼ばれる、あのセクサノイドだった。 惑星マルタリアに、トライトニアが誇る戦闘兵器がいる。 「何でこんなところに・・・・っ!?」 リョータロウは、思わずそう呟くと、サングラスに隠された黒曜石の瞳を、鋭利なナイフの如く細め、襟元に装着された通信機のスイッチを押したのだった。 低めた声、彼は言う。 「イルヴァ、聞こえるか?リョータロウだ」 その呼びかけに、通信機からは、すぐさまイルヴァからの返答が返ってきた。 『はい、聞こえています』 「ハルカとナナミを連れて、直ぐにセラフィムに戻れ・・・・・タイプΦヴァルキリーがいる」 『・・・・それは、本当ですか?』 「嘘なんかつくかよ。早く行け。もしかすると、他にもヴァルキリーがいるかもしれない。おまえは絶対見つかるな、ハルカもだ。何が目的でこんな所にいるのか、調べる必要がある。とりあえず、俺はこいつを拘束してみる」 『・・・お一人で、大丈夫ですか?』 「俺を誰だと思ってるんだよ?ツァーデ小隊のマキ少尉だぞ。馬鹿にするな」 『・・・・・わかりました、そうおっしゃるなら・・・・従います。お気を付けて』 「ああ、そっちもな。ハルカを頼むぞ」 『了解しました』 イルヴァの刻みの良い返答の後、その通信は途切れた。 通信機のスイッチをオフにして、リョータロウは、鋭い表情をしたままゆっくりと席を立った。 いつでも銃を抜ける体制を取りながら、その足先を、頭上の大型モニターを、じっと見上げている赤い髪のタイプΦヴァルキリー、011に向ける。 モニターに映し出されていた男女が、ルビー色の銀河を背景に、やけに甘いキスを交わし、その下には、映画のタイトルと思しき、『MAIYAH(メイヤ)』という大きなロゴが表示された。 リョータロウは、端整で精悍な顔を鋭い表情に歪め、その映像を何故か感慨深げに見つめる011の直ぐ後方に、足音もなく立ったのである。 この人込みのせいなのか、011は、急激に後方から近づいてきたリョータロウの生体反応を、全く気にしていない様子だった。 ただ、長い睫毛に縁取られたルビーの瞳で、安っぽいメロドラマ風の映画CMを、食い入るように見つめるだけである。 大勢の人々で賑わうステーション広場に、一際強い風が吹き抜けていった。 不意に、晴れていたはずの空の端に、黒い雷雲の影が漂い始める。 この時期のノバーナには、時折、凄まじいスコールが降る時がある。 それは、激しい雷と豪雨を伴う雲が、人々で賑わうリゾート都市に近づいてきている証拠だ。 急速に湧き上がってくる大きな雲の末端が、楕円太陽の光を次第に遮断していき、鈍くなったその光芒に照らし出された011のルビー色の髪が、どこか頼りなさ気に虚空を舞った。 アーマード・バトラー『グィネビア』のパイロットは、思っていたより随分と小柄だ。 だが、それを気にするでもなく、リョータロウは、パーカーの下のホルスターから一瞬で銃を抜き払うと、011のしなやかな背中に、その銃口をぴたりと押し当てたのである。 011は、そこで初めて、背後に立ったリョータロウに気付き、白いボレロを羽織った、なだらかな肩を、驚いたように揺らしたのである。 そんな彼女に向かって、リョータロウは、いつになく鋭い響きのする低い声で、脅すように言うのだった。 「おまえ、トライトニアのヴァルキリーだな・・・・・・何でこんな所をうろついている?」 「・・・・だ、誰!?」 タイプΦヴァルキリーとは思えない、やけに戸惑った口調でそう聞いてきた011に、リョータロウは、尚も鋭い声色で言う。 「おまえが知る必要はない・・・一つ言うなら、俺はおまえの味方じゃない。おまえは俺の仲間を撃墜した。俺にとっておまえは敵だ」 「え・・・っ?な、何のこと?」 「とぼけるな・・・タイプΦヴァルキリーの急所は知ってる。撃たれたくなかったら、このまま黙って、2ブロック歩け。おまえには聞きたいことがある」 今、歩いているこの通りを抜ければ、もうそこは、ノバーナの海岸線である。 リョータロウが、『ドーラ』に連絡さえすれば、その岬の下まで、すぐに高速艇が迎えにくるはずだ。 ナイフのように鋭い表情をするリョータロウを、011が振り返ろうとする。 その途端、リョータロウの指先が、彼女に押し当てた銃の安全装置を外したのだった。 「振り向くな・・・・・・振り向いたら、撃つ」 その言葉には、明らかな本気が含まれている。 011は、それを敏感に感じとっていた。 今、背後から銃口を突きつけているこの人間は、少なくとも戦闘時の彼女を知っている・・・彼女自身ですら覚えていない、空白の時間を。 声の質から分析すると、まだ、随分と歳若い男性のようだ。 きっと、どこかで、交戦したことがあるのだろう。 だが、その交戦記録すら、彼女のメモリーには残っていない。 本来なら、すぐさま戦闘モードで応戦できようものだが、011は、情緒プログラムと戦闘プログラムを制御する伝達システムに不備があるため、アーマード・バトラーの制御システムに身を置かない限り、戦闘プログラムが起動せず、丸腰状態での戦闘は不可能な個体であった。 アーマード・バトラーでの戦闘後は、その不備のために、全てのシステムが起動せず、彼女は常に、戦闘時のメモリーを消去されている。 したがって、彼女には、アーマード・バトラー戦の記憶がまったく残っていない。 それが、011が、欠陥品と言われる所以であり、011自身もまた、自らのその不具合は良く知っていた。 こんな状況に際してまで、情緒プログラムのみで行動しなければならない011のシステムには、人間が感じるものと同じ”恐怖”が生じている。 011は、怯えたように綺麗な眉根を寄せ、肩越しにちらりと背後を見やると、ブーツのかかとを鳴らしてゆっくりと歩き始めた。 震える両手で、自らの身体を抱き締めた011のルビーの瞳が、ふと、背後を歩く青年、リョータロウ・マキの胸元あたりを顧みる。 彼の羽織るパーカーが、突風に煽られてふわりと広がった。 その隙間から見える、引き締まった広い肩にはホルスターが下げられている。 011の優れた視覚センサーは、そこに刻まれていた青い六芒星のマークを、決して見逃さない。 「・・・ガーディアンエンジェル・・・っ!?」 「それがどうした?言っただろう、俺はおまえの味方じゃない」 相変わらず鋭い口調でそう言いながらも、リョータロウは、011に対して少なからず違和感を覚えていた。 タイプΦヴァルキリーの戦闘能力は、アーマード・バトラーに搭乗する時以外でも、格段に優れているはずだ。 それは、以前、高速戦艦ケルヴィムで見た、イルヴァの戦闘風景によって明白に証明されている。 だが、何故、このタイプΦヴァルキリーは、全く無抵抗なのか。 両腕に装備されているあの高エネルギーレーザーブレードで、いつ反撃されてもおかしくないはずなのに。 『グィネビア』のパイロットであるはずのこのヴァルキリーは、反撃してくるどころか、まるで、それこそ普通の女性のように、無抵抗なまま怯えて肩を震わすばかりだ。 ブルーのサングラスの下で、ふと、怪訝そうに黒曜石の瞳を細めると、リョータロウは、彼女に銃を突きつけたまま、警戒を解かぬ物腰で低く鋭く言うのだった。 「どうして抵抗しない?おまえは、タイプΦヴァルキリーのはずだ?それとも、それは演技か?だったら大したもんだな」 「違う・・・っ!あの、私・・・本当に・・・抵抗なんてできない・・・私、欠陥品だから・・・バトラーに乗らないと・・・戦闘なんてできない・・・・・・戦闘時のメモリーも全部、消去されてて・・・いつ、ガーディアンエンジェルと交戦したかも・・・わからない・・・」 戸惑いを隠せないまま、そう言った011の美しい髪が、生暖かい突風の中で乱舞した。 恐怖と困惑のうちに紡がれた011の言葉に、リョータロウは、驚いたように広い肩を揺らして、凛とした眉を怪訝そうに眉間に寄せた。 「なに・・・・?」 011の背中に銃を突きつけたまま、ショータロウの足は、既にノバーナのセンター街を抜け、瑠璃色の海を見渡せる良く整備された岬の端へと辿り着いていた。 強風が吹き抜ける石畳の上に、上空から黒い雲の影がかかり始め、岬にいた観光客達が、慌てふためいた様子で次々とセンター街へと駆け込んでいく。 晴れていた空はいつの間にか鋼色に染まり、大気を覆い尽くすように広がった暗雲の最中に紫色の雷光が閃いた。 茶色に染められたリョータロウの髪が、強い風に煽られて激しく揺れている。 011は、ふくよかな唇を不安そうに引き結び、そんな彼を振り返ろうとした、正にその瞬間だった。 生木が裂けるような甲高い轟音が辺りに響き渡り、鋼色の空の中心に、眩い閃光を上げた高電圧の凄まじい雷が走り抜けたのである。 初めて目にする雷に殊更慄いたのか、011は、ルビーの瞳を大きく見開くと、両手で頭を抱え込んで、驚くほど大きな悲鳴を上げたのだった。 「い、いやぁぁぁ――――――――――っ!!!」 背中に銃を突きつけられていることなど忘れたかのように、彼女は、崩れるようにしてその場にうずくまる。 あまりにも過剰なその反応に、面食らったリョータロウが、思わず、構えていた銃を下ろした。 「な、なんだおまえ・・・・・戦闘用セクサノイドのくせに、雷が怖いのか?」 011は、もはや、そんな問い掛けにも答えられない程激しく怯え、まるで、幼い子供のように震えながら、しなかやかな肢体を丸めて、両手で頭を覆い隠したのだった。 リョータロウは、ますます怪訝そうな顔つきをして、011の頼りない背中をまじまじと見つめ、片手でサングラスを外して、それを胸のポケットに押し込んだのである。 これが演技だったら、本当に大したものだ・・・そんなことを思いながら、リョータロウは、警戒を解かない鋭利な物腰で、ゆっくりと地面に片膝を着く。 通信機のスイッチを入れるが、この雷のせいか、既に回線が不通になっている。 苦々しい顔つきのまま、チッと軽く舌打ちすると、リョータロウは、もう一度、011の背中に声をかけるのだった。 「おい・・・おまえ、それは本気で・・・」 リョータロウが、そう言いかけた時だった、再び、辺りに眩い閃光が走り抜け、その僅か後、先ほど以上の凄まじい轟音が、ノバーナの市街地全体を震わすように響き渡ったのである。 「きゃぁぁぁ―――――――――・・・・・っ!!!」 再び大きな悲鳴を上げた011が、その綺麗なルビーの瞳に薄らと涙を浮かべ、咄嗟にリョータロウを振り返った。 リョータロウは、機敏な仕草で銃を構え直し、そんな011に銃口を向けるが、もはや彼女には、それすらも見えていない。 鋭い表情で引き金に指をかけたリョータロウの胸元に、大きく両腕を伸ばした011のしなやかな肢体が一瞬にして飛び込んでくる。 引き金を引こうとしたリョータロウの指が咄嗟に止まった。 「!?」 宝石のように輝く赤い髪がふわりと揺れ、伸ばされた白い両腕が、リョータロウの広い背中をぎゅっと強く抱き締める。 そのとたん、Tシャツの胸に綺麗な頬を押し当てた011の瞳から、きらきらと輝く涙が溢れ出したのだった。 恐怖で怯える彼女の涙に驚愕して、リョータロウは、前髪の隙間から覗く黒曜石の瞳を大きく見開いてしまった。 タイプΦヴァルキリーが涙を流すことは、ソロモンに聞いて知ってはいたが、まさかこんな状況で、それを目の当たりにするはめになろうとは。 リョータロウは、僅かばかり動揺しながら、なんとも言えない複雑な表情で、凛とした眉を眉間に寄せたのである。 思わず動きを止めたリョータロウに、しっかりとしがみついたまま、011は、そのしなやかな肢体を小刻みに震わせたのだった。 そんな彼女の身体には、人間と同じ暖かな体温がある。 見ただけでは、普通の女性となんら変わらない。 彼女は、本当に雷に怯えているのだ。 それを確信した瞬間、リョータロウは、なにやらバツの悪そうな顔をして、構えていた銃を下ろすと、安全装置をかけ直したのだった。 Tシャツ越しに感じる、機械とは思えないほどの優しい温もりと、やけにリアルな胸の感触。 精悍な頬を思わず赤らめて、リョータロウは、狼狽えた様子で乱暴に言う。 「一体、何なんだよおまえ!?本当に、あの赤いアーマード・バトラーのパイロットなのか!?」 「ごめ・・・ごめんなさい・・・っ、私、私・・・・っ」 011は、嗚咽するように肩を揺らし、美麗な顔を怯えた表情で満たしたまま、涙で濡れたルビー色の人工眼球で、真っ直ぐにリョータロウの顔を仰ぎ見た。 その時、ひどく困ったような、しかし怒ったような、そんな複雑な表情をする彼の頬に、大粒の雨が当ったのである。 鋼色の空に雷光が煌き、にわかに、辺りには、バケツをひっくり返したような土砂降りの雨が降り始めた。
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