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作品名:NEW WORLD〜第二序曲〜 作者:月野 智

第4回   【ACTT 惑星マルタリアの一隅】4
          *
マルタリアの首都セネルリアにあるユニバーサル・レイルウェイ・ステーションには、厳重な警戒態勢が敷かれていた。
非公式とはいえ、トライトニアの要人が到着したばかりだ、制服姿のガードマンが、厳しい顔つきのまま、あちらこちらに立って不審者の警備に当っている。
その光景を横目に、ステーション広場のベンチにすわり、モバイルパソコンを叩いている一人の男の姿があった。
一見、極普通の観光客のようないでたちだが、その瞳だけは、何故か、ナイフのように鋭利に、そして爛々と輝いていた。
小さなモニター画面にひっきりなしに流れてくるのは、トライトニアの大統領子息、ジェレミー・バークレイに関する情報である。
現在、何名のSPを連れているのか、これから何処へ向かうのか、その経路と宿泊先、そしてスケジュール。
「ふん・・・相変わらず、豪尽な連中だな、バークレイ一家の腐れども」
不愉快そうに鼻を鳴らし、男は、モニターの画面をメール送信画面に切り替える。
無骨な指先が、小さなコンソールパネルを素早く叩いた。

『トライトニアはアルベータ装甲のライセンス交渉に入る模様。リヴァイアサン発動』

男の唇が、ニヤリと笑った。


           *
それは、マルタリアのリゾート都市ノバーナの水平線から、楕円形の太陽が昇り切った頃の事だった。
ノバーナの市街地から少し離れた海沿いにある高級ホテルの一室で、惑星トライトニアの大統領子息にして秘書官であるジェレミー・バークレイは、ガウン姿のまま、広いバルコニーから、瑠璃色に輝く海洋を思惑有り気に眺めやっていた。
ユニバーサル・レイルウェイと呼ばれるマルタリア独自の路線には、首都セネルリアからこのノバーナまでを、僅か45分で結ぶ超高速特急が走っている。
アルベータ装甲のライセンス取得交渉に臨むトライトニアに外交団が、このノバーナに到着したのは、今日の午前一時頃のことだった。
会談相手である、惑星マルタリアの国家主席イズミルは、今、このリゾート都市で公務中とのことだが、その実、ただの乱交遊びであることぐらい、トライトニアはとっくに調査済みだ。
だからこそ、この時期を狙って非公式協議を無理矢理に取り付けたのである。
どこまで強欲でだらしない男なのかと・・・バークレイは心中で悪態をつく。
だが、金銭に対しても色に対してもとてつもない欲があるなら、そこを突付くのが一番手っ取り早いのもまた然り。
白い指を細い顎にあてがいながら、灰色の瞳を僅かに細めたその時、バークレイの背後で、部屋の扉が静かに開いたのだった。
「お呼びでしょうか、バークレイ秘書官」
漣の音だけが響く広い室内に、艶のある低い声が静かに響き渡り、ふと、背後を振り返ったバークレイの瞳に、すらりとした長身の涼麗な青年の姿が飛び込んでくる。
窓辺から吹き込んだ潮風に揺れる金色の髪と、その長い前髪から覗く冷静で冷淡な金色の瞳。
それは、タイプΦヴァルキリーと呼ばれる男性体セクサノイド、07の姿であった。
そして、そんな彼の背後から、ルビーのような赤い髪を揺らしながら、美麗で妖艶な女性がゆっくりと足を踏み入れてくる。
07と同じ、タイプΦヴァルキリーである女性体セクサノイド011だ。
011は、なにやらきょとんとした顔つきをして、バルコニーに立つバークレイの顔を、その美しい人工眼球で真っ直ぐに見つめ据えた。
容姿端麗な二体のセクサノイドを顧みながら、バークレイは、薄い唇で思惑あり気に微笑して、緩やかな歩調で彼等に歩み寄る。
蛇の目のような鋭さを持つ灰色の瞳で、静かに07の端整な顔を仰ぎ見ると、次期トライトニア大統領になるはずの野心ある青年は、徐にその口を開くのだった。
「イズミル国家主席との晩餐会、午後五時からだ、それまでは、好きに過ごすといい・・・会談は明日の朝だ。それまでに自分が何をすべきか、君はもう、判っているな07?」
「はい」
 07は、揺れる前髪の下で金色の瞳を僅かに細めて、冷静な顔つきのまま短くそう答えた。
 だが。
 その拳が、どこか悔しそうに握り締められたことを、傍らに立つ011だけが気付いていた。
07は、極めて理性的で冷静な性格のセクサノイドだ。
その戦闘能力は、現在トライトニアが保有するタイプΦヴァルキリーの中でも群を抜いて秀でている。
ヴァルキリー部隊の隊長機、『オーディン』を任されているのはそのためだ。
しかし、バークレイは、このタイプΦヴァルキリーに関して、非常に重要なことを全く理解していなかった。
それは、タイプΦヴァルキリーには、人間に近い感情があるということだ。
理性的で冷静で、冷淡にも見える07にも、確かに感情というものが存在している。
それは、人間の青年とさして大差のないものだ。
それでも、バークレイにしてみれば、セクサノイドなど所詮機械に過ぎない、ただの道具の一つでしかないのである。
だから気付きもしないのだ。
07が、今、どれほどの悔しさをその胸中に秘めているかなど。
マルタリアに着く寸前、シャトルの中でバークレイから言われた言葉を、07は全て理解していた。
それに逆らうつもりもない。
命令は、絶対だ。
07は、形の良い眉を軽くしかめて、静かに瞳を閉じた。
そんな彼の苦悩に気付くでもなく、バークレイは、どこか満足そうにほくそ笑むと、その灰色の瞳を、07の傍らにいる011に向けたのだった。
「さて・・・少し厄介なのは君の方だな、011。君はちゃんと理解しているのかい?今回、私が君をここに連れてきた理由を?」
「は、はい・・・・」
僅かばかり躊躇いがちにそう答えて、011は、ふとその綺麗なルビーの瞳を、上質の絨毯が敷かれた床へと落としたのだった。
そんな彼女の様子を、実に蔑んだ視線で見やりながら、バークレイは、唇の角を底意地悪く吊り上げながら言葉を続ける。
「絶対に、イズミル国家主席の機嫌は損ねるなよ・・・この意味がわかるな?」
「はい、それは・・・・」
「ただ、人間の男とセックスするだけだ。それだけで全ては上手く運ぶ。君はまるで子供のようだから、くれぐれもイズミル閣下に抵抗などしないでくれ、わかったな?」
「・・・・・はい」
その言葉の意味を、半分は理解し半分は理解できないままそう答えて、011は、小さく小首を傾げたのだった。
所詮彼等は機械だ、人間の命令を聞かないはずが無い。
そう高を括(くく)っているバークレイは、何故、012と呼ばれるセクサノイドが裏切り行為を働いたのか、その理由を、ただの不良品であったからだと、実に軽く受け取っていた。
セクサノイドなど、所詮は捨て駒、ただの道具に過ぎない。
だがこの時、バークレイはとんでもない誤算をしていたのだ。
タイプΦヴァルキリーと呼ばれるセクサノイドには、人間と同じ感情がある。
その感情を軽視したことが、そもそもの誤算の原因であった。
ハイティーンの少女のような011が、その誤算をさらに助長させるきっかけを作るのは、もうまもなくのことである。





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