* アルキメデス軍総司令本部の広大な敷地には、激しい攻防を繰り広げていた戦闘機の残骸が、鉄の塊となって無数に散乱し白い煙を上げている。 焦げ臭さとオイル匂いが充満する広大な滑走路には、二隻の巨大戦闘空母と、一隻の戦艦、そして大型輸送船が着陸し、その周りでは、多くの救護兵や船員達が、救護ボックスを持ってひっきりなしに走り回っていた。 ガーディアンエンジェルの船に乗船する者たちは、敵も味方も関係なく、負傷者は出来る限り救護するという組織の意向に基づいて行動しているのだ。 アルキメデス反乱軍に拘束されていた旧政府の要人も全て解放され、その支持者達も、生存者の救護活動に勤しんでいる。 その最中を、医療用カーゴ・エアトラックが、猛スピードで通り過ぎていった。 宇宙戦闘空母セラフィムに搭乗している看護士数名と、医師ウルリカ・クレメノフ、そして救命カプセルを乗せたその白い車体が、セラフィムのサイドデッキにある大きな装甲扉の中へと吸込まれ、そのまま、メディカルセクションに繋がる大型エレベーターの中で停車する。 「出血止まりません・・・血圧、低下しています」 カーゴの中で、救命カプセルのモニターを見つめていた看護士リリカ・ランベルトが、渋い顔つきをして傍らで処置をするウルリカを振り返った。 「直ぐに緊急手術、オペ室に連絡して」 「はい!」 厳しい顔つきでそう言ったウルリカに、もう一人の看護士、ミサキ・ナガハマが刻みよく答え、その手にはすぐさま通信機が握られる。 カーゴに同乗するトーマ・ワーズロックが、医師ウルリカの肩越しに、救命カプセルの中に横たわったまま、鮮やかな赤毛の下で長い睫毛を伏せて、身動ぎもしないショーイ・オルニーを、呆然とした無表情で覗き込んでいた。 精悍で端整なトーマの顔が、蒼白になっているのは決して気のせいなどではない。 その大きな手には、深紅に染まったショートローブが強く握られ、焦茶色の髪の下から覗く紺色の瞳は、ひどく悔しそうに歪んでいる。 トーマは、いつになく緊張した面持ちで、ショーイに懸命な救命処置を施すウルリカに訪ねるのであった。 「・・・・助かりますよね・・・・絶対、死にませんよね・・・・死ぬ訳、ないですよね」 その低い声には、いつもの豪胆さなど微塵も伺えず、ただ、こみ上げる悔しさと、瀕死の兄に何もしてやれないという苛立ちが、そこはかとなく漂うだけである。 ウルリカは、冷静な視線でトーマの長身を振り返ると、落着き払った口調で答えて言うのだった。 「最善は尽くすわ・・・後は、もう、彼の生命力にかけるしかない。傷は完全に心臓をかすって腹部に達してる、他の臓器にも出血が認められる、予断は許されないわ」 エアトラックを乗せた大型エレベーターが、F第三ブロックの手術室に到着すると、ショーイが横たわる救命カプセルは、待機していた医療スタッフによって、迅速に運び出されていく。 それに続くように、ウルリカと看護士たちが、手術室に走りこんで行った。 トーマは、開いたエアトラックのゲートから床の上に飛び降りて、ぎゅっと唇を噛締めると、眼前で閉まるオート・ドアを見つめながら、悔しさに震える拳を強く握り締めたのだった。
* 惑星アルキメデスの首都プラトンに、静寂の夜が訪れた。 三つ巴となっていた激しい戦闘は、トライトニア艦隊の全滅と、反乱軍総司令官の拘束で、一応の終結を迎えていた。 だが、アーマード・バトラー『オーディン』に中枢コンピュータが破壊されたことで、アルキメデスの全ての機能が麻痺し、宇宙の頭脳の完全復旧には、まだまだ時間を要するだろう。 地平線に太陽が沈む頃になっても、セラフィムのコントロールブリッジは、まだ休むことを知らない。 反トライトニア・テロリスト、デボン・リヴァイアサンの主催者、マルティン・デボンの身柄は拘束したが、その構成員を全て拘束できた訳でもなく、一部の反乱軍兵士も、未だ抵抗を続けている状態だ。 何があっても対処できるよう、ブリッジオペレーター達は、最善の注意を払って計器やモニターのチェックに従事しなければならない。 艦長席で戦闘データをまとめていたレムリアス・ソロモンの元に、メディカルセクションから連絡が入ったのは、アルキメデスの太陽が、完全に地平線に沈んだ時のことであった。 重症を負ったショーイの緊急手術が無事に終ったと、直接、医師ウルリカが伝えてきたのだ。 労いの言葉と共に通信を切ったソロモンは、シルバーグレイの軍服を纏う肩で大きく息を吐くと、厳しかった表情を、ほんの僅かに緩めて、組んでいた長い足をゆっくりと組替えたのである。 そして、徐に席を立つと、ワンセクション下にあるオペレーターセクションに向かって、静かに言うのだった。 「通し勤務の者は、非番の者と交代して上がってくれ。他の者は、各自交代で休憩を取れ。俺も少し席を外す、何かあったら直ぐにコールしてくれ」 「イエッサー!」 40名のオペレーターが、一斉にソロモンの言葉に呼応した。 戦闘状態からずっとブリッジにいたオペレーター達が、安堵の息をつきながら、ゆっくりと席を立っていく。 主任オペレーター、オリヴィアも、通信オペレーター、ルツ・エーラも、そしてナナミ・トキサカも、一様に大きく息を吐いて静かにブリッジのオート・ドアへと歩き出したのだった。 その時ふと、艦長席から、ソロモンがルツを呼び止めたのである。 「ルツ、疲れているところ申し訳ないが、少し付き合ってくれないか?」 ルツは、驚いたように肩を震わすと、きょとんとした顔つきをして艦長席を見上げた。ソロモンは、そんな彼女に向かって、端整な唇で柔和に微笑してみせたのだった。
* 「あの、艦長・・・・失礼ですが、どうして私が、オルニー船長のお見舞いに来なければならないんですか?」 メディカルセクションのER前で、艶やかな褐色の肌に彩られた綺麗な顔を少々不満そうに歪め、ルツは、傍らに立つソロモン優美な横顔をゆっくりと見上げたのである。 ソロモンは、そんなルツの肩を片手で軽く叩くと、やけに穏やかに、しかし、どこか切なそうに微笑(わら)い、落着き払った口調で答えるのだった。 「君は、ショーイの様態を聞いて、心配にならなかった訳じゃないだろう?ルツ?」 「そ、そ、それは・・・っ!た・・・・確かに、そうですけど・・・・っ」 いつものルツらしくなく、なにやらもごもごとそんな返事を返すと、大きな黒い瞳が、まじまじとソロモンの顔を見つめすえる。 ソロモンは、自らの長い銀色の髪を軽くかき上げながら、僅かばかり困ったように眉を寄せて、静かに言葉を続けたのである。 「ショーイは、昔からひどい天邪鬼で、大抵の人間に、妙な勘違いをされる・・・・だが、あれで、本当はとても根が優しい」 「・・・・あの、艦長・・・すいません、一体、何が仰りたいんですか?」 ルツは、何ともソロモンの意志を汲めない様子で、怪訝そうに蛾美な眉を寄せると、柔和な表情をする上官の優美な顔を、穴があくほど凝視してしまう。 もう一度穏やかにに端整な唇をもたげると、ソロモンは、何をも答えずに、ERのオート・ドアを開いたのだった。 すると。 そこには、ベッドの傍らのソファに神妙な顔つきで座るトーマと、酸素マスクを付けた状態でベッドの上に横たわる、ショーイの姿があったのである。 点滴の管が通された白い腕。 その枕もとに置かれた生体モニターが、小さな電子音を上げながら脈拍と心拍数を刻んでいる。 ルツは、複雑な表情をして肩を揺らすと、ソロモンの横顔を仰ぎ、その視線を、もう一度、ベッドの上のショーイに向けたのだった。 ゆっくりと、どこか恐る恐るベッドに歩み寄ったルツに、ソファに座っていたトーマが、静かに振り返る。 トーマは、少しだけ疲れたように微笑すると、胸元で両手を握り合わせながらそこに立ったルツを、焦茶色の髪の下から覗く知的な紺色の瞳で、真っ直ぐに見つめすえた。 そして、どこか力ない声でこう言ったのである。 「・・・大丈夫だよ、そう警戒しなくても。今日のショーイは、君の機嫌を損ねるような事を言える程、元気はないから。ルツ・エーラくん」 トーマの容姿は、ショーイとは全然似ていないのに、ルツを見つめるその知的な紺色の瞳だけは、本当にショーイとそっくりだった。 ショーイとは対照的な、人懐っこい微笑を浮かべるトーマを見て、ルツの心は、何故かひどく痛んだのである。 そんなルツの後ろに立っていたソロモンが、柔和な表情のまま、トーマに向かって静かに言う。 「昨夜からずっと暴れてたんだ、いくらタフなおまえでも、流石に堪えてるだろ?トーマ?それに・・・・今回の一件、おまえが責任を感じる必要はない・・・ゲストルームが空いている、少し休め」 ソロモンの言葉通り、いささか疲れが見えるトーマの紺色の瞳が、焦茶色の髪の下でゆっくりと、巨大戦闘空母の艦長に向き直る。 トーマは、困ったように眉間を寄せて、唇だけで小さく笑った。 「・・・ソロモン艦長には、全部お見通しか・・・・・・でも、ほら、こいつ、案外寂しがりだがら、誰かついててやらないと泣き出すから・・・自分、此処にいますよ」 冗談とも本気とも付かない口調でそう答えると、トーマは、再び、唇だけで小さく微笑する。 その時、ベッドの上のショーイをじっと見つめていたルツが、その視線を逸らさないまま、やけに落ち着いた声色でトーマにこう言ったのだった。 「艦長の言う通り、どうぞ、休んでください・・・これから非番なんで、私が付き添いますから」 余りにも意外なその言葉に、トーマは、きょとんと目を丸くして、凛と強い表情をするルツの横顔を、まじまじと見やってしまう。 「え?いや・・・嘘、マジ?マジで言ってる?」 「言ってます」 ルツは、怒ったような照れたような、そんな複雑な表情で、きょとんとするトーマを振り返った。 思わず返答に困ったトーマが、まるで、助けを求めるようにソロモンを顧みた。 ソロモンは、輝く銀色の髪を微かに揺らして小首を傾げると、ひどく穏やかに微笑したのである。 その微笑に隠された彼の意図を汲み取ったのか、トーマは、白いショートローブを纏う肩を竦め、ふうっと大きく息を吐くと、片手を焦茶色の髪に突っ込んで、徐にソファを立った。 相も変わらず人懐っこい表情で、トーマはソロモンに言う。 「やっぱり、艦長には敵いませんね・・・・・」 ソロモンは、傍らに歩み寄ってきたトーマの背中を軽く叩くと、端整な唇の角を穏やかにもたげながら、言葉を続けた。 「いや、ギャラクシアン・バート商会の豪胆さには、俺だって負けるよ」 「よく言いますよね!」 トーマは、どこか安堵したように、いつになくあどけなく微笑むと、肩越しにルツに振り返り、おどけた調子で言うのだった。 「じゃぁ、お言葉に甘えて・・・ショーイのこと、よろしく頼むね、ルツ・エーラくん」 「あの、その呼び方やめてもらえますか?」 ルツは、怒ったように蛾美な眉を吊り上げると、トーマの笑顔を顧みながら、そんな答えを返してくる。 オート・ドアに向かって静かに歩み出したトーマは、少々困ったように眉根を寄せて、「あ、ごめん」と、素直に謝ったのだった。 そんなやり取りを聞いて、愉快そうに口元を緩めたソロモンもまた、ルツに向かって言うのである。 「ルツ、俺からも宜しく頼む。何かあったら、呼んでくれ」 「イエッサー」 刻みの良いルツの返答と共に、ソロモンと、そしてトーマは、未だベッドで瞳を伏せているショーイを気にかけつつも、静かにERを後にした。 ルツは、そんな二人の長身を肩越しに見送ると、ふうっと一つ息をついて、ベッドの隣に設置されたソファに腰を下ろす。 そして、ワイン色の制服の脱ぎ、それを肘掛にかけると、膝に頬杖を付きながら、なんとも表現しがたい複雑で切ない心情で、長い睫毛を伏せるショーイを見つめたのだった。 ルツの黒い瞳の中で、ショーイの鮮やかな赤毛が白いシーツの上に広がり、細身だが決して華奢ではないその胸が、一定の間隔で上下している。 だが、その呼吸は、少し苦しそうだ。 白皙の肌が青ざめている。 サイドテーブルのモニターに表示されているショーイの怪我は、決して軽い物ではない。 ルツは、そんなショーイの様子を複雑な表情のまま、もう一度、小さくため息をつく。 赤毛が映える知的で繊細な頬と、均整の取れた鼻筋、伏せられた長い睫毛。 嫌味で皮肉屋で、高飛車で傲慢じゃなければ、ショーイ・オルニーは、本当に佳い男なのに・・・と、ルツは、心中でそんな悪態をついてみる。 考えてみれば、こうして実物のショーイに会うのはこれが初めてだった。 いつもモニター越しに会話しているため、そんな気はしていなかったのだが・・・実物を目の前にすると、なんだか奇妙な感覚にとらわれてしまう。 一体、何故、ソロモンが自分をこうしてERによこしたのか、さっぱりその意図はわからないが・・・・ 瞳を閉じたまま身動ぎもしないショーイをしみじみと眺めやり、ルツは、三度、その肩でため息をついたのだった。 「嫌味で高飛車な口をきかない貴方は、オルニー船長じゃないみたい・・・・」 ルツが、そんな独り言を呟いた時・・・不意に、ショーイの唇が、酸素マスクの下で微かに動いたのである。 「?」 怪訝そうに眉根を寄せながら身を乗り出すと、ルツは、咄嗟に、銀のピアスを飾った片耳を、ショーイの口元に寄せたのだった。 「・・・・・・さん・・・・・・・・僕が・・・・・・・いる・・・・だけじゃ・・・・駄目なの・・・・? お・・・母さん・・・・・・・・・・・・・にしない・・・・・・・で・・・・・僕・・・・を一人に・・・・しない・・・で・・・・」 ルツは、驚いたように両目を見開いた。 『僕がいるだけじゃ駄目なの?お母さん、僕を一人にしないで』 今、彼は、確かにそう言った。 荒い息の中で、途切れ途切れに紡がれたその言葉は、まるで幼い少年のような言葉であった。 もしかすると、今、彼は、少年時代の夢を見ているのかもしれない。 だが、その言葉が意味するものは、決して幸福な思い出とはいえないものだろう。 荒い息の中で紡がれた言葉は、幸福には程遠い、寧ろ、とても哀しい響きを持つものだ。 ルツは、思わず、ベッドの端に両手をついて、黒い瞳を瞬きさせながら、真っ直ぐにショーイの顔を覗き込む。 伏せられた長い睫毛の合間から、一筋、小さな涙が青ざめたその頬を伝って白いシーツに零れ落ちた。 点滴が刺された腕が、小さく動く。 白く長い指先が、何かを求めるように小さくもたげられた。 「・・・・・しないで・・・・・・・一人に・・・・・しないで・・・・・・」 酸素マスクの下で、哀しそうに響くその声が、ルツの心に鋭い痛みを走らせる。 その姿は、いつものあの高慢で高飛車な彼の姿では決してない。 この青年は、一体、どんな少年時代を過ごしてきたのだろうか? うわごとで「一人にしないで」と言うほど、孤独な子供時代を過ごしていたのだろうか? そんな事を思った時、ルツは、切なそうに蛾美な眉を寄せて、もたげられたショーイの手をぎゅっと強く握ったのである。 「そんな貴方は・・・・貴方らしくないわよ、オルニー船長・・・・しっかりしてよ。こっちが本物だなんて言ったら、詐欺罪で訴えてやるから・・・っ」 口にした言葉とは裏腹に、ルツの表情は、ひどく切なそうに歪んでいた。 高く結った艶やかな黒髪が細い肩から零れ落ちて、血色の悪いショーイの頬をふわりと撫でる。 その時、鮮やかな赤毛の下で、ショーイの長い睫毛が微かに揺れた。 それに気付いたルツが、綺麗なその顔を彼の鼻先辺りまで寄せて、もう一度、ぎゅっと手を握り締めたのである。 「オルニー船長?聞こえますか?オルニー船長?」 まるで、その声に反応したかのように、ショーイの瞳がゆっくりと開いていく。 麻酔のせいでぼんやりとしている紺色の瞳。 広い額から零れた赤毛の髪束が、音もなくその耳元に零れ落ちる。 ルツは、黒い瞳を丸くすると、安堵したように息を吐き、ひどく穏やかに微笑んで、もう一度彼の名を呼んだのだった。 「オルニー船長?気付かれましたか?ここは、セラフィムのERです。安心してください」 「・・・・・・・ルツ・・・・・エーラ・・・・・・・・くん?」 ショーイは、酸素マスクの下で荒く息をしながら、ルツに対するいつもの呼称を口にした。 まだ、思考回路が鮮明にならない。 だが、ぼんやりと霞む彼の視界の中で、いつも仏頂面しか見せてくれないセラフィムの通信オペレーターが、いつになく柔らかに微笑んでいる。 「先生を呼びます、あと、トーマさんも。とても心配そうでしたよ。艦長も貴方の容態を気にしてました。今、コールしますから、少し待って・・・・」 「・・・・笑ってる・・・・」 ルツの言葉を遮るように、ショーイは、酸素マスクの下でそう言った。 まだ、ぼんやりとしているその表情。 「え?」 驚いたように肩を揺らし、ルツは、そんなショーイの顔をまじまじと見つめ据えてしまう。 「・・・・・・・本当は・・・・・・・・・・・そういう・・・君の顔・・・・・見て、みたかったんだ・・・・・・・」 掠れた声でそんな言葉を紡ぐと、ショーイは、いつもの嫌味な微笑ではなく、本当に、極自然な、まるで少年のようにあどけない微かな笑みを、その知的で薄い唇に浮かべたのだった。 「!?」 一瞬、我が耳と目を疑いながらも、ルツは、思わず、艶やかな褐色の肌に彩られた秀麗な頬を赤らめる。 「な、な、何を言っているんですか・・・・っ!?」 その答えの代わりに、ルツの手を軽く握り返すと、彼は、長い睫毛をゆっくりと伏せ、再び、深い眠りの縁へと落ちていったのである。 「・・・・・・なっ・・・・・な・・・・な・・・・な、にっ?い、今の・・・・・なにっ!?」 ルツは、ショーイの手を握ったまま、あからさまに狼狽し、黒い瞳を盛んに瞬きさせながら、先ほどより穏やかになった彼の寝顔を、ひたすら見つめ据えたのである。 それは、平穏を取り戻したアルキメデスの空に、宝石箱をひっくり返したような星空が瞬いた夕べの出来事であった。
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