* 離陸体制から旋回したレイバンT−5の風防越しに、アルキメデス行政総本部が倒壊する壮絶な光景を見て、リョータロウ・マキの黒曜石の瞳は、研ぎ澄まされたナイフの如く鋭利に発光した。 「あの野郎・・・・!!」 リョータロウは、苦々しく眉間を寄せながら、操縦桿を倒すと、機首70度で、高高度から、ゴールドメタリックのアーマード・バトラー『オーディン』に向かって一気に急降下していったのである。 レーダーレンジには、セラフィムがアルキメデスに降下してきたことを知らせるカーソルが点滅しているが、今は、それを気に止めている時間はない。 左右に揺れる照準レンジでオーディンを捉え、ミサイル発射ボタンに指をかけた時、リョータロウの耳に、リニウスの女性パイロット、フレデリカの声が響いてきたのだった。 『R―3からT−5へ!私はこいつの正面にまわる!後ろを取って!!』 青い空に湾曲した線を描くリニウスR(エレ)―3の深紅の機体が、アルキメデス行政総本部の上空を、オーディンに向かって超音速で駆け抜けていく。 「R―3!気を付けろ、そいつのクラッシャーブレードは厄介だぞ!」 『ご忠告有難う』 フレデリカは、鼻先で笑ってそう答えると、リニウスを180度ロールで急旋回させながら、『オーディン』の真正面へと機首を向けた。 同時に、T―5の照準レンジが赤く点滅し、大きくロックオンを表示する。 風防でみるみる大きくなっていくオーディンの姿。 リョータロウは、凛と鋭く両眼を閃かせ、ミサイルの発射ボタンを押すと同時に、レイバンの機体を、45度ピッチアップ、180度ロールで急旋回させる。 轟音を上げて発射された6基のミサイルが、湾曲した白い帯を引いて『オーディン』に迫った。 刹那、オーディンの左腕に装備された45mmビームガドリングが、豪速で迫るミサイルに向けられると、その砲門が閃光を上げて無数のビーム弾が発射されたのである。 青く煌く無数の弾丸が、飛び込んできたミサイル弾頭全てを破裂させると、虚空に凄まじい爆音が轟く。 総本部の上空には、沸き立つような白煙が上がるが、それは決して、オーディンが被弾したために上がった煙ではない。 レイバンのミサイルは、全て上空で撃ち落とされたのだ。 リョータロウは、ヘルメットシールドの下で端整な顔を険しく歪め、操縦桿を倒すと、再びレイバンの機首を下げ、オーディンに向かって急加速降下していく。 その有視界で、リニウスR―3がロールしながらミサイルを発射するが、オーディンの右腕から翻されたクラッシャーブレードが、高エネルギー粒子を飛び散らしながら、またしても、その全てを両断し虚空で破裂させてしまう。 大気を震わす爆音が轟き、湧き上がる白煙でレイバンT―5の視界が一瞬遮断された。 オーディンの頭部上方と両脇に装備された80mmビーム砲が、ふわりと青い光粒子を上げ、急降下してくるレイバンと、逆に急上昇していくリニウスに向かって、容赦なく発射される。 同時に、背中に搭載されたミサイルポットが白煙をあげ、10基のミサイルまでも上空に向かって発射されたのだった。 虚空を貫く青い高エネルギービームと、湾曲した白い帯を引く10基のミサイルが、晴れ渡る空を貫くようにしてレイバンT―5に迫る。 レイバンのレーダーレンジが赤く点滅し、コクピットにけたたましい警報音が鳴り響く。 迫るビームの先端を、連続ロール1080度で左舷に回避したレイバンを、今度は、オーディンの右腕から、鞭のように伸び上がるクラッシャーブレードの斬撃が、凄まじい速度で追いかけたのだった。 鳴り止まない警報が、豪胆であるはずのリョータロウを否応なしに緊張させる。 強烈なGにその顔をしかめながら、ブーストコントローラーを踏み込み、機首上昇角60度、180度ロール右ループで急旋回。 その強烈なGを凌いだリョータロウは、音速を越える速度でクラッシャーブレードを急速回避することに成功したのである。 オーディンは地上に立ったまま、ビームの砲門を上空に向けている。 重武装のオーディンは、宇宙空間で見せるような俊敏なスピードは持っていないが、それでも、連続して繰り出される強力な火器は脅威にしかならない。 しかも、レイバンの火器コントロールモニターには、もう、ミサイルの数が残り少ないことを示す警告が赤い点滅で表示されていたのだった。 危険は伴うが、もはや、接近戦で直接オーディンのコクピットを狙うしかない。 「T―5からR―3へ。T―5は、奴の懐に飛び込んで、直接ヴァルキリーを吹き飛ばす。ミサイルの弾数が少ない。援護を頼む」 リョータロウが、レイバンの機首を下げながら、通信機に向かって強い口調でそう言うと、驚愕を隠せないフレデリカの声が、瞬時に通信機から返ってきたのである。 『何言ってるの!?あの「伸びるやつ」を食らうつもり!?』 「遠距離から撃っても、奴は全部防ぎきる、飛び込むしかないだろ!」 『無謀よあなた!?死にたいの!?』 「そんなつもりはねーよ」 そう答えたリョータロウの有視界でリニウスが旋回し、大きなループを描いて後方に追いついてきた。 T―5、R―3の他に、上空にいる機体が次々と降下してオーディンにミサイルを発射するが、連射されるビーム砲と翻されるクラッシャーブレードで、悉く上空で爆破されてしまい、オーディンの機体に傷すらつけることは出来なかった。 オーディンの生体感知センサーが、「攻撃目標である人物」を探してデジタル音を上げ、それに搭乗するタイプΦヴァルキリー07の視覚センサーは、敵機の位置を有視界から確実に捉えている。 勿論、レーダーには表示されないレイバンT―5の機影も、その優れた視覚センサーでつぶさに捉えられていた。 アーマード・バトラー戦を幾度か経験したリョータロウには、それを十分把握している。 リョータロウは、レイバンの機体を軽く左右に揺らしながら、照準レンジでオーディンを捕捉する。 超音速で降下してくるT―5に向かって、オーディンのビーム照準があてがわれた。 T―5の後方を飛行するリニウスR−3のミサイルユニットが轟音を上げ、白煙と共に6基のレーダー誘導ミサイルが発射される。 T―5の脇を豪速で抜け、湾曲した白い帯を描く弾頭が、オーディンの間近に迫ると、振りあがったクラッシャーブレードが、電子音と共に鞭のように伸びてミサイルを破壊し、その青い斬撃は、間髪入れずに三日月型の動線を引くと、T―5と、そして、R―3に向かって翻された。 二機同時、逆方向にロール。 立ち昇る白煙を突き抜けて降下するT―5の機体が、超音速でオーディンとの距離を縮めていく。 「おまえ!うざいんだよ――――っ!!」 思わずそう叫んだリョータロウの眼前で、照準レンジが赤く点滅した。 豪速で戻ってくるクラッシャーブレードを360度ロールで潜り抜けた瞬間、リョータロウの指が、すかさずミサイル発射ボタンを押す。 白煙を上げて発射された6基のレーダー誘導ミサイルが、虚空に湾曲した白い帯を引き、クラッシャーブレードを構え直したオーディンの機体に次々と着弾すると、凄まじい轟音と爆炎が空のしじまに吹き上げった。 その激しい衝撃で、さすがのオーディンも、吹き飛ばされるようにして後方の地面に倒れこんでいく。 砂埃と瓦礫を舞い上げ、総本部の公道を抉りながら地面を滑ったオーディンが、にわかに、三基のビーム砲門をピッチアップしたT―5に向ける。 背中のミサイルポットに弾頭が装填され、オーディンの照準レンジは、デジタル音を上げながら、急上昇していくT―5を間髪入れずにロックオンした。 T―5のコクピットに、敵機にロックオンされたことを示すけたたましい警報が鳴り響く。 T―5のバーニアが青い炎を噴き上げ、その射程を回避せんと更に急上昇していく。 オーディンのビーム砲門に青い粒子が浮かび、一斉に発射された高エネルギービームが空を突き抜けるように迸った。 同時に発射された10基のミサイルが、ロールしながら急旋回したT―5に向かって凄まじい追尾をかける。 強烈なGに肢体を締め上げられながら、リョータロウは、操縦桿を倒し、180度ロール、急上昇でビームの閃光を危うくかわすが、その後方には、ミサイルの弾頭が迫っていた。 けたたましい警報がコクピットに鳴り響く。 湾曲した軌跡を描くミサイルの弾頭は、超音速で空をかけるレイバンの後部に追いすがる。 唇の下でチッと舌打ちし、苦々しく眉間を寄せたリョータロウが、何を思ったか、再び、機首をさげ、急加速急降下でオーディンの元へと突っ込んでいった。 凄まじいGが、端整な顔を厳しく歪めたリョータロウの肢体にかかる。 これ以上のGがかかれば、ブラックアウトか、内臓破裂かそのどちらかになると警告する、超過Gマーカーが眼前のモニターに点灯する。 だが、オーディンのビーム砲は、上空から落下してくるレイバンに容赦なく向けられた。 『マキ少尉!!何してるの!?エアブレーキ!!敵機を撃墜する前に貴方が死ぬわ!!』 通信機から聞こえてくるフレデリカの声に、もはや答える気などない。 照準レンジの中でみるみる大きくなっていく、オーディンの姿。 太陽の残光のように輝くその機体がブースターを噴き上げて、地上から一瞬で上空に舞い上がった。 ビーム砲に青い粒子がふわりと灯り、急上昇してくるオーディンから、甲高い発射音と共に高エネルギーの閃光が迸る。 リョータロウは、唇だけでにやりと笑った。 体が耐えられるぎりぎりのG。 だが、そんなことを気にしている余裕はない、背後からはミサイル、前方からビームの閃光。 180度ロールしたレイバンの機体が、螺旋状の細い雲を虚空に描き、寸前の所でビームを回避すると、その青い閃光は、レイバンの背後に迫っていたミサイルをまんまと大破させたのである。 オーディンは、自ら放ったミサイルを、自らの火器で迎撃する形となったのだ。 エアブレーキ、180度ロール左ループ。 レイバンは旋回して、その照準レンジの中に再びオーディンを捉えるが、オーディンの右腕に装備されたクラッシャーブレードは、その時既に、豪速で翻っている。 「!?」 一瞬、驚愕したリョータロウの眼前に、三日月型に伸び上がる熱線の刃が迫っていた。 鞭のように伸びるクラッシャーブレードが青い残光を引きながら、凄まじい速度で大空を二分する。 僅かな焦りが、戦闘に慣れているはずのリョータロウに、単純な操縦ミスを犯させた。 咄嗟に操縦桿を引き、縦ループを試みたその瞬間、リョータロウの視界が、一瞬にして真っ赤に染まったのである。 何とか一撃目は回避した、しかし、エアブレーキもロールもかけず、宇宙空間と同じように機体を縦に旋回させたため、重力制御システムも正常に稼動していたにも関わらず、急激なマイナスGで眼球の毛細血管が破裂したのだ。 「っ!!?」 所謂、レッドアウトである。 オーディンの腕に戻ったクラッシャーブレードは、間髪入れずに、二撃目を翻している。 豪速で迫る二撃目を避けきれない。 万事休す。 『マキ少尉――――――っ!!!』 フレデリカの叫び声と共に、リニウスから発射された6基のミサイルが、白い帯を引いてオーディンの背後に到達すると、白煙と爆炎を上げてその機体を被弾させた。 だが。 翻された青い斬撃の軌跡は変わることはなく、正確な動線を描いた三日月型のクラッシャーブレードが、既に眼前にある。 リョータロウは、瞬時に機体をロールさせるが、時は既に遅い。 死の覚悟を決めた、その次の瞬間だった。 風防の端に、青い高エネルギー粒子が舞い飛んだのである。 突然、地上から凄まじい閃光が閃き、下方から空を貫いた青いビームの先端が、T―5に迫るクラッシャーブレードの軌跡を悉く歪め、一瞬にしてそれを中和させてしまったのである。 「な・・・に!?」 ピッチアップして急上昇するレイバンのコクピットで、リョータロウは、驚愕して咄嗟にレーダーレンジを覗きこんだ。 レーダーレンジには、地上に高エネルギー反応があることを示すカーソルが点滅している。 その詳細情報を記載したウィンドウがモニターに開き、低下した視力でそれを確認した時、リョータロウは、更なる驚愕に叫びを上げたのだった。 「メイヤ!?」 モニターに拡大されていく地上の画像。 そこには、メタルレッド機体を直立させ、そのビームの砲門を、オーディンに向けていた『グィネビア』の姿があったのである。 強制回線を開き、リョータロウは、すぐさま通信機に向かって叫ぶ。 「メイヤ!何をしてる!?逃げろと言ったはずだ!!」 すると、寸分の間もおかずに通信モニターが開き、そこに映し出された美麗な若い女性が、どこか強い表情をしながら、躊躇いも無くこう答えたのである。 『一緒にガーディアンエンジェルの船に乗るの!だから、リョータロウを死なせるわけにはいかないの!!』 それは、他でもない、ルビー色の髪と瞳を持つタイプΦヴァルキリー、メイヤであったのだ。 「何を言ってる!?早く逃げろ!!メイヤ!!」 リョータロウが、激しい口調でそう叫んだ刹那、被弾しながらも未だ飛行を続けるオーディンのビーム砲が、地上にいる『グィネビア』に向けられたのである。 オーディンに搭乗している07は、この瞬間、メイヤを、裏切り者と見なしたのだ。 強制的に開かれた通信回線から、低く鋭い07の声が、雑音混じりに響いてくる。 『裏切りは許されない、011、おまえを破壊する』 リョータロウは苦々しく眉間を寄せて、180度ロール、180度ループでレイバンをターンさせると、照準レンジの中にオーディンの金色の機体を捕捉したのだった。 「早く逃げろメイヤ!!撃たれる!!メイヤ――――っ!!」 レイバンの照準レンジが赤く点滅し、ロックオンを表示した瞬間、リョータロウは、ミサイル発射ボタンを押し、最後のミサイルをオーディンに向けて解き放ったのである。 白煙を上げて虚空を走る6基のミサイルが、湾曲した白い帯を引きながらオーディンの左舷へと豪速で空を駆ける。 それと同時に、オーディンに搭載された3基のビーム砲が、地上の『グィネビア』に向けて、高エネルギーの青い帯を迸らせたのだった。 「メイヤ―――――――――っ!!」 リョータロウの絶叫と共に、オーディンに着弾した6基のミサイルが、激しい爆音と爆炎を上げ、金色の左腕と左足を引き千切るようにして虚空に吹き飛ばす。 空中でバランスを崩した金色の機体は、白煙の帯を引いて地上へと落下していくが、虚空をかけた三本の青いビームの先端は、『グネィビア』の赤い機体を容赦なく貫き通したのである。 それは、正に一瞬の出来事であった。 『・・・・リョータロウが生きてて・・・良かった』 雑音に混じって、通信機の向こうにいるメイヤは、確実にそう言った。 ビーム砲の高エネルギー粒子を浴び、メタルレッド機体が一瞬にして溶解する。 次の瞬間、僅かに膨らんだその機体が、オレンジの閃光を上げて鈍い爆発を引き起こすと、それは更なる大爆発を引き起こし、天地を震わせる激しい爆音を轟かせながら木っ端微塵に吹き飛んだのである。 轟音と振動が大地を揺らし、地面を抉る衝撃波が総本部の中庭に広がると、轟々と音を上げた朱色の爆炎が青い空を焦した。 「・・・・・メイヤ・・・馬鹿か・・・おまえ?メイヤ―――――――――っ!!」 赤く染まる視界に立ち昇る紅蓮の炎。 リョータロウは、驚愕に両眼を見開いたまま、遠く聞こえる自分の声に軽い眩暈を覚えながら、レイバンの機首を下げたのだった。 必ず迎えに行くと言った。 セラフィムに連れて帰ると、そう約束した。 救ってやれるはずだった。 人間として扱われる環境を、場所を、無邪気なメイヤに与えることができるはずだった。 それなのに。 こんなこと、ありえ無い。 ありえるはずが無い。 救えなかったのか? 彼女を・・・ あのあどけなく、くったくなく笑う、美麗で無邪気なあの・・・・ 「メイヤ―――――っ!!返事をしろ!!メイヤ――――――――っ!!」 怒りとも絶望ともつかない激しい感情に苛まれ、一瞬、我を失ったリョータロウは、レイバンのブーストコントローラーを踏み込むと、地上へ向かって超音速で急降下する。 青い六芒星を掲げるダークブラックの両翼が、螺旋状の白い雲を引き、超過G寸前の速度で爆破ポイントへと迫る。 その時だった。 突然、空を駆けるレイバンの上方に巨大な影が差し掛かり、澱んでぼんやりとしたリョータロウの聴覚に、もう聞きなれた、いけ好かない上官の声が、通信機を通して響いてきたのである。 『レイバン・ツァーデ小隊に通達、全ての戦闘体制は解除された、速やかに戦闘を停止せよ。繰り返す、全ての戦闘体制は解除された、速やかに戦闘を停止せよ。生存者を収容し、ポイントAZ−3308で待機。セラフィムは、これより、着艦体制に入る』 セラフィムの艦長レムリアス・ソロモンの落着き払ったその声が、激昂していたリョータロウを、ふと我に返す。 エアブレーキをかけてレイバンの速度を落としながら、赤く染まった視界で風防の上方を見上げると、そこには、赤いマーカーランプを点滅させた、戦闘空母セラフィムが、着艦体制を取りながら緩やかに降下してきていたのである。
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