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作品名:NEW WORLD〜第二序曲〜 作者:月野 智

第30回   【ACTW プラトンの攻防】5
           *
アルキメデス行政総本部の中枢コンピュータールームに、にんまりと唇をもたげたトーマ・ワーズロックが戻ってきた時には、既に、アルキメデス軍総司令本部に突入していった制圧部隊から、反乱軍司令官拘束との連絡が入っていた。
中枢コンピュータの大型モニターを眺めていたショーイは、片手で眼鏡を押し上げて、赤い髪を揺らしながらゆっくりとトーマを振り返ると、薄く知的な唇をニヤリと綻ばせたのである。
「ご苦労様。反乱軍本部の方も制圧完了だよ」
「これでアルキメデスはまた安泰」
マシンガンを広い肩にひっかけたまま、トーマはそう言うと、傍らに歩み寄ってきたセラフィム・ツァーデ小隊の隊長、アーサー・マクガバンを、ショーイと同じ知的な紺色の瞳で誇らしげに顧みたのだった。
ライオンの鬣のように逆立ったブロンドの髪と、鋭い水色の瞳、生真面目な面持ちを持つ無骨だが精悍な顔立ち。
引き締まって体格の良い肢体を、黒いパイロットスーツに包んだアーサーの背後には、髭面の初老男性が後ろ手に手錠をかけられた状態で、その両脇を、ツァーデ小隊の新人パイロット、ヨアン・ビンチと、トゥーサン・ミシュランに抱えられている。
それはまさしく、反トライトニア・テロリスト『デボン・リヴァイアサン』の主催者であり、惑星アルキメデスに起こった軍事クーデターを影でそそのかした人物、マルティン・デボンであったのだ。
アーサーは警戒したような視線で、未だ蛇のように両眼を閃かせるマルティン・デボンをちらり見やると、その鋭い水色の瞳を眼前のショーイに戻し、生真面目な面持ちで敬礼したのである。
「ギャラクシアン・バート商会の協力に感謝致します。私は、セラフィム・ツァーデ小隊隊長アーサー・マクガバン少佐。オルニー船長、お噂は兼ねがね、リョータロウ・・・いや、マキ少尉から伺っていました」
「いいえ・・・こちらこそ、ツァーデ小隊の手をお借りできて光栄ですよ」
ショーイは、鮮やかな赤毛の下で相変わらず高飛車に微笑すると、冷静な口調で言葉を続けるのだった。
「さて、諸悪の根源を、このまま素直にトライトニアに引き渡すのは癪なので、その方の身柄は、ガーディアンエンジェルで拘束してください。今のアルキメデスは、無政府状態で直ぐに裁判など開けませんからね」
眼鏡の下で閃く紺色の瞳が、アーサーの背後に無表情で立つマルティン・デボンに向く。
その時、マルティンの暗褐色の瞳が獲物を狙う蛇のように発光し、ひどく意味深に笑ったのである。
「ここで私を拘束したところで、デボン・リヴァイアサンの思想は終らぬよ、諸君。
この広い宇宙に、我同志はまだまだいる。どの惑星を潰してでも、我等は必ずトライトニアを奪還することになるのだよ・・・」
それは、底知れぬ威厳と迫力のある、呪いじみた不気味な言葉だった。
だが、そんな事にはまったく動じないショーイは、ゆっくりと前で腕を組むと、涼しい表情のまま鼻先でせせら笑い、コンソールパネルに腰を下ろしたのである。
そして、皮肉っぽく唇の角を歪めながら、冷ややかな口調で言うのだった。
「そうですか・・・別に、貴方がたのお好きになさって結構ですよ。僕は、貴方たちの思想をとやかく言うつもりはありませんから。ただ、宇宙の頭脳アルキメデスが、無粋な筋肉国家に仕立てられるのが我慢ならなかっただけです。単細胞な国家をお作りになりたいのでしたら、お言葉通り、どうぞ他の惑星でやってください」
明らかに本気と取れるショーイの言動に、マルティンの白く太い眉が鋭利に、そしてどこか怪訝そうに吊り上がる。
「若僧・・・貴様、アルキメデス政府の人間ではないのか?」
「残念ですね。僕は、ただの運送業者ですよ。政府の要請でこの星に来た、ガーディアンエンジェルの手伝いをしていたまでです。何かご主張があるのなら、軍法法廷の場でなんなりと仰ってください。貴方がたの主義主張がなんであろうと、僕にとってはそんなこと、まったく興味の対象外ですから」
「・・・・ただの運送屋がっ、何故この中枢コンピュータを扱えるのだ!?このコンピュータシステムは、行政関係者にしか扱えないはずだ!!」
そう言って、暗褐色の瞳を驚いたように見開いたマルティンを、ショーイは、相変わらず高飛車な表情で眺めやると、さも愉快気な口調でいけしゃあしゃあと答えるのだった。
「悪名高いデボン・リヴァイアサンの主催者が、実に面白みの無い質問をしますね?
お判りにならないのならお答えしますよ・・・・・・それは、非常に簡単な答えです。
僕が、天才だからですよ」
余りにもショーイらしい、冷静で高慢なその言葉と表情に、傍らでその様子を眺めていたトーマが、緊張感もなく、ぷっと笑いを吹き出した。
それにつられて、デボン・リヴァイアサンの一人を拘束していたギャラクシアン・バート商会の従業員、フランク・コーエンまでもが、肩を揺すって必死に笑いを堪える有様となった。
余りにも鮮烈でわかり易いその言葉に、ツァーデ小隊の面々も、思わず面食らってぽかんとしてしまうが、ただ一人、隊長のアーサーだけは、ひどく愉快気に無骨な唇の角をもたげたのである。
上官であるソロモンからも、部下であるリョータロウからも、ギャラクシアン・バート商会は手腕に優れ、「無謀に近い勇気」のある民間企業だとは聞いていたが・・・流石にどうして、この豪胆さと来たら、ガーディアンエンジェルの精鋭も顔負けだ。
そんな事を思って、アーサーは、ゆっくりとマルティンを振り返ると、静かな口調で言うのである。
「貴方の負けだ、マルティン・デボン。我々ガーディアンエンジェルは、貴方の身柄を、母艦に連れ帰る。恐らくは、惑星連合AUOLPに引き渡すことになるだろう、覚悟を決めておけ」
その言葉に、マルティンの暗褐色のぎらりと邪に閃いた・・・正に、その次の瞬間だった。
突然、アルキメデス行政総本部の建物全体に、地鳴りにも似た、凄まじい轟音と振動が轟いたのである。
高い天井が波打つように大きく揺れ、ミシミシと異様な音を上げると、強固であるはずの装甲板に無数の亀裂を走った。
「!?」
その場にいた全員が、咄嗟に周囲を見回す。
予想を越える強烈な力が、外部からこの建物にかかっている。
ショーイは、何かに気付いたように肩を揺らすと、素早く中枢コンピュータの大型モニターを振り返るのだった。
すると、シールド発生装置の破損を表示するカーソルが点滅し、レーダーには、トライトニアのアーマード・バトラーを意味する識別コードが、この建物のすぐ真上にいることを示していたのである。
コンソールを叩き、モニターを外部モニターに切り替えると、そこに映し出されたのは、眩いばかりの金色に輝くアーマード・バトラー、『オーディン』の姿であったのだ。
モニターの中で、太陽光線の如く煌くゴールドメタリックの機体が、その右腕に装備された高エネルギーレーザーブレードを、今、大きく振りかざす。
「トライト二アは、どこまで力技が好きなんだろうね・・・・・・全員、この部屋から退避して!!」
出入り口のロックを外しながら、ショーイは、いつに無く険しい声色でそう叫ぶと、形の良い眉を苦々しく寄せ背後を振り返るのだった。
刹那。
先ほど以上に激しい振動と轟音が、中枢コンピュータールームを大きく揺るがし、天井の一部が、巨大な三日月型の閃光で大きく切り裂かれたのである。
破裂音を上げて飛び散る高エネルギーレーザーの粒子が、豪雨の如く室内に降注ぎ、デボン・リヴァイアサンの幹部を引き摺るようにして、ツァーデ小隊とフランクが俊足で部屋の外へと飛び出していく。
立ち昇る粉塵と爆音。
高熱を帯びて赤く輝く瓦礫が、火花を散らして落下してくる。
軽いステップでそれを避けながら、出口に向かって走り出したトーマが、厳しい顔つきで背後を振り返ると、叫ぶように声を上げる。
「ショーイ!!早く来い!!脳天真っ二つにされるぞ!!」
弾む焦茶色の髪の下から覗く紺色の瞳に、こちらに向かって駆け出すショーイの姿が映し出された。
白いショートローブを揺らして足元の瓦礫を飛び越えると、ショーイは、その視線だけを天井に向け、渋い顔つきをして叫び返すのだった。
「僕は大丈夫だ!先に行けトーマ!!」
「おまえ、俺より足遅いだろうが!!一人にさせられるかよ!!」
どこか怒ったような口調でそう答えると、トーマは、咄嗟に立ち止まり、その手をショーイに向かって伸ばそうとしたのである。
その瞬間。
電子音とも付かない鋭い音が辺りに響き渡り、再び、天井が三日月型に避けると、クラッシャーブレードの高熱で溶け出した装甲隔壁の一部が、細い矢のようなに凝固し、あろうことか、それが、トーマの頭上に豪速で落下してきたのだった。
鋭利に発光したショーイの両眼は、それを見逃さない。
「・・・手間がかかるのはおまえの方だ!!」
鮮やかな赤毛が弾み、ショーイの爪先が粉塵沸き立つ床を蹴ると、両手をトーマの元へ伸ばし、その長身を思い切り後方へと突き飛ばしたのだった。
「!?」
思わず体制を崩したトーマが、滑るようにして後に倒れ込む。
湧き上がる粉塵が、しかめ面をしたトーマの視界を一瞬だけ遮った。
「悪りぃ!・・・ショーイ、おい、大丈夫か?ショーイ?」
その呼びかけに、何故か返事はない。
不意に、嫌やな予感に苛まれたトーマは、その場で素早く立ち上がり、慌てた様子で、粉塵の向こう側に倒れ伏したショーイの元へと駆け寄った。
そんなトーマの爪先が、無造作に床に落ちていた眼鏡を軽く蹴ると、何故か軽い水音と共に水滴が跳ね上がり、白いブーツに赤い斑点が描かれたのである。
ハッと広い肩を揺らして視線を落としたその瞬間、豪胆であるはずトーマの顔が、一気に青ざめた。
「ショ――――――イっ!!」
半ば絶叫に近い声で兄の名前を呼んだその声が、尚も続く轟音の中に掻き消されていった。
粉塵で白く曇るトーマの視界の中に映りこむ、余りにも信じがたいその光景。
細い矢となった鋼色の装甲隔壁が、ショーイの背中を腹部まで突き貫き、細身に纏われた白いショートローブが、おびたたしい鮮血で深紅に染まっていたのである。
トーマは、紺色の両眼を驚愕で見開いたまま、ショーイの体を抱き起こした。
後から後から吹き出す生暖かい血が、ぼたぼたと床の上に流れ落ちていく。
「おい!しかっりしろ!!ショーイ!ショーイ!!」
トーマは必死で呼びかけるが、ショーイは、鮮やかな赤毛の下で長い睫毛を伏せたまま、やはり返事を返してこない。
乱れて荒くなったその呼吸だけが、悪夢の残響のようにトーマの耳に飛び込んでくる。
「嘘だろ・・・・・・・おまえ、おまえ!絶対死ぬなよ!!絶対に死ぬなよ!!判ったな!!」
狼狽する気持ちを強靭な理性で制止ながら、トーマは、そう叫んでショーイの体を両腕に抱きかかえたのである。
流れ落ちる鮮血が、トーマのローブまでも赤く染め上げていく。
だが、そんなことなど気にするでもなく、トーマは、形の良い眉を厳しく歪めて、機敏な仕草で身を翻すと、俊足で中枢コンピュータールームを駆け出したのだった。
爆音と粉塵が吹き上がり、アルキメデスの中枢コンピュータを、青い熱線の刃が貫すと、激しい炎が、虚空高く轟々と立ち昇り、強固な天井の全てが崩れ落ちたのである。
同時に、プラトンの南に位置する上空に、宇宙戦闘空母セラフィムが、巨大な銀色の船体を煌かせながらゆっくりと降下してきていたのだった。




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