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作品名:NEW WORLD〜第二序曲〜 作者:月野 智

第28回   【ACTW プラトンの攻防】3
             *
白雲を突き抜けるようにして、機首90度で急上昇するレイバンT―5のコクピットに、敵機接近を知らせる警報が鳴り響いた。
眩い太陽光と共に視界が開けると、リョータロウは、風を切る風防の向こう側に、流星の如き閃光を引く五体のアーマード・バトラーの姿を有視界確認したのである。
大気圏内航行用のブースターが取り付けられた五つ機体。
だが、武装火器は、宇宙空間での装備のままだ。
「奴等、重力圏で、あの装備のまま闘えるのか?!」
ヘルメットシールドの下で鋭利に両眼を細め、リョータロウは、レイバンを360度ロールさせるとそのまま旋回し、アーマード・バトラー部隊へと急接近していく。
五機のアーマード・バトラーが編隊を崩し、パープルメタリックの機体『ランスロット』とライトブルーメタリックの機体『スクルド』が、プラトンの南へと急速に進路を取っていく。
残りの3機は速度を緩めることなく、一直線にアルキメデス行政総本部と軍総司令本部に降下している。
彼らの攻撃目標は、恐らく、アルキメデスの中枢だ。
リョータロウは、ブーストコントローラーを踏み込んで、レイバンを加速させた。
青い六芒星を掲げたダークブラックの両翼が、白い雲の帯を引いて超音速でアーマード・バトラーに迫る。
照準レンジの中で揺れながら降下する3機の機影。
アーマード・バトラー部隊が、青い空を超音速で駆けるレイバンを有視界で捉えた。
とたん、ブースターを噴き上げて急旋回したメタリックレッドの機体、『グィネビア』が、閃光の帯を引きながらレイバンに向かって急接近してきたのである。
「メイヤ・・・・っ」
リョータロウは、ヘルメットシールドの下でその名を呼んだ。
そこはかとなく苦悩を滲ませ、鋭く両眼を細めながら、照準レンジの中で揺れるメタリックレッドのアーマード・バトラーにロックオンを仕掛ける。
ビーム砲をこちらに向けたまま、音速で迫る『グィネビア』の機体が、青い空に白い雲の帯を引いた。
敵機がロックオンをかけようとしていることを知らせる警報が、レイバンのコクピットに鳴り響き、『グィネビア』の姿は、風防の真正面でみるみる大きくなっていく。
レイバンのデジタル照準が、電子音を上げながら赤く点滅し、『グィネビア』をロックオンしたことを表示する。
その瞬間、リョータロウの脳裏に、嬉々として笑うあの美麗なセクサノイド、メイヤの顔が横切った。
「く・・・っ」
苦々しく両眼を細め、リョータロウは、ミサイルの発射ボタンを押しかけて・・・・・・一瞬、躊躇った。
とたん、『グィネビア』に搭載されたビーム砲が青い粒子を上げ、甲高い轟音と共にそれを発射したのである。
咄嗟に操縦桿を倒し180度ロール急旋回で、レイバンT―5は、虚空を貫く青い閃光を危ういところで回避する。
 流星の速度を保つ『グィネビア』が、ブースターを噴き上げて、レイバンの後方に迫った。
機動性に優れたアーマード・バトラーとは言え、流石に、重力圏の上空では、クラッシャーブレードは扱いにくいのだろう、いつもなら接近戦で敵機を狙う『グィネビア』が、両肩に装備されたミサイルポットを開いた。
刹那、10基のミサイルが白煙と共に発射され、それは、青い空に湾曲した白い帯を引きながら、轟音を響かせてT―5に迫り来る。
リョータロウは、操縦桿を引いて、機首70度でレイバンを急上昇させると、180度ロールでループを描きながら一気に急降下し、豪速で飛びかうミサイルをまんまとやり過ごしたのである。
そのまま、上方から『グィネビア』を照準レンジに捉え、リョータロウは、再び、ミサイルの発射ボタンに指をかけた。
赤い閃光を引いた『グィネビア』の機体がブースターを噴き上げ、下方からレイバンに向かって急接近してくる。
その右腕から、遂に、高エネルギーレーザーブレード、俗に言うクラッシャーブレードが閃光を引いて伸び上がった。
『グィネビア』は、すれ違い様にレイバンを両断するつもりだ。
リョータロウが、使用火器を瞬時にビームガドリングに切り替えたとたん、レイバンの照準レンジが電子音を上げて赤く点滅し、青い閃光を携え音速で迫る『グィネビア』を真っ向からロックオンしたのである。
「メイヤ・・・・っ!!」
リョータロウは、ビームガドリングの発射ボタンを押した。
レイバンの機体がロールすると同時に、砲門が凄まじい破裂音を上げて、クラッシャーブレードを掲げた『グィネビア』に、赤い閃光の弾丸を無数に発射していく。
『グィネビア』はクラッシャーブレードを横に一線しながら機体を反転させ、迅速で赤い弾丸をまんまと退いてしまった。
アーマード・バトラーの機動性は宇宙空間戦闘とさして変わらない、ましてや、操縦ユニットは戦闘用セクサノイドだ、耐Gにも優れているはずだ。
照準レンジで揺れるメタルレッドの機体を苦々しく睨みながら、リョータロウは、レイバンをロールさせて、再び、ビームガドリングの発射ボタンを押す。
だが、『グィネビア』は、音速を保ちながら急上昇しつつ水平移動し、またしても弾丸を避けきってしまう。
人間を乗せた機体がこの速度でこのような動きをすれば、強烈なマイナスGの影響を受け、良くてレッドアウト、最悪は内臓破裂を起して重症か即死か、そのどちらかのはずだ。
だが、アーマード・バトラーのパイロットはタイプΦヴァルキリーと呼ばれるセクサノイドである。
その動きは、搭乗しているメイヤが、やはり人間ではないと言うことを、まざまざとリョータロウに見せ付けているのだ。
『グィネビア』のブースターが再び青い炎を噴き上げ、左急旋回したレイバンの後方に、閃光の帯を引いてみるみる迫ってくる。
それをモニターで確認しながら、ぎりりと奥歯を噛締めて、リョータロウは、片手で素早くコンソールを叩き、後方でビーム砲を構えた『グィネビア』へと強制通信回線を開いたのだった。
機体を180度ロールさせ180度の右ループでターンしながら、リョータロウは、通信機に向かって叫ぶように言ったのである。
「メイヤ!メイヤ!!聞こえるか!?俺だ!リョータロウだ!!目を覚ませ!メイヤ!!」
だが、その声に彼女は答えない。
それどころか、返答の代わりにビーム砲の砲門が青い粒子を上げ、高エネルギーの青い閃光が、レイバンに向かって容赦なく発射される。
雷光の如く空を貫いた青いビームの帯を、360度ロールしながらぎりぎりで回避すると、T―5は、機首を上げ上昇しながらロールして急旋回する。
赤く煌く『グィネビア』の機体が、それを追うようにして更に上昇し続ける。
操縦桿を握るリョータロウの手が、そこはかとなく湧き上がる悔しさに震えた。
コクピットに鳴り響く、敵機接近を知らせる警報音。
トライトニアが誇るアーマード・バトラーと、レイバンT―5の機体が、湾曲した光の帯を引きながら音速で青い空を駆け抜けていく。
レイバンのモニターが『グィネビア』のコクピットを映し出し、拡大された映像には、ルビー色の髪を無表情の白い頬に垂らし、幾本もの赤外線コードを全身に繋いだメイヤの姿が確かにあった。
戦闘時のメイヤは、システム不具合のために、情緒プログラムで学習したことが戦闘プログラムによって完全に遮断されてしまう。
つまり、戦闘時には通常時の記憶がダウンロードできないのだ。
アーマード・バトラーに搭乗している限り、メイヤが、あの無邪気であどけない彼女に戻ることはまずありえない。
「・・・・・・メイヤ!メイヤ――――――っ!!」
リョータロウの呼びかけに対する反応は皆無だった。
「メイヤ」というその名前は、今の彼女にとっては彼女の名前ではないのだ。
今のメイヤにとって、リョータロウは、敵でしかありえず、撃墜すべき存在なのだ。
それはリョータロウにとっても同じことだ。
そんなことは、最初からわかっていた・・・しかし。
このまま、此処で彼女を撃墜してしまうことに、一体、どんな意味があるというか。
彼女は、ガーディアンエンジェルの船に来たいと言った。
あれは、決して偽りなどではなかったはずだ。
彼女は、戦闘用兵器ではなく、人として扱われることを望んでいたのだ。
「リョータロウ」と、甘い声で自分の名前を呼んだメイヤのあどけない微笑みが、今、リョータロウの脳裏を過ぎって仕方がない。
リョータロウは、ぎりりと奥歯を噛締めて、操縦桿を倒し、レイバンの機首70度ダウンさせると、超音速で急降下した。
風防の向こうで、急激に大きくなる『グィネビア』の機体。
凄まじいGがリョータロウの体を座席に押し付ける。
『グィネビア』の両肩に搭載されたミサイルポットから白煙を上がり、爆音と共に発射された10基のミサイルがT―5に向かって豪速で飛来する。
180度ロール右旋回でそれを退き、レイバンT―5は『グィネビア』の僅か下方で再び機首を上げ、最大出力急上昇で、突き抜けるようにしてその背後を取った。
上空でホバリングし背後を振り返った『グィネビア』を、電子音と赤い点滅を上げて、レイバンの照準レンジがロックオンする。
『グィネビア』がブースターを噴き上げ、超音速で急接近するレイバンに向かって、右腕に装備されたクラッシャーブレードが流星の速さで翻した。
リョータロウの指が、今度こそ、ミサイルの発射ボタンを押す。
レイバンの両翼下部から白煙と共に発射された6基のレーダー誘導ミサイルが、湾曲した白い帯を引いてクラッシャーブレードの合間を抜けた。
機体180度ロール、左急旋回したT―5が、大きなループを描いてその空域を回避する。
湾曲した帯を描く6基のミサイルは、『グィネビア』のコクピットには当らず、何故か、その両脇に装備されていた大気圏内航行用のブースターに着弾し、凄まじい爆音と爆炎を上げた。
とたん、『グィネビア』の機体はメインの推進を失い、にわかに失速すると、白煙を上げながら、急激に地上へと落下していったのである。
レイバンT―5のダークブラックの機体が、青い空に白い雲の帯を引きながら、急速落下していく『グィネビア』を追いかけ、機首を下げて一気に急降下していった。
『グィネビア』の推進を奪って機体を地上に落下させる・・・それが、リョータロウがミサイルを撃った本当の狙いだ。
例え重力圏内ブースターが破壊されても、アーマード・バトラーには、高出力のオリジナルブースターが装備されている、落下速度の調整は可能なはずだ。
なんとしても、アーマード・バトラーからメイヤを下ろさなければならない・・・
そんな事を思い、ヘルメットシールドの下で黒曜石の瞳を細め、強烈なGに端整な顔をしかめた時、リョータロウの耳に、リニウスR―3のパイロット、フレデリカの声が聞こえてきたのである。
『R(エレ)―3からT―5へ!マキ少尉!何故撃たないの!?今なら撃墜できるわ!ブラックアウトでもしたの!?』
気付けば、リニウスR―3の深紅の機体が、T―5の左舷から同じ角度で急降下してきていた。
苦々しく眉間を寄せたまま、リョータロウは、通信機に向かって答えて言うのである。
「T―5からR―3。俺は、そんなやわな体じゃねーよ」
『だったら!どうして撃たないの!?貴方が撃たないなら、私が撃つ!!』
「やめろ・・・っ!このアーマード・バトラーのパイロットは、俺の知り合いだ!地上でパイロットを救助する、援護してくれ!」
『はぁ!?知り合いって・・・貴方、何言ってるの!?相手はタイプΦヴァルキリーよ!?正気なの!?』
「正気だよ」
そう言うなり、リョータロウは、ブーストコントローラーを踏み込んで更に加速しながら降下していった。
高度計がみるみる減少する。
T―5のコクピットに墜落回避を知らせるけたたましい警報が鳴り響き、赤いランプがひっきりなしに点滅した。
それでも、レイバンT―5は降下し続ける。
リョータロウの有視界で急速落下していく『グィネビア』が、オリジナルのバーニアを噴射して降下速度を大幅に緩めた。
だが、重装備の機体は、空中でその体制を立て直すことができない。
だが、超音速で宇宙空間を飛行できる高出力のオリジナル推進があれば、体制を立て直せないまでも、大破しないで地上に降りられる。
白い雲を突き抜けると、そこに迫ってくるのはアルキメデス行政総本部を囲む広大な中庭の風景だ。
地上まで僅か数百メートル。
リョータロウは素早く操縦桿を倒して、レイバンに180度ロールをかけ、地上ぎりぎりを超低空飛行し、タイミングを計ってピッチアップ、そして急旋回する。
それと同時に、轟音を響かせた『グィネビア』の機体が、爆風と轟音を上げ、アルキメデス行政総本部の中庭に背中から叩きつけられたのだった。
その衝撃で、コクピットの特殊ガラスが粉々に砕け散り、太陽の日差しの中できらきらと輝きながら虚空に舞い踊った。
木々を薙ぎ倒しながら地上を滑ったグィネビアの機体は、激しい土埃を上げたまま、本部のシールドにぶつかる寸前で停止する。
随分と派手な墜落をしたが、レイバンの熱源感知レーダーは、『グィネビア』のコクピットにある高エネルギー反応を的確に捉えていた。
メイヤは、間違いなく無事だ、
リョータロウは、レイバンの航行システムを着陸モードに切り替えて、墜落した『グィネビア』の元へ機体を降下させていった。
バーニアが巻き越す爆風が土埃を舞い上げ、薙ぎ倒された木々が大きく揺れて地面を転がっていく。
『マキ少尉!?本気で救助するつもり!?貴方、何考えてるの!?相手はタイプΦヴァルキリー!戦闘兵器よ!?危険過ぎるわ!!』
T―5の通信機から、怒鳴るようなフレデリカの声が聞こえてくるが、それには何の返答もせず、リョータロウは、遂に、その機体を『グィネビア』の傍らへと着地させたのだった。


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