* ギャラクシアン・バート商会の武闘担当者と、レイバン及びリニウスのパイロット達が二手に分かれ、アルキメデス行政総本部と、アルキメデス軍総司令本部に突入したのは、今から10分ほど前のことである。 双方の建物を管理するコンピュータを、ギャラクシアン・バート商会の経営者ショーイ・オルニーがジャックし、全てのセキュリティシステムを、こちらに優位に働くように操作しているため、『アルキメデスの蜂起』に関わる幹部達が立て篭もる部屋まで到着するのに、さして時間はかからなかった。 アルキメデス総本部の地下に降下したのはギャラクシアン・バート商会のトーマ・ワーズロックとフランク・コーエン、そしてセラフィム・ツァーデのパイロット達だ。 軍総司令本部には、クラス・オーベリとフウ・ジンタオ、そしてエステル・ツァーデのパイロット達が向かった。 コンピュータシステムは全てこちらで制御できるため、幹部拘束までにはさして時間はかからないはず。 それに、セラフィム・ツァーデの人間もエステル・ツァーデの人間も、操縦技術だけではなく、地上戦や突入訓練もしっかりと受けている精鋭たちだ。 アルキメデス行政総本部の中枢コンピュータールームで、ギャラクシアン・バート商会の代表者ショーイ・オルニーは、幹部たちの拘束に向かう面々の様子を、大型モニターに開いたウィンドウで見つめながら、鮮やかな赤毛の下で紺色の知的な瞳を軽く細めたのだった。 モニター上で腹違いの弟トーマが、ツァーデ小隊の面々と共に、派手に銃撃戦を繰り広げている。 セキュリティシステムは全てショーイの手の内にある。 反乱分子を制圧するのは、もう時間の問題だ。 そんな事を思って、片手で眼鏡を押し上げた時、中枢コンピュータの長距離レーダーレンジが、成層圏から急接近してくる五つの高エネルギー熱源を感知したのだった。 「?」 ショーイは、怪訝そうに形の良い眉をしかめ、コンソールを叩くと、その熱源の詳細情報が別ウィンドウで次々と開いていく。 それ見た瞬間、いつもは冷静なショーイの顔が、いつになく厳しく歪んだのだった。 「アーマード・バトラー・・・・・・トライトニアの奥の手登場か」 恐らく、トライトニアの狙いは、ショーイと同じデボン・リヴァイアサンの幹部拘束だろう。 だが、基本的には凶悪国家だ、正攻法でくるはずがない。 アルキメデスの旧政府幹部をも拘束して、この星の科学技術を全部よこせと言ってくる可能性もある。 あの惑星国家なら、それぐらいはやりかねないのだ。 ショーイは、形の良い眉を眉間に寄せると、コンソールを素早く叩いて通信回線をバートへと開いた。 「バート、聞こえるか?ショーイだ」 すると、通信モニターが開き、そこに、もう見慣れたブルネットの青年の姿が現れたのである。 『聞こえますよ船長!無事でよかったっす!』 モニターの中で、バートの通信士ジャック・マクウェルが安堵した様子でくったくなく笑った。 だが、ショーイは、厳しい顔つきを崩さぬまま、鋭い口調で言葉を続けたのである。 「ビームの雨は止んだ。直ぐにバートを発進させて、プラトンのS−8940ポイントで上空待機」 『どうしたんですか?そこ、軍事刑務所じゃないですか?』 ジャックは、訳がわからないと言った様子で小首を傾げ、きょとんとしながらそんなことを聞き返してきた。 ショーイは、冷静だが、鋭さを失わない声で答えて言う。 「トライトニアのアーマード・バトラーが来た。デボン・リヴァイアサンの拘束だけが目的ならいいが、もしかすると、アルキメデス旧政府の人間をも狙っているかもしれない。セラフィムに応援を頼むが、セラフィムが到着する前にアーマード・バトラーがそっちに行ったら、なんとか迎撃してくれ。バートには今、君とタイキしかいない、十分気を付けてくれよ」 『ま、まじっすか!?わ、わかりました!なんとかやってみます!!』 「よろしく頼むよ、くれぐれも、バートを撃墜されないようにね。危なくなったら・・・その時は・・・取りあえず逃げていい」 『了解っす!!』 あたふたとそんな返事をして、ジャックは、通信回線を切った。 ショーイは、厳しい顔つきをしたまま通信回線を切り替えて、まだアルキメデスの軌道上にいるだろうセラフィムに呼びかけたのである。 「こちらギャラクシアン・バート商会、ショーイ・オルニーだ。セラフィム、聞こえるか?」 すると、再び通信モニターが開き、そこに、セラフィムの通信オペレーター、褐色の肌と黒い髪を持つ若い女性の不機嫌そうな顔が映ったのである。 『はい、聞こえています』 もう随分と見慣れたルツ・エーラが、綺麗な顔をしかめてぶっきらぼうな声でそう答える。 「大至急ソロモンに繋いでくれ、君と話している時間が勿体無い」 だが、そんなことすら気にもかけないショーイは、相変わらずルツの機嫌を損ねるような言い方でそう言うと、片手でコンソールを叩いて、外部モニターにプラトンの軍事刑務所の様子を映したのだった。 さも不愉快そうに蛾美な眉を吊り上げたルツが、頬の辺りを引きつらせながら「了解」と答える。 彼女の不機嫌レベルには気付いてはいるが、それを知りながら全く無視しきって、ショーイは、更にコンソールを叩き続けた。 軍事刑務所のセキュリティシステムをレベル4にした時、通信モニターに、銀色の髪と紅の瞳を持つ優美な青年の顔が映し出される。 『ショーイ、何があった?』 セラフィムの艦長レムリアス・ソロモンが、落着き払った声色と口調で、ショーイにそう語りかけてくる。 ショーイは、眼鏡の下で細めた紺色の瞳を鋭利に煌かせながら、レーダーレンジをちらりと覗いて、相変わらず冷静な声で答えて言うのだった。 「ソロモン、もうそっちも知ってると思うけど、プラトンにアーマード・バトラーが降下してきてる。まもなく対流圏だ。トライトニアの目的がデボン・リヴァイアサンだけならいいけど、あの国家は基本的に傍若無人だからね。 旧政府の要人まで狙ってるかもしれない。 万が一の時のために、バートを、旧政府の要人が拘束されているS―8940に向かわせたよ。 セラフィムも降りてこられるかな?僕たちがバートに乗船してれば問題ないけど、今、バートにはジャックとタイキしかいない。こちらは今、鼠退治の真っ最中だから、どうにも手が離せなくて」 ショーイの言葉に、モニター越しのソロモンは、端整な唇をどこか愉快そうにもたげ、沈着な声で答えるのだった。 『それは、俺も考えていた。トライトニアなら、それぐらいやりそうだからな。 それに、アルキメデスは、ガーディアンエンジェルとかなり親密な関係にある。 今回の反乱軍鎮圧作戦を、AUOLPではなく、ガーディアンエンジェルに依頼してきたのはそのせいだ。トライトニアにしてみれば、あまり面白くはないだろう。 セラフィムは既に、大気圏突入体制だ。直ぐにプラトンに到着する』 その言葉に、ショーイは、鼻先で軽く笑うと鮮やかな赤毛の髪を片手でかきあげて、相変わらずの高飛車な口調で言ったのである。 「そう・・・・さすが、“ハデスの番人”は違うね。この僕と同じことを考えているなんてね」 『お褒めに預かり光栄だよ、ショーイ。だか・・・おまえまで、俺を“ハデスの番人”と呼ぶのはやめてもらえないか?』 ソロモンは苦笑し、銀色の前髪の合間で、ひどく困ったように形の良い眉を寄せる。 そんな彼の表情に、ショーイは、唇だけで愉快そうに笑った。 「そうだったね、貴方は、このニックネームがあまり好きではなかったね。迫があって僕は好きだけど。じゃ、取りあえず、対流圏まできたら連絡をくれ」 『わかった』 そこで、セラフィムとの通信は遮断された。 片手で眼鏡を押し上げながら、ショーイは、白いショートローブの肩で一つ息を吐くと、再び、中枢コンピュータのコンソールを叩いたのである。 その眼前の大型モニターの中で、トーマとフランクそしてレイバン・ツァーデ小隊が、デボン・リヴァイアサンの幹部たちが立て篭もる部屋へと強行突入していった。 アルキメデスを揺るがした軍事クーデターは、まもなく、制圧されるだろう。
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