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作品名:NEW WORLD〜第二序曲〜 作者:月野 智

第25回   【ACTV アルキメデスの憂鬱】8
          *
航行システムを重力圏内航行モードに切り替えたツァーデ小隊のレイバン各機が、ダークブラックの機体を流星のように煌めかせて成層圏を突き抜けていった。
重力圏内での戦闘では、重装備だと機体が重くなり機動力が保てないため、ツァーデ小隊専用レイバンからは、ソドムシンク砲とミサイルユニットが外され、ミサイルは両翼下部のマガジンに弾数を減らして搭載されている。
そのため、迅速且つ的確に敵機を撃墜することを余儀なくなされる。
つまり、パイロットの操縦技術が、重力圏内での戦局を左右することになるのだ。
だからこそ、地表への攻撃作戦を任されるのは、精鋭が揃ったツァーデ小隊なのである。
ツァーデ小隊が、対流圏まで降下した時、アルキメデスの北緯36度東経108度、首都プラトンから約500キロ離れたステップ地帯には、虹色に輝く暁が訪れていた。
白々と明ける快晴の空に、白い雲の帯を引く編隊が、緩やかにロールしながら砂漠地帯へ向かって進路を取っていく。
同時に、その後方から、深紅の機体を閃かせた戦闘機の編隊が、やはりロールしながらレイバンに追いついてきたのだった。
それは、宇宙戦闘空母エステルに所属する戦闘用爆撃機リニウスの機影であった。
轟音を上げて暁を駆ける赤と黒の機体が、紫色の空に湾曲した白い帯を描きながら、砂に覆われた砂漠地帯へと急速接近していく。
『こちら、空母セラフィム所属レイバン・ツァーデ・リーダー、アーサー・マクガバン少佐。エステル・ツァーデ・リーダー、応答願います』
レイバンT−5機の操縦桿を握るリョータロウ・マキの耳に、エステル・ツァーデの隊長に呼びかける、セラフィム・ツァーデの隊長アーサーの声が響いてきた。
隊長機T―1の後方を飛行するリョータロウは、紫色の空に昇る太陽の日差しに目を細めながら、いつになく厳しい顔つきをして、風防の向こう側に見える白い砂漠を睨むように見たのだった。
『こちら、空母エステル所属リニウス・ツァーデ・リーダー、ベネット・ミネギシ少佐。セラフィム・ツァーデの援護に感謝する』
『セラフィム・ツァーデは、ミッション・コンプリートまではエステル・ツァーデ・リーダーに従う。指示をどうぞ』
『了解。エステル・ツァーデは、ガリレオ砂漠地帯に点在する長距離レーザー砲門を破壊する。セラフィム・ツァーデは、司令通りアルキメデス・ガリレオ・ベースの攻撃しつつ、そこから発進してくる無人戦闘機を迎撃。無人戦闘機は厄介だ。宜しく頼む』
 『セラフィム・ツァーデ了解』
『健闘を祈る』
『そちらも』
隊長同士の通信が途切れると同時に、リニウスの深紅の機体が編隊を崩し、二機一組となって砂漠地帯へと散っていく。
セラフィム・ツァーデ小隊隊長アーサーの声が通信機を通し、再び、リョータロウの耳に飛び込んできた。
『T−1から各機へ。ツァーデ小隊は、これより、ガリレオ・ベースの攻撃へ向かう。久々の重力圏だ、気を引き締めていけ。もう一度言うが、超過Gにはくれぐれも気を付けろよ』
『了解』
「了解」
ツァーデ小隊の面々がそう答えると同時に、リョータロウもまたそう答え、ヘルメットシールドの下で凛と強い表情をするのだった。
風を切る風防の前方に、砂漠の陽炎に揺れる巨大な軍事基地の姿が現れてくる。
そこが、ガリレオ・ベースと呼ばれる、アルキメデス最大の軍事基地であった。
此処は、今、アルキメデスに軍事クーデターを起した反乱軍の傘下にあり、宇宙に飛び立つネフィリム級の大型艦は、全てこのベースから離陸している。
アルキメデス反乱軍を制圧するため、この最大主要基地の破壊が、今回、ツァーデ小隊に架された任務だ。
ステルス機であるレイバンは、ガリレオ・ベースのレーダーに映ることなく、急速に目標地点へと近づいていく。
『T―1から各機へ、この通信後、10秒で攻撃を開始する。弾数が少ない。無駄弾は撃つな』
『了解』
「了解」
黒曜石の瞳を研ぎ澄まされたナイフの如く閃かせ、リョータロウは、ブースト圧を足先で調整しながら、操縦桿を握る手に力を込めたのだった。
有視界で次第に大きくなっていくガリレオ・ベースの広大な影。
眼前のモニターに表示されたアタックカウンターは、みるみる減少していく。
7、6、5、4、3、2・・・・
カウンターが0を表示した瞬間、レイバン各機が、一斉に編隊を離散させた。
白い砂漠に悠然と聳え、いくつもの巨大な戦艦ドックを有するガリレオ・ベースに、スクランブルを知らせる警報がけたたましく鳴り響く。
だが、既に、時は遅い。
リョータロウがブーストコントローラーを踏み込むと、宇宙空間では滅多に感じることのない強烈なGが肢体にかかり、青い炎を吹き上げたダークブラックの機体が、一瞬にしてガリレオ・ベース上空まで到達した。
風防に映しだされた照準レンジがガリレオ・ベースの戦艦ドックを捉え、デジタル音を上げてロックオンを表示する。
とたん、リョータロウの指先が、ミサイルの発射ボタンを容赦なく押したのである。
レイバンの両翼下部から白煙と低い轟音が虚空に吹き上がり、豪速で発射された6基のレーダー誘導ミサイルが、白い帯を引きながら、戦艦発進準備に勤しんでいたドックに次々と着弾していく。
凄まじい轟音が広大な基地を揺るがし、オレンジ色の爆炎が暁の空を焦しながら白い砂漠の只中に轟々と吹き上がった。
眼下に聳えたドックからは黒煙と紅蓮の火柱が立ち昇り、幾つもの爆音を上げて緩やかに傾いていく。
重力圏では、速度を落さないまま急旋回すると機体が失速するため、リョータロウは、エアブレーキで速度を落すと、機体を180度ロールさせてから、180度の右ループでレイバンをターンさせた。
レイバンの機首40度ダウンで、再びガリレオ・ベースへの空爆を開始しようとした時、地上に迫り出したカタパルトから、ダークグリーンの機体を持つ無人戦闘機が、スクランブルで発進してくるのが有視界で確認できたのである。
次の瞬間、敵機の急接近を知らせる警報が、レイバンのコクピットにけたたましく鳴り響き、眼前のモニターには、敵機の詳細な情報が記載されたウィンドウが次々と開いていく。
「あいつが例の無人機か」
リョータロウは、ヘルメットシールドの下でそんな事を呟いた。
銀色の閃光を上げて急上昇してくるアルキメデスの戦闘機、AL−ε74型無人戦闘機、通称ヘルメスが、リョータロウ機、T―5に急速接近していた。
人を乗せていない分、Gの付加を気にする事もないヘルメスの速度は、決して中途半端なものではない。
リニウス・ツァーデの隊長ベネットが、厄介だと言っていた意味がこれでよく理解できた。
このまま後ろを取られたら危険だ、リョータロウはブーストコントローラーを踏み込んで操縦桿を引き、ピッチアップして機体を急上昇させると、強いGに奥歯を噛締めながら、180度ロールと180度左ループで再びターンする。
機首を落し急降下しながらヘルメスと向かい合うと、リョータロウは、更にブーストコントローラーを踏み込んでレイバンを加速させたのだった。
強烈なGがその肢体を操縦席に強く押し付ける。
だが、このレベルのGでブラックアウトするような訓練など、最初から受けてはいない。
弾丸の如き軌跡を描いてこちらに迫るヘルメス機影が、有視界でみるみる大きくなっていく。
レイバンのモニターに、相手がこちらをロックオンしようとしていることを示唆する警告ランプが点滅した。
だが、リョータロウの方が速い。
風防に映し出されたデジタル照準レンジがけたたましい電子音を上げ、眼前に迫るヘルメスを一瞬にしてロックオンした。
しかし、眼前のモニターは、ミサイルリレーズロックを表示している。
この距離でミサイルを発射すれば、間違いなくこちらも影響を受けるからだ。
リョータロウの指先が素早く火器変更コンソールを叩き、そのまま、ビームガドリングの発射ボタンを押したのだった。
両翼の砲門から破裂音を上げて連射される赤い閃光の弾丸が、的確にヘルメスの機関を捉え、ロールしながら急上昇したT―5が、白煙を上げ機体を小刻みに震わせたヘルメスを音速で回避していく。
刹那、紫色の空に凄まじい爆音が響き渡り、オレンジ色の爆炎が虚空で吹き上がると、もくもくと白煙を上げたへルメスの機体が、急激に推進を失って地上へと墜ちていったのである。
地面に叩き付けられ大爆発を起すヘルメスを、モニター越しに見ながら、リョータロウは、凛とした眉を鋭く眉間に寄せたのだった。
安堵している暇などない。
レイバンのコクピットには、再び、敵機が急接近していることを告げる警報音が鳴り響いている。
同時に、レイバンの通信機から、ツァーデ小隊隊長アーサーの落着き払った声が響いてきたのだった。
『T―1から各機へ、T―1及びT―2、T―4は、ガリレオ・ベースを直接攻撃する。T―3、T―9は援護を頼む。T―5からT―8、そしてT−10は、このまま無人戦闘機を迎撃。リニウス・ツァーデの所にこいつらを行かせるな』
「T―5、了解」
リョータロウはそう答えると、風が悲鳴を上げる特殊ガラスの風防を、睨むように見つめすえた。
レーダーレンジに赤く点滅しながら映りこんでくるヘルメスの機影は3機。
その左舷から、レイバンT―6の識別信号が急速に近づいてくる。
リョータロウが、僅かに視線を落してレーダーを見やった時、通信機から、T―6のパイロット、ドレイク・マティスの声が響いてきたのだった。
『T―6からT―5へ。奴等、相当速いぞリョータロウ、俺が奴等の前に出て煽る、そのケツに食いついて撃ち落とせ』
「T―5了解。追いつかれて墜されるなよ」
ヘルメットシールドの下で軽く微笑すると、リョータロウはそう答え、わざとらしく360度ロールをして見せると、大きく旋回しながら3機のヘルメスの後方へ回り込んでいったのだった。
T―6が急加速し、紫色の空に大きな右ループを描くと、距離を取りながらヘルメスの前方に超音速で踊り出る。
T―6の機影を追った3機のヘルメスが、虚空を二分するような鋭い閃光を引いて加速して、その後方へと迫っていく。
リョータロウの搭乗するレイバンT―5が、轟音を上げながら白い雲を千切り、そのまま、流星の如き軌跡を描いてヘルメスの後方に急接近していった。
超音速の爆音が、暁の空に響き渡る。
青い六芒星が掲げられたダークブラックの両翼が白い雲の帯を引き、メインバー二アが青い炎と上げると、その機体は、暁の空を引き裂くように加速して宙を駆け抜けていった。
風防に映し出されるデジタル照準レンジが左右に揺れ、電子音を響かせた赤いカーソルが、3機のヘルメスをロックオンしようと小刻みに動く。
だが、ヘルメスの加速度は思った以上に急激だ。
T―6とヘルメスとの距離はみるみる縮まっていく。
チッと軽く舌打ちして、ブーストコントローラーを強く踏み込んだリョータロウの肢体に、再び、強烈なプラスGがかかる。
ヘルメットシールドの下で端整な顔を厳しく歪め、黒曜石の瞳を爛々と煌かせたその視界で、3機のヘルメスが不意に大きくなった。
風防の照準レンジが赤く点滅し、ひっきりなしに揺れていたロックオンカーソルが、その瞬間でヘルメスの機体を見事に捕捉する。
風防に大きくロックオンが表示された。
「うざいんだよ!墜ろ―――――――っ!!」
思わずそう叫んだリョータロウの指が、ミサイルの発射ボタンを押すと、両翼下部のミサイル発射ユニットが、轟音と白煙を上げたのである。
昇る太陽の光を受け紫に輝く空に、6基のレーダー誘導ミサイルが豪速で発射され、緩い螺旋状の白い帯を引いたそれは、一瞬にして3機のヘルメスの後部に到達した。
ダークグリーンの機体を捉えたミサイルが、次々と着弾し爆音を上げると、凄まじい閃光と白煙を暁の空へと舞い上げる。
オレンジ色の光芒が空に迸り、大きく膨らんだヘルメスの機体が、深紅の爆炎を上げて大破し、みるみる失速していく。
紅蓮の炎に覆い尽くされたその機体が、何度も小さな爆発を繰り返ながら離散し、もくもくと白煙を上げて地上へ落下していった。
『グッジョブ!』
爆風と衝撃波を避けるため、右ロール急旋回で撃墜ポイントを離脱していたT―5の通信機から、やけに愉快そうなドレイクの声が響いてくる。
速度を落したT―6がT―5の隣に並び、その風防越しに、T―6のパイロット、ドレイクがリョータロウに向かって片手を上げた。
それに答えるように片手を上げたリョータロウの視界のあちこちで、爆炎と白煙あがっている。
暁の空を覆い尽くす白い煙と激しい炎。
風防越しに眼下を覗くと、白い砂漠に聳えるガリレオ・ベースには、凄まじい火柱が立ち昇っていたのだった。
モニターを拡大して地上を見ると、ガリレオ・ベースの管制司令塔が炎と黒煙に包み込まれ、ツァーデ小隊T―1機が、ダークブラックの機体を流星の如く煌かせながら、機首90度で上昇してくるところであったのだ。
『T―1から各機へ。ミッションコンプリート。ガリレオ・ベースは、これで全機能を失った。しばらくは戦艦を離陸させることもできないだろう』
アーサーの声と共に、こうして、暁の空からのガリレオ・ベース奇襲は、ほんの15分という短い間で完了したのだった。
だが、ツァーデ小隊には、この時既に、別の任務が架されていたのである。
『セラフィムから新しいミッション司令が入っている。ツァーデ小隊は、このままプラトンに向かい、反乱軍の司令官、及び、デボン・リヴァイアサン幹部の拘束をする』
次の司令を伝えるアーサーの冷静な声が、レイバン・ツァーデ小隊各機の通信機から響いた。
T―1の後方に、一機も数を減らさなかったツァーデ小隊のレイバンが追いついてくると、全ての隊員が、刻みよく『了解』と返答したのである。
紫色の空を貫くような轟音を上げて、超音速で飛行するレイバンの編隊が、全機70度ロールで旋回し、アルキメデスの首都プラトンへとその機首を向けていく。
『セラフィム・ツァーデ・リーダーから、エステル・ツァーデ・リーダーへ。長距離レーザー砲の制御システムは、セラフィムが落(ジャック)した。
セラフィム・ツァーデは、このまま、反乱軍、及びデボン・リヴァイアサン制圧のため、プラトンへ向かう』
 『エステル・ツァーデ・リーダーから、セラフィム・ツァーデ・リーダーへ。その連絡はこちらも受けた。エステル・ツァーデも、このまま、プラトンへ向かう。ミッション内容はセラフィム・ツァーデと同じだ』
 『了解』
 エステル・ツァーデ小隊隊長ベネットと、セラフィム・ツァーデ小隊隊長アーサーの通信が途切れたとたん、セラフィム・ツァーデ小隊の後方から、再び、深紅の機体を煌かせたリニウス・ツァーデ小隊の編隊が追いついてきたのである。
 赤と黒の機体がまだ眠たそうな太陽の日差しを受けて、閃光の如く煌いている。
 風防越し、虹色に輝く太陽の日差しに黒曜石の瞳を細めたリョータロウは、ふと、その端整な顔を厳しく歪め、青く色づき始めた空の彼方を見つめすえたのだった。
だが、この時、彼はまだ知らなかったのだ。
反乱軍の総司令官と、そしてデボン・リヴァイアサンの幹部を拘束するために向かったプラトンで、どんな運命の悪戯か、あの美しいタイプΦヴァルキリーに、最悪の形で再会してしまうことなどとは。
アルキメデスのクーデター鎮圧作戦は、遂に、最終局面を迎えようとしていた。









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