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作品名:NEW WORLD〜第二序曲〜 作者:月野 智

第24回   【ACTV アルキメデスの憂鬱】7
        *
「ツァーデ小隊、まもなく、アルキメデス大気圏に到達します」
宇宙戦闘空母セラフィムのコントロールブリッジに、主任オペレーターオリヴィア・グレイマンの声が響いた。
大型モニターに映し出されたレイバンの編隊が、ダークブラックの機体を流星の如く煌かせて白い大気の中へと消えていく。
猛禽類の鋭さを持つ紅の瞳で、重要任務を担うツァーデ小隊を見送ると、ソロモンは、凛と強い表情と口調で言うのだった。
「防御シールド展開。地表からの高エネルギーレーザー砲に注意しろ。
右舷後方及び左舷前方補助エンジン出力120%、セラフィム、急速反転45度。
全砲門を開け。主砲発射用意。照準修正3.765、目標、右舷前方トライトニア艦隊」
ソロモンの言葉に呼応して、火器担当オペレーター、ロウ・アンエイが声を上げる。
「照準修正3.765、敵艦隊捕捉しました」
セラフィムの巨大な船体に装備された16基の平射三連主砲が、鈍い音を上げて一斉にトライトニア艦隊に砲門を向ける。
「主砲、撃て!」
ソロモンの鋭い声と同時に、ロウの指が主砲発射トリガーを引いた。
砲門にふわりと蛍のような粒子が舞い、エネルギー強化型ビームの赤い閃光が、16基の三連主砲から、甲高い発射音と共に一斉に宇宙空間を貫いてく。
同時に、凛とした表情でモニターを眺めていたオリヴィアが、冷静な口調で言ったのだった。
「敵艦隊の主砲射程圏内に入りました。第一波来ます」
暗黒の宇宙空間で青いビームと赤いビームの閃光が豪速ですれ違っていく。
セラフィムの防御シールドに青いビームの先端が飛来し、凄まじい衝撃と閃光を上げて弾け飛んだ。
銀色の巨大な船体が震え、ブリッジか僅かに横に傾く。
トライトニア艦隊に到達した赤いビームの先端が、前衛艦隊の側面をシールドごと貫き、装甲板を膨らませると、暗黒の闇にオレンジ色の閃光と激しい爆音を轟かせて、次々と大破させていった。
離散した残骸の一部がアルキメデスの大気圏へと吹き飛ばされ、紅蓮の炎を上げて溶解していく。
セラフィムの攻撃はまだ止まない。
「照準そのまま、撃ち続けろ。対戦艦ミサイル発射用意」
ソロモンは、敵艦隊を映し出したモニターを鋭利な眼差しで見つめながら、厳しい表情でそう指示を出した。
その時、通信オペレーター、ルツ・エーラが、艦長席を振り返ったのである。
「艦長、エステルより入電です」
「繋いでくれ」
その返答と同時に、セラフィムの主砲が赤い粒子を散らし、発射された強化型ビームが宇宙空間を貫き、それとすれ違うようにして、トライトニア艦隊からの放たれた青いビーム砲が防御シールドに命中して眩い光の渦を巻く。
大きく横に揺れるブリッジの大型モニターに、空母エステルの艦長、ヘレンマリア・ルーベントの気強く威厳ある顔が映し出される。
こちらの戦況を伺うでもなく、彼女は、スカーレットルージュの唇を無遠慮に開くのだった。
『挨拶は後よソロモン、先に用件を伝えます。エステル・ツァーデは、アルキメデスの地表にある長距離レーザー砲を20%まで破壊完了。地表に散らばる砲門全てに強力なシールドが展開されてるわ。地表から発射される長距離レーザーは、ある意味、艦隊よりも驚異よ。そのレーザー砲で被弾して、エステルのシールド防御レベルは40%に落ちているわ。そのため、戦艦サライには、エステルの援護に回ってもらっています。
セラフィムも、あのレーザー砲で被弾しないよう気を付けることね。
エステルはこのまま、アルキメデス艦隊への攻撃を続行。
トライトニア艦隊は、ソロモン、あなたにまかせるわ』
「了解した。ヘレンマリア、エステルに武運を」
相変わらずの威厳と威圧を持つヘレンマリアに敬意を示すように、ソロモンは、唇だけで微笑するとモニターに向かって敬礼する。
『こちらこそ、貴艦の健闘を祈ります』
“鋼鉄の女王”と呼ばれるエステルの女艦長へレンマリアは、スカーレットルージュの唇で凛々しく微笑して通信を切ったのである。
正にその次の瞬間だった。
レーダーを見つめていたルツが、叫ぶように声を上げたのである。
「アルキメデスの地表、ポイントW185N35に高エネルギー反応感知!!
長距離レーザー砲です!!射影角70度!!来ます!!」
刹那、輝くような銀色の前髪の下で、ソロモンの紅の瞳が猛禽類の鋭さで発光した。
「左舷補助エンジン出力120%!メインエンジン出力最大!全速回避!!」
「左舷補助エンジン出力120%!メインエンジン出力最大!セラフィム、全速回避!!」
機関長ビル・マードックがソロモンの声にすぐさま呼応する。
とたん、アルキメデスを覆う大気の合間に、雷光にも似た深紅の閃光が走り、螺旋の渦を巻く高エネルギーレーザーが、宇宙空間を貫いてセラフィムの前に迫ったのである。
銀色に輝くセラフィムの船体が、長距離レーザー砲照準圏内を急激に離脱していく。
それと同時に、ブロンドの髪を揺らしてオリヴィアが声を上げた。
「トライトニア艦隊から第三波きます!!」
「対戦艦ミサイル、撃て!!」
ソロモンの声がブリッジに響き渡ると、巨大な風防の右舷に、螺旋を描く高エネルギーレーザーの強烈な紅い光芒が迸った。
セラフィムの船体に12基ある対戦艦ミサイルユニットが、トライトニア艦隊に向け、轟音と白煙を上げて一斉にミサイルを発射する。
同時に、船体ぎりぎりのところを、地表から発射された高エネルギーレーザーが掠め通り、トライトニア艦隊からの青いビームと対戦艦ミサイルの雨が、容赦もなくセラフィムの防御シールドに降注いだのだった。
凄まじい爆音が暗黒の宇宙空間を轟かせると、シールドに着弾したミサイルが白煙を上げて爆発し、青いビームの閃光が千々になって虚空に弾け飛んでいった。
巨大の船体を貫く激しい衝撃がコントロールブリッジを大きく揺らし、高エネルギーレーザーの深紅の粒子が大きな風防の片隅に漂う。
波打つような衝撃に、ブリッジのオペレーター達がコンソールパネルにしがみついた。
長距離レーザー砲の直撃はなんとか間逃れたようだが、地表から撃たれる強力な火器は、宇宙空間からの対空砲火よりも厄介なことは間違いない。
長距離レーザー砲は質量が膨大だ、いくら高性能防御シールドを装備したセラフィムでも、一、二回直撃を受ければ、防御シールドは完全に離散するだろう。
「ナナミ!地表の高エネルギー反応を見逃すな!
ルツ!アルキメデスの軍用コンピュータにハッキングをかけて、長距離レーザー砲の制御システムを見つけてくれ!」
「イエッサー!」
ソロモンの指示に、ルツとナナミが刻みよく答えて、倒れかけた体を起しながら、コンソールパネルを叩いたのだった。
セラフィムの大型モニターに映し出されていたトライトニア艦隊の合間を、地表から放たれた長距離レーザー砲の紅い閃光が走り抜け、それをまともに食らった戦艦隊が、装甲板を溶解させながら次々と大爆発を起していく。
前で腕を組みながら、形の良い眉を眉間に寄せて、ソロモンは、猛禽類の如き鋭利な表情のまま、風防越しに見える惑星アルキメデスを睨むように見つめ据えたのだった。
その時、コンソールを叩いていたナナミが、驚いたような顔つきをして艦長席を振り返ったのである。
「艦長!アルキメデス行政総本部から入電です!!」
「・・・繋いでくれ」
冷静な鋭さを持つソロモンの紅の瞳が、通信モニターに動いた。
すると、そこに映し出されたのは、決して反乱軍の軍人などではなく、白いショートローブを纏う、よく見知った赤毛の青年だったのである。
それは、高速トランスポーター『バート』の船長にして、ギャラクシアン・バート商会の経営者、ショーイ・オルニー、その人であったのだ。
その姿を目にした瞬間、ソロモンは、どこか愉快そうに端整な唇の角をもたげたのである。
「やはり、無事だったな、ショーイ?」
通信モニターの中で、ショーイは、冷静な微笑を薄く知的な唇に刻んでいた。
『生憎、そう簡単には死ねない身だからね。ジャックから聞いたよ、結局、アルキメデスのクーデター鎮圧に借り出されたんだってね?』
「ああ、まぁな」
『中枢コンピュータは起動させたよ、そちらが必要だろうデータも採取完了。ただ、今、プラトンはビームの雨が激しくてね、此処から出れないんだ。それで、ついでだから、諸悪の根源の鼠でも退治しておこうかと思ってる』
その一言で、ソロモンは、ショーイが一体何をしようとしているのか把握して、実に愉快そうに笑ったのである。
恐らくショーイは、今回の軍事クーデター黒幕であろう、反トライトニアテロリスト、デボン・リヴァイアサンのリーダーを拘束するつもりなのだ。
だが、それは、かなりの危険を伴う作業なはずだ。
ソロモンは、シルバーグレイの軍服を纏う肩で軽く息を吐くと、モニターに向かって徐に口を開くのである。
「今、ルツが、アルキメデスの軍用コンピュータにハッキングをかけて、長距離レーザー砲の制御システムを探している最中だ。あのレーザーさえ止めてしまえば、降下したツァーデ小隊の手が空く。
少し協力してくれないか?ショーイ?手を貸してくれるなら、こちらも、ツァーデ小隊を鼠退治に協力させる」
その言葉に、ショーイは、実に高飛車に、さも愉快そうに言うのだった。
『アルキメデスの軍用コンピュータに侵入するのは、ルツ・エーラくんじゃ無理だよ、ソロモン』
どこか馬鹿にしたようなショーイの言い方に、必死でコンソールを叩いていたルツの眉が吊り上がった。
だがルツは、それでも手を止めぬまま、前髪から覗く黒い瞳で、ジロリとモニター越しのショーイを睨みつけたのである。
そんなことには気付かないショーイは、片手で眼鏡を押し上げると、知的な唇をニヤリともたげるのだった。
『軍用コンピュータのセキュリティシステムを作ったのは、僕の母だ。そう簡単には突破できない。いいよ、ツァーデ小隊を回してくれるなら、こちらも協力する』
「商談成立だな」
ソロモンはそう答え、軽く微笑して小首を傾げて見せる。
『じゃ、今から、長距離レーザー砲ジャック作業に取り掛かる、そんなに時間はかからないけど、一人より二人の方が早い。余り役には立たなくても、ルツ・エーラくんにはそのままアクセスを続けさせて』
「わかった、そうさせるよ」
『鼠退治に誰かを回してくれるながら、マキ少尉を指名したいところだけど、状況が状況だから、ツァーデ小隊の誰かでいいよ。そっちは、プラトンに降ってるビームの雨を止めることに専念して欲しい』
相変わらず高飛車なその物言いに、殊更ショーイの健在を実感して、ソロモンは、もう一度小さく笑ったのである。
「了解」
『それではよろしく』
そこで、ショーイからの通信は途切れた。
先ほどから、ずっとアルキメデスの軍用コンピュータに侵入を試みていたルツは、怒り心頭といった形相で、通信モニターに現れた通話終了のロゴを睨みつける。
ワイン色の制服を纏った背中に滲み出る、ルツの怒りを感じ取ったソロモンが、僅かばかり困ったような表情をして言うのだった。
「ルツ、ショーイは、君の優秀さをよく知っているんだ。だから、そのまま続けろと言った。よろしく頼むぞ」
「・・・イエッサー」
ルツは、苦々しい顔つきのままそう答えると、綺麗な眉を吊り上げたまま、ひたすらコンソールを叩きつづけたのだった。
ソロモンは、前で腕を組んだまま、大きな風防の先を睨むように見据えて、その優美な顔を凛と鋭い表情に引き締めると、大きく声を上げたのである。
「地表からの砲撃に最善の注意を払え!トライトニア艦隊との距離を詰め、全艦隊を殲滅する!両舷全速出力最大!」
「両舷全速出力最大!」
機関長ビルが、ソロモンの言葉を復唱すると、セラフィムの大型タービンが重低音を響響かせながらその回転数を上げた。
メインバー二アが青い炎を吹き上げると、銀色の巨大な船体が、トライトニア艦隊へ向かって急速発進していく。
16基の三連主砲から赤い粒子を散らしたビームの閃光が、宇宙空間を貫き、対戦艦ミサイルユニットからは、白煙と轟音を上げたミサイルが一斉に射出された。
敵艦隊からひっきりなしに打ち込まれる青いビームが、防御シールドに当って千々に弾け飛ぶ。
「艦長!地表から、また長距離レーザーが来ます!!」
レーダーを見つめていたナナミがそう声を上げた瞬間、アルキメデスの大気に高エネルギーレーザーの紅い閃光が迸った。
「左舷補助エンジン出力120%!!全速回避!!」
ソロモンの声と共に、セラフィムの船体が迅速に軌道修正していく。
長距離レーザーの照準宙域をぎりぎりで離脱したセフィムの傍らに、螺旋を描く深紅の光芒が、紅い粒子を散らして雷光の如く走り抜けて行った。
エステルよりも高性能な機関を持つセラフィムであるからこそ、このような急速回避が可能であるのだが、これも、いつまで通用するかは難しい加減である。
形の良い眉を凛と吊り上げて、ソロモンは、再び、鋭い声を上げたのだった。
「地表からのレーザー砲には絶対に当るな!一刻も早くトライトニア艦隊を殲滅させ、セラフィムは、反乱軍制圧のためアルキメデスに降下する!主砲、並びに対戦艦ミサイル発射用意!ハイド粒子を散布されても、そのまま撃ち続けろ!!撃て!!」
セラフィムの主砲から、エネルギー強化型の赤いビーム光が、甲高い轟音を上げてトライトニア艦隊へと発射され、それに続くように、対戦艦ミサイルユニットから、白煙を上げてミサイルが射出された。
戦局は、このまま大きく動くことになる。


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