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作品名:NEW WORLD〜第二序曲〜 作者:月野 智

第22回   【ACTV アルキメデスの憂鬱】5
           *
トライトニアの大型シャトルが、果てなき宇宙の闇にワープインした頃、惑星マルタリアの裏側で、ガ―ディアンエンジェルの宇宙戦闘空母セラフィムが、ワープイン体制に入っていた。
オペレーターセクションよりワンセクション高い位置にある艦長席で、ソロモンは、いつになく厳しい顔つきをしながら、眼前のモニターを見つめ据えていた。
アルキメデスにいる空母エステルから送られてくる、詳細な戦闘記録に目を通していたソロモンの顔が、ふと、訝しそうに歪んだ。
エステルの戦闘記録には、ギャラクシアン・バート商会は首都プラトンに降下とあるが、それから数十時間経過しているにもかかわらず、それ以降、彼らの動向を示すデータがそこに記載されていない。
優美なその頬にかかる銀色の髪を片手でかきあげると、ソロモンは、凛と鋭い眼差しのまま、落着き払った冷静な口調で、レーダー通信オペレーター、ルツ・エーラに向かって言うのである。
「ルツ、ギャラクシアン・バート商会の動向が気になる、バートに通信回線を開いてくれ」
「イエッサー・・・!」
ルツは、高く結った黒髪を微かに揺らすと、少々渋い顔つきをしながら手元のコンソールパネルを叩いたのだった。
褐色の肌に彩られた綺麗な顔が、僅かばかり不愉快そうに歪んでいるのは決して気のせいではない。
このルツ・エーラと、ギャラクシアン・バート商会の経営者ショーイ・オルニーは、セラフィムのブリッジオペレーターなら誰でも知っているというほど、すごぶる相性が悪いのだ。
今回は、どんな憎まれ口でこの通信を受けるのかと、内心で身構えながら、ルツは、バートへの通信回線を開いたのである。
「こちら、ガ―ディアンエンジェル所属空母セラフィム、バート、応答願います」
いつもは、このコールを三回以上繰り返してやっと返答が返ってくるはずのに、何故か、今日は、この一回だけで、通信モニターにバートの通信士、ジャック・マクウェルの姿が映し出されたのである。
『こちらギャラクシアン・バート商会所属、トランスポーターバート。よかったぁ〜、セラフィム、大変なんです!!』
通信モニターに現れたブルネットの青年、ジャックは、ひどく狼狽している様子であった。
本来なら、船長であるショーイに、すぐ様モニターが切り替るはずなのだが、今日は何故か、一向にショーイの姿が画面上に表れてこない。
肘掛に頬杖をついたまま、ソロモンは、通信回線に向かって冷静な声で言うのである。
「何があった?ジャック?セラフィムは、今からアルキメデスに向かう、そちらの状況を詳しく説明してくれないか?」
とたん、モニターの中のジャックは、なんともいえない複雑な表情をして、まくし立てるように言ったのである。
『は、はい!あの、船長とバートの武闘派連中が、アルキメデス行政総本部に乗り込んで、一応は無事にデータ収集をしてきたんですが、その通信を最後に、シグナルロストしてしまって!全然、連絡が取れないんです!!』
「なに?」
『トライトニアの艦隊がいきなりワープアウトしてきて!連中、いきなりプラトンを撃ってきたんです・・・っ!まさか・・・総本部も撃たれて・・・・それでっ』
その言葉に、ソロモンの優美な顔が、一瞬、驚愕の表情に歪んだ。
ギャラクシアン・バート商会を良く知るオペレーター達も、驚いたように通信モニターを眺めやる。
ソロモンは、美しい紅の瞳を鋭利に細めると、落ち着きを失わぬ、極めて冷静な声色で言葉を続けるのだった。
「ショーイもトーマも、他の連中も、皆優秀な人間だ。それは、同じの船の船員であるおまえが一番良く知っているだろう?滅多なことは考えるな。それで、バートは今どこにいる?」
『アルキメデス草原に着陸して、そのまま待機中です。迎えに行くと言ったんですが、来るなと言われて・・・』
「そうか・・・・セラフィムもこのまま直ぐにアルキメデスに向かう。バートはそのまま待機してくれ、わかったな?」
『りょ、了解!お待ちしてますから!ソロモン艦長!お気をつけて!』
「ああ、おまえも気を付けろよ」
『了解』
そこで、バートからの通信は途絶えた。
通信モニターに浮かんだ、通話終了のロゴを鋭利な視線で見つめながら、ソロモンは、いつになく渋い顔つきをする。
そんなソロモンを、主任オペレーター、オリヴィアが、ひどく心配そうに眉を寄せながら振り返った。
「艦長・・・」
いつもは犬猿の仲であるルツも、心なしか不安そうな顔つきでソロモンを見やる。
「艦長、あの人たち・・・無事でしょうか?」
その言葉に、ソロモンは、ふと、精悍な唇だけで小さく微笑すると、相変わらず冷静な声色で答えて言うのだった。
「ギャラクシアン・バート商会の連中は、転んでもただじゃ起きない、打たれ強い連中だ。そう簡単に死ぬとは思えない。だが、なにか緊急事態が起っているのは確かなことだろうな・・・・」
ソロモンは、頬杖を付いていた手を離し、ゆっくりと背筋を伸ばすと、冷静だが鋭い表情で、再び、口を開いたのだった。
「本艦はこれより、アンダルス星系惑星アルキメデスに向かう。座標修正7.43。ワープエネルギー充填開始。メインエンジン出力最大」
その声に、主任オペレーター、オリヴィア・グレイマンが呼応するように答えて言う。
「ワープシステムオールグリーン。エネルギー充填開始します。ワープインまで、残り30秒前」
それに続くように、機関長ビル・マードックが声を上げた。
「エナジーバルブ接続完了。メインエンジン出力最大」
宇宙戦闘空母セラフィムの大型タービンが、低く振動しながら急速に回転数を上げていく。
「ワープインまで、残り15秒」
巨大なバーニアが青い火を吹き、その推進力を最大にまで引き上げた。
オリヴィアがカウントを開始する。
「ワープインまで、残り10秒・・・9、8、7、6、5、4、3、2」
「セラフィム、ワープイン」
落着き払ったソロモンの声と共に、虹色の閃光を上げたセラフィムの巨大な船体は、無限の宇宙の彼方へと、一瞬にして消えていった。
アルキメデスの憂鬱は、まだ終わらない。




           *
アルキメデス行政総本部には、上空からの攻撃を回避するためのシールドが張り巡らされていた。
地上に幾つも設置された、高エネルギー長距離レーザー砲がゆっくりを大気の向こう側に照準を合わせていく。
そんな中、アルキメデス反乱軍にの元に置かれた査問室には、白いショートローブを纏う五人の青年たちが、後ろ手に手錠をかけられた姿で連行されていた。
殺風景な部屋の中に、銃機を構えたいかつい兵士が四名、その向こう側には、指揮官と思しき屈強な中年男性が大きなデスク越しにこちらを睨みやっている。
その男性の名はシュミット。
反乱軍地上部隊の少佐だという、歴戦兵士だった。
連行されてきた青年たちのリーダー、ショーイ・オルニーは、この状況下でも揺るがぬ落ち着きと冷静さを保っていた。
シュミットは、怯えもしないその豪胆さに感心しつつも、厳しい顔つきをしてゆっくりと口を開いたのである。
「貴様らは何者だ?何故、この総本部に侵入した?ただの民間人ではないな?」
「ただの民間人ですよ。急に弾薬の雨が降ってきたので、ちょっと雨宿りさせて頂いただけです」
鮮やかな赤毛の下から、眼鏡越しにシュミットの無骨な顔を顧みて、ショーイは、薄く知的な唇を、皮肉っぽく吊り上げたのである。
その言葉に、シュミットは鼻先でふんと笑った。
「貴様らの雨宿りには、武器が必要なのか?グレネードランチャー一基、ライフル一丁、マシンガン一丁、小銃三丁、随分と珍しい傘だな?」
「ここのところアルキメデスは不穏ですので、万が一の時、自分達の身を守るための装備していたまでです」
「ふざけたことを・・・・っ」
シュミットは、太い眉を苦々しく眉間に寄せると、片手で大きくデスクの端を叩いた。
「何が目的で総本部に侵入したんだ!?正直に白状したほうが身のためだぞ!!」
シュミットの荒々しい言葉と同時に、周りを囲んでいた兵士たちが、ライフルの銃口を一斉にギャラクシアン・バート商会の面々に向ける。
その時、ショーイの背後で、トーマが、実に面倒臭そうにため息を吐いたのだった。
「言うことが古典的で、面白くもなんともねーな・・・」
焦茶色の髪から覗く知的な紺色の瞳が、不意に、爛と鋭く閃めくと、その鋭利な視線が、ちらりと、傍らにいる三人の船員たちを見回したのである。
三人が、小さく頷くのを確認し、トーマは、さも、馬鹿にしたような口調で更に憎まれ口を叩くのだった。
「ったく・・・おたくら、いたいけな一般庶民を捕まえて一体なんだっての?雨宿りだって言ってんだろ?宇宙の頭脳を筋肉国家に変えようってぐらいだから、所詮、脳みそは猿人並みなんだろ?その脳細胞移ると困るから、好い加減、手錠外してくんない?」
その瞬間、怒気を漲らせた一人の兵士がトーマの眼前に立つと、構えていたライフル銃を振り上げ、その腹部をストック(銃床)で思い切り殴り付けたのである。
「貴様!自分が今どういう立場か弁えているのか!?生意気なガキが!!」
「ぐ・・・っ」
兵士の怒声を聞きながら、トーマは息を詰めて、思わずその場に倒れ込む。
「おい!大丈夫か!?」
慌ててフランクが腰を折ろうとするが、その背中に、また別の兵士が銃口を突きつけた、正に、その次の瞬間だった。
フランクの隣に立っていたフウが、兵士の構えた銃を間髪入れずに蹴り上げると、助走もつけずに高く跳躍して、宙を舞った銃を一瞬にして奪い取ったのである。
「!?」
そのあまりの素早さに、引き金を引くのも忘れた兵士達が、驚愕で目を剥いた。
「なに!?」
虚空で前転したフウは、かつんと軽い音を立ててデスクの上に着地する。
そして、長い前髪の下でにんまりと笑いながら、シュミット少佐の額に冷たい銃口を突きつけたのだった。
その間、僅か10秒。
シュミット少佐は、あんぐりと口を開いたまま、その状況を必死に飲み込もうとしているようだった。
「き、き、貴様!いつの間に手錠を・・・・!?」
「自分、とっても軟体動物的なんですよ。どんなにきつく縛られても、関節外して直ぐに取っちゃう習性があって。そんな訳で、撃たれたくなかったら、早く同僚の手錠外してもらえないかな?」
とたん、シュミットの無骨で厳しい顔が、湧き上がる恐怖で蒼白に染まった。
やけに偉そうな屈強な肩が、その見た目に反し、ひどく怯えたようにがたがたを震え出す。
この男、どうやら、相当な見掛け倒しであったらしい。
「わ、わ、わ、わかった!撃つな!おい、おまえ達、こいつ等の手錠をはずしてやれ!!」
シュミットが、上ずった声色でそう叫けぶと、あんぐりと口をあけたまま呆然と立ち尽くして兵士たちが、ギャラクシアン・バート商会の面々から慌てて手錠を外したのだった。
これは、ギャラクシアン・バート商会が、「なにかの手違い」で拘束された際によく使う、形勢逆転の上等手段である。
誰かか見張りの気をそらし、その隙に、無防備に近づいてきた輩の銃を奪い、リーダーと思われる人間を人質に取る。
職業柄、曰くつきの積荷をよく扱う彼らは、実に頻繁に、様々なバックグラウンドの連中から襲撃される事がある。
そのため、事前にそれらを想定し、色々なバリエーションの戦法を考えているのだ。
ここまで来ると、もはや民間企業というよりは、軍の一顧小隊と言った方が正しいのかもしれない。
日頃から、海賊だのテロリストだの、どこかの惑星の軍隊だのを相手にしているギャラクシアン・バート商会は、宇宙一物騒な民間運送会社と言っても過言ではないのだ。
安易にギャラクシアン・バート商会の人間を拘束した反乱軍は、やはり馬鹿だと、ショーイは底意地悪くほくそ笑む。
知的で薄い唇を性悪に歪めながら、ショーイは、眼鏡の下から覗く紺色の瞳を鋭利に細めて、実に皮肉った口調で言うのである。
「僕たちは、ギャラクシアン・バート商会と言う運送会社ものです。金銭次第で、指定場所に何でもお運びします・・・ただし、人間以下の知能しかない猿人のお荷物は、生憎運べません。ご了承くさい」
次の瞬間、フウの手が大きく振りあがり、シュミット少佐の延髄を、銃のストック(銃床)でしたたかに殴り付けた。
シュミット少佐が、白目を剥いてデスクに倒れ伏すと同時に、紺色の瞳をぎらりと閃かせたトーマが、先ほど、自分の腹をストックで打った兵士の顔面に、仕返しとばかりに凄まじい拳を叩きつける。
不意打ちを食らった兵士は、何が起ったのかすら気付かぬまま、鼻血を飛び散らせて床の上に倒れこんだ。
その隣の方では、二人の兵士の首根っこを掴んだクラスが、唇の角をニヤニヤと歪めながら、二人まとめて思い切り壁に叩きつける。
弾け飛んだ前歯がカツンと軽い音を立てて床に転がり、そこに、蟹のように沫を吹いた兵士二人が、折り重なるようにして倒れこんだのだった。
同時に、フランクの肘が、背後にいた最後の兵士の腹を思いきり打ち、倒れてきたその襟首を掴んで、顔面をしたたかに膝蹴りしたのである。
その場にいた全ての敵兵が、白目を剥いて気絶するまでに要した時間は、ほんの30秒であった。
揺れる鮮やかな赤毛の下でその様子をぐるりと見回して、まったくもって何の戦闘行為を行わなかったショーイが、にやりと笑いながら、冷静な口調で言うのだった。
「この間よりも少し時間がかかったね?尤も、あの時は、マキ少尉が一緒だったから、15秒で片付いた」
「リョーは、俺たちみたいなにわか兵隊じゃなくて、本職の兵隊だからな」
白いショートローブを纏った広い肩を小さく竦めて、トーマは、さも愉快そうにそんなことを口にする。
「同じ兵隊でも、この連中とは雲泥の差だけどね」
実に皮肉な目つきで、無様に倒れ伏した反乱軍兵士を見回すと、ショーイは、ゆっくりとトーマに振り返って、再び、唇の角を性悪と歪めたのだった。
「さて、外の対空砲火が止まないうちは、出るに出れないから、とりあえず、バートに連絡を取ってみようか」
「でも、船長。こいつらに通信機ぶっこわされちゃいましたよ?」
軽い身のこなしでデスクから床に飛び降りたフウが、僅かばかり切なそうな顔つきをして、まじまじとショーイの端整な顔を見つめすえる。
そんなフウに向き直ると、冷静で落着き払った表情を崩さないまま、飄々とした顔つきでショーイは言う。
「もう一度、中枢コンピュータルームに戻るよ。あそこは頑丈だし、外部への通信も可能だ」
「セキュリティーシステムはどうするんだ?船長?」
怪訝そうに眉根を寄せながら、今度は、クラスがそんな事を聞いてきた。
すると、ショーイは、親指を立てて、デスクに突っ伏したまま沫を吹いているシュミット少佐を指したのである。
デスクの上には、シュミットの胸ポケットから飛び出した、IDカードが無造作に放り出されていたのだった。
「ついでだから、宇宙の頭脳を筋肉頭脳にしようとした諸悪の根源を、捕まえておこうか・・・」
ショーイの唇が、思惑有り気にニヤリと笑った。


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