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作品名:NEW WORLD〜第二序曲〜 作者:月野 智

第20回   【ACTV アルキメデスの憂鬱】3
            *
アルキメデスの軌道上に、突如としてワープアウトしてきたトライトニア艦隊の数は、約400。
その機影を映し出す大型モニターを見やりながら、宇宙戦闘空母エステルの艦長、ヘレンマリア・ルーベントは、細い眉を鋭く眉間に寄せたのだった。
40名のオペレーターを抱えるコントロールブリッジは至って冷静だが、アルキメデスの地表は、今頃、大混乱に陥っているはずだ。
主任オペレーターアルフレッド・リィが、長い黒髪を揺らしてワンセクション高い艦長席を振り返る。
「トライトニア艦隊ワープアウトと同時に、地表に向けて攻撃を開始しました。アルキメデス艦隊第一陣離陸、残り40秒でトライトニア艦隊との交戦宙域に到達します」
ヘレンマリアは、肘かけに頬杖を付いたまま、何かを思案するようにその水色の瞳を閉じた。
その時、レーダー通信オペレーター、セレネ・カサドラが、モニターを見つめながら言ったのである。
「トライトニア艦隊、分散開始。ケンタウロス級駆逐艦80、エステルに向かって進路を取っています。距離65345、速度、1400Sノット。敵艦隊、主砲射程圏内到達まで、距離約45000。アルキメデス艦隊、第二陣、第三陣、離陸しました。
地表に高エネルギー反応を感知、アンノウンです」
ヘレンマリアは、ゆっくりと瞳を開くと、スカーレットルージュの唇で皮肉っぽく笑った。
「トライトニアめ・・・デボン・リヴァイアサンごと、エステルまで沈めるつもりか」
どこか愉快そうにそう呟くと、その顔を凛と鋭い表情に引き締めて、“鋼鉄の女王”と異名を取るヘレンマリアは、大きく声を上げたのである。
「第一次迎撃体制を取れ!敵艦隊が射程圏内に入り次第、主砲発射!
地表の高エネルギー反応は長距離レーザー砲だ、全速回避する!
リニウス部隊出撃準備、フォーメーションИ(イー)で発進命令を待て!
右舷前方及び左舷後方補助エンジン出力70%、エステル、微速反転。
トライトニア艦隊を迎撃しつつ、地表からの長距離レーザー砲に備えろ」
「イエスマム!!」
40名ものブリッジオペレーターが一斉にその声に呼応した。
ゆっくりと艦長席を立ちながら、ヘレンマリアは、レーダー通信オペレーターセレネに言う。
「セレネ、此処から一番近い場所にいるガーディアンエンジェルの船は?」
「はい、惑星マルタリアで整備中の空母セラフィムです」
セレネの返答に、ヘレンマリアはさも愉快そうに笑って腕を組んだ。
「そうか・・・なら、セラフィムに通信回線を開け、整備状況次第で支援要請を行う」
「イエスマム!」
セレナがそう答えると同時に、同セクションの通信オペレーター、キム・ヨンエが声を上げた。
「アルキメデス艦隊第四陣、エステルに向かって急速接近中!戦艦サライ、エステルの援護に回ります!」
「ラムセス艦長に宜しくと伝えなさい。まったく、随分と複雑な戦況になってきたわね」
ヘレンマリアは、一つ大きく息を吐くと、その水色の瞳を女豹の如く煌かせ、片腕を大きく前方に伸ばしたのだった。
「全砲門を開け!主砲発用意!!1番から6番、照準修正、目標アルキメデス艦隊!
7番から12番反転、目標、トライトニア艦隊!対戦艦ミサイル発射用意!!射程圏内に到達次第攻撃開始!リニウス部隊発進!アレフからメームはトライトニア艦隊へ、ヌーンからアインはアルキメデス艦隊へ!ツァーデ小隊は、地表にある高エネルギーレーザー砲の破壊に迎え!」
「艦長、トライトニア艦隊、及びアルキメデス艦隊、主砲射程圏内に到達。第一波きます!」
主任オペレーターアルフレッドの声がブリッジに響き渡ると、ヘレンマリアは、鋭い声で大きく言った。
「防御シールド展開!主砲、撃て・・・っ!!」
リニウス部隊の赤い機体が、流星の光芒を引いて宇宙空間に飛び出したと同時に、エステルの巨大な船体に搭載された、12基搭の平射4連ビーム主砲の砲門に、蛍にも似た粒子が舞い飛んだ。
甲高い轟音を上げた高エネルギービームの赤い閃光が、暗黒の宇宙空間に矢のような光芒を引いた。
トライトニア艦隊、アルキメデス艦隊から発射された青いビームの先端が、幾筋もの直線を描いて、エステルの赤いビームとすれ違っていく。
エステルのシールドに一斉に到達した敵艦隊のビームが、凄まじい光の渦となってその巨大な船体を大きく横に揺らした。
ブリッジが斜めに傾き、オペレーター達が、コンソールにしがみつくようにしてその衝撃を回避する。
同時に、エステルに16基装備されている対戦艦ミサイルユニットが、鈍い音を上げて反転し、轟音と白煙を上げた弾頭が連続で宇宙空間に発射された。
エステルから発射された強化型ビームの赤い閃光は、次々と敵艦隊を被弾させ、暗黒の闇にオレンジ色の光芒を揺らめき立たせる。
それに追い討ちを掛けるように、白い煙を引いた対戦艦ミサイルが容赦なく着弾し、轟音を上げて激しい爆発を引き起こしたのだった。
その時、通信オペレーターセレネが、僅かばかり焦った声色で叫ぶように言った。
「艦長!地表に設置された高エネルギーレーザー砲が、発射体制に入った模様です!!」
細い眉を鋭く眉間に寄せ、ヘレンマリアが再び大きく声を上げる。
「メインエンジン出力最大!左舷補助エンジン出力120%!!全速回避!!」
「メインエンジン出力最大!左舷補助エンジン出力120%!エステル、全速回避!!」
ヘレンマリアの言葉を復唱して、機関長アブドル・ルピーが素早くコンソールパネルを叩く。
エステルのメインバー二アが青い炎を吹き上げ、点火された補助エンジンが鈍く低い轟音を上げると、エステルの船体が急激にその宙息域を離脱していく。
とたん、惑星アルキメデスを覆う白い大気に深紅の光芒が走り、螺旋を描く高エネルギーレーザーが、空を駆ける雷光の如く暗黒の宇宙空間を突き貫いたのだった。
「高エネルギーレーザー来ます!迅速(はや)い!回避、間に合いません!!」
いつに無く険しい顔つきをしたアルフレッドが、叫ぶようにそんな声を上げた、その次の瞬間、凄まじい衝撃と深紅の光芒がエステルの左舷を掠め通り、その高エネルギーレーザーの影響を受けた防御シールドの一部が、にわかに欠損を起したのだった。
それだけではない、あろう事か、赤いレーザーの先端が、欠損したシールドの内側に搭載されていたシールド発生装置を、その一瞬で溶解させてしまったのである。
のたうつような激しい衝撃が深紅の船体を大きく揺らし、シールドの一部を失ったエステルが大きく横に傾いていく。
「きゃあ!」
コントロールブリッジの女性オペレーター達が、座席から降り落とされそうになって、慌ててコンソールにしがみついた。
「左舷のシールド発生装置が破壊されました!エステル、シールド防御レベル40%に低下!!」
長い黒髪を揺らしてコンソールにしがみつくアルフレッドが、端整な顔を苦々しく歪めてそう叫んだ。
艦長席に凭れるようにして身体を支えたヘレンマリアは、眉間に深いしわを刻み、殊更厳しい顔つきをすると、覇気を失わぬ鋭い声で大きく言い放つ。
「次は絶対に食らうな!ツァーデ小隊はどうした!?」
「ツァーデ小隊は、現在、熱圏内を降下中!!」
素早くコンソールを叩いたセレネの声が、慌(あわただ)しくそう答えた。
「怯むな!このまま、敵艦隊の迎撃を続ける!!主砲、撃て――――っ!!」
「イエスマム!!」
トライトニアとアルキメデス艦隊を目の前にしたエステルの攻防は、まだ、終息の様相は見せない。
アルキメデスのクーデターを起点にして、トライトニア、アルキメデス反乱軍、そしてガーディアンエンジェルとの三つ巴の戦いは、その戦況すら予想することもできなかった。











            *
惑星マルタリアにある戦艦ドック『ドーラ』に曳航されていた、宇宙戦闘空母セラフィムに、けたたましいスクランブル警報が鳴り響いたのは、マルタリア標準時間、午前6時のことであった。
就寝中のベッドから飛び起きた船員達が、慌しく制服を纏い、一斉に持ち場へと走り出していく。
セラフィムのコントロールブリッジには、いつもの面々が着席し、計器モニターのチェックを開始していた。
艦長のブリッジインを知らせるコールが鳴り響き、40名のオペレーター達は、凛とその背筋を正したのである。
主任オペレーター、オリヴィア・グレイマンが、艦長席に腰を下ろしたレムリアス・ソロモンに向かって、落着き払った口調で言う。
「アルベータ装甲修復完了。空母エステルからの緊急支援要請は、グリーンで回答しました。セラフィムの全システム、オールグリーンです」
その言葉にゆっくりと頷くと、ソロモンは、長い足を組みながら、冷静だが鋭い表情でブリッジの風防を見つめすえ、紅い瞳を猛禽類の眼光が如く鋭利に細めたのだった。
そして、その精悍で端整な唇を、ゆっくりと開いたのである。
「セラフィムはこれより、空母エステルの支援のため、アンダルス星系アルキメデスに向かう。ワープシステムチェック。全レイバンパイロットは、装備を整え、ドックルームにて待機」
ソロモンの声と同時に、戦艦ドック『ドーラ』のゲートがゆっくりと開いていく。
暁の楕円太陽が眩い閃光を瑠璃の海面に注ぎ、トパーズのような色彩でキラキラと輝いていた。
「離水可能ポイントまで、補助エンジン出力40%で微速前進」
「補助エンジン出力40%。微速前進」
機関長ビル・マードックが、ソロモンの声に呼応すると、セラフィムの補助エンジンが鈍い轟音と共に青い火を吹き上げた。
銀色に輝く巨大な船体がゆっくりと動き出し、ドックのゲートから広大な海原へと進んでいく。
そんなセラフィムに向かって、『ドーラ』の整備士達が、皆一斉に敬礼した。
瑠璃色の波間を裂くように進んでいくセラフィムの船体が、楕円太陽に照らし出されて鋭利に発光すると、白い漣が、装甲板に当って砕け暁の中で宝石のようにきらきらと輝いたのだった。
コントロールブリッジに設置された巨大な風防の向こう側、瑠璃色の海と広大な空が広がる。
「離水可能ポイントに到達しました」
オリヴィアの刻みの良い声が、ブリッジの最中に響き渡った。
ソロモンは、銀色の長い髪の隙間から、晴れ渡る空を睨むように見つめると、落着き払った声で言うのだった。
「エナジーバルブ接続。メインエンジン点火」
ソロモンの声に呼応して、機関長ビル・マードックが大きく声を上げた。
「エナジーバルブ接続完了!メインエンジン点火!」
セラフィムの巨大なタービンが重低音を上げながら回転し始め、青いダビデの星を掲げた銀色の船体が小刻みに振動すると、後部のメインバーニアが青い炎を蓄え始めた。
「上昇角45度で固定、両舷全速出力最大、セラフィム、発進する」
凄まじい轟音と波飛沫を上げて、セラフィムのメインバーニアが青い炎を吹き上げた。
急激に加速してく巨大な船体が、暁の光を受けて閃光の如く煌いた。
船首を上げたセラフィムが、轟音と爆風を巻き起こしながら、ゆっくりと宇宙へと飛び立っていく。
アルキメデスで勃発した三つ巴の攻防は、セラフィムの到着と同時にその激しさを増すことになる。


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