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作品名:NEW WORLD〜第二序曲〜 作者:月野 智

第2回   【ACTT 惑星マルタリアの一隅】2
          *
ラレーラ星系第三惑星マルタリア。
その惑星国家は、近代的な都市が立ち並ぶ反面、原始のままの自然と高い山脈を有する豊かな星であった。
『アライアンス・オブ・ユニバーサル・オーシャン・ライブ・プラネット(ALLIANCE  OF UNIVRESAL OCEAN LIVE PLANET )』、通称AUOLP(オールプ)と呼ばれる惑星連合加盟国家の中でも、どちらかと言えば小国家であるこの星が、経済的に繁栄するその理由は、この星の山岳地帯でのみ採掘されるアルベータ鉱石がもたらす利益の故であった。
アルベータ鉱石は、他の金属よりも遥かに強度が高く、戦艦や宇宙船の装甲隔壁に使用される特殊装甲原料の最高峰であった。
偏狭惑星トリスタンで採掘されるオリハラル鉱石と並び、加工が難しい鉱石であるため、溶解させて装甲板を作ると言うよりは、特殊な技術でナノ単位にまで粉砕したアルベータ鉱石を、装甲板に吹き付けて利用するのが一般的となっている。
だが、その単価が莫大であるため、それなりの財源を持つ惑星国家にしか買い受けることの出来ないというのが現状だった。
先日、惑星ローレイシアの軌道上で、トライトニア戦艦隊と交戦したセラフィムは、その船体にかなりの損傷を受けていた。
整備班は全ての個所を修復しているが、このアルベータ鉱石の特殊装甲だけは、惑星マルタリアでしか施すことができない。
アルベータ装甲の技術特許は惑星マルタリアだけのものであり、それを惑星外に出すことを、マルタリア政府が厳禁としているためである。
そのため、いくつかの惑星国家は、アルベータ装甲の技術とライセンスを借り受けようと、幾度となくマルタリア政府との交渉を重ねているのだという。
この惑星マルタリアには、ガーディアンエンジェルが秘密裏に借り上げている戦艦ドッグがある。
ガーディアンエンジェルの戦艦もまた、このマルタリアに寄航しなければ、その特殊装甲を施すことができないのだ。
セラフィムも、決して例外ではない。
セラフィムの船体はかなりの大型であるため、たった数箇所にアルベータ装甲を施すだけでも、宇宙標準時間で有に二日はかかる。
その二日間は、乗組員達にとって、地上に降りることの出来る唯一の休日でもあるのだった。
惑星マルタリアの首都セネルリアから300キロほど離れた海岸沿いに、ノバーナと言う名のリゾート都市がある。
マルタリアは、豊かな自然と澄んだ大気を保有しているため、他の惑星からの観光客が意外に多い惑星でもあった。
アルベータ鉱石の他に、この星に経済効果をもたらす要因の一つは、この観光収入ともいえよう。
ノバーナの海岸から20キロの地点に位置する島に、ガーディアンエンジェル専用の戦艦ドック『ドーラ』がある。
『ドーラ』にセラフィムが曳航されたのは、マルタリア時間で午後9時21分の事だった。
その瞬間、40名ものオペレーターを抱えるセラフィムのコントロールブリッジに、安堵のため息が漏れた。
大きな風防の向こうでゆっくりと閉じていくゲートを、オペレーターセクションより高い位置にある艦長席から見つめながら、レムリアス・ソロモンは、唇だけで小さく微笑したのである。
長い銀色の髪を広い肩で揺らしながら、静かに席を立つと、ソロモンは、下方のオペレーターセクションに向かってたおやかに言うのだった。
「通信機器、及びレーダーの監視は続ける。交代で勤務に当ってくれ。その他の者は、個々に休暇を取っていい。俺からは以上だ」
「イエッサー!」
そう答えたオペレーター達の声が、いつに無く元気が良いのは決して気のせいではない。
宇宙空間を長期間航行し続けるセラフィムの船員達にとって、地上に降りられる機会などそう滅多にあるものではない。
常に緊張状態にある船員達のメンタル面に気を使うのも、艦長としての重要な役目の一つだ。
ソロモンは、唇だけで微笑すると、ゆっくりとその長身を翻しブリッジのオート・ドアを後にしたのだった。
艦長がブリッジアウトしたことを知らせるコールが鳴ると、数人の”留守番”だけを残し、オペレーター達は嬉々とした顔で一斉に席を立ったのである。
惑星マルタリアでの初日は、こうして幕を開けた。









            *
惑星マルタリアには、二つの月がある。
その軌道上には二つ衛星が存在し、ダイヤモンドの輝きで、毎夜、惑星の夜を美しく彩っていた。
澄んだ大気は紺色に染まり、穏やかな漣(さざなみ)が寄せる宵辺。
久々の地上休暇に沸く船員達をよそに、艦長専用執務室には、僅かばかり渋い顔つきをしたレムリアス・ソロモンの姿があった。
ソロモンは、鋭く細めた視線で、デスクに設置された通信モニターを見つめながら、組んだ両手をその端整な顎をあてがい、ディスプレイに映し出されたその人物に、冷静な声で語りかけたのである。
「それで・・・そちらの守備はどうだ?ショーイ?」
『あまり良いとは言えないな・・・トライトニアを出たシャトルの乗船名簿には、確かに、ガブリエラ・ワーズロックと言う名前はあったけど・・・』
モニター越しにそう答えたのは、鮮やかな赤毛を持つまだ歳若い青年であった。
眼鏡越しにこちらを見つめる、知性溢れる紺色の瞳。
均整の取れた顔を冷静で知的な面持ちに満たしたその青年は、広域宇宙専門の運送業者ギャラクシアン・バート商会の若き経営者、ショーイ・オルニーに相違ない。
ソロモンから、”イヴを探す”という仕事を請け負ったギャラクシアン・バート商会は、武装高速トランスポーター『バート』を駆り、現在、惑星アルキメデスの軌道上にいる。
彼等の本拠地はアルキメデスの首都プラトンに置いてあるが、にわかに、かの惑星を震撼させた軍事クーデターにより、『バート』ですら、容易にスペースエアポートに着艦できない状況にあるのだ。
ショーイは、あからさまに不愉快そうな顔つきをしながら、それでも冷静な声色で言葉続けた。
『脳内筋肉馬鹿どものお陰で、アルキメデスの中枢コンピューターがダウンしていて、そちらから情報が引き出せないんだ。一旦、プラトンに降りてみないと、詳しいことは調べられない・・・というのが現状だね』
「降りられそうなのか?」
形の良い眉を眉間に寄せて、沈着だが鋭い声でソロモンが問う。
ショーイは、片手で軽く眼鏡を押し上げると、モニターの向こうで長い足を組替え、落着き払った口調で答えるのだった。
『強行突破すれば間違いなく降りられるよ。今、その機会を伺ってる。筋肉馬鹿の艦隊なんかに、バートは撃墜できないからね』
自信たっぷりにそう言ったショーイを、ふと、どこか愉快そうな視線で顧みて、ソロモンは、唇だけで小さく笑った。
「ガーディアンエンジェルから、戦艦サライと空母エステルがアルキメデスに向かっている。その到着を待ってからの方が、降り易いかもしれない。依頼のことは本部も知っているし、サライもエステルも、状況は把握しているはずだ」
『そう・・・じゃ、無駄弾はあまり撃ちたくないから、ガーディアンエンジェルを待つことにするよ』
「ああ、有効に活用してくれ。地上に降下してからは、おまえ達の方が身軽だ、そこからはあまり関与しないように言っておく」
『是非そうして、いくら依頼主の一派とはいえ、横槍を入れられるとやる気が無くなるからね』
さも平然とそう言ってのけたショーイに、ソロモンは、もう一度愉快そうに笑って見せるのだった。
「知ってるよ」
その言葉に、どこか満足気に頷くと、ショーイもまた、端整な唇の端を愉快そうに吊り上げたのである。
『じゃ、また連絡する』
「ああ。気を付けろよ」
『ご心配なく』
そこで、『バート』からの通信は途切れた。
ブラックアウトしていくディスプレイを眺めながら、ソロモンは、精悍で優美な頬にかかる長い銀髪を軽くかき上げると、シルバーグレイの軍服に包まれた広い肩で、大きく息を吐くのだった。
12年前、人工子宮ごと失われたと思われた”二人目のイヴ”が、生きているかもしれない。
もし、その少女が本当にイヴであるなら、ガーディアンエンジェルの主旨が一気に動き出すことになる。
完全なNW−遺伝子を持つ男女が揃えば、その時は、『NEW WORLD(新世界)』と呼ばれる、三世紀にも渡って練りこまれた計画が実行に移されることになるのだ。
そうなれば、間違いなく、ガーディアンエンジェルは、惑星連合(AUOLP)をも完全に敵に回すことになるだろう。
ガーディアンエンジェルが持つこの強大な軍備は、それを想定して整えられたものであるのだから。
だが、アルキメデスに向かったはずイヴは、かの軍事クーデターで、再び、消息が途絶えてしまった。
彼女がアルキメデスにいるかどうかは、ショーイの言う通り、首都プラトンに降りてみなければ判らないのだろう。
ソロモンは、組んだ両手に端整な顎をあてがったまま、ゆっくりとその紅の瞳を閉じ、再び、広い肩で大きく息を吐いたのである。
無事でいればいいが・・・・そんなことを思った時、不意に、執務室のオート・ドアが音もなく開いた。
銀色の前髪の下で静かに瞼を開くと、その視界の中に、よく見知ったブロンドの女性が立っている。
熱いコーヒーの入ったカップをトレーに乗せ、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくるのは、他でもない、主任オペレーター、オリヴィア・グレイマンであったのだ。
「艦長、いくらNW−遺伝子の持ち主とはいえ・・・少しはお休みになられないと、お疲れなんじゃないんですか?もう何日まともに寝てらっしゃらないの?また、ソファでうたた寝することになりますよ?」
そう言ってにっこりと笑ったオリヴィアが、デスクの上にコーヒーカップを置く。
立ち昇る湯気の向こう側で、小さく肩を竦めたソロモンが、困ったような顔つきをして、オリヴィアのにこやかな顔を仰ぎ見たのだった。
「・・・・・あの時、上着をかけてくれたのは君だったのか?オリヴィア?」
「よく寝てらしたから、声をかけられなくて。あんな眠り方をするぐらいなら、ちゃんとお部屋でお休みになられてください」
両手でトレーを抱え、ブロンドの髪を揺らすと、オリヴィアは小さく首を傾げ、もう一度、にっこりと微笑するのである。
「そうだな・・・今夜はそうするよ」
苦笑しながらそう答え、コーヒーカップに手を伸ばしたソロモンの優美で端整な横顔を、オリヴィアの茶色の瞳が、どこか可笑しそうに見つめすえる。
その視線に気付いて、ソロモンは、訝しそうに眉根を寄せると、銀色の前髪の下から覗く綺麗な紅の瞳で、まじまじとオリヴィアを顧みるのだった。
「・・・・どうした?」
「いいえ、なんでもありませんわ」
「艦長の寝顔は、とても可愛いですね」とは、当の本人を目の前にして言えるはずもなく、オリヴィアはただ、赤いルージュをひいた妖艶な唇で微笑するだけである。
ソロモンは、ますます訝しそうな顔つきをしながら、そんなオリヴィアを凝視すると、片手で持ち上げたコーヒーカップに唇を付けた。
その時である。
再び、眼前のオート・ドアが音もなく開いた。
デスクの傍らに立っていたオリヴィアが、ふと、背後を振り返る。
すると、ドアの向こう側から、艶やかな黒髪を弾ませた一人の幼い少年が、息せいてそこに駆け込んできたのだった。
やけに元気な足音を響かせて、突然姿を現したのは、”完全なる不老の遺伝子”を持つ純真無垢な少年、ハルカ・アダミアンである。
ハルカは、愛らしい顔を満面の笑で満たし、デスクの脇まで勢いよく走りこむと、思い切り助走をつけて、なんの遠慮も躊躇もなくソロモンの膝に抱き付いた。
「レムルっ!ねぇねぇ!明日、僕もセラフィムから降りていい!?」
ソロモンは、コーヒーカップを持つ手を咄嗟に上げて、それが零れないような体制を作ると、実に困ったような顔つきをしながら、純粋な黒い瞳をきらきらと輝かせるハルカを、呆れた視線で見つめ返したのである。
「おいおい・・・ハルカ、まだ起きてたのか?」
「うん!」
悪びれることもなく大きく頷くハルカに、思わずため息をつき、ソロモンは、コーヒーカップを持つ手を下ろしながら、ますます呆れた様子で虚空を仰ぐ。
その様子を見ていたオリヴィアが、片手を口元にあてがって、くすくすと可笑しそうに笑った。
それと同時に、執務室のオート・ドアが三度開くと、今度はそこから、ハルカのナニーであるセクサノイド、イルヴァが、ひどく慌てた様子で駆け込んできたのである。
「ハルカ、何をしているのです!?もう寝る時間ですよ!!早くベッドに行ってください!!」
まるで母親のような台詞を吐きながら、綺麗な顔を怒ったようにしかめたイルヴァが、ソロモンの膝に抱き付いているハルカの体を、背後から強引に抱き上げる。
いくら子供とはいえ、11歳になろうとしている少年の身体を軽々と抱き上げられるのは、イルヴァが戦闘用のセクサノイドであるが故だろう。
彼女は、見た目の美しさにそぐわず、案外豪腕であるのだ。
「うわ!や、やめてよ〜イルヴァ!まだ、レムルと話終わってないってば!」
ハルカは、驚いたように声を上げて、イルヴァの腕から逃れようと必死で両腕を伸ばすが、ソロモンは、唇だけで軽く微笑するだけで、決してその手を取ろうとはしなかったのである。
そして、そんなハルカを横目で見やり、零れかけたコーヒーに口をつけながら、何の気無しに言うのだった。
「ナニーの言う事をちゃんと聞けないようじゃ、セラフィムから降ろすわけにはいかないな」
「え――っ!やだよそんなのぉ!」
実に不満そうに眉根を寄せて、拗ねたように唇を尖らすハルカを見やったまま、ソロモンは、底意地悪い表情で更に言葉を続ける。
「だったら、ちゃんと寝るか?大人しく部屋に帰って寝れば、少しは考えてやってもいいぞ」
ハルカの経験上、ソロモンは決して嘘はつかない。
嘘をつかない代わりに、一度駄目だと言えば、どんなに駄々をこねようと、それを覆すことは決してしない。
それを知っているハルカは、小さくため息をつくと、イルヴァの腕から静かに床に降り立って、やけに素直に頷いたのだった。
「・・・・・わかった、ちゃんと寝る」
純粋な黒い瞳が、艶やかな前髪の下から真っ直ぐにソロモンの顔を見つめすえる。
ソロモンは、唇だけで微笑した。
「良い子だ。おまえがちゃんと寝たかどうかは、後でイルヴァに報告して貰う。約束を守れば、明日の下船は許す。判ったら部屋に戻れ、いいな?」
「はーい」
少しだけ寂しそうに眉根を寄せながらも、素直にそう答えると、ハルカは、傍らに立っているイルヴァの暖かな手を握った。
そんなハルカの顔を、サファイアのような美しい人工眼球で見つめながら、イルヴァは、綺麗な唇でニッコリと微笑むのだった。
「レムリアスもああ言っています、だから、行きましょう、ハルカ。ちゃんと眠れば、明日は、ナナミ達と街へ行けますから・・・ね?」
イルヴァの優しい口調は、本当に人間の女性の・・・いや、母親の口調そのものである。
イルヴァにとってのハルカは、愛情をかけるべき存在であり、その情緒プログラムに母性と似た感情を増幅させる唯一の存在でもあった。
彼女本人は、意識せずにその母性愛と思しき愛情をハルカに向けているが、それは、人間からすれば驚愕に近い事実でもあった。
機械であるはずのセクサノイドが、人間に愛情を抱く。
基本プログラムを起原として、人間と関わることで更にそれを学習し、プログラムを増幅させ、機械が人間を愛するのだ。
これほど驚くべきAIを持つセクサノイドなど、そう簡単に制作できるものではない。
彼女の製作者である亡きワーズロック博士は、やはり天才であったのだと・・・ソロモンは思う。
銀色の前髪から覗く紅の瞳で、ハルカを諭すイルヴァの姿を見つめたソロモンの唇が、やけに柔和に微笑した。
その視界の中で、宝石のような青い髪がふわりと揺れる。
秀麗で甘く、月の光のような美貌を持つその顔。
美しい造形を象るしなやかな肢体。
ハルカの手を引いてゆっくりと部屋を出て行くイルヴァが、ふと、ソロモンを振り返った。
同時に振り返ったハルカが、少しだけ寂しそうに言うのである。
「レムル、おやすみ〜」
「おやすみ」
そう答えたソロモンの紅い瞳と、サファイアの色をしたイルヴァの人工眼球がぶつかった。
その瞬間、彼女は、先日までは見ることのできなかった美しい微笑みを秀麗な顔に浮かべ、静かにこう言ったのである。
「ご指示の通り、ハルカが寝むったら、報告しに来ます」
「ああ」
ソロモンはそう答えて、コーヒーカップをデスクに置くと、顎の下で両手を組んで、もう一度柔和に微笑するのだった。
イルヴァは、ふくよかな胸元で青い髪を揺らし、小さく首を傾げて見せると、そのまま、ハルカを連れて、オート・ドアの向こう側へと姿を消していったのである。
彼女の態度が急激に軟化したのは、”人間としての名前”、『イルヴァ』という名を与えてからだろうか。
もしかすると、彼女は、それがひどく嬉しかったのかもしれない。
あれだけの高度な情緒プログラムを持つセクサノイドだ、そう思っていてもさしておかしくはない。
ソロモンは、自らが”戦場のサファイア”と称した美しいセクサノイドの後姿を見送って、その端整な唇を、三度、柔和にもたげたのである。
すると。
なにやら鋭い視線が、頬の辺りに刺さっているのに気がついて、ソロモンは、ふと、デスクの傍らに立っている、オリヴィアの美麗な顔を訝しそうに仰ぎ見た。
オリヴィアは、怒ったような顔つきをしながら、いきなり、ソロモンの肘の辺りをつねったのである。
「痛・・・っ!?」
「艦長、目尻が下がりっぱなしですよ」
驚いて両眼を見開いたソロモンに、オリヴィアは、そんな事を言い放つと、ふくよかな胸元にトレーを抱え、ヒールのかかと不機嫌そうに鳴らしながら、さっさとオート・ドアを出て行ってしまったのだ。
つねられた肘を片手で抑えながら、ソロモンは、訳がわからずきょとんとして、無機質に閉まるオート・ドアをまじまじと見つめすえる。
こうして、平穏のうちに始まろうとしたマルタリアの休日であったが、事態は、そう上手くは運ばなかったのである。
セラフィムが『ドーラ』に着艦して数時間の後。
惑星マルタリアの大気圏を抜け、首都セネルリアのスペースエアポートに、一隻の大型シャトルが着艦した。
その側面には、楕円の惑星を象る金色のエンブレムが掲げられ、それが、惑星トライトニアからの要人専用シャトルであることを明白に示していた。
マルタリアの標準時間で午前零時。
波乱を呼ぶ一隅まで、あと、ほんの12時間である。



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