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作品名:NEW WORLD〜第一序曲〜 作者:月野 智

第12回   12
             *
ローレイシアの暁に、緊急事態は突然巻き起こった。
慌しく動き始めたセラフィムのコントロールブリッジに、主任オペレーター、オリヴィアの声が響き渡る。
「敵艦隊、ローレイシアの軌道に到達するまで約200分」
宇宙戦闘空母セラフィムの艦長レムリアス・ソロモンは、輝くような銀色の髪を広い肩で揺らしブリッジインすると、落着き払った物腰で艦長席に腰を下ろしながら、鋭利で冷静な顔つきで口を開くのだった。
「数は?」
その質問に答えたのは、レーダー通信オペレーター、ルツ・エーラである。
「ネフィリム級大型母艦5、ケンタウロス級駆逐艦300です」
「第一次迎撃体制を取れ。レイバン部隊、全機出撃準備。防御シールドを展開しながら、ローレイシアの大気圏を抜ける」
「イエッサー!」
ソロモンの声に、40名ものブリッジオペレーターが一斉に呼応した。
組んだ長い足に両肘をつくと、端整な顎の下で両手を組んだ姿勢で、ソロモンは、眼前のモニターに映し出されたレーダーを見ながら、更に言う。
「レイバン部隊各機に通達。大気圏を抜けると同時に、フォーメーションИ(イー)で発進」
「イエッサー!」
通信オペレーター、ナナミ・トキサカがそう答え、手元のコンソールパネルを素早く叩いた。
銀色の前髪の下から覗く紅の瞳を鋭利に細め、ソロモンは、巨大な風防の向こうに広がる暁の空を睨むように凝視する。
「エナジーバルブ接続。メインエンジン点火」
ソロモンの声に呼応して、機関長ビル・マードックが大きく声を上げた。
「エナジーバルブ接続完了!メインエンジン点火」
セラフィムの巨大なタービンが重低音を上げながら回転し始める。
ローレイシアの暁に彩られた紺碧の海で、青いダビデの星を掲げた銀色の船体が小刻みに振動し、後部のメインバーニアが青い炎を蓄え始めた。
「上昇角45度で固定、両舷全速出力最大、セラフィム、発進する」
凄まじい轟音と波飛沫を上げて、セラフィムのメインバーニアが火を吹いた。
急激に加速してく巨大な船体が、暁の海で流星のように輝く。
暁に昇る二つの太陽と、青く大きな月を抱いた紺碧の海に、白い波飛沫の波紋が広がる。
再び、宇宙へと飛び立っていくセラフィムの機影を映しながら、ローレイシアの夜が明けようとしていた。


             *
『レイバン部隊全機に通達。搭乗員は機内で待機してください。大気圏離脱後、ツァーデ小隊はカタパルトデッキ1から、アレフからザイン小隊はカタパルトデッキ2から、へートからヌーン小隊はカタパルトデッキ3から、フォーメーションИ(イー)で発進してください』

セラフィムの大型ドックに、通信オペレーター、ナナミ・トキサカの声が響き渡った。
小脇にヘルメットを抱え、搭乗ウィンチからレイバンのコクピットに飛び乗ったリョータロウ・マキが、すぐさまメインスイッチをオンにする。
ヘルメットを被りながら、片手で眼前のコンソールパネルを叩くと、モニターには、搭乗する機体の全てのデータが、まるで滝のように流れてくる。
「リョータロウ・マキ、搭乗完了。ステルスデバイスオールグリーン、ワープシステム、及び重力制御システムはイエローからグリーンへ。火器ロック解除。メインエンジン点火。このまま、フォーメーションИで待機する」
『マキ少尉、了解しました』
ナナミの応答を聞いたリョータロウは、端整なその顔を鋭い表情で満たし、操縦桿を握ったまま、パイロットスーツの肩で大きく深呼吸した。
発進前のこの緊張感は、何度搭乗しても変わらないものだ。
そんなリョータロウの耳に、今度は、ツァーデ小隊の隊長で、優秀なベテランパイロットであるアーサー・マクガバンの鋭い声が響いてくる。
『T−1からツァーデ小隊各機へ。ツァーデ小隊は、発進後、敵戦闘母艦の殲滅に向かう。各機、二機に分かれて攻撃を開始する。ヨンはロベルト、デビッドはパルム、フランシスはドレイク、クレールはアレン、そして、リョータロウは俺とだ』
『了解』
「了解」
隊員達の返答と共に、リョータロウもまた、鋭い声でそう答えた。
レイバンのモニターには、大気圏離脱までのカウントが表示され、各機のメインバーニアは、轟音を上げながら青い火を蓄えていく。

『全機、機体スキャン完了、エナジーバルブ接続解除、重力制御システムオールグリーン。カタパルトデッキ1、及びカタパルトデッキ2上昇します。各機フォーメーション・И(イー)で待機してください。ツァーデ小隊、アレフ小隊、出撃20秒前・・・・』

ナナミの声と共に、大気圏離脱のカウントがみるみる減っていく。
メインエンジンが回転数を上げると同時に、レイバンのダークブラックの機体が、その士気を高ぶらせるように小刻みに振動した。
リョータロウは、黒曜石の瞳を鋭く細め、眼前に広がる宇宙空間を睨むように見つめすえる。
『ツァーデ小隊、アレフ小隊、出撃10秒前、9、8、7、6、5・・・・』
 上昇しきったカタパルトの上で、レイバン各機のバー二アが、最大出力で青い炎を上げる。
『4、3、Maximum Fire Ready・・・GO!!』
レイバンのダークブラックの機体が、流星の速度で闇を二分し、凄まじい轟音を上げながら広大な宇宙空間へと飛び出していく。
風防の左舷に見える、緑の惑星ローレイシアの後ろには、セラフィムを追撃せんと母星を後にした、強靭なトライトニア艦隊が迫っていた。





            *
大きな風防の向こう側には、緑色に輝く惑星ローレイシアと、その衛星イルヴァの姿が臨める。
だが、今は、その美しい宇宙の造形に浸っている暇など無い。
この星の裏側には、惑星トライトニアから出撃してきた強靭な艦隊が、セラフィムの撃墜を狙ってひしめきあっているのだ。
警報音が鳴り響くコントロールブリッジに、ソロモンの冷静だが鋭い声が響き渡った。
「全砲門を開け。トライトニア艦隊を迎撃しつつ、ワープ可能宙域まで出力最大で前進する。レイバン部隊各機に通達、セラフィムワープインと同時に、座標設定K207FW447で各機ワープイン」
「イエッサー!」
火器担当オペレーターの若い青年、ロウ・アンエイと、通信オペレーター、ルツ・エーラが同時にその声に呼応した。
その語尾に、主任オペレーター、オリヴィア・グレイマンの声が重なる。
「敵艦隊、ローレイシアの軌道に入りました。有視界確認可能。モニター回します」
ブリッジの大型モニターに、ローレイシアの影から急激にこちらへと侵攻してくる、トライトニア艦隊の機影が映し出される。
その数は約300。
多勢に無勢とは正にこのことだ。
ソロモンは、端整な唇の角を吊り上げて、実に皮肉っぽく笑った。
「トライトニアは、よほどセラフィムが怖いらしいな・・・・」
銀色の前髪の下で、紅の瞳が鋭く細められる。
「レイバン部隊は、敵艦隊後方を取り次第、一斉に攻撃開始。照準修正1.238、全主砲発射用意」
セラフィムの巨大な船体に16基装備された、平射三連主砲が、鈍い音を上げて回転する。
「レイバン部隊、目標宙域に到達。セラフィムは、敵艦隊の射程に入りました。第一波、来ます」
オリヴィアの声と同時に、ローレイシアを臨む巨大な風防の向こう側に、無数の青い閃光が閃いた。
ソロモンの紅い瞳が、猛禽類の眼光の如く鋭利に発光する。
「目標、右舷前方トライトニア艦隊・・・・・・全主砲、撃て!」
甲高い轟音を上げた16基の平射三連主砲が、暗黒の宇宙空間へと一斉に赤い閃光を解き放った。
それは、トライトニア艦隊から発射された青いビームの合間を突き抜け、ほんの数秒で敵艦隊へと到達する。
ローレイシアの右舷に、凄まじい振動が走り、赤い閃光に装甲を貫かれた数十機の駆逐艦が、轟音と白煙を上げながら傾くと、暗黒の宇宙空間を揺らし、深紅の光を上げて大爆発を起す。
セラフィムの主砲は、エネルギー強化型だった。
駆逐艦のシールドなど一撃で貫くだけの威力がある。
だからこそ、トライトニアは多勢で追撃をかけてきたのだろう。
彼等は、ハデスの番人≠ニ呼ばれる青年が乗る船の強さを熟知しているのだ。
トライトニア艦隊から発射された青いビームが、セラフィムのシールドに当って弾け飛び、その巨大な船体を鈍く振わせる。
だが、緊迫が走る中でも、セラフィムのコントロールブリッジは冷静だった。
「第二波、来ます」
オリヴィアの落ち着いた声が、ブリッジに響き渡る。
猛禽類の如き鋭い視線で眼前のモニターを見つめていた、ソロモンが、再び声を上げた。
「対戦艦ミサイル発射用意、主砲そのまま。撃て!」
平射三連主砲が、赤い閃光を敵艦隊へ向け発射されたと同時に、12基ある対戦艦ミサイルユニットが、轟音と白煙を上げて一斉にミサイルをも発射する。
宇宙空間を貫く赤い閃光と、無数に飛び出したミサイルの軌跡が、緩やかに湾曲しながら一瞬にしてトライトニア艦隊へと到達した。
厚い装甲を貫いたビームが、敵艦のブリッジもろとも機関部を吹き飛ばし、僅かに膨らんだ船体が、爆炎と轟音を上げて大爆発を起す。
無限の闇に、一瞬だけ炎の影が揺らめくと、ビームとミサイルにより次々と被弾した駆逐艦が木っ端微塵に砕け散って、流星のように四散していく。
セラフィムの防御シールドに、敵艦隊から発射された、対戦艦ミサイルとビームが到達し、白煙と閃光を上げて大きく船体を揺らしたのだった。
その時、火器担当オペレーターの若い青年、ロウが、太めの眉を僅かにしかめて、渋い声を上げたのだった。
「艦長!次の照準があいません!ハイド粒子散布の可能性有!」
ハイド粒子。
それは、敵艦のロックオンを妨害するための電波乱反射粒子のことである。
これを散布することによって、相手の照準を狂わせ、命中率を格段に下げる戦法で、艦隊戦には度々使われる手法であった。
ソロモンは、冷静で鋭い口調と表情で言う。
「手動照準に切り替える。ロウ、照準をこちらへ。オリヴィア、敵艦隊座標及び距離データをモニターに回せ、射影を計算する」
「イエッサー」
ロウとオリヴィアが同時に返答し、ソロモンの眼前のコンソールパネルから、手動照準機が上がってくる。
滝のように流れてくる詳細な敵艦隊の位置データ。
それを瞬時に記憶し、コンピュータに頼らず、ソロモンは自らの頭脳で計算し、それこそ寸分違わぬ射影を導き出してしまう。
つまり、自らの頭脳を用いた方が、コンピュータに計算させるよりも早く正確であるということなのだ。
ベテランの火器オペレーターは、手動照準の作業を長年の経験と勘で行うというが、自ら計算し導き出すのは、宇宙広しとは言え、ソロモンと・・・そして、ハルカ・アダミアンぐらいなものであろう。
それもまた、NW−遺伝子を持つ者の所以なのだ。
片目を閉じて照準器を覗きながら、ソロモンの長い指先が、素早い動きでコンソールを、叩くと、次の瞬間、低く鋭く言うのだった。
「照準修正3.006、距離12753で固定。ロウ、今だ・・・・・・撃て!」
「主砲発射!!」
ロウが、主砲発射トリガーを引くと、16基の平射三連主砲が、一斉に赤いビームを放出する。
敵艦隊から発射された青いビームとすれ違うように、無数の赤き閃光が暗黒の宇宙空間を駆け抜けた。
敵艦隊宙域に到達した赤い閃光が、その装甲を貫き、凄まじい爆発を引き起す。
ハイド粒子散布でも、その高い命中率が落ちないという事実は、もはや、相手にとっては驚異でしかないはずだ。
トライトニア艦隊の前衛は、この時点で既にその大規模を失っている。
敵のビームをショールドで受けるセラフィムの船体が、眩い閃光と共に大きく横に揺れた。
セラフィムは、あと数十分でワープ可能宙域に到達す筈だ。
対戦艦ミサイルの弾頭が、セラフィムのシールドを軋ませながら白煙を上げて爆破する。白い煙が漂う風防の外側を、厳しい顔つきで見つめながら、ソロモンは、更に言う。
「対戦艦ミサイル発射。主砲撃ち続けろ。ワープ可能領域に達するまで、徹底的に迎撃する」
「イエッサー!」
総員が一斉に呼応した。
その刹那、モニターを見つめていた主任オペレーターオリヴィアが、茶色の瞳を驚愕に見開いて、咄嗟に、艦長席のソロモンを振り返ったのである。
「艦長!セラフィムの後方に敵艦隊ワープアウト反応確認!!識別コードTR0108、トライトニア艦隊の援軍です!距離13500、総数約350・・・・・・敵艦射程圏内・・・挟まれました・・・・第一波来ますっ!」
「なに?」
ソロモンが、形の良い眉を鋭く眉間に寄せた、次の瞬間。
トライトニアの後発艦隊の主砲が、背後から一斉射撃をかけ、青いビームの先端が、セラフィムの後部シールドに命中して弾け飛んだ。
凄まじい轟音と共に、セラフィムの巨大な船体が大きく揺れ、にわかに、コントロールブリッジが斜めに傾いた。
「きゃぁっ!!」
 女性オペレーターたちが、咄嗟に短い悲鳴を上げる。
片手をコンソールパネルに着いて、自らの身体を支えたソロモンは、鋭利な視線で眼前のモニターを見つめながら、鋭い声を上げる。
「現状を報告しろ」
「敵艦隊、速度1200Sノットで急速接近中!・・・・第二波来ます!!」
オリヴィアの答えに、ソロモンの紅の瞳が鋭く細められる。
「第二次迎撃体制を取れ!レイバン部隊、へートからヌーン小隊はセラフィムの援護に回れ。12番から16番主砲反転、対戦艦ミサイル発射用意。目標左舷後方トライトニア艦隊」
この状況下でも冷静さを失わないソロモンの声が、ブリッジにこだました。
眩い青の閃光が宇宙空間を走り抜け、今度は、前方からの凄まじい衝撃波がセラフィムの船体を貫いたのだった。
「ハイド粒子が散布されています!照準合いません!」
火器担当オペレーター、ロウが、激しい横揺れに耐えようと、片手をコンソールパネルに着いた姿勢でソロモンを振り返った。
ソロモンは、苦々しく眉間を寄せると、端整な顎の下で両手を組み、それでも尚、落着き払った声色で答えて言う。
「照準をこちら回せ。ルツ、ハルカをブリッジに呼んでくれ、手伝わせる。一人ではイヤだと言うなら、012も・・・いや、イルヴァも一緒でいい」
「は、はい!」
ルツは、驚いたように黒い瞳を見開きながら、慌ててコンソールパネルを叩いた。
ソロモンが、あの少年に何を手伝わせようとしているのか、ケルヴィムに乗船していなかったルツには見当も付かない。
だが、それでも艦長命令だ、従わない訳にはいかない。
戸惑うルツをよそに、ソロモンは再び、眼前に上がってきた手動照準器を覗き込む。
モニターに流れてくる詳細な位置データを把握し、その射影を瞬時に導き出すと、冷静だが鋭い表情で口を開く。
「12番から16番主砲照準修正5.184、距離12986・・・・撃て!!」
反転して後方を向いたセラフィム後部の平射三連主砲が、甲高い轟音を上げて赤いビームを発射し、時を同じに対戦艦ミサイルユニットが一斉に白煙を上げ、流星の如き弾頭が暗黒の宇宙空間へと豪速で飛び出していく。
前方と後方から、同時に砲撃を受けるセラフィムが、その巨大な船体を大きく揺らした。
混迷する戦局は、まだ、その行方を知らない。



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