20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:NEW WORLD〜第一序曲〜 作者:月野 智

第10回   【ACTV 追撃の交響曲】1


             *
ジルベルタ星系トライトニア。
ギャラクシアン・バート商会の高速武装トランスポーター『バート』が、その黄色い惑星に着艦したのは、セラフィムと最後に交信してから24時間後のことだった。
ギャラクシアン・バート商会は、時折こうして、セラフィムの艦長レムリアス・ソロモンから、情報調査の依頼や積荷の運搬を請け負うことがある。
広域宇宙を航行する運送業を営むには、惑星連合AUOLP(オールプ)の承認を受ける必要があり、一度承認を受ければ、ライセンスを更新するまで、常任理事国である15の惑星はおろか、AUOLPに加盟する全ての惑星へノーチェックで入港することができるのだ。
つまり『バート』は、非常に身軽な船なのである。
『バート』の船長ショーイ・オルニーが、トライトニア政府のメインコンピューターにハッキングをかけ、その人物の生存と居住地を確認したのは、首都オーダムのスペースエアポートドックに『バート』を曳航した時である。
有害大気に囲まれた黄色い惑星トライトニアは夕暮れを迎え、まもなく夜が来ようとしている。
紺色に染まり始めた夕映えの空の下、いつになく苦々しい顔つきをして、その研究施設の前に立ったショーイは、軽く眼鏡を押し上げると、厳重なセキュリティーセンサーに囲まれた建物の内部を遠巻きに眺めやった。
さほど広くない敷地に建てられた五つの建物。
研究に没頭する余り、家族を捨てた無情な父親は、この敷地の一番奥にある居住棟で暮らしているはずだ。
明かりを灯し始めたオーダムの高層ビル群を背景にして、ショーイは、赤毛から覗く紺色の瞳を、先程から、傍らで、掌の小型パソコンをいじっている腹違いの弟に向けたのだった。
「トーマ、どうだ?侵入は可能か?」
ショーイは、細身の胸元で腕を組みながら、相変わらず高飛車な口調で、腹違いの弟トーマ・ワーズロックにそう聞いた。
トーマは、怪訝そうに精悍な眉を寄せ、ショーイとは対照的な焦茶色の髪の下から、ちらりとこちらを振り返る。
細身で神経質そうなショーイとは違い、トーマは、背も高く体格も悪くない。
顔立ちは精悍だが、歳相応のくったくない表情が好印象を与える、実に爽やかな好青年だった。
兄弟と言わなければ判らない程、まったく似ていないが、その瞳の色は、ショーイと同じ知的な紺色をしていた。
「可能も何も・・・セキュリティーが、全部解除されてる」
トーマはそう言うと、警戒したように腰のホルスターに片手をかけ、建物の方をゆっくりと見やった。
ショーイは、片手を腰にあてがった姿勢で、ふと、何かを思案するように紺色の瞳を細めたのである。
その時だった。
不意に、建物の中から、トライトニアの軍服を纏った数名の兵士が、肩に銃をかけた姿で出てきたのである。
「なんだ?警備の交代か?」
訝しそうな顔つきでそう呟いたトーマの傍らで、ショーイが、ふと、眼鏡の下の紺色の瞳を鋭く閃かせた。
相変わらず冷静な表情で建物の内部を眺めると、何かに気付いたように、白いショートローブの肩を揺らしたのである。
「トーマ、裏に回ろう。何かあったのかもしれない」
「え?」
一瞬、きょとんと目を丸くしたトーマを振り返るでもなく、ショーイは、珍しく機敏な動きでその身を翻した。
「あ!おい!?ショーイ!」
トーマは、驚いたように兄の名を呼ぶと、訳がわからないと言ったような顔つきをしながら、慌ててショーイを追ったのである。
いまや、ギャラクシアン・バート商会のトレードマークになっている、白いショートローブが、長身の背中でふわりと揺れた。
この数分後、ギャラクシアン・バート商会の若き経営者達は、全くもって予想だにしていなかった惨劇を目の当たりにする事となる・・・


            *
セキュリティーの切れたままの裏口から、その部屋に足を踏み入れた時、ショーイは、いつもは冷静で沈着なその顔を、にわかに驚愕の表情で満たしたのだった。
眼前には電源が入ったまま大型のモニターと、コンソールパネルがある。
その一面が深紅の鮮血に染まり、生々しい指の痕が残されていた。
「・・・っ!」
鮮やかな赤毛の下で、軽く眼鏡を押し上げて、ショーイは何かに堪えるようにぎりりと奥歯を噛み締める。
腰のホルスターに片手をやったまま、トーマもまた、立ち込める血の香りに精悍な顔を苦々しく歪め、眉間に深いしわを刻んだのだった。
窓辺から、矢のように差し込む朱金の陽の光。
その切っ先が指し示す床には、おびただしい血の海が広がり、その只中に、50代と思しき男性が、身体を無数の弾丸で撃ち抜けれた状態で倒れ伏している。
白衣が紅く染まり、半開きになった紺色の瞳には、既に光はない。
死んでいる。
遠い記憶の断片に朧に浮かぶ父の横顔と、今、目の前に倒れている人物の顔が上手く重ならない。
だが、この人物は・・・家族を捨てた無情な父、ブライアン・ワーズロック博士に違いなかった。
言葉を失って呆然と立ちつくす母の違う兄弟が、ほぼ同時に、互いの顔を見合わせる。
鮮やかな赤毛に片手を入れた姿勢で、ショーイは、悔しそうな、しかし、どこか悲しみにも似た翳りをその端整な顔に刻み、噛み締めた歯の奥から、搾り出すような声で言うのだった。
「どうやら・・・・・・一足遅かったようだ、トーマ」
「何で・・・殺されたんだ、親父は?」
悲哀を押し殺した鋭い表情をしながら、トーマが、どこか戸惑い気味に、しかしナイフの如き鋭利な口調で、思わず、率直な疑問を口にする。
白いショートローブの肩で苦々しく息を吐き、ショーイは、ゆっくりと、倒れ伏したワーズロック博士の傍らへと歩み寄ったのである。
そして、膝を落とし、随分と歳を取った父の眼を閉じてやりながら、冷静な声色で言うのだった。
「この人は、仮にも元はガーディアンエンジェルにいた人間だ・・・大方、トライトニアが持っているNW−遺伝子のデータでも操作しようとしたんだろう。
それに、この人が死んでも、プログラムの大本と設計図さえあれば、戦闘用アンドロイドは簡単に作れるし・・・結局、用無しだったんだ」
 「くそっ・・・!相変わらず、やることが強引なんだ・・・トライトニアはっ!」
ショーイの隣に歩み寄りながら、トーマは、精悍な眉を眉間に寄せ、怒気を隠せない険しい顔つきでそう吐き捨てる。
気持ちを素直に顔に出す弟を、眼鏡の下から横目で仰ぎ見ながら、ショーイは、ゆっくりとその場で立ち上がった。
そして、ひどく悔しそうに眉間を寄せると、血まみれになったコンソールパネルに、静かに手を触れさせたのである。
「・・・・長年の恨みを聞かせてやる前に死ぬなんて、最後まで身勝手な人だな・・・あなたと言う人は」
まるで独り言のようにそう呟くと、ショーイは、赤毛から覗く紺色の瞳を凛と煌かせ、血まみれになったコンソールパネルを両手で素早く叩いたのだった。
そんなショーイの背中を切な気な眼差しで見つめながら、トーマは、無造作にソファに置かれていた白衣を手に取ると、鮮血に塗れた無残な父の骸にそれをかけてやる。
白衣に隠れた父の身体は、随分と華奢で小さくみえる。
いつも、家にいない父親だった。
でも時々、気が向いた時だけ、小さかったトーマを肩に乗せて、アルキメデスの草原まで散歩に連れて行ってくれた。
あの時は、まさか自分の母が、元は父の愛人であったなんて考えもしなかった。
同じ科学者であったショーイの母親と離婚し、トーマの母と結婚したものの、やはり父は家には帰ってこなかった。
それでも、トーマには、父に遊んでもらった記憶がある。
しかし、ショーイには、それがない。
モニターに流れてくる膨大なデータに、無言で目を通している兄の背中を見つめたまま、トーマはふと思う。
一体、今、ショーイの胸には、どんな思いが到来しているのだろう・・・と。
複雑な表情をしたままのトーマが、静かにショーイの隣に長身を寄せた。
モニターに流れてくるデータの中には、軍の司令部から発信されたものが多数存在している。
その中の一つに目を止めた瞬間、ショーイは、冷静な表情に満たされていた知的な顔を、鋭くも厳しい表情へと豹変させたのだった。
「トーマ・・・メモリーされている全ての情報をコピーして、直ぐに『バート』に戻るぞ」
「どうかしたのか?」
怪訝そうにこちらを覗き込んだトーマに、ちらりだけ視線を向けると、落着き払った声色でショーイは答える。
「あと一時間で、トライトニアから艦隊が発進する。それもかなりの数だ・・・・・トライトニア軍は、セラフィムを追撃するつもりだ」
「!?」
窓辺から、矢のような光が差し込む落日の光が、鋭い口調でそう言ったショーイの白い頬に、朱金の帯を描いていた。
眼鏡越し見える、凛とした知性を持つ紺色の瞳が、真っ直ぐにトーマの顔を捉えている。
トーマは、そんな彼の視線を身動ぎもせずに受け止めると、精悍な顔を厳しく歪め、小さく頷いてみせるのだった。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 3204