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作品名:ボクらの世界 作者:ポチβ

第3回   キエタセカイ
 どうにも砂埃が目に入る。ゴーグルを持ってくるべきだったかと後悔してみるが今さらどうしようもない。雲がいい具合に出ているのがせめてもの救いか、これで日が照っていたら5分と待たず音をあげているところだ。
 昨日買ったバイクはいい調子だ。小型の反重力発生球が組み込まれているためわずかに宙に浮いて走る。店の主人は中古だからあまりお勧めはできないと言っていたが、これだけ走れば上出来だ。
出発してそろそろ30分というところか。近づくと改めてその大きさに驚かされる。全長1059m。砂漠の真ん中にポツンと起つそれはどこか冗談のように見える。次元間往来装置、別名、天国の扉。あんな事故を起こしたにもかかわらず、それはまだ堂々とそこに起っている。


 天国の扉が完成したのは今から5年前。天才発明家、本岡タダヒコの残した設計図をもとに作られた。それまでも数多くの素晴らしい発明を世に送り出してきたタダヒコの新しい発明というだけあって、世間の期待は小さくはなかった。そして、天国の扉はその期待に十分こたえるものだった。この世とあの世をつなぐドア、それが天国の扉である。
天国の扉の除幕式の日、約500000人の人がそこに集まった。扉を3回ノックしよう、するとあの世への扉が開く。死んでしまった誰かに会いたいと願う人達があつまり期待に胸を膨らませていた。この国の首相もその場を訪れていた。誰ひとりとして、あんなことが起こるとは考えていなかったに違いない。
 カウントダウンとともに首相が扉を3回ノックする。この様子は全世界に生中継されていた。3・2・1。全世界の人間が扉の開くその時をかたずをのんで見守った。ゆっくりと開き始めた扉。そう、あの時、扉は開いたのだと思う。
 わずかに開いた隙間から金色の光が漏れているのが見えた。いや、正確にいえば見えたと思う。ほんの一瞬の事だった。金色の光が見えたと思ったその時、何も見えなくなったのだ。TV中継はそれっきり何も映らなくなり、除幕式に行っていたはずの人とは誰も連絡が取れなくなった。すぐさま調査団が派遣された。そして、その調査団から恐ろしい報告がなされた。ここには何もありません。


 今走っているこの砂漠こそ、その現場である。誰かが言い始めた、ここは三途の河原なのだと。ここが、もとはこの国の首都だったと誰が信じられるだろうか。あるのはただ砂、砂、砂。風が作った砂の模様が川面のように見えなくもない。
 調査団がここに着いた時、そこにあったはずの高層ビルや道路、そして集まっていたはずの人間、それら全てが消え去っていた。残骸すらなくあたり一面砂漠になっていたのだ。その砂漠の真ん中、天国の扉だけが不気味にたたずんでいたのだ。
 天国の扉を中心として、半径約50kmの範囲が消失していた。破壊でも焼失でもなく消失していたのだ。何が起こったのかは誰にも分らなかった。原因は5年たった今でも不明である。その一番大きな理由は発明者であるタダヒコがすでに死んでしまっていることだろう。



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