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作品名:幸せの可能性 作者:ポチβ

最終回   後半
 気づけば陽は傾き始めていた。心地よかった風も少し寒いと感じるほどになっていた。重い腰をあげて家に帰る。ベットに体を投げ出し仰向けになる。そして机の上に開いたままにしてあった手紙を手に取り読み返す。昨日届いていた手紙。見慣れた文字で書かれていた。相変わらずきれいな字だ。昨日、アキラから手紙が来た。

  ミツルヘ

久しぶりだね。元気にしていますか? 僕のほうは元気です。
ミツルに最後に会ったのは中学の卒業式の前日だからもう5年になるのか。
僕らはもう二十歳。もう大人ってわけだ。なんか実感はわかないけど。
ミツルは頭が良かったから大学に行ってるのかな。大学は楽しいかい?
5年前、君の前から消えてから何処で何をしていたか詳しく書くことはできません。
ただ、どうしてもミツルに伝えておきたいことがあるから手紙を書いたんだ。
最後に僕らが話したこと覚えてるかい?
頭のいい君のことだから覚えてると思う。そう、人はいつか死ぬって話。
そして、人は賢くなりすぎたって話。
僕は人間は不憫でならないって思ってたんだ、ずっと。
僕の祖母のこと覚えてるかい?
アルツハイマーに罹って孫の僕を初恋の人と思っていた女性だよ。
この前お墓にはまいってきたよ。
彼女はどんな気持ちで死んだのかな?
苦しいとか悲しいとか思ったのかな?
否、彼女はそんなこと考えなかったと思うよ。彼女は過去のなかで生きていたから。
僕は気づいたんだ。未来を見るからつらくなるんだと、いや、未来が見えるからつらくなるんだと。
人類を救う唯一の方法はみんなバカになることだと思うんだ。
そうすれば僕の祖母のように過去のなかで生きていける。
だからね、
僕は人類を救うために一つのウイルスを作ったんだ。
このウイルスにかかるとね、最初は風邪みたいな症状が出るんだ。でね、進行すると人はアルツハイマーの症状になるんだ。
そう、僕の祖母とおんなじ。これでみんな未来から解放される。
これが唯一の幸せの可能性だ。
君もそう思うだろ?


 アキラに何があったのかは僕は知らない。未来が悲しみなのかなんて僕にはわからない。過去が美しいものかもはっきりしない。僕の20年は決してぱっとしたものじゃない。未来はこれよりも悲しいの?
 アキラがこんなことを考えるようになったのはどうしてだろう。卒業式の前日、僕がもっと気の利いた言葉をかけてやれたなら、こんなこと考えたりはしなかったのかな。それならたった一人の親友の助けにもなれなかった僕の20年はホントに無意味だ。考えてもわからない。わからないことだらけなのにホントに僕らは賢くなりすぎたの?
 手紙を置き溜息をついた。考えるのはやめた。テレビをつける。テレビでは北海道で風邪が流行しているというニュースがながれていた。


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