彼は眼を開けていた。 闇の中、布団に横たわり、天井の向こう側の景色を見ていた。
人は誰も生まれながらに孤独だ。
何かをきっかけに「孤独になる」というものではないし、孤独に優劣はない。 だけど、彼は今、記憶の中で器用に笑うあの人達よりずっと孤独であるような気がした。
窓の向こう側からは、車のエンジン音が聞こえては消える。 闇から闇へと走り抜けていくドライバー達もきっと孤独に違いない。
何処へ行こうとも。誰と居ようとも。
孤独を「分け合う」ことなんてない。 そもそも孤独を分け合うことなんて出来ない。 誰と過ごしたって、誰と触れ合ったって、何も変わることはない。 彼は独り、あなたも独り。言ってみれば孤独という光が二つ、其処にあるだけ。
闇を恐れる人がいるけど、誰も闇に傷つけられることはない。だから闇は何も恐くなんかない。 本当に恐ろしいのは闇なんかじゃなく人の心だ。 孤独をより一層引き立たせるのも、そう。
闇の中、彼の眼には天井の向こう側の見えるはずのない星や月が映っていた。 果てしない想像力は彼の宇宙をより深くして、それこそが彼の救いでもあった。 浅はかな想像が人を傷つけることを彼は知っている。 深い想像の奥底に眠る真実を彼は求めている。
時間の経過に比例することなく、無限に広がっていく彼の宇宙。
そして、ゆっくりと、今日が沈んでいく。
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