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作品名:あの夏のアイスクリーム 作者:久遠野園

最終回   あの夏のアイスクリーム
 5年前、大学2年生の春――


 オレが2年生になって、サークルにも新入生の後輩が入ってきた。キミとは偶然その時出会ったんだよね。その頃はまだ、数多くいる先輩の中の一人と、新しく入部した後輩の一人だったっけ。



 同じイベントの企画の担当になって、それからよく喋ってたよね。

サークルの仲間からは「好きなんだろ」って勘違いされて、うわさになって広まって。お互い意地を張った子どもみたいに、懸命に否定しあっていたのも今では良い思い出です。



 学園祭の時、一緒にお昼を食べて友達の恋愛について話してたよね。キミに彼氏がいるって知って、ちょっとショックだったんだ。



 学年が変わってキミが2年になり、オレが3年になった春。キミは、急にサークルを辞めちゃったよね。それでも、お互い何だかんだいっては、よく会ってたね。
 
もうサークルでは会えないから、「恋愛相談して」なんて言ってそれらしい理由をつけてさ。うん、ただキミに会いたかっただけ。よくアパートに来ては、二人で料理もしたしね。



 時にカレシの愚痴を聴いてあげたり、オレの恋愛相談乗ってくれたり……。あの頃お互い恋愛の事とかよく悩んでたよね。

 うまくいっていなかったカレシと別れたって電話くれた時、キミをどう扱えば良いか分からなかった。



 そのあと、たった一度だけデートしたよね。ある夏休みの日、ふと「海に行こうか?」って言ったら、「うん」って返事くれて、二人で自転車で川の下流目指してサイクリングしたんだよね。



 あの熱い夏の日、どこまでも続く土手の小道、あの海で撮った二人の写真、かえりみち夕焼けにつつまれながら、神社に続く階段のしたで一緒に食べたアイスクリーム、ぜんぶ今でも忘れてないよ。



 先輩と後輩の関係……友達以上恋人未満。どこでもよくある話。
 オレはそれで満足してたのかもしれない……。



 ずっと待ってたんだよね。ゴメンね、キミの気持ちを汲み取れなかった。告白した時はもう遅かったよね。「大切な先輩と別れたくない、だから友達でいましょう」ささやかなキミの配慮。

 もう恋愛の対象じゃなかったはずなのに、いつもいつも「先輩、先輩」って言って、オレを頼ってくれたね。



 今は二人とも社会人になって――二人で久しぶりに会って飲んでたときだった。

 ぽつりとキミが口にした「心の中の1番目なのに、永遠の2番目」というフレーズ。キミの言葉が、お互いにもうこれ以上は進めない関係であることを決定付けた。

 辛かった、でもそれ以上に嬉しかった。それでも、出来る事ならオレはキミの一番になりたかったよ。



 いまでも、友人として先輩として、そんな関係でそれなりに満足はしているし、もう好きになることもないと思う。



 それでも、もう一度……もう一度だけ、二人で海に行ったあの夏の日に戻りたい。
夕焼けにつつまれながら、神社に続く階段のしたで一緒にアイスクリームを食べた、あの夏の……かえりみちに。




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