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作品名:4 weeks love story 作者:月原 翔

第5回   3週目水曜日
 翌週水曜日。また新しいラブストーリーが始まる時間。
「星村瑞希がお送りする『happy line days』。さあこの時間は毎月私と、そしてラジオを聴いているみなさんで、恋に悩める方にアドバイスをして、いっしょにラブストーリーを作っていく『4 weeks love story』。今月の主人公は22歳の男性『マルーン』さん。一週目では食事デートに誘うことに成功し、そして先週の放送ではリスナーアンケートの結果、次のステップとして映画に誘うということになったのですが、さて結果はどうだったでしょうか。では、『マルーン』さんからのメールを読み上げます」
「マルーン」さんからの返事は月曜日には届いていた。月曜の放送前、手塚からメールの内容を受け取った。そしてやっぱりか、と思ってしまった。


  瑞希さん、そしてリスナーのみなさま、こんにちは。
  先週の放送で、次は映画に行くのがいいというみなさんのアドバイスに従い、
  映画に誘ってみたところ、OKの返事をいただきました。
  そして日曜日に行ってきました。
  「カフーを待ちわびて」という映画を見てきましたが、
  見たあとでお互い感想を言い合ったりしてとても楽しい時間を過ごすことができました。
  結局その日は時間もあったので買い物をして、
  夕方には食事をすることができました。


「おお!『マルーン』さんいい感じじゃないですか!というかこれはもう相手の女性も『マルーン』さんのことが好きって考えてもいいんじゃないでしょうか」
 私は、あくまで「マルーン」さんがラジオの向こうにいるリスナーだと思い込んで話しかけた。決して、ガラスの向こうにいる手塚に向かって、ではなく。
「これはもう、そろそろちゃんと告白する時期に向かってきているんじゃないでしょうか。『マルーン』さん自身もそのことについて考えているようでして、メールの続きにはですね……」


  そこで、思い切って今週には告白しようと思ってます。
  で、そのためのデートコースはどこが理想でしょうか。
  ベタに水族館か、雰囲気を狙ってプラネタリウムなんかいいかな……とも思ってるのですが、
  瑞希さん、そしてリスナーのみなさん、どう思いますか。
  最後の頼みです、よろしくお願いします。


「……とあります。さあ今週のリスナーアンケートは告白のためのデートはどっちか。これを選んで下さい。
 A、水族館
 B、プラネタリウム
 さあアンケートは午後四時まで。メールまたはFAXでお待ちしております。告白するときのシチュエーションとしてはどちらのデートがいいのか。みなさんでいっしょにラブストーリーを作っていきましょう。結果発表は午後四時半から。みなさんの意見、お待ちしております」
 私が話し終わると番組はCMに入る。手塚がブースの中に入ってきて、次のコーナーで読むメールの原稿を渡してきた。
「次のはこれになりますね。時間がなかったら一番下のやつは次の時間に回してください」
「オッケー」
「さて、今週はどっちになりますかね」
「まあベタにいけば……」
 水族館、と言いかけたけど、私はここで一つ手塚を試すことにした。
「あ、でも私だったらプラネタリウムの後がいいかな……なんか思い出になりそうだし。まあ水族館も悪くはないけど」
 おそらくこの選択肢なら、水族館の方が多数派になるだろうと思う。手塚が「マルーン」本人なら、次の私とのデートは多数派となるであろう水族館となり、逆に何の関係もないのなら、プラネタリウムへ誘うのが自然な流れになる。どちらに誘ってくるかで、ようやく確信を持てると思ったから、私はわざと少数派になるであろう意見を言ってみた。
「じゃあ瑞希さんはプラネタリウムに一票ですね」
 そう言うと手塚はブースから出て行ったが、そのときに少し首を傾げているようにも見えた。気のせいだろうか。

 午後四時半。手塚から渡された集計結果を見る。普段でもこの瞬間はどきどきするのだが、今回はまた違う感情が入り交じっている。
 たぶん、「マルーン」は手塚自身だ。ということは、このアンケート結果はそのまま今週の私のデートコースということになり、そして告白されるシチュエーションということになる。リスナーのみんなもこう思っているんだから、これでいいだろ?そんな風に言われてる気がしてならない。違う、リスナーのみんなはそう思っているのかもしれないけど、私は私。私と向き合って、ちゃんと私を誘ってほしい。
 私はいつの間にか「4 weeks love story」の趣旨とは全く逆のことを考えるようになっていた。ただ今更止めることはできない。番組として、企画として途中で止めることは許されない。今月はなんとか続けるしかない。ただ、今月でこの企画は最後にしようと、私は考えていた。
「さて、『4 weeks love story』の集計結果が出ました。今回もいろんな意見が寄せられましたが、気になる結果は……
 『A、水族館』64%
 『B、プラネタリウム』36%
 今週はかなりいい勝負になりましたが、結果は水族館ということになりました。ということで『マルーン』さん、週末のデート、そして告白する場所は水族館、これを実行してください。そして来週の放送前までに必ず報告すること!大丈夫です、私と、そしてリスナーのみなさんがついていますから。そんな『マルーン』さんに送る今日の曲は、こちら。タイトルの意味はずばり『チョー最高!』最高の返事がもらえるように期待してるぞ『マルーン』さん。Avril Lavigneで『The Best Domn Thing』」

 番組が終わり、打ち合わせも普段通りに終わった。今日は特に何もなさそうだ。だとすると、先週と同じように誘われるとしたら明日、か……。手塚はどちらに誘ってくるのだろうか。プラネタリウムだったら、彼自身の選択だ。でも、もし水族館なら……彼はただリスナーの一般意見に従っているだけで、私とは向き合ってない、ということになる。
 私は集計結果の用紙を見ながら、この数字に背中を押される「マルーン」のことが気の毒に思えてきてしまった。


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