私は学校の屋上で、大の字になって空を仰いでいた。 空には雲一つない。太陽だけが輝いていた。自己主張が過ぎるくらいに。 秋の風が、私の髪をなびかせる。 あんたなんかいなくたって関係ないよと言わんばかりに、どこまでも駆け抜けるように。
一週間前まで、私はレコード会社のボーカルオーディションを受けていた。正直、自信はあった。最終選考の一つ前の試験が一週間前。そこで私は落ちた。 選ばれるのは一部の人だけ、なんて頭では分かっている。だけど、改めて自分が否定されたみたいで、別に私なんか生きてなくてもいいんじゃないの、なんて思ってしまうほどだった。そこらへんにいる、フツーの女子高生。いや、そもそも気にも留めない、視界にすら入らない存在。自分がそんな風に思えてきた。 だけど昨日、レコード会社の人から電話があった。この前の選考で審査をしていた人だった。もしかしたら…という淡い期待を抱いていたけど、別に復活当選、なんていう都合のいい話ではなかった。ただ聞きたいことがある、ということだった。 「面接で『どんな形の月が好き?』て聞いたよね?」 「はい」 「時間がなくて詳しい話が聞けなかったんだけど…どうしてあの答えなのかな、て気になって」 その人の話によると、その質問にはほとんどの人が満月か三日月と答えるという。満月は一番輝いているから、三日月は笑顔のときの口に似ているから、だそうだ。 だけど私は迷いなくこう答えた。新月です、と。 新月の夜には、月は地球の裏に隠れていて決して見えない。ぐるっと地球が回ってやっと見えると思ったら、今度は太陽が眩しすぎて見えない。いそうでいない、いないようでいる。恥ずかしがり屋だけど、いつもそばにいる。そんな姿が愛くるしい。それに、これから満月に向かってどんどん太っちょになっていく、そんな変化ある毎日は絶対楽しそう…だから私は、新月が好きだ。 そんな風に説明したら、電話越しにレコード会社の人はこう言ってくれた。 「あなたの声はね、今すぐにはまた力不足。だけど練習すれば必ず存在感ある声になる。だから全力で自分を磨いて。新月がこれから輝いていくように、あなたも成長するから」
また秋の風が、私の髪をなびかせた。 あんたなんかいなくたって関係ないよ、だって? 確かに今はそうかもしれない。でもいつか、私は大きな存在になって、みんなの心に風をなびかせたい、私の声で。 そうだ、今日は新月だ。見えないけど、この昼間にだって、目の前に月がいるじゃないか。 夜になったら隠れちゃってまた見えない。まるで世間から見たらどうでもいい私みたい。 だけど新月は、これから輝いていくんだ。 少しずつ、けれど確実に。
だったら私だって、これから輝いていってみせる。 私は新月なんだから。
(了)
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