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作品名:月の無い夜に 作者:月原 翔

第1回   song1〜song in a new moon night
私たちの音楽は、いつまでも永遠に響き渡ると思っていた。


 小さなライブハウスの真ん中のステージに立って、私の声が、彼のギターが、みんなの心の中に響いていく。
 ここでは私はSAYOと名乗って、どこまでも声が届くように歌う。
 隣でKIRITOは、私の歌声の道筋を作るようにギターを奏でる。

 それは2人だけのステージ。
 カラフルな光の演出は、私たちには似合わない。
 私たちは、決して光に照らされない存在。


 新月。
 月が地球の裏側に隠れて、一晩中、月が昇らない、本当に漆黒の夜。
 その夜にだけ、私たちはこのライブハウスで音を奏でる。
 見えないからこそ、見えるものがある。
 見えないからこそ、光り輝くものがある。
 見えないからこそ、私たちの音楽は響き渡る。
 みんなの心の中に、永遠に響き渡る。


 でも、
 やがて夜が明けるように、
 やがて月が満ちていくように、
 やっぱり永遠なんてものはないし、あってはいけないと思った。
 ある日のライブのときに、高校の制服を着た女の子からこう言われたときに、やっと気づいた。


「どうしてあなたたちは、ここで歌い続けているの?ここでずっと、歌い続けていくつもりなの?」

 
 私たちの名前は、noom(ノーム)。
 月の無い夜、霧が立ちこめるこの街で、
 私たちの音楽は、いつまでも永遠に響き渡ると思っていた。


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