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作品名:鍛冶屋のせがれ 少年多一 作者:羅々見 朴情

第1回   扁桃腺
♪しばしも休まず つち打つひびき

  飛び散る火花よ 走る湯だま

  ふいごの風さえ 息をもつかず

  仕事にせい出す 村の鍛冶屋♪



 ♪あるじは名高い いっこく者よ

  早起き早寝の  やまい知らず

  鉄より硬いと  自慢の腕で

  打ち出す刃物に 心こもる♪




これは皆さんもよくご存知の童謡「村の鍛冶屋」の歌詞です。

なんとも懐かしい歌です。

テレビが普及する以前、ラジオの子供向け番組ではこのような、

美しくてやさしい童謡が毎日のように流されていました。

でも、この「村の鍛冶屋」だけに限ったことではありませんが、

この頃では童謡を耳にする機会もめっきりと減ってしまいました。

なんとも寂しいことです。



ところで鍛冶屋と聞いて、皆さんの心の中にはどのようなことが

思い浮かんでくるでしょうか。 

それは職人さんが真っ赤に焼けた鉄をハンマーでトンカン、トン

カンと叩き続けているような情景ではないでしょうか。

刀鍛冶の仕事が紹介されるときなど、よくそのような情景を目に

します。


ですが鍛冶屋の仕事はそれだけではありません。

刀鍛冶の場合はハンマーで刀身を鍛え上げた後に、今度はその

刀身を砥石で研いで刃をつける作業が控えています。

そのような「加工作業」や「仕上げ作業」と呼ばれるものは、

その鍛冶屋さんが何を作っているかによって多岐にわたります。



ところでこの話の主人公である多一少年の生家も鍛冶屋です。

多一少年の生家の場合は、歯医者さんが治療をする際に使う

坩子などの医療器具を作っています。

坩子とは歯を抜くときに使うペンチのようなものです。
               
幼い多一少年は自分の家が鍛冶屋であることを自慢すべきことと

思っています。
  
多一少年は昔気質で生粋の職人である祖父と父が汗水流して

働いている姿を見て、自分も大きくなったら鍛冶屋をやるんだと

思っています。
 


ここに書かれてある話はそんな多一少年がまだ生まれたばかりの

赤ん坊の頃から、小学四年生の頃までに起きた幾つかの出来事を

基にして書き綴った物語です。 


それらの出来事はどれもこれもが、ついこの間、起きたことの

ように思えるのですが、実際には五十年以上も前に起きたこと

なのです。
 
やはり過ぎてしまえば月日の流れは早いもので、今思うと五十年と

いう年月もあっという間に過ぎ去って行ったように感じます。



私は幼かった頃の記憶を呼び起こし、心の中でそれを情景として

再現してみました。

そうすると、そこには私を育んでくれた今は亡き家族や親戚の人々、

そして多くの友人や知人が鮮明な姿で蘇ってきました。

同じように、その頃の自分と家族の暮らしぶりや、世間の出来事

なども鮮明に蘇ってきました。

私と同年代の方の中には、この物語の中に書かれている様々なことを

懐かしく思うとともに、得も言われぬ郷愁をお感じになる方もおいでに

なることでしょう。
 
そのような方は、暫しご自分の幼い頃を思い起こしてみてはいかがで

しょうか。

ひょっとすると、今まで見過ごしてきたことや、思いもよらなかった

ことを思い出したり発見できたりするかもしれません。
   
そして、それはこれから生きていくうえでの「よすが」になるかもしれません。









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