07年5月26日 今日の休みはする事が無く、とても暇だ。 今週も楽しみにしていた麻雀大会は、メンバーが集まらず、開催は中止となった。みんな工場の激務とストレスでかなり来ているのだろう。あそこは3ヶ月持てば良い方だと班長が言っていた。だから、辞めてもすぐに補充が出来るように正社員より、派遣社員が多くなるのが分かる。けれど、この工場を辞める理由は実際に働いていて辞めたくなるのが分かる。 この工場に働き続けても未来や目標が見つからない。毎日、単純作業しか無く、出世も昇給も無い。おまけに契約更新で解雇されるじゃないかと恐怖しか感じないからだ。 いきなり、新人である自分に難しい仕事が出来るとは思わない。だから、単純作業をやらせるのは分かる。けれど、正社員を望みながら10年近くこの工場で配属されながら単純作業しかしない派遣社員がいる。いや、させないと言った方が正しいだろう。、あくまできつい単純作業しかさせない。8時間同じ所で立ちっぱなし。何かすると10キロ以上の荷物を持つ。そんな毎日。 それからサブロク協定を無視した。残業と休日出勤。おかげで腰を痛め、整骨院に週3で通う。けれど、会社で痛めた腰でも労災は確実に降りず、医療費は自分で払わないといけない。この出費は高い。一回に付き、だいたい、2千円は掛かる。1ヶ月で3万は掛かる。 だいたい、工場の全体の人数は30人いて派遣が24、25と言う所。残りは正社員だ。そして、派遣社員全員が単純作業しかやらない。ただ、正社員の場合、何かしら会議があるようで毎日残業をしているようだ。けれど、派遣社員がここで何年仕事をしても単純作業しかしてないから首を切られたら他の所を行っても役に立たないだろう。そして、派遣社員は正社員には早々なれない。自分の会社が珍しいのだ。 そんな、きつい仕事なのに出世も昇給も無く、スキルは付かない。これじゃ、みんな頑張る気が起きない。加えて雇い止めになるんじゃないか、毎日、不安で仕方ないだろう。人間、一番ストレス溜まるのは将来の不安だ。 将来ほど、先が見えず、毎日、雇い止めになるんじゃないかと思う不安。そして、雇い止めになりたくない為に無理して働く。残業、休日出勤は当たり前だ。そのせいで体は疲れ、ストレスが溜まる。そして病気になる。 さらに、ラインにもよるが、60度の部屋で、10、20キロの鉄骨を運び、その鉄鉱を、溶かすかまどに運ぶ。そして、運び終えたら、また鉄骨置き場に行き、また運ぶと言う仕事をしている。言葉だけなら、きつそうだなと思う程度だったが、一度だけ私もこのラインをやったが、きついと言う言葉では片付けられない。 まず、暑さで体力を奪われる。一応、扇風機があるが、この暑い部屋では意味も持さない。そして、10キロ20キロの鉄骨を運ぶ。タオルで汗を拭うが、この暑さではタオルは汗で充満して、タオルとしての機能が無くなる。おまけに休憩が少なく、水を飲む機会が無い。 けれど、その少ない休憩で体を休め、水を腹が張るまでに飲む。さらに、汗まみれのタオルを絞り、水飲み場でタオルを濡らす。そして首に巻く。少しでも暑い部屋で涼む対策だ。 だが、その行動も意味が無い事だと部屋に入って分かる。すぐに部屋の暑さで水がお湯に変わり、そのお湯がタオル伝いに服が濡れ、気持ち悪くなる。 そして、何回も時計を見ては早く休憩にならないかと待つ。そして、次の休憩が来る。すぐに私は休憩所に向かい、休みを取りに行く。。 特に汗を掻き、喉が渇いた為、水を飲み場に向かう。 水飲み場に着き、まずは喉を潤す。その後、手に水を付け、顔に付ける。暑い顔の中、冷たい水が掛かるのはとても気持ち良い。 そして私は疲れきった体をイスに座り休んだ。すると、鼻に妙な感触を感じた。私はなにげなく鼻を触ってみた。触ると手には赤い物が付いた。私はもう一度触る。すると、さらに多くの赤い物が付いていた。私はトイレに駆け込んだ。そして、鏡を見た。すると、鼻から血を出している自分がいた。 私は異常事態だと思い、上司にいた。けれど、上司はあっけなく、 「ここの職場だとよくある事だよ」と言って鼻血を拭いて仕事を続けるように言われた。 上司の説明だと、暑い所にいると血管が膨張してしまう。そこで、いきなり、涼しい所に行くと血管が小さくなり鼻血を出すという事らしい。 しかし、こんな事を繰り返せば、絶対に体に良くない。それなのに給料も上がらず、休憩が無い酷い派遣先だと思った。けれど、我慢しないといけない。正社員になれるならこれくらい我慢しようと思った。 しかし、今日は休みだ。とりあえず、この激務で疲れ、外に出る気にはなれない。朝日を浴びながら読みためていた本を読もう。そして、本を一冊を読み終え、次の本を読もうとしていた時だった。いきなり玄関のチャイムが鳴った。 時間は昼頃。体が疲れて動きたくなく、無視をした。けれど、チャイムは鳴り続ける。 私は少しイラつきを覚えながら玄関に向かい、ドアを開けた。 ドアを開けると、そこには、芳賀さんがおり、手にはコンビニのビニール袋と麻雀セットを持っていた。 「よ、遊びに来たぞ」と自分の家のように堂々と上がって来た。 「ちょっと待て」 私はそうつっこみ、止めようとするが、芳賀さんの大柄で筋肉質な体に簡単に押し込まれてしまった。 そのまま靴を脱ぎ、奥の部屋に入っていた。そして第一声が、 「うわ、汚ねえ部屋だなあ。片付けろよ」 「本が散らばっているだけです」 「いや、これは酷い。床一面が本じゃん」 まあ、そうだろうな。大抵の人間はこの光景に驚く。散らばっている本だけでも30はあると思う。ダンボールに詰めたのも含めれば、100は超えるだろう。 そして、適当に本を取り、タイトルを読む。 「んと、何々、人を動かす心理学。犯罪を起こす理由、知能犯罪の全て、うわ、なんかやばげなタイトルがあるなあ」 「ああ、昔、色々ありまして、それで、人の心について研究するようになったです。もっとも、趣味の範囲ですけど」 小中の事を思い出す。あの頃はいつも馬鹿にされて悔しかった。あの頃の自分は諦め癖がついていた。そして、何をしても上手くいかないと思っていた。だから、どうすれば自分が強くなるか分からなかった。けれど、ある本に「金持ちはよく本を読む」という言葉を見て、本を読む事にした。 そして、リーダーは人を心を掴むのが上手い事を知り、それから人の心を知りたくなった。そして、心理学や通常なら考えられない犯罪者の心理ついて調べ始めた。今ではテーブルゲームで鍛えた洞察力と心理学で麻雀で負ける事は無くなった。一番本を読んで変わったのは人とも気軽に話せるなった事だ。いじられたせいで人と話すのが苦手だった。けれど、面接とかは駄目だけど。 そう考えている間に芳賀さんは荷物を置いて本を読んでいた。そして、あるページを指を指した。 「うわ、これに騙された事があるよ」 私はそのページを覗いた。その項目は架空請求について書かれており、本のタイトルは『現代の詐欺』だった。 「俺、ちょっと、ピンクサイトを開いて、それで、『登録しますか』と言う画面で出て金が掛かると思ってNO押したんだけど、その瞬間、登録されましたと画面が出て5万円払えと言う請求が来てそれで仕方なく、払ったんだよ。その後、友人に話したら、それは詐欺だぞと教えてくれたけど、あれは痛かった」 「ああーああいうのは、簡易裁判所に呼ばれなければ払わなくていいんですよ」 「簡易裁判所?」 芳賀さんは頭の中でハテナマークを浮かんでいる。 「そうそう、まず、契約の基本概念は双方が合意して初めて契約が成立します。つまり、一方が嫌がれば契約は結ばれません。今回の場合、芳賀さんは登録を断っているから契約は結ばれていない。つまり、画面で登録されたと出ても無効。だから、その時点でお金を払わなくて良く、請求書が来る方がおかしい。さらに言うなら電子商取引法だったかな。パソコン上の契約は何かしらエラーが出る可能性があるから、1度、確認画面を出さないといけません。だから、『登録しますか』の後、『本当に良いですか?』という画面を出すのが正しいです。それをやらない場合、双方の合意でも契約を無効にする事が出来ます」 「んん、なるほど。でも、何でそこから簡易裁判所が関係あるんか?」 「あります」私は続きを話す。 「しかし、最近はそういう架空請求は無視すれば言いと被害者は分かって来たので、みんなが無視をし始めたのです。そこで詐欺師は少額訴訟を始めたのです。これは60万円以下の債権を払うように請求する裁判です。そして、簡易裁判所は訴えられた被告人を手紙で出頭命令がするんですよ」 芳賀さんは興味深いのか、体を近づけ、聞き逃さないようにしている。男に近づかれても嬉しくないと思いながら話しを続ける。 「簡易裁判所で出頭命令が来た場合、出頭しなければいけません。しない場合、自動的に敗訴になり、訴えられた金額は自動的に払わないといけません。それが例え、架空請求でも」 「んな、馬鹿な事が!! 普通、通らないだろう」 「通るからやっているんです。請求が正しいか間違いかは、裁判で争うんです。参加しなければ自動的に負けです」 芳賀さんは信じられないと言う顔をしていた。まあ、当然だ。自分もこういうのを調べていなければ、きっと騙されていただろう。例え、架空請求でも勝てばそれはあったことになり、それが合法として請求される事になる。日本の法律のシステムは恐ろしい。少額請求なら費用も一万は超えないからどんどん使われるだろう。 「まあ、最近は振り込め詐欺がはやっているようですが、あれはとても面白い詐欺ですね。あんなもん、息子から『仕送りください』と言ってるのと変わらない。普通なら、それで信じますから、それが、本人か他人かの話に変わるだけです。話題にならなければ、もっと稼げたみたいですけど、しかし、振り込め詐欺は、盲点を突くのが上手い。まあ、詐欺なんて盲点を付く犯罪なんですけどね」 普通、こんな事を言うとおかしな人間だと思われるが、なぜか、芳賀さんの場合、短い付き合いなのに話してしまう。この人の心の大きさのせいだろうか? 私はそう言った後、芳賀さんは「他にどんな詐欺があるんだ。また、騙されるのはこりごりだから教えてくれ」と聞いて来た。私は芳賀さんを持っている本を教科書代わりに、詐欺の内容とそれによる対策を教えた。 芳賀さんはなるほど、頷き、勉強していた。その姿にとても教えがいがあった。そして、最近、流行っている詐欺を教え終わる頃に自分のお腹が鳴った。時計を見ると時間は夕方になっていた。そういえば、昼ごはん食べて無かったなあ。 「とりあえず、ごはんにしますか」 私はそう言って立ち上がった。すると芳賀さんは「ああそうだった」と言ってビニール袋から8つ程のおにぎりを出した。 そして、「おかずを頼むなあ」と言っておにぎりをテーブルに置いた。私は「了解」と言って、冷凍庫からからあげを出した。電子レンジに入れ、そして、皿やコップなどを用意した。そして、チンという音で火傷しないよう皿に入れ、テーブルに運んだ。 「もっと豪勢なものを出せ」と芳賀さんは言ったが、私は「金をください」と言うと、しぶしぶおにぎりと一緒に食べ始めた。 私もいくつかもらい、一緒に食べる。そして、芳賀さんは食べながら仕事の愚痴や麻雀の話しをしていた。そして、食べ終わる頃になると、また、あの話になった。 「なあ、この世で絶対にばれない詐欺てなんだと思う?」 芳賀さんは馬鹿な事を言うと思った。私はそれに答える。 「基本的に詐欺は犯罪です。被害届けが届いたら調査されます。そしてばれます。詐欺には何十種類もありますが、やっぱり一長一短の一面があります。だから、ばれない詐欺なんてありません」 「んじゃ、お前が詐欺師ならどんな詐欺を考える」 「私が詐欺師だったら……」 自分が詐欺師だったらか、頭ん中で色々と廻らせる。振り込め詐欺は基本的に顔を会わせずに捕まる可能性が低い。しかし、口座を抑えられたらお金が入らず、終わりだ。なりすましや身分詐称は顔を会わせ、おまけに人と交渉がメインになり、下手な事をすると疑われ、捕まるリスクが高い。私が詐欺師だったらどんな詐欺をするか…… そして、考えた後、答えを出した。 「私ならキャッチをやります」 「キャッチ……ああ、よくアンケートをお願いしますと言っているあれね」 「そうそう、それをやります」 「でも、何でそれなんだ。振り込め詐欺の方が楽じゃないのか?」 「まあ、そうですけど、最近は規制が厳しくなっています。これからも厳しくなるでしょう。今だとATMでの携帯の通話不可になったりしてますから、やりにくいです。だから私ならキャッチをして客を捕まえる。そして、店内に誘導する。商品は……そうですね。ブランドバックにしましょう。それも本物を、そして、それを買う契約を結ぶ。そして、後日に商品を送る。しかし、送るのはブランド物はじゃない」 「何を送るんだ?」 「適当にビデオテープでも送ります」 「……どういう意味?」 芳賀さんは私が何を言っているのか分からないと言う顔をした。まあ、それは仕方ないと思う。ちゃんと、全部話さないと分からないだろう。 「まあ、そんな事したら客から文句の電話が来ます。そこで、一つ契約書に罠を張ります」 「罠?」 「そう、契約書に小さくビデオテープを買う事を記載します」 「んな事をしても気づくだろ」 「いや、大抵は気きません。よく、ネットの登録で使用許諾書に関する長ったらしい注意書きがありますよね。あれみたいに長たらしい契約書を作ってその中にビデオテープの記載を小さく書けば良いんです。大抵の人はそんな長い文書は読みません」 「けれど、読んだらどうすんのよ」 「そん時はこう言います。『お客様、書類上はビデオテープを送る事になっていますが、中はブランド物が入っております。これは購入者の免税店での税金対策で、当社のサービスでやらしていただいてます』と言えば、大抵は信じます」 芳賀さんは「そんなもんか?」と言いながらおにぎりを頬張った。そして、続きを聞かせろと顎で促す。私は話しを続ける。 「そして、客から電話が来ても契約書にはビデオテープが書いてあるだろうと脅し、文句を言えなくさせる寸法です」 「うわ、あくどいなあ。何か、対策は無いのか?」 「まあ、簡単にキャッチを無視しろとしか言いませんが、あとはクリーングオフしかないですね」 「ああ、聞いた事がある。確か、商品を送り返してお金を返してもらう制度だよな」 「そうそう、まあ、もっとも金を返してもらう前に逃げられたら意味無いんですけどね。ですが、私はお金を取れなくても構わないと思っています」 「えー? それじゃ、今までの話しは意味無いじゃん」 芳賀さんは私の言葉に、少し驚いた。無理も無い。確かに芳賀さんの言う通り、これでは、今までの話しが無意味になってしまうからだ。しかし、私は話しを続ける。 「いや、その後です。お客はお金を払わなくても払ってもごねります。そこで、私はその家のポストにチラシを入れます」 「何のチラシだ」 「弁護士の相談チラシです。そこには『悪徳商法についての相談に乗ります』と書いときます。もし、芳賀さんがその詐欺にあってそんなチラシを見たらどうします」 「疑いもせずに、弁護士に電話をするな」 「そう、そこで弁護士役の詐欺師はこう言うんです『あの会社は詐欺をしています。私が行けばその詐欺を解決します』と言えば、電話して来た人間はそれを信じて話し始める。そして、最後に弁護士費用をについて話せば払う寸法です」 「だが、弁護士費用はかなり高いからしぶるだろうし、疑う人間もいるんじゃないか?」 芳賀さんの疑問はもっともだ。疑う人間が出るかもしれない。しかし、 「この場合はほぼ百パーセント成功します。なぜなら、損しているからです」 「どういう意味?」 「簡単な話しです。お金を払った被害者はそのお金を返して欲しいと思っています。もし、弁護士費用で20万。被害金額30万。差額10万です。被害者はこう考えるはずです。『まるまる、大損するより、少しでもお金を返して欲しい』と、又、お金を払っていない人間でもトラブルを解決するという名目でお金をもらうと言う手もあります。こっちの場合はもっと少ないお金を請求すれば良いです。そうすれば、少ないお金で30万円のトラブルを解決出来ると考えれば、かなりの確立で払ってくれるはずです」 「なるほど」と言いながら芳賀さんは頷いた。 「私なら後者をメインにしますね。この方法なら相手は詐欺をされたと思わず、むしろ、詐欺を解決した人と思われ、被害届が出ませんから、被害届が出ないと言う事は立件されず捕まりません」 ちなみに、これを2重詐欺と言う。騙された人間を助けてあげますと言ってさらに騙す方法だ。多分、あまり世間では知られていないと思う。 芳賀さんはこれを聞いて驚嘆した。その後、私達は2人だけで麻雀を打った。打っている間にも芳賀さんは法律や経済の話について色々と聞いて来た。私はそれを色々と解説をしながら牌を打ち、深夜まで打った。
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