5、マラソンランナー
翌日いよいよ大会が始まった。第7回ハーフマラソン大会。競技参加人数は男女合わせて約150名である。天候はまずまずの晴天であり、風は海からの潮の香りを運んでいる。沿道には多くの市民が詰めかけている。交差点では警察官とボランティアの人達が交通整理をしている。参加者は思い思いの準備運動を始めている。 「位置について」 横一線に並んだ。こんなにたくさんの人でスタートを切るのは初めてだった。今回は公園の中など通らず堂々と海岸線を走れるのである。 いよいよスタートだというのに市民にはあまり緊張感がない。東京国際マラソンなどではテレビ局が中継する中、有名選手が前面に出てピリピリした空気に包まれるが、この大会ではそういったことはあまりない。もしかしたらお茶目な選手が倒れたり、肥満気味の選手が歩き出したりするほうが受けるかもしれないが、スタートを待つ選手達は真剣そのものだ。 「スタート」 35歳以上のおじさんとおばさんが一斉に飛び出した。報道関係者のカメラも一斉に回された。中継する訳ではないが地方ニュースのひとつぐらいにはなるだろう。 しばらくして20人位の先頭グループにが形成された。ほとんどが俺の属するAグループだ。7番の男もいる。ペースは少し速いように思う。もし入賞を目指すのならこのグループに付いて行かないといけない。俺は前から9〜10番目のようだ。もう少し前へ行きたいのだが少し身体が重い。昨日は少し興奮気味であまりよく寝れていないのかもしれない。前へ出るどころか少しずつ順位を落としてしまった。 「まあいいや。今日は俺もこの大会を楽しもう。だからマイペース、マイペース」 俺は呟いた 13、14キロ地点で先頭集団が徐々に崩れだした。そのせいで俺の順位が一つずつ上がり始めた。皆、家族の応援もあって前半にペースを上げ過ぎたのだろう。 俺の順位はあれよあれよという間に4位になっていた。あと一人で表彰台ではないか。ゴールまではあと2、3キロのところである。俺は戦闘体制に入った。俺はどんどん距離を縮めていった。あと少し、もう2、3メートルほどになったとき3位のランナーはスッと前に離れて行った。3位のランナーも必死だ。そのときだ。奴だ 「やあ頑張ってますねえ」 「---。奴が現れた」 俺は3位争いのことで奴のことなどすっかり忘れていた。 「娘さん元気ですか」 「何だ。何が言いたいんだ」 俺は声なき声で呟いた。 「それじゃお先に」 「おい、待て何なんだ---」
気が付いたら3位のランナーは遥か先を走っていた。 「くそう。もう少しだったのに」 俺にはもうペースを上げる気力はなくなっていた。4位を守るのが精一杯だった。
ゴールが近づいてきた。沿道の見物客の完成がより強くなってきた。この辺に娘たちも見に来てくれているはずであり、俺は目で捜し始めていた。そのときである。急に足がもつれ始めた。なんとか娘たちを見つけようと思うのだが、見物客の顔の焦点が合わなくなってきて、歓声もよくよく聞こえなくなってきた。 遠くにゴールが見えてきた。がその直後すべてが消えていった。
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