4、マラソンランナー
いよいよ明日が大会という前の夜、一本の電話が家に掛かってきた。あの7番の男からだった。 「あのう、大会の前日にどうかと思うけど、いろいろ分かったことがあるんで電話したんですよ。---あなた白いランナーって言ってたでしょ。あれ第4回大会で一位で帰ってきてゴール寸前で倒れて亡くなったランナーがそんな感じだったそうですよ」 「それって誰が言ってるんですか」 「係りの人ですよ。だいたいタイムトライアルが始まったのも、その事故が切っ掛けらしいですよ」 「それじゃあ、私はその亡霊と一緒に走ってたんですかねえ」 「---その人、亡くなったときが36歳で二人の女の子供がいて、会社員で子供の頃はパイロットを目指していて結局、航空会社の整備員になったらしいですよ」 「ちょっと待って下さいよ。それってほとんど私のことですよ」 俺は背筋がゾーッとするのを感じた。7番の男は続けた。 「私ねえ、白いランナーというのはあなた自身だと思うんですよ。だってあなただって白い帽子に白いシューズでしょう。幽体離脱ってあるでしょ。あれですよ。つまりあなたの脳の奥深くにある無意識のあなたが身の危険を感じてあなたから抜け出してあなたを守っているんですよ。だから亡霊なんかじゃないと思いますよ」 「---」 「つまりよく分からないけどあなたの無意識の脳はあなたとよく似た人がこの大会で亡くなっていることを知っているってことですよ」 「ハハハッ---そんな馬鹿な」 俺は半分なるほどと思ったが、後の半分は笑うしかなかった。 「とにかく無理はするなってことですよね」 「そういうことだと思います。---尾崎さん、その人の名前ですけど---」 「川井さん亡くなった人の名前なんかいいですよ。それより今日はどうもありがとう。明日はお互い頑張りましょう」
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