2、マラソンランナー
それから二週間後、またランナー達が集まってきた。前回よりまだ晴れていた。家族で来ている者もいるのだろう。どこかで子供の遊ぶ声がした。 今日は仮のコースではあるが外を走るとのことだ。コースは4区間に分けられ、一区間ごとに係員を配置してタイムを記録してくれるとのことである。一区間は約3キロであり全体で12キロとのことである。 「えー、準備体操の終わった方からまたグループ別に集合してください。グループAから順にスタートします」 グループAの面々が集まってきた。前回と大体同じであるが少しだけ増えていた。たぶん大会日は飛び入りもあってもっと増えるに違いない。 「ヨーイ、スタート」 外は仮のコースといっても気持ちが良い。 コースはグランドを2週した後、ローズ公園を抜け海岸線を往復して戻るとのことである。公園の中を走るのは信号機を避けるためだとのことである。 俺は公園を抜けて海岸線に出た。ここからは第2区間になる。今のところ独走だ。誰もついて来ていない。 海の上では小さな漁船が波に揺られている。 「やっぱり参加してよかった」 俺は直にそう思った。 入り江近くのマリーナに貼られた折り返しのマークが見えて来た。ここからは第3区間になる。係員がストップウオッチを片手に持ち俺のタイムを記入しようとしているのが見えた。相変わらずトップである。2位のランナーとはいずれ擦れ違うことになる。 「いったいどんな奴が追ってくるんだろう」 俺がそう思って遠くを見ていたところ後からヒタヒタと近づいて来る人の気配を感じた。そしてすぐさま横に並んだ。 「やあ、頑張ってますねえ」 「−−−」 「ここは気持ちいいでしょ」 「まあ」 「それじゃあお先に」 そのランナーはそう言うと俺を少しずつ離していった。手首には白いリストバンドをはめ白い帽子をかぶっていた。 どこから来たのだろう。前から俺の後を走っていて俺が気が付かなかったのだろうか、それとも飛び入りだったのだろうか。 ゴールした。俺が一位だった。やはりあの人は部外者だったのだろうと思った。トライアル終了後、全体集会が行われた。 「えーお疲れ様でした。只今から各人のデータ表をお配りします。呼ばれた方は前に出て受け取ってください」 次々と名前が読み上げられた。ランナー達は受け取ったデータ表を見せ合ったりしている。ヒソヒソ話が聞こえてくる。どこか昔の中学校の教室を見てるようである。俺も呼ばれてデータを受け取った。何やら数字が一杯並んでいる。メガネを持って来ておけばと思った。 またアナウンスがあった。 「えー、皆さんにお配りしたデータ表ですが、えー各区間のタイムとそれを全部足したタイム、グループの平均タイム、全員の平均タイムが書かれてあります。 これをひとつの目安にして下さい。また皆さんのタイムですが、ずいぶん差もあるようですが、この大会の主旨は速さだけではございませんので、あまりガッカリしないようにして下さい。えー、それでは本日はこれで終わります。再来週またお会いしましょう」 俺は役員の話を聞きながら自分のデータが少しおかしいのに気が付いた。1区間は13分14秒、2区間は13分39秒、3区間が16分11秒、4区間が13分57秒である。第3区間が約3分遅いのである。俺は全々ペースを落としたつもりはない。俺は席を立って引き上げようとする役員に慌てて詰め寄った。 「あのう、タイムがおかしいんですけど」 俺は第3区間のタイムを指で示した。 「ああ、そうですか。タイムの計測者もほとんどボランティアでやってますので、こんなこともあるかもしれません。どうもすみません」 役員は悪びれることもなく返答した。
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