「いやぁ、着きましたね。」
運転を任されていた”剣持さん”が独り言のように言う。
ラーメン屋『絶好調』は隣町にあるとはいえ、車で1時間くらいかかるのだ。
ちょっとした小旅行なのだが、皆、ラーメン好きな人たちなので、そのくらいの距離ならば何ら気にしない。
4人は車を降りると大きく背伸びをしてから、店へと向かった。前回のように列は出来ていない。
これなら、すぐに入れるだろう----------
ドアを開けると、店内には”待ち客”が数人居た。その間を縫うようにして、”彼女”が近付いてくる。
「いらっしゃいませ!ご注文、お先に聞いてもよろしいですか?」
前回と同様、着席前に注文を聞かれる。
メニューには”普通のラーメン””スペシャルラーメン”の他に”メガントラーメン”というものがあり、
大食いの”小馬さん”と”剣持さん”はそれを、あまり食べない”伏見君”は普通のラーメンをそれぞれ頼んだ。
そして、”彼女”にしか目がない僕は、何とかして自分をアピール出来ないものか色々考えていた。
その結果、”メガントラーメンの大盛り”と馬鹿げた注文をしてみる。
「え・・・出来ません」
”彼女”は、およそ想定外の注文に戸惑っている。
一旦は拒否したものの、少し間を置いて「厨房に聞いてきます」と言い、厨房の方へ向かって行った。
”彼女”が厨房の人と話をしているのを見ていると、微かに男の声で「できるよー」と言うのが聞こえた。
そのあと、もう一度”彼女”が来て、申し訳なさそうに「できます」と言い、最終確認を行なった。
そんなこんなで時間を費やしている間にテーブル席が空き、そのまま”彼女”によって案内された。
「鷹嘴君、チャレンジャーだね」
向かいに座る”伏見君”が言う。僕自身、細身の体型なのだが、かなりの量を食べる。
痩せの大食いとは僕の為にあるような言葉だ。暫くすると、”彼女”がもう一度、僕のところに来た。
「あのぉ・・・麺、3玉になりますが大丈夫ですか?」
中腰になり、僕に目線を逢わせた”彼女”は心配そうに聞いてくる。
少しドキッとした僕は乾いた声で「えぇ、大丈夫ですよ」と答えた。
−痩せてるから聞いてきたのだろうか−
痩せていることにコンプレックスを持っている僕にとっては少し迷惑な質問だったのだが、
何より、わざわざ心配をしに来てくれたことが嬉しかった。
それから少し経つと、ラーメンが次々に運ばれて来た。
「いやぁ、意外と多いね。鷹嘴さん、本当に大丈夫ですか?」
”剣持さん”が苦笑しながら言ってくるが、先ほどの一件によってテンションが絶頂に達していた僕は笑顔で「余裕です!」と返す。
・・・それから数分後、他の3人は食べ終えていた。
一方、−余裕です!−と笑顔で言っていた男の顔は、完全に生気を失い、一気に50歳くらい老けたかのようになっていた。
しかし、気力を絞って何とか平らげる。
”メガント系”を食べた3人は動きが鈍くなっている。僕に関して言うと、魂が半分抜け掛けていた。
会計は”伏見君”に任せ、僕らは早々と店内を後にした。
・・・正直、この時は”彼女”を気にする余裕はなかった。しかし、以前より”彼女”に対する好意が増していた事は間違いない。
ただ、彼女からしてみれば、僕は単なる変な人に映ったことだろう--------------------
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