腕時計を見てみると時刻は既に7時半を回っていた。
列に合流してそれほど経たないうちに僕たちは入り口の正面まで移動していたが
両手をポケットに突っ込み、俯いて目を閉じていた僕はまだ彼女の存在には気付いていなかった。
「いらっしゃいませ!あの、お先に注文お聞きしてよろしいですか?」
ボーッとしていた僕はその声のする方に目を向ける。
そこに立っていたのは大人びた声からはおよそ想像などつかない、童顔で小柄な女性だった。
−かわいい−
僕は思わず見入ってしまった。小さな潤った瞳がとても印象的だ。
彼女は満面の笑みを浮かべ、慣れない手付きでメニューの書かれた紙を渡してくる。
ハッと我に返った僕はそれを受け取り、この店一番人気と書いてある”スペシャルラーメン”を頼んだ。
彼女は伝票に記入を終えると「もう少しお待ち下さいね」と言い店の中へ戻って行った。
それから5分も経たぬうちに先程の彼女によって、入り口から一番遠いテーブル席に案内された。
どうやら、この店はカウンター席以外は煙草を吸えるようだ。
だけど、隣のテーブルには子連れの家族が座っているので吸うのは諦め、窓側に腰を下ろしていた僕は
ラーメンが来るまで店内を見渡していた。満席の店内、行列はまだ続いている。
家族連れやカップルが多いせいか、鮮やかな緑色の作業服を着ている僕たちは少し浮いていた。
店内では2、3人の店員が忙しそうにしていた。
その中でも先程の彼女はよく視界に入ってくる。小さな体は、
あたふたと店内を縦横無尽に動き回り、精一杯の笑顔で接客をこなしている。
いつの間にか僕は彼女の行動を目で追っていた。
「あの娘、かわいいね。」
前方に座る玉置にそう言う。だが、携帯を必死で弄っていた彼からの返事はなかった。
このとき既に、僕は彼女に対し特別な感情を抱いていた。
まさに一目惚れだった…
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