カランカランカラン 玄関のドアを開け閉めする度に鳴る音。 その音で、ペンションに着いたんだと分かった。 頬が急に温かくなった。孝也さんに負ぶさったまま中に入り、ペンションの一階にある暖炉の前で、ゆっくり下された。 「あっ有難うございます」 虚ろな目を開けてゆっくり孝也さんを見上げた。 「こちらこそ……俺がソリなんか貸さなきゃこんな目に合わなかったのに……すみませんでした」 私は冷え切った身体を起き上がらせて 「いえ、私……運動音痴だし。みんなに迷惑かけてごめんなさい」 「うん、さっき、みんなに連絡した。君の連れとオーナー二人はスキ―場のほうへ捜しに行っているから、もう直ぐ帰って来るよ。それと救急車も呼んであるから」 また、力が抜けて身体を寝かせた。暖炉の前。身体を丸めて横になった。 まだ、寒気がする。何枚も重ね着しているのに、震えが止まらない。 すると、孝也さんがゆっくりと私の顔に手を添えて来た。 「これって……」 そう言って、綺麗な金色を帯びた瞳を大きく見開いた。 しゃがんでいた孝也さんが急に立ち上がって自分の着ていた服を一気に脱ぎ始めた。 そして、上半身だけ裸になって私に添い寝するように寝転んだ。 「えっ?」 「ごめん、我慢してくれる?俺の胸に左頬を当てて」 「えっ?」 戸惑っている私を孝也さんがギュッと抱きしめてきて、私の左頬を自分の筋肉質の胸に当てた。 「暫く、我慢して。このままじゃ……」 孝也さんの胸に顔を埋める格好のままで問いただした。 「ど、どう言うことですか?」 「左頬が凍傷になってる。このままほっておくと壊死する恐れがあるんだ。こうして、人肌の温度で、徐々に温めれば……後が残らないように……」 凍傷? 顔が火傷を負ってるって事? 壊死って? そう言えば、左頬が下になっていて、アポロが雪を掘ってくれた後でも、左頬だけが雪に密着していた。 「本当にごめん。眠っていいから。こんな事……女の子に本意じゃないのは分かる。 でも、我慢して」 孝也さんに髪を撫でられた。 とても美味しいシチュエーションだけど、 そんな事より、 自分の顔に、痕が残るのではとそればかりが気になった。 人並みの顔だけど、痕が残るのはイヤだ。 身体がまた、ガタガタ震え出した。 そんな私の肩を孝也さんが抱き寄せる。 じかに聞こえる規則正しい孝也さんの鼓動。 ユラユラと揺れる暖炉の火。 まだ、身体は冷え切っている。 オレンジ色の光が辺りを染める。 パチパチと音を立てて、薪が燃える。 そんな中で 孝也さんが片手で器用に、私の手袋を外してくれた。 男の人の肌に触れたのは初めてだ。 熱い胸板。 不思議と恥ずかしく無い。 手袋をしていても、冷たくなっている手のひらを孝也さんがその大きな手で包み込んでくれた。 単なる責任感だけなのだろうけど、まるで恋人のような錯覚を起こしそうだ。
力強くて、優しい人 この人と……そうなれれば、どれだけ幸せか。 孝也さんの吐息が額に掛る。 そして……そっと瞳を閉じた。
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